2025年11月19日から21日の3日間、幕張メッセにて「Inter BEE 2025」が開催され、盛況のうちに閉幕した。今年の展示で特筆すべきは、コンテンツ制作におけるDXの一段の進展である。また、撮影機材においては、シネマカメラの分野でも大きな進化と新たな潮流が見受けられた。本稿では、会場の様子をジャンルごとに総括する。まずは、来場者の注目を最も集めたカメラ関連の展示から紹介する。

ソニー、待望の3連リング搭載「PXW-Z300」を展示。AI・小型化・真正性対応で現場を変革

Inter BEE、そしてカメラといえば、まず注目すべきはソニーである。Inter BEE 2025のソニーブースで真っ先に目を引いたのは、ハンドヘルドカムコーダー「PXW-Z300」であった。3連リングや自由度の高いフレキシブルLCDアームを搭載することで操作性を大幅に向上させ、ビューファインダーを廃した構造によりワイヤレス機器との干渉を回避するなど、実用性を徹底的に追求している。また、フェイク対策として注目されるC2PA規格にもいち早く対応し、時代性を反映した仕様となっていた。

システムカメラでは、光ケーブル1本で給電を可能にした小型機「HDC-P50」や、コストパフォーマンスに優れた4K対応マルチフォーマットポータブルカメラ「HXC-FZ90」が登場し、運用の柔軟性を一段と高めていた。さらに、シネマラインからは超小型の「VENICEエクステンションシステムMini」が展示され、3D撮影や特殊マウント運用など新たな撮影手法の可能性を示した。加えて、骨格認識AIによる高精度なオートフレーミングカメラなど、現場の課題解決に直結するソリューションも多数披露されていた。

パナソニック、新コントローラー「AW-RP200GJ」発表。マクロ機能とAI連携で描く"ワンマン運用の未来"

Inter BEE 2025のパナソニック コネクトブースでは、省力化と高品質化を両立させるカメラソリューションが充実していた。まず注目は、2025年度第4四半期発売予定のリモートカメラコントローラー「AW-RP200GJ」だ。初搭載のマクロ機能により、カメラ動作や画質調整を一連の動作としてワンボタンで実行できる。新設された「L(Left)ジョイスティック」を使えばメインとサブの2台同時操作も可能になり、ワンマン運用の可能性を大きく広げている。

PTZカメラの新機能「プリセットスマートコンポジション」も画期的だ。移動時のパン・チルト速度を最適化して被写体をフレーム内に捉え続けることで、これまで使えなかった移動中の映像もスムーズなカメラワークとして利用可能にした。

マルチパーパスカメラ「AW-UB50/UB10」は、新開発の専用雲台によりPTZ運用に対応。既存コントローラーでの操作や、「NDI HX2」などへの無償対応も予定されており、運用の柔軟性が格段に向上している。

ソフトウェア面では「Media Production Suite」が進化。「Video Mixer」にはAI顔認識による自動モザイクやワイプ機能が追加された。「Advanced Auto Framing」では、構図指定やリファレンスカメラ連携による高度な自動追尾を実現し、少人数制作を強力にサポートするソリューションとなっている。

キヤノン、7K搭載「EOS C50」をアピール。縦動画対応やRFマウントVPなど次世代フローを提示

Inter BEE 2025のキヤノンブースでは、次世代の映像制作を支える機器とソリューションが展示された。注目は7Kセンサー搭載のデジタルシネマカメラ「EOS C50」だ。オープンゲートやSNS向け縦クロップ同時記録、12bit内蔵RAW「Cinema RAW Light」に対応し、コンパクトながら多様なニーズに応える。

レンズでは、シリーズ最広角11mmと最軽量を実現した「CN5×11 IAS T」が登場。新ドライブユニットを搭載し、機動的な映像表現をサポートする。

システム面では、RFマウント通信を活用した「バーチャルプロダクションシステム」を紹介。レンズキャリブレーション不要で、AFを用いた撮影が可能だ。また、1台の操作に複数PTZカメラが連動する「マルチカメラオーケストレーション」や、2026年以降にコンポーネント形式で提供される「AMLOS」など、省人化と映像表現を両立するソリューションも提案された。

「GFX ETERNA 55」詳報。44×33mmセンサーと柔軟なセットアップが示す可能性

INTER BEE CINEMAの富士フイルムブースにおいて、来場者の視線を釘付けにしていたのが新型の動画専用機「GFX ETERNA」の実機展示だ。このカメラの核心とも言える見どころは、44mm×33mmという規格外の大型中判センサーにある。長年培われた色再現技術「フィルムシミュレーション」とこの大型センサーが融合することで、独特の立体感やボケ味が生み出されており、その映像表現は会場内でも異彩を放っていた。

