65mmイメージセンサーブロック「RIALTO 65」お披露目
米ソニーは2026年6月3日、ASC(全米撮影監督協会)クラブハウスにおいて、開発中の65mmイメージセンサーブロック「RIALTO 65」を披露した。RIALTO 65はデジタルシネマカメラ「VENICE 2」を65mmフォーマットへ拡張するシステムで、2027年前半の商品化を予定している。
発表会場となったASCクラブハウスには撮影監督やレンズメーカー、映像業界関係者が集まり、開発中の実機も公開された。
イベント冒頭ではASC(全米撮影監督協会)会長のシェリー・ジョンソン氏が、近年のソニーと撮影現場との関係性について言及した。
「この10年から15年でソニーは私たちにとって真のパートナーになりました」
ASCとソニーは長年にわたり新製品開発の段階から意見交換を続けており、今回のRIALTO 65もそうした協力関係の延長線上にある製品だという。
続いて登壇した米国市場のVENICEプロダクトマネージャー、サイモン・マーシュ氏は、新システムの概要を説明した。
「65mm市場が成長していることを私たちは理解しています。そしてこれが私たちのソリューションです」
RIALTO 65は既存のVENICE 2システムに追加する形で運用できる65mmフォーマット対応のイメージセンサーブロックである。VENICE 2の6Kモデル、8Kモデルと同じシステム上で利用でき、1台のカメラプラットフォームで6K、8K、65mmという複数のフォーマットを選択できることを特徴とする。
会場では新開発センサーの概要も公開された。センサーサイズは対角64.6mm、約53.75mm×35.83mmの3:2フォーマットを採用。ソニーによれば同社が把握する限り市場最大クラスの撮像面積となる。
さらに発表会ではソニー株式会社 ニューコンテンツクリエイション事業部 Cinema Line 事業部門長 高橋暢達氏が実機をステージ上で披露した。
RIALTO 65は通常のスタジオ構成だけでなく、VENICEシリーズの特徴でもあるエクステンションシステムとしても運用できる。会場ではセンサーブロックを分離した「Rialtoモード(エクステンション構成)」も紹介され、65mmフォーマットでありながら高い機動性を実現する設計が示された。
発表の中で最も印象的だったのは、高橋氏が語った開発の背景だ。高橋氏によれば、2017年のVENICE開発時、ソニーはASCを訪れ撮影監督たちから直接意見を集めていたという。その後VENICEは映画制作の現場で広く採用されるようになったが、近年はさらに大きなセンサーを求める声が増えていた。
「数年前のCine Gearで、多くの撮影監督からVENICE 2用の大型センサーオプションを求める声をいただきました」
そのフィードバックを受け、開発チームは実現方法を模索し続けた。高橋氏は当時を振り返り、「エンジニアたちは出張先のホテルのバーで、どうすればその夢を実現できるか議論していました」と語る。
そして今回の発表について、「これは私の夢が叶った瞬間であり、撮影監督の皆さんの夢がもうすぐ叶う瞬間でもあります」と述べた。
RIALTO 65は単なる新製品ではない。現場の撮影監督から寄せられた要望を起点に開発されたプロジェクトであり、ASCとの継続的な対話の成果とも言える存在だ。
ソニーCinema LineとVENICEが担う役割
では「なぜ今、65mmなのか」という問いに対し、浮き彫りになったのは以下のような事実である。
ソニーの「Cinema Line」は、映画、ドラマ、CMといったプロフェッショナルな映像制作を支える製品群だ。旗艦モデルからエントリーモデルまで重層的なラインアップを揃え、上位機種の「VENICE」シリーズを筆頭に、「FX」シリーズなどを含めた多様な制作スタイルに対応するエコシステムを構築している。
このシリーズの根幹をなすのは、一貫した「ルック」と「操作性」の維持である。撮影規模や環境が変化しても共通の思想で運用できるため、機材変更に伴う制作フローの断絶を最小限に抑えることができる。プロフェッショナルから個人クリエイターにいたるまで、個々のニーズに最適化されたツールを提供するという理念が、シリーズ全体を貫いている。
そのCinema Lineの頂点に位置付けられるのがVENICEである。同機は数多くのハイエンド作品に採用され、その圧倒的な画質に加え、独自のアプローチである「エクステンションシステム」によって確固たる評価を築き上げた。カメラヘッド部を分離できるこの構造は、狭小空間や特殊なアングルでの撮影を可能にし、映像表現の自由度を劇的に向上させた。近年では、この機動性を活かした次世代の空間コンテンツ制作への応用も進んでおり、ソニーは従来の映画制作の枠を超えた新たな映像領域をも視野に入れている。
