(※個人の役職名は取材当時の名称。2017年8月末、戒能氏はATOMOS株式会社 代表取締役社長を退任)
展示ブースとドーム型シアターで盛り上がるATOMOS
数多くのモニター一体型のレコーダーを送り出しているATOMOS。併設したドーム型シアターでの上映や、豪華商品が当たる抽選会、人目を引くパフォーマンスなどで多くの来場者を引きつけていた。
Kodak SP360で撮影したパノラマ動画です。視点変更機能を利用するにはPC用のChromeブラウザおよびAndroid版YouTubeアプリが必要です。
今年のブースでは、昨年12月に発売されたモニター一体型4K対応ポータブルレコーダー「SHOGUN」の新しいファームウェアAtomOS 6.3のプレビュー版が発表され、プリREC、プレイリスト再生機能、アナモルフィックレンズに対応した表示機能などの新機能が搭載されたSHOGUNを各社のカメラに装着し出展していた。なお、ドーム型シアターでは4KプロジェクターでSHOGUNを使って収録された映像の上映のほか、各カメラベンダーからプレゼンターを招待し製品紹介を行っていた。
日々進化するATOMOS製品群
今回数々のバージョンアップが施されたSHOGUNを中心にATOMOS株式会社 社長の戒能正純氏にお話をうかがった。
――昨年の発売以来、SHOGUNは数々のバージョンアップを行っていますが、どのようなところが新しくなったのでしょうか。
戒能氏:3月にVer6.2をリリースし、3D LUTやダウンコンバート出力に対応しました。これらの機能は制作現場のお客様からも好評で、手応えを感じています。今回NABで発表したVer.6.3ではパナソニックGH4がファームウェアVer.2.2でサポートしたアナモルフィックレンズ撮影モードにおいて、SHOGUNのモニター上でシネマスコープの8:3にスクイーズした画像でモニターできるようになります。また、HDで約8秒、4Kで約2秒間の記録バッファを持つ、プリRECレコーディングオプションの新設や、選択したファイルを順次再生できるプレイリスト再生機能を搭載します。これはそれぞれのファイルの再生したい領域も指定することができますので、高画質4Kプレイヤーとしてお使いいただくうえでの機能が充実するものです。
ほかにも、撮影コマ数やインターバル期間を任意に設定できるカスタムタイムラプス機能や、3D LUTの適用機能はSHOGUNのモニター上のみでしたが、6.3からは、SDIやHDMIから出力されるビデオ映像にも適用が可能になる予定です。お客様からは、3D LUTが適用されたビデオを記録したいという要望もありましたので、今後のバージョンアップでの対応を検討しています。
ここからご紹介する収録機能については、6.4以降の対応となりますが、4096×2160のDCI4Kも対応します。例えばGH4の24Hzモードなど、DCI4Kでの出力が可能な機器から収録ができるようになります。また、ご期待の声が多かったRAW入力への対応も行います。まずは、ソニーFS700/FS7を皮切りに、RAW to ProRes記録とCinemaDNG RAW記録対応を行う予定です。以降、CanonC500、ARRI ALEXA、AJA CIONに対応します。また、クロマキーユーザーにご要望の多かった、HD非圧縮記録の対応もアナウンスされました。
新しいファームウェアAtomOS 6.3のプレビュー版が搭載されたSHOGUN。新機能の追加によりメニュー項目が増えた
――今回のバージョンアップでレコーダー&プレーヤーとしての機能が沢山追加されたようですが、他にはどのような機能がありますか。
戒能氏:まだあります。6.3に話は戻りますが、カスタムメタデータと呼ぶ、任意に設定したタグを付けることができるようになります。それをFCPXで読み込むことで、そのタグで検索や仕分けができるようになるというものです。
ゲンロックにも対応します。これにより3D収録やマルチサイネージなどで複数のSHOGUNを同期できるようになります。
各社カメラとの親和性の高さもATOMOSレコーダーの魅力の一つですが、このNABでキヤノンが発表したXC10も、HDMI接続によるRECトリガーやタイムコードに対応しています。また、Canon Logガンマを搭載していますので、SHOGUNでCanon Log向けLUTを適用して、REC.709カラーでモニタリングも可能です。CinemaEOSのサブ機として注目されているユーザーも多いのではないかと思います。
また、ニコンからはD4S、D810、D750のファームウェアアップデートの予定が発表されました。今年の夏のファームアップで、HDMIにRECトリガーが搭載されます。今回会場にあるニコンD810にはそのベータバージョンが入っていて、カメラからのRECトリガーでSHOGUNが同期収録できることが確認できます。欧米では、ニコンカメラの動画画質の向上が話題になってきており、ATOMOSレコーダーとの組み合わせで使われる方が増えてきていますが、レックトリガーの対応により、さらにファンが増えて欲しいですね。
今後5月末、6月半ば、6月下旬と2週間おきくらいに立て続けでファームアップしていきますので、ユーザーの皆様は、是非期待していてください。我々も国内の様々なところでデモしますので、是非4K ProResの画質を確認するとともに、編集における軽さ、レスポンスの良さを体験して頂ければと思います。
ずらりと並んだ製品ラインナップ。SDからHD、更には4Kまで。あらゆるシーンで活用できるよう様々タイプが揃っている
――当初アナウンスがあったマスターキャディー2 RAIDへの対応はいつ頃対応となりますか。
戒能氏:残念ながら、今回のNABで発売中止を発表しました。RAIDキャディーはストレージを2個入れるケースなのですが、当初の設計では発熱の問題を解決することが難しいことがわかった為です。最新のSSDの中には温度が上がるとスピードを落として発熱を抑える仕組みが搭載されている製品があるため、試作まで行いましたが評価の上、今回の発売を断念したものです。
――12G-SDIによるBlackmagic Designカメラとの接続に問題があると聞きました。
戒能氏:URSAなどで6G SDI 4Kで繋がらないという指摘は伺っています。弊社側のエンジニアのコメントとしては、12G-SDIはSMPTEでも審議され始めていて、最新のスペックを採用しているのですが、Blackmagic Designは搭載時期が早かったため、一部弊社の採用しているスペックと会わない部分があるそうです。Blackmagic Design側も問題に気がついている様なので、将来修正される可能性が高いと思っています。こちらも新しい情報が入り次第お知らせします。
――レコーダー本体以外にどのような新製品がありますか?
