Cine Gear Expo LAのキヤノンブースをひと通り見て回った。今回の展示から見えてきたのは、シネマ、放送、ライブプロダクション、そしてソーシャルメディア向けコンテンツ制作を別々の領域として捉えるのではなく、一つの映像制作環境としてつなげていこうとするキヤノンの姿勢である。

CINE-SERVO 40-1200mmが示す新たな可能性
その象徴といえる存在が、CINE-SERVOシリーズの新モデルCN30×40 IAS H/E1(PLマウント)、CN30×40 IAS J/R1(RFマウント)である。ワイド端40mmからテレ端1200mmまでをカバーする30倍の超望遠シネマズームであり、会場でも強い存在感を放っていた。
NAB 2026ですでに発表されていたレンズだが、実物を前にすると、この一本がカバーする領域の広さを改めて実感する。シネマレンズとして1200mmまで到達する仕様は非常に特異であり、従来の撮影スタイルを大きく広げる一本である。
このレンズは、多くのプロフェッショナルに支持されてきた50-1000mmの系譜に連なるモデルだ。従来は野生動物を撮影するワイルドライフ用途で高い評価を得てきたが、現在ではスポーツ中継やライブエンターテインメントの現場でも需要が高まっているという。
遠方の被写体に近づけない環境で確実に被写体を捉えるという意味では、ワイルドライフもライブプロダクションも本質的な要求は近い。キヤノンはその領域を的確に捉え、CINE-SERVOをより広い現場へ展開しようとしている。
基本はスーパー35mmセンサー向けのレンズだが、1.5倍エクステンダーを内蔵することで、フルフレーム運用にも対応できる。展示ではCINEMA EOS SYSTEMの「EOS C400」に装着されており、カメラ側のスーパー35mmモードと組み合わせることで、従来の運用スタイルを保ちながら活用できる構成となっていた。ワイド側は40mmまで広がり、テレ側は1200mmまで伸びる。一本で対応できる画角の幅は大きく、現場でのレンズ交換を減らせる点も実用的だ。
サイズ感も現実的である。大型三脚に据えた本格的な運用はもちろん、車両で移動しながら現場に展開するような撮影にも対応できる。超望遠レンズでありながら、単に固定して使うだけの機材ではなく、移動を伴う現場での使用も想定されている点に、このレンズの狙いが見える。
RFマウント化と新ドライブユニットの進化
技術面で大きいのは、RFマウントモデルの存在である。RFマウントの高速な電子通信を活用することで、Dual Pixel CMOS AFとの連携や、フォーカスガイドなどの機能を利用できる。さらにEOS C400との組み合わせでは、ズーム時の露出変化をカメラ側で補正する制御にも対応する。シネマレンズでありながら、ライブ中継やイベント収録で求められる即応性を取り込んでいる点が重要だ。
新しいドライブユニットも見逃せない。USB Type-C端子を備え、設定変更やメンテナンス性を高めるだけでなく、外部給電によってズームやフォーカスのサーボ速度を高めることもできる。
加えて、フォーカス時の画角変化を抑えるブリージング補正機能も搭載する。動画撮影では有効な機能だが、あえて補正をオフにできる点も興味深い。補正された扱いやすい映像を求める現場と、レンズ本来の挙動を重視する現場の双方に対応する設計である。
キヤノンは、放送用レンズの運用性を維持しながら、シネマライクな立体感や背景描写を実現する技術「Novel Look」というのも提供している。放送用レンズの操作性を維持しながら、シネマ作品のような浅い被写界深度や立体感を取り入れる表現である。従来はシネマと放送で機材や表現の考え方が分かれていたが、現在はその境界が急速に近づいている。EOS C400とCINE-SERVOの組み合わせは、その流れを象徴するセットアップといえる。
EOS R6 VとEOS C50が支える新しい動画制作
一方で、ブースにはコンパクトな動画制作向けの機材も並んでいた。特に印象的だったのが、動画向けカメラ「EOS R6 V」とCinema EOS C50である。大型のCINE-SERVOがライブプロダクションの拡張を示す存在だとすれば、EOS R6 VとEOS C50は、機動力の高い少人数制作やソーシャルメディア向け制作を支える存在である。
EOS R6 Vは、フルサイズセンサーを搭載しながら動画撮影に振り切ったカメラである。EVFを省いたフラットなボディは、ケージやリグへの組み込みを前提とした合理的なデザインだ。冷却機構を備え、長時間撮影にも対応する。静止画機をベースにしながら、動画制作機として必要な要素を明確に整理したモデルといえる。

特に実用的なのが縦位置撮影への対応である。ボディ側面に縦位置固定用のネジ穴を備え、追加リグなしで三脚に縦向き固定できる。


メニュー表示も縦位置に合わせて切り替わるため、TikTokやInstagramリールなど、縦動画を前提とした制作で扱いやすい。横位置の映像制作だけでなく、縦位置のコンテンツ制作を最初から設計に取り込んでいる点が現代的だ。

新型パワーズームレンズとの組み合わせも体験できた。レンズ側面の操作部を使うことで、ワイドからテレまで滑らかにズームできる。指先の操作量に応じてズーム速度を細かく調整でき、ゆっくりとしたズームから素早い画角変更まで直感的に扱える。必要に応じてマニュアル操作へ切り替えられる点も、現場での使い勝手を意識した設計である。

このパワーズームレンズは20mmスタートの広角設計で、ジンバル撮影との相性も良い。フルサイズ対応でありながらコンパクトにまとめられており、機動力を重視する動画制作者にとって扱いやすい選択肢となる。さらに、対応するボディのズームレバーや外部コントローラーを使うことで、より放送用レンズに近い操作感も得られる。ミラーレスカメラの小型軽量性と、放送用レンズ的な操作性を結びつける提案である。
EOS C50とEOS R6 Vはいずれもフルサイズセンサーを搭載するが、役割は異なる。EOS C50は、タイムコード運用やXLR入力などプロダクション用途への対応も考慮されているCINEMA EOSの小型モデルである。一方のEOS R6 Vは、ソロクリエイターやハイブリッド撮影を行うユーザーに向けた、より身軽な動画制作機という位置付けだ。両機を並べることで、キヤノンが小規模制作から本格的なプロダクションまでを一つのラインアップでカバーしようとしていることが分かる。
両機がオープンゲート収録に対応している点も重要である。3:2の広いセンサー領域を使って撮影することで、1つの素材から16:9の横動画と9:16の縦動画を柔軟に切り出せる。放送、配信、SNS向けの素材を効率よく展開できるため、現在のコンテンツ制作に適した仕様だ。EOS C50ではアナモフィックレンズ運用も視野に入り、コンパクトなカメラながらシネマ表現の幅を広げる存在となっている。
シネマ品質をより広い映像制作の現場へ
ハリウッドのストライキ以降、映像制作を取り巻く環境は大きく変化している。映画制作だけに依存するのではなく、ライブ、配信、スポーツ、SNSなど、映像が求められる領域は広がり続けている。キヤノンはその変化を捉え、シネマ品質の映像表現をより幅広い現場へ届けようとしている。
CINE-SERVO 40-1200mm、EOS C400、EOS C50、EOS R6 V。今回のブースに並んだ機材は、それぞれ異なる用途に向けた製品でありながら、全体としては一つの方向を向いていた。シネマ、放送、ライブプロダクション、配信、ソーシャルメディア。その境界を越えながら、新しい映像制作の現場を支える。Cine Gear Expo LAのキヤノンブースは、その現在地を明確に示す展示であった。