国産映画フィルムの原点からシネマカメラへ
富士フイルムは、「Inter BEE 2025」において大規模なブースを展開し、映像制作向けカメラシステム「GFX ETERNA 55」および新レンズ「GF32-90mmT3.5 PZ OIS WR」、放送用レンズ、Zプロジェクターなどを展示している。中でも特に注目を集めているのが「GFX ETERNA 55」だ。会場では、富士フイルム 映像商品企画マネージャー・大石誠氏より、同機の今後予定されているファームウェアアップデートの方向性や、開発背景に込められた意図について詳しい説明を聞くことができた。
ブース内のインフォメーションコーナーでは、富士フイルムが映画用フィルムメーカーとして創業した歴史が丁寧に紹介されている。動画市場への"新規参入"として語られがちな同社だが、実は国産映画フィルムの原点を担ってきた企業であるという視点を来場者に再認識させる狙いがある。長年にわたり映画産業を支えてきた知見の延長線上に、今回のシネマカメラ「GFX ETERNA 55」が位置づけられるという文脈が強調された展示内容となっている。

12月のRAW対応から来年のEVF製品化まで、「GFX ETERNA 55」機能拡張ロードマップの詳細
「GFX ETERNA 55」に関する技術的なアップデートとして、2025年12月にファームウェアの更新が予定されていることが明らかになった。この更新により、Atomos社やBlackmagic Design社の外部レコーダーにおいて、HDMIおよびSDI経由での4:3オープンゲートRAW収録への対応が可能となる。特にSDI経由での4:3 RAW出力対応は世界初となる見込みである。
また、同時期にはミラーレスカメラ「GFX100 II」向けのボディファームウェア更新も実施され、シネマ用ズームレンズである「GF32-90mmT3.5 PZ OIS WR」の使用が可能になる予定だ。これにより、既存のGFX100 IIユーザーも映像制作において同レンズ資産を共有できるメリットが生まれる。

来年に向けて検討されている機能拡張についても、ユーザーからの要望が多い項目を中心に4つのポイントが挙げられた。
1つ目はEVF(電子ビューファインダー)の製品化である。会場ではGFX100 II用のEVFをベースに技術検証中のプロトタイプが参考展示された。HDMIやSDI経由のサードパーティー製EVFも存在するが、純正ならではのメリットとして映像の遅延(ディレイ)がないよう専用設計が施されている。また、中判センサーに合わせた4:3のアスペクト比に対応しており、オープンゲート撮影時でも画角全体を確認できるのが特徴だ。屋外撮影などでの需要に応える形で、来年の商品化を目指している。
2つ目はカメラ内でのMXFファイル再生対応である。現状では同時記録されたプロキシファイルの再生のみ可能であるが、将来的にMXFファイルそのものもカメラ本体でプレビュー再生できるよう改善される。
3つ目は電子NDフィルターの操作性向上である。現行の無段階で滑らかな濃度変化に加え、露出計のように1/2段や1/3段刻みで設定できるステップ機能が追加される。あわせて、NDフィルターのみで露出を自動調整する「NDオート」も搭載される予定だ。これにより、絞りやシャッタースピードを固定したまま、滑らかな露出制御が可能となる。
4つ目はデスクイーズ表示の拡張である。現在はアナモフィックモード限定の機能だが、オープンゲートを含む全モードでデスクイーズ表示が可能になるよう検討が進められている。これにより、1.8倍のアナモフィックレンズなどを使用し、4:3センサーをフルに使って2.39:1のアスペクト比を得る際などのモニタリングが容易になる。さらに、リモート端子の機能拡張により、現在のRECトリガー操作に加え、LANCプロトコルによるズームやフォーカス操作への対応も進められており、操作性の向上が図られる。
4:3ラージフォーマットを活かす多彩なレンズ運用
展示ブースでは、レンズ運用に関する近況も語られた。最も相性が良いのは純正レンズであるが、それ以外の組み合わせとして、ALEXA 65にも対応する大判レンズのアナモフィックレンズなどは4:3センサーをフルに使用できるため親和性が高いという。

また、Gマウントに直接装着できるサードパーティー製レンズや、マウントアダプターを介した他社製レンズの活用も提案されている。その中でも特に注目されるのがLeitz Cineの「Leitz HEKTOR」との組み合わせだ。オープンゲートではケラレが生じる場合があるものの、16:9形式であれば問題なく使用できるケースが増えているという。
今回紹介されたアップデートやエコシステムの拡充は、来年の春から夏頃にかけて順次具体化される見通しである。