特筆すべきは、ブース内で提案されていた全く性質の異なる2つのセットアップである。一方はFUJINONの「HKレンズ」を装着したシネマスタイルで、映画制作の現場を想定した重厚かつ本格的なビルドアップがなされていた。対してもう一方は、DJIのジンバル「RS 4 Pro」にスチル用のGFレンズを組み合わせた軽量な構成だ。こちらはオートフォーカスを活用したワンマンオペレーションが可能であり、同一のカメラでありながら、運用次第で極めて高い機動性を発揮できることが示されていた。

加えて、カメラ本体と同時に投入されるパワーズームレンズ「GF32-90mmT3.5 PZ OIS WR」のほか、ARRIとの共同開発による製品を含む豊富なシネマレンズ群も並び、システムとしての完成度の高さを裏付けていた。単なる新製品の展示にとどまらず、映像制作の新たな可能性を提示する充実した内容であった。

富士フイルム「GFX ETERNA 55」、世界初HDMIおよびSDI経由4:3 RAW対応へ。純正EVFやロードマップも公開

富士フイルムブースでも、映像制作カメラ「GFX ETERNA 55」が大きな注目を集めた。本機は国産映画フィルムの歴史を背負った正統な進化モデルである。2025年12月のアップデートでは、外部レコーダーに対し、世界初となるHDMIおよびSDI経由での4:3オープンゲートRAW収録に対応する。同時に「GFX100 II」もシネマ用ズームレンズに対応し、レンズ資産の共有が可能になる。

ハードウェアでは、来年製品化予定の純正EVFプロトタイプが展示された。専用設計により遅延がなく、4:3センサーの画角全体を隅々まで確認できる仕様で、現場の需要に応える。

将来的な操作性の向上も具体的だ。カメラ本体でのMXF再生対応や、電子NDフィルターへのステップ機能および「NDオート」の搭載が予定されている。さらにデスクイーズ表示の拡張やLANC対応も進められ、運用能力は着実に強化される。

レンズ運用では、大判アナモフィックや他社製レンズとも高い親和性を持ち、来春以降のアップデートによりエコシステムはさらに強固になるだろう。

ニコン、「ZR」実機を展示。RED技術を投入した新フォーマット「R3D NE」を搭載

Inter BEEのニコンイメージングジャパンブースにおいて、最大の注目を集めていたのが「ニコン ZR」だ。本機はニコンがREDの技術を本格的に取り入れた初のカメラとして位置づけられており、その核心は新フォーマット「R3D NE」の搭載にある。これにより、REDのRAW形式である「R3D」と同様の高度なカラーサイエンスでの撮影が可能となるため、映像制作の現場における新たな選択肢として関心が高まっていた。

また、シネマカメラでありながら「オールインワン」設計が徹底されている点も大きな見どころである。従来のシネマカメラ運用では周辺機器を含めた装備が大掛かりになる傾向があったが、本機はコンパクトなボディ単体で撮影フローを完結できる仕様となっている。機能面においても、32bitフロート音声のボディ内収録に対応するなど、プロフェッショナルが必要とする機能が凝縮されている。ブース内ではRED製品とともに展示され、実際にその操作感や性能を確認できる環境が整えられていた。

RED、「V-RAPTOR XE」の展示と放送ソリューションの拡充。シネマとライブの2軸展開

Inter BEEのREDブースでは「シネマ」と「ブロードキャスト」の2大テーマで展示が行われ、注目を集めた。シネマ領域では、最新モデル「V-RAPTOR XE」が登場。上位機の性能を維持しつつスリム化と低コスト化を図り、40.96mmx21.60mmの8K VV 35.4MPグローバルシャッターCMOSによる8K60Pや4K240Pといったハイエンド撮影が可能である点が魅力だ。

ブロードキャスト領域では、V-RAPTORをシステムカメラ化するソリューションを提案。SMPTEモジュールにより放送必須機能を網羅し、「RED Connect」技術を用いた4Kハイスピード撮影も実現する。また、ソニー製RCP操作への対応により、既存の放送機器との混在運用もスムーズに行える体制が整えられていた。

RAID、4Kスローモーション「Pixboom Spark」を国内初展示

RAIDブースにおいても、国内初展示となるPixboom社のスローモーションカメラ「Spark」が際立った存在感を示していた。特筆すべきは、その高いコストパフォーマンスである。4K解像度で毎秒1000コマ、2Kで毎秒1800コマというスペックを有しながら、本体価格は約170万円という価格帯を実現しており、ハイスピード撮影への参入障壁を大きく下げる一台として映った。

また、記録メディアの仕様も合理的で興味深い。内蔵メモリを介さずSSDへ直接記録する方式を採用することで、撮影データのハンドリングが容易になり、ワークフローの大幅な効率化が見込める。大掛かりなシステムを組まずともシンプルに運用できる点は、多くのクリエイターにとって実用的なメリットとなるだろう。ブースでは実機の操作も可能であり、来年1月の出荷を前にその実力を確認できる展示となっていた。