Inter BEE 2025が開催され、今年も多くの映像制作・配信関連機器が一堂に会した。会場を歩いて強く感じたのは、クラウド活用による場所を選ばない制作フローの確立と、現場の省人化・効率化を支援するソリューションの進化だ。本稿では、特に筆者の目を引いたBlackmagic Design、ローランド、アスク(Vizrt/Kiloview)のブース展示をレポートする。

Blackmagic Design:日本初公開のクラウドスイッチャーシステム

会場の中でも、ひときわ大きな注目を集めていたのがBlackmagic Designのブースだ。そこで日本初公開となった「Blackmagic Cloud」を用いたクラウドスイッチャーの仕組みは、これまでのライブ配信や映像制作のワークフローを根本から変える可能性を感じさせるものであった。

4月のNAB 2025で発表され話題となっていたが、実機を目の当たりにすると、その合理性には改めて驚かされる。従来、現場に搬入しなければならなかったスイッチャーやルーターといった重厚なハードウェア群が、すべてクラウド上に集約されているからだ。ユーザーはクラウド上のUIにアクセスし、あたかもそこに機材があるかのように操作を行うことができる。

映像入力の柔軟さも興味深い。専用エンコーダーだけでなく、iPhoneアプリ「Blackmagic Camera」からSRT経由で直接クラウドへ映像を送信できるため、極めて軽装備での中継が可能となる。PC上の「Remote Monitor」アプリで映像を確認しつつ、スイッチングを行う流れだ。

筆者が特に実用的だと感じたのは、物理的なコントロールパネルでクラウド上のスイッチャーを操作できる点である。手元のパネルでカメラコントロールやスイッチングを行い、その制御信号でクラウド上のシステムを動かすことができる。これにより、現場の機材量を大幅に削減しつつも、プロフェッショナルが求める物理的な操作感は損なわれない。

完成した映像はクラウドからYouTubeへ直接配信できるほか、デコーダーを経由して再び現地へ映像を戻すことも可能だ。近日中にサービス開始とのことだが、ライブ配信の省人化と効率化を加速させるソリューションとして、間違いなく今回の展示におけるハイライトの一つであった。

ローランド:3つのテーマで提案する現場の効率化

続いてローランドブースへと足を運んだ。同社は今回3つのテーマを掲げており、その筆頭として紹介されていたのが、企業や学校などのAV設備に向けたソリューションコーナーだ。ここで筆者が興味深く感じたのは、セミナールームや配信スタジオでの運用を想定したAVミキサーと、それを制御するアプリケーション「VenuSet(ベニューセット)」の組み合わせである。

この「VenuSet」の実機デモを見て、その柔軟なカスタマイズ性に驚かされた。iPad、Windows、macOSに対応しており、画面上のボタンやフェーダーの配置、デザインをユーザー側で自由に設計できる点が大きな特徴だ。展示ではタッチパネルモニターを用いた操作が行われていたが、映像シーンの呼び出しや入力切り替えが、非常にシンプルなインターフェースで完結していた。

従来のAV機器は操作が複雑で専任のオペレーターが必要なケースも多かったが、このアプリを用いれば、必要な機能だけを抽出した操作画面を作成できる。機械に不慣れな利用者でも直感的に扱える環境を構築できる点は、運用管理の視点から見ても非常に合理的だと感じた。設備導入における「使いやすさ」という課題に対する、ローランドの実用的な回答と言えるだろう。

また、「イベント演出」をテーマにしたコーナーで筆者が注目したのは、テロップやグラフィックを送出するWindows用アプリケーション「GRAPHICS PRESENTER」の最新版、Ver.2.0の展示である。

今回のアップデートにおける最大のトピックは、Elgato社のコントロールデバイス「Stream Deck」への正式対応だ。ブースでは企業の表彰式を想定したデモンストレーションが行われており、Stream Deckの物理ボタンを押すだけで、テロップやグラフィックを直感的に送出できるワークフローが紹介されていた。Illustratorなどで作成されたアルファチャンネル付きPNGファイルを取り込むことで、PowerPointなどを用いた簡易的な合成とは一線を画す、背景が透過した美しいテロップ表示が可能となっている。また、動きのあるテンプレートも豊富に搭載されており、リアルタイムでテキストを書き換えて即座に反映できる点も実用的であると感じた。

さらにVer.2.0の目玉機能として、動画再生機能の大幅な強化も確認できた。画面上にはサンプラーのような9つのパッドが表示され、これらもStream Deckと連動させることで、動画素材の「ポン出し」が手元でスムーズに行えるようになっている。これらの機能により、オペレーションミスのリスクを低減しつつ、少人数でも高度な演出が可能になる。イベント現場やライブ配信の質を効率的に高めるソリューションとして、極めて堅実な進化を遂げたと言えるだろう。

