大型フォーマットによる映像表現への関心が高まる中、ソニーが新たに開発発表したのが「RIALTO 65」だ。65mmフォーマットの大型センサーを採用しながら、VENICE 2のシステムを活かすという新たなアプローチはどのように生まれたのか。
開発の経緯からCinema Lineの思想、そして映像制作の未来について、ソニー株式会社 ニューコンテンツクリエイション事業部 Cinema Line 事業部門長の高橋暢達氏に聞いた。
シネマトグラファーの声から始まった65mm開発
――ついに開発が発表されました。今回の構想は、いつ頃から練られていたのでしょうか。
高橋氏:
明確にいつからと断言するのは難しいのですが、きっかけはいくつかあります。数年前からCine Gearのような場で、シネマトグラファーの皆さんから継続的にフィードバックをいただいていました。
ソニーでは、こうした場にエンジニアも同行しています。現場で直接、撮影監督の声を聞き、その声から発想を得ることを大切にしています。社内ではVOCを「Voice of Customer」だけでなく、「Voice of Cinematographer」と捉えています。
その中で、VENICEのテクノロジーがクリエイティビティを広げている一方、さらに大きなセンサーの選択肢があれば表現力はもっと広がる、という声を多くいただきました。ソニーはいつ作るのか、という声もありました。
そこで、VENICE 2のボディを活かしながら、65mmフォーマットの大型センサーをどのようにシステムへ組み込めるかを検討し始めました。Cine Gearの期間中、ホテルに戻ってからエンジニアと話し合い、構想を練ったことが最初のきっかけのひとつです。
――65mmフォーマットは、シネマ業界の中では決して大きな市場ではないという見方もあります。その中で、シネマトグラファーからはどのような期待や要望が寄せられていたのでしょうか。
高橋氏:
ビジネスとしての市場規模だけを見ると、そう見えるかもしれません。ただ、我々が見ているのは、シネマトグラファーの声がどれだけあるかという点です。
クリエイティビティがあってこそ、カメラは必要とされます。65mmフォーマットに対する表現上の期待は非常に大きく、我々は小さな領域だとは捉えていません。むしろ、クリエイターの表現の広がりを考えると、大きな可能性を持つ領域だと考えています。
我々が普段接しているシネマトグラファーからは、「いつ作るのか」「早く作ってほしい」という声を多くいただいていました。そうした意味では、参入する価値のある領域だと判断しました。

――その声は、やはりハリウッドを中心とした映画業界から多く寄せられていたのでしょうか。
高橋氏:
ハリウッドの声が大きいのは確かです。ただ、ヨーロッパも非常に活発ですし、インドを含むアジア地域も勢いがあります。世界各地のシネマトグラファーが、新しい表現を常に求めています。
現在、65mmフォーマットを実際に扱えるシネマトグラファーはまだ限られています。しかし、新しい表現でストーリーテリングをしたいという思いは、多くのクリエイターに共通しています。
彼らの夢に我々が刺激を受け、それが我々の夢にもなりました。クリエイティビティとテクノロジーが重なることで、新しい表現力を生み出す。その一歩として、今回ようやく開発発表に至りました。
ソニー一丸で挑んだ65mmフォーマット
――今回のセンサーは、ソニー独自の開発でしょうか。
高橋氏:
はい、独自開発です。Cine Gearにはカメラのエンジニアだけでなく、センサーのエンジニアやマネジメントも同行していました。そこで直接、撮影監督から大型センサーに対する要望を聞いています。
つまり、カメラの担当者だけでなくセンサーの担当者も含めてソニー全体で取り組んでいます。このカメラのために、どのようなセンサーを作るべきかというところから議論を始めました。
シネマを愛するチームが一体となって取り組んでいます。今回のプロジェクトでは、既存のセンサーを流用するのではなく、このシステムに必要なセンサーを作るという考え方で開発を進めました。

