NAB 2026のパナソニックブースに足を踏み入れると、同社が展開するIT/IPプラットフォーム「KAIROS(ケイロス)」の進化が明確な形で提示されていた。例年注目を集める存在ではあるが、今回の展示は単なる機能拡張にとどまらず、ライブ制作の基盤そのものを変革しようとする意志が色濃く表れている。

NEP連携が示すプラットフォーム統合の方向性

中でも大きなトピックとなっていたのが、メディアサービス大手NEPとの連携である。NEPが展開するプラットフォームは、パナソニックに加え、システムを構成する上で必要な主要ベンダーが参画するグローバルな制作基盤であり、その中にKAIROSが組み込まれる意義は極めて大きい。

この連携が示す本質は、個別機材の性能競争から、プラットフォーム単位での統合へと軸足が移っている点にある。ルーティング、スイッチング、グラフィック、マルチビューワーといった主要機能が一つの環境に集約され、高い専門性と工数を要してきたシステム設計や構築・変更を不要にしつつ、必要な機能を必要な分だけ選択して運用できる。従来のように複数システムを横断する必要はなく、制作準備の簡素化と効率化が同時に実現される構造だ。将来的には中継車を必要としない制作環境すら視野に入る。

NEPとの連携により、「より進化したプラットフォームへ」というテーマを掲げている。
ライブ制作全体を支えるプラットフォームへのさらなる転換を図るものである

ソフトウェア化とIP対応が支える柔軟性

こうした変化を支える根幹が、KAIROSのソフトウェアベース設計にある。筐体はハードウェアの形をとるが、機能や処理はソフトウェアとして定義・制御されており、入出力構成や機能拡張を運用に合わせて柔軟に変化させられるプロダクトであり、ST 2110をはじめとするIP化の流れに対して高い柔軟性を持ち、将来の規格追加やワークフロー変化にもアップデートで対応できる点は、ハードウェアにはない特長と言える。

さらに、最新のIP規格であるIPMXにも対応し、放送用途とPro AV用途の双方を横断する基盤としての完成度を高めた。従来のHDMI接続をIPネットワークへ移行するこの規格への対応は、配線・機器構成の自由度を高め、イベントや設備系の現場における実用性を大きく押し上げる要素となる。

Kairos Core 200(AT-KC200T)、Kairos Core 2000は次世代AV over IPのオープン規格「IPMX」の認証を取得した

放送とイベントの2つの顔と運用革新

KAIROSの進化は、単なるIP対応にとどまらない。バージョン2.0ではLEDウォール出力機能が大幅に強化され、放送とイベントという異なる現場要件に、それぞれ最適な形で応える“2つの顔”を持つプラットフォームとしての性格がより明確になった。

会場では1台のKAIROSから複数面のLEDウォールへ映像を送り出すデモが行われ、16:9という従来の放送画角に縛られない自由な映像生成が実現されていた。放送用スイッチャーの操作性とイベント演出に求められる柔軟な映像制御力を、同一システム上で実現できるため、異なる用途の機材を分けて用意する必要がなくなる。

この結果、複雑なシステム構成をシンプルに整理でき、制作チームはより本質的なクリエイティブに集中できる環境が整う。スピードが求められるライブ制作において、このメリットは極めて大きい。

KAIROSコーナーにおけるMulti Viewの映像出力の様子。ブース内には複数のLEDパネルが設置されており、それらは1台のKAIROSによってコントロールされている

実運用とエコシステム拡張が示す実用段階

実際の導入事例としては、スポーツエンターテインメント分野での活用が着実に広がっている。実際、大規模なアリーナやスタジアムなどのエンターテインメント施設では、LEDウォールを活用したダイナミックな映像演出を支える中核としてKAIROSが採用されている例もあり、映像だけでなく、パナソニックの照明システムと連動することで、会場全体の演出を統合的に制御することも可能だ。映像・照明・空間演出が一体化した環境において、KAIROSは単なるスイッチャーではなく、会場演出全体を支える基盤として機能している。

さらに注目すべきは、エコシステムの着実な拡張である。大手LEDプロセッサーメーカー4社とのアライアンスを強化することで、実運用における親和性と安定性を高めた。これにより、既存のLED設備やコントローラーを活かしたままKAIROSを導入することができ、システム設計の自由度と導入の現実性が大きく向上している。結果として、KAIROSはより多くの現場にとって"導入可能な選択肢"となりつつある。

KAIROS アライアンスパートナーズの一覧。LEDプロセッサ-のリーディングカンパニーであるBrompton Technology、Colorlight、Megapixel、Novastarの4社を新たにアライアンスパートナーとして迎え入れている

ブース内ではレスリングのイベントに合わせた演出デモも展開されており、スポーツエンターテインメントの現場で求められる瞬時のコンテンツ切り替えや、空間全体の統合演出が直感的に理解できる構成となっていた。こうした展示は、KAIROSが実運用を前提とした演出基盤として完成度を高めていることを視覚的に示している。

ラスベガスで同時期にWrestleManiaが開催されており、パナソニックブースでもレスリング風の演出が行われている。
アリーナでの戦闘を模したステージ演出により臨場感のある空間演出が可能となる
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プラットフォーム時代の中核へ

今回の展示を通じて浮かび上がるのは、映像制作の重心が「個別機材中心」から「プラットフォーム中心」へと移行している現実である。KAIROSはその変化を体現する存在であり、放送とイベントの垣根を越え、グローバルな制作基盤の一角を担うポジションへと進化している。

進化を続けるKAIROSは、もはや単なるスイッチャーの枠には収まらない。制作・演出・運用を横断的に支える基盤へと変貌しつつある。その柔軟性と拡張性は、これからのライブプロダクションにおける新たな標準を提示するものと言える。

映像制作がプラットフォームの選択によって品質や表現力、運用効率まで左右される時代において、KAIROSがどのように現場へ浸透し、その中核を担っていくのか。今後の展開に、引き続き注目が集まる。