そして3つ目のテーマ「ライブプロダクション」コーナーでは、ビデオスイッチャーの定番機「V-160HD」の最新ファームウェア「Ver 3.5」が公開されており、現場のワークフローを劇的に変える可能性を感じさせるものであった。

何より驚かされたのは、ヤマハのデジタルミキサー「DM3シリーズ」との連携機能の実装である。先行してV-80HDで採用されていた機能だが、より多機能なV-160HDへの搭載を望む声が多かったというのも頷ける。実際にデモンストレーションを見て、その挙動の精度の高さに感心した。LANケーブル1本で接続された状態で、DM3のフェーダーを操作すると、即座にiPad上のV-160HD側のオーディオレベルが追従する。逆にV-160HD側を操作すれば、DM3のモーターフェーダーが物理的に動くのである。この双方向の通信が遅延なく行われる様子は、システムとしての完成度の高さを物語っていた。

さらに興味深かったのが、マクロ機能を用いたシーン連携だ。V-160HDのボタンを一つ押すだけで、映像のスイッチングと同時に、DM3側のオーディオミキシング設定(シーン)も一括で呼び出すことができる。これにより、複雑な転換を要する場面でもオペレーションミスを大幅に減らすことが可能になるだろう。映像と音響、それぞれの業界標準とも言える機材同士がシームレスに繋がったこのアップデートは、ライブ配信や中継現場における省力化と効率化への強力な回答であり、今回の展示の中でも特筆すべきトピックであったと言える。

アスク:新フラッグシップとシステム構築の合理性

アスクブースにおいては、Vizrt製品の展開が来場者に強いインパクトを与えていた。筆者が特に注目したのは、フラッグシップモデルの刷新と、待望のソフトウェア化という二つの大きな変革である。

まず、「TriCaster 2 Elite」の後継となる最上位機種「TriCaster Vizion」だ。驚かされたのは、ハードウェアにHP製のタワー型または1Uラックマウント筐体を採用した点である。専用筐体から汎用性の高いベンダー製ハードウェアへの移行は、保守性や信頼性の面で理にかなった進化だと感じた。入力数が36から44系統へと拡張されたほか、AIによる音声分離機能「ニューラル・ボイス・アイソレーション」や視点補正など、実用的な新機能も搭載されている。HTML5ベースのグラフィックス「Viz Flowics」が標準で利用できる点も、制作の幅を広げる魅力的な仕様だ。

しかし、それ以上に筆者の興味を引いたのが、TriCaster初となる「ソフトウェア版」の提供開始である。展示ではLenovo製ワークステーションで稼働していたが、要件を満たせば手持ちのPCでも動作するという柔軟性は、これまでのTriCasterの常識を覆すものだ。入力数は8チャンネルとなるものの、30日間の無償トライアルが可能である点は、導入のハードルを劇的に下げるだろう。ハードウェアの刷新とソフトウェア化の並行展開は、Vizrtの戦略的な攻勢を強く印象づける展示であった。

同じくアスクブース内で展開されていた中国の映像伝送メーカーKiloview(キロビュー)の展示にも、そのシステム構築の合理性に思わず足を止めさせられた。同年9月のIBCで発表されたばかりの2つの新製品が、日本の放送・配信市場に対しても非常に説得力のあるソリューションを提示していたからだ。

まず筆者の目を引いたのが、ラックマウント型シャーシ「RF02」である。一見すると単なるモジュール収納ユニットのようだが、実は本体にLinuxコンピューターを内蔵している点に驚かされた。これにより、HDMI対応の「FN-60」やSDI対応の「FN-50」といったエンコーダー・デコーダーカードを最大16枚搭載して運用できるだけでなく、同一LAN内の機材管理までもこの一台で完結できるのである。

そして、もう一つの注目製品がボンディングエンコーダー「P3」だ。本体内に4つのモデムを収容し、複数のSIMカードやWi-Fi、有線LANを束ねて安定した伝送を行うデバイスだが、筆者が最も興味深く感じたのはその「受け側」の仕組みである。通常、ボンディング伝送には高額な受信サーバーやクラウド契約が必要となるケースが多い。しかしKiloviewはサーバーソフトウェアを無償提供するという大胆な戦略をとっており、ユーザーはAWSなどのクラウドや自前のPCにサーバーを構築できる。

さらに特筆すべきは、先述のシャーシ「RF02」自体がボンディングサーバーとして機能する点だ。外部サーバーを用意せずとも、RF02がP3からの映像(最大8台分)を受け止め、そこから内蔵カード経由で25箇所への再配信まで行えるという。オンプレミスで完結するこの柔軟かつ低コストなエコシステムは、現場のワークフローを劇的に変える可能性を秘めていると感じた。