――自社でセンサーを開発していることは大きなアドバンテージだと思いますが、今回の開発において、社内のリソースや体制はどのような役割を果たしたのでしょうか。
高橋氏:
イメージセンサーを開発するチームがソニーの中にいることは大きな強みです。今回展示したウェハーのサンプルについても、センサーのエンジニアやマネジメントが強い思いを持って取り組んでいます。
ソニーグループはエンタテインメントと深くつながっています。映画やフィルムメイキングは人の心を動かすものであり、そこに関わることは我々にとって大きな意味があります。エンジニアを含め、映画や映像制作に強い関心を持つメンバーが集まっていることも、今回の開発を支えています。
――今回の製品名は「RIALTO 65」となっています。これまでの「VENICEエクステンションシステム」の流れの名称ではなく、愛称が正式な製品名として採用された背景について教えていただけますか。
高橋氏:
RIALTOという名称は、市場で自然に広がったニックネームです。これまでのVENICEエクステンションシステムが、シネマトグラファーの間でRIALTOと呼ばれていました。
VENICEという名称はイタリアのヴェネチアに由来します。ヴェネチアにはリアルト橋があり、島と島をつなぐ橋として知られています。VENICEエクステンションシステムは、カメラボディとセンサーブロックをケーブルでつなぐ構造です。その橋渡しのイメージから、RIALTOというニックネームが市場で生まれました。
我々は、シネマトグラファーと一緒にものづくりを進め、映像制作を進化させたいと考えています。市場との距離感を考えたとき、これだけ親しまれている名称であれば、正式にRIALTO 65として出すのが自然だと判断しました。
――大型センサーのカメラとして、一体型ではなくVENICE 2と組み合わせる形になった理由を教えてください。
高橋氏:
いわゆるスタジオモードのような、一体型で使う形は撮影現場で非常に重要です。一方で、VENICEエクステンションシステムには、狭い場所に入れる、自由なアングルで撮れる、カメラの動きを表現に取り込めるという利点があります。
シネマトグラファーの表現力を最大化するという観点では、RIALTOのような分離型の選択肢は必要です。ただし、スタジオモードでも使いたいという声も大きくありました。
そのため、RIALTOでありながらアタッチしてワンボディのように使える構造にしました。分離型と一体型の両方の要望に応えるコンセプトです。

――VENICE 2がこれほど柔軟に拡張できることには驚かされます。センサーブロックをレコーディングユニットから分離できるという独特の構造は、やはり開発の初期段階から、将来的なアップデートや機能拡張を織り込んで設計されていたのでしょうか
高橋氏:
センサーブロックとレコーディングユニットを分けられる構造にしたのは、将来の可能性を広げるためでもありました。どのようなセンサーが必要になるかは、シネマトグラファーとの対話を通じて考えてきましたが、拡張できる仕組みそのものは当初から意識していました。
――Cinema Lineの中で、RIALTO 65はどのような位置付けになりますか。
高橋氏:
特徴的なのは、VENICE 2のボディをそのまま使えることです。したがって、VENICE 2は引き続きCinema Lineのフラッグシップカメラです。
そこに、センサーオプションとしてRIALTO 65が追加されます。既存のVENICEエクステンションシステム 2、VENICEエクステンションシステムMiniに加え、新たに65mmセンサーの選択肢が加わる形です。
――スーパー35から65mmまでラインナップが広がる中で、Cinema Lineとして一貫している思想やコンセプトを教えてください。
高橋氏:
Cinema Lineを立ち上げた当初から、ルックとオペラビリティを大きな柱にしています。VENICE 2からFX30まで、ルックと操作性を一貫させることで、映像制作を始めた人がそのままステップアップできるようにしています。
トップエンドのシネマトグラファーほど、実は非常にシンプルに操作しています。VENICEにはBig 6と呼ばれるメニューがあり、映像を作るうえで重要な設定へすぐアクセスできます。必要な設定を素早く変更し、また撮影へ戻る。そのシンプルさをCinema Line全体へ展開していくことを重視しています。
ルックについても同様です。上位機だけでなく、小型機でも近い思想で映像を作れるようにしています。これにより、初めて映像制作に触れた人が、上位の制作環境へ自然に進んでいけます。

――Big 6のインターフェースは、ファームウェアアップデートで下位機種にも広がっていますね。
高橋氏:
はい。段階的に広げています。FX30までBig 6の考え方を取り入れており、操作性の一貫性を高めています。
もうひとつ、Cinema Lineを展開してからわかったことがあります。トップエンドのシネマトグラファーも、FX3やFX30を使っているのです。メインカメラはVENICEでありながら、小型で機動力のあるFX3を併用するケースがあります。作品によってはFX3だけで撮影する例もあります。
当初は縦方向のステップアップを意識していましたが、実際にはCinema Line全体がひとつのエコシステムとして使われています。これは我々にとっても新しい発見でした。
レンズメーカーとともに広げる65mmエコシステム