戒能氏:お待たせしていた「POWER STATION」ですね。昨年のIBCで発表してまだ発売できていませんでしたが、ようやく5月に出荷開始となります。Lバッテリーを2個搭載できる安価なバッテリーソリューションで、一眼レフカメラとSHOGUNに同時に電源供給できるというものです。
2種類のラインナップがあり、1つは「POWER STATION VIDEO」でSHOGUNにも同梱されている5200mAhバッテリーを2個同梱。ソニー、パナソニック、ニコン、キヤノン向けのバッテリーカプラーも同梱しています。今までアナウンスしていたものより大容量のバッテリーとなっています。価格は$395。もう1つは安価なバージョンとして2600mAhバッテリーを2個同梱したモデルで、同梱のカプラーもソニーとパナソニックタイプ向けのみのセットとなります。価格は$295で「POWER STATION PHOTO」というモデルになります。
オプションのPOWER STATION。カメラにも電源供給可能で、各社のカメラに接続できるカプラーやバッテリーがセットになっている
――AJAやBlackmagic Design、アストロデザインなどレコーダーを手がけたメーカーはカメラを手がけることが多いですが、カメラを作る予定はあるのでしょうか。
戒能氏:つい最近SHOGUNを出したばかりで、ファームアップも目白押しですから、まずはそのあたりが固まってPOWER STATIONなどの周辺も揃える事が先でしょう。CEOの中には将来的なビジョンは当然あるでしょうが、私自身はカメラを発売する予定は聞いていません。近いうちにカメラを出すということは無いと思います。
昨年のNABでSHOGUNを発表したわけですが、その時はまだモックでInterBEEの段階でもまだ発売できる状態ではなく、やっとちゃんとしたものが出せるようになったばかりなので、当面はSHOGUNにフォーカスしていくことになるでしょう。すでに様々なタイプのカメラが今回のNABで登場していますからね。やるとしてもどの当たりをターゲットにするか、今は難しい時期ではないでしょうか。弊社がカメラを出すとしたら、皆さんどんなカメラを望まれるか伺ってみたいです(笑)。
――その他にバージョンアップの予定や、耳寄りなニュースはありますか。
戒能氏:LUTがあたった映像を直接記録したいとか、LUTがあたった状態の波形を見たいという要望が日本のユーザーに多いですね。本社に要望していますので、一部は近いうちに実現できると思います。
あと、現在バッテリーなどを含むセットで$1,995で販売しているSHOGUNですが、本体とACアダプターだけというセットを「ベアボーン」という名で$1,695で発売します。これは、すでに当社のNINJA製品のユーザーやLバッテリー互換なので、すでにSony Lバッテリーをお持ちの方向けです。これは6月から出荷を予定してます。このベアボーンキットはNINJAやSAMURAI BLADEなどの販売も予定しています。
――今回のドーム型シアターで上映されている映像は素晴らしいですね。
戒能氏:ソニーの4Kプロジェクターによる上映なのですが、使用したカメラは半分ぐらいがα7S、あとはGH4とFS7などです。サンフランシスコの夜景の空撮やオーロラの映像など、4Kカメラの性能と、映像の素晴らしさを体験できようになっています。
“4K”といってもなかなか一般向けにちゃんとした4Kの映像を見られる機会って少ないですよね。量販店の家電コーナーで4Kテレビは見られるようになりましたが、映像ソースが4Kではなかったり、かなり圧縮された4K映像だったりします。今回のドームシアターで、α7Sの真の実力がSHOGUNによって発揮できることがお分かりいただけたのではないかと思います。
ブースの側に併設されたドームシアター。ソニー4Kプロジェクターにより各社のカメラとSHOGUNで撮影された映像を上映した