――65mmフォーマットを成立させるうえで、レンズメーカーとの連携はどのように進めてきましたか。
高橋氏:
実際の映像はレンズを通って届くため、センサーだけでは成立しません。開発の早い段階から、レンズメーカーの皆さんとは話をしてきました。
世界各地を回りながら、「こういうセンサーを作ろうとしている」「一緒に新しい表現を作っていけないか」と相談してきました。今回のRIALTO 65に関しても、レンズパートナーとは事前に会話を重ねています。
65mmフォーマットはレンズが少ないという印象もありますが、業界全体として新しい表現力を広げたいという思いがあります。レンズメーカー、周辺機器メーカー、そして我々が一体となり、新しい流れを作っていきたいと考えています。
オールドレンズやリハウジングされたレンズも、もちろん重要な選択肢です。Mamiyaのようなレンズを好むクリエイターもいます。
一方で、より多くのクリエイターが65mmフォーマットを使えるようにするには、現在の制作環境に合った新しいレンズも必要です。アクセシビリティという意味でも、今後登場するレンズは大きな役割を持ちます。今後もさまざまな選択肢が増えていくと考えています。
――今回の開発は、ソニー単独ではなく、レンズメーカーや周辺機器メーカーなど業界全体を巻き込んで進められてきた印象を受けました。そうしたパートナーとの連携は、具体的にどのような形で行われたのでしょうか。
高橋氏:
Cine Gear、IBC、Camerimage、NAB、BSC Expoなど、さまざまなイベントでシネマトグラファーやパートナーと対話しています。そうした場だけでなく、そこから生まれるつながりの中で多くのアイデアが出てきます。
エンジニアも現場に参加し、我々も直接話を聞きます。業界の皆さんと一緒に作っていくプロセスは、今回の開発において非常に重要でした。
――今回、3:2のオープンゲートを採用したことも重要なポイントだと思います。これもシネマトグラファーからの要望が大きかったのでしょうか。
高橋氏:
はい。フィルムの歴史、IMAX、アナモフィック撮影などを考えると、3:2のオープンゲートと大型センサーの組み合わせは、表現力の面で大きな意味を持ちます。
今までにないセンサーを世の中に提案したいという思いがありました。そのため、単に大型化するのではなく、映像表現の可能性を広げる新しいアプローチとして開発しています。
――解像度は9.6Kです。この数値にはどのような考え方があるのでしょうか。
高橋氏:
カメラを作るうえでは、撮影後のワークフローも考える必要があります。データが大きくなりすぎると、ポストプロダクションの負荷が増え、コストや時間にも影響します。
一方で、65mmフォーマットとして十分な解像度も必要です。VENICE 2のボディで扱える範囲、撮影現場でのハンドリング、ポストプロダクションでの扱いやすさを考えると、9.6Kは非常にバランスのよい選択でした。
X-OCNも既存のフォーマットを活かし、同じAXSカードに記録できます。そうしたワークフロー面を含めて、9.6Kが最適なバランスだと考えています。
9年間の急速な進化を経て、次なる10年の表現領域へ
――他社65mmシネマカメラとの違いが気になります。既存の65mmシステムや他社の大型フォーマットカメラと比べたとき、RIALTO 65の特徴はどこにありますか。
高橋氏:
大きな特徴はセンサーサイズです。65mmフィルムフォーマットの横幅をカバーしながら、縦方向にも大きくとった、業界最大クラスのセンサーです。
特に3:2という比率は重要です。アナモフィックにも適していますし、スフェリカルレンズでもIMAXのような没入感のある表現につながります。センサーサイズが大きいことで、浅い被写界深度や奥行き感、ワイドな構図を活かした表現も可能になります。
フルフレームでは実現しにくい表現領域を、シネマトグラファーに提供できると考えています。さらに、このセンサーに対応するイメージサークルを持つレンズの開発も進んでおり、レンズパートナーとともに新しい使い方を作っていく段階です。
――VENICEは2017年の初代発表から、短い期間で大きく進化してきた印象があります。今後の展開も気になります。
高橋氏:
シネマトグラファーもエンジニアも、常に新しいものを求めています。VENICEの初代を発表してから、まだ9年ほどしか経っていません。その間にさまざまな進化がありました。
この先10年で何が起きるのか、我々にもまだ見えていない部分があります。ただ、映像表現にはまだ多くの可能性があります。今後もシネマトグラファーと対話しながら、新しい夢を見つけていきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。