「RIALTO 65」の本質を理解する上で不可欠なのは、製品単体のスペックではなく、その背景にある映画業界の業界構造の変化である。
近年のアカデミー賞撮影賞受賞作を概観すると、35mmフルフレームを超越する「ラージフォーマット」の採用が極めて顕著である。IMAXや65mmフォーマットがその代表例であり、ハイエンドな映画制作の現場では、より巨大なセンサーによる表現力への渇望が止まることを知らない。
実際、VENICEは市場で高く支持されているものの、業界の最前線ではさらに広大なフォーマットによる描写が切望されていた。ソニーはこの市場の潮流を精緻に捉え、ラージフォーマットへの対応を最優先課題の一つに据えたのである。
トップクラスの撮影監督たちがラージフォーマットを志向する理由は、極めて明快である。
それは、浅い被写界深度による圧倒的な立体感、歪みを極限まで抑えた広角描写、そしてワイドな画角と自然なボケ味の両立だ。これらは物理的なセンサーサイズの拡大があって初めて到達できる表現を実現しやすい。
特に65mmフォーマットにおいては、標準的な50mmレンズを用いても、広大な画角を確保しながら被写体を鮮烈に際立たせることが可能となる。画面周辺の歪みが少なく、被写体との距離感を自然に保てるため、観客はスクリーンの中の登場人物へより深く、濃密に感情移入することが可能になる。
『オッペンハイマー』『デューン 砂の惑星』『エルヴィス』『パラサイト 半地下の家族』といった作品が放つ、抗いがたい没入感やスケール感。それらは、こうしたラージフォーマット特有の表現と密接に結びついている。単なる高解像度というスペックを超え、空間の奥行きと人物の存在感を同時に描き出すことこそが、今、映画業界が大判フォーマットに求めている真の価値なのである。
VENICEを65mm化するRIALTO 65とは
そうした市場の流れを受けて登場したのがRIALTO 65だ。
RIALTO 65の最大の特徴は、既存のVENICE 2システムを活用しながら65mmフォーマットへ拡張できる点にある。VENICE 2のイメージセンサーブロックを交換することで、65mmフォーマット対応のデジタルシネマカメラシステムとして運用できる。
さらに搭載されるセンサーは、この製品のために新規開発された専用品だ。既存製品の流用ではなく、65mmフォーマット対応を前提として一から設計されている。
さらに「VENICE Extension System Mini」と同様の運用にも対応する。大型センサーと撮影自由度を両立できる点は、従来のラージフォーマットシステムとの差別化要素になり得る。
単純に65mmカメラを新規開発するのではなく、既存のVENICEユーザーが積み上げてきたワークフローや周辺機材資産を活かしながら映像表現だけを拡張する。このアプローチこそがRIALTO 65の本質と言えるだろう。
専用開発センサーと9.6Kがもたらす表現力
RIALTO 65に搭載されるセンサーは、対角約64.60mm、横53.75mm×縦35.83mmの3:2センサーを採用する。業界最大クラスのサイズであり、受光面積はフルフレームセンサーの約2.2倍に達する。
これは単純に高解像度化を狙ったものではない。ラージフォーマットならではの浅い被写界深度によって被写体を際立たせ、空間の広がりを立体的に描写するための設計である。
映画制作においては、人物の存在感や空間スケールの表現が作品の没入感を大きく左右する。65mmフォーマットが支持され続ける理由もそこにある。RIALTO 65は、その映像表現をVENICEシステムへ取り込もうとする試みと言ってよい。

記録フォーマットも意欲的だ。9.6K 3:2オープンゲート撮影に対応するほか、多様な65mmフォーマット用レンズに対応した読出しモードも搭載する。さらに2.2:1フォーマットにも対応し、大型スクリーン上映を前提とした映像制作にも対応する。
アスペクト比に3:2を採用したことも興味深い。一般的なデジタルシネマカメラでは17:9や16:9が主流だが、RIALTO 65では大型センサー全域を活用できる設計を採用している。その背景にはIMAXを含む大画面上映を意識した考え方が見え隠れする。
ソニーが目指す次世代のラージフォーマット戦略
現時点では開発中の製品であり、作例映像も公開されていない。しかし発表内容を見る限り、ソニーが目指している方向性は明確である。
映画業界で求められている65mmフォーマットの表現力と、VENICEシリーズが培ってきた運用性や機動力を融合すること。そのために専用センサーを新規開発し、業界最大クラスの撮像面積と9.6K収録性能を投入した。
RIALTO 65は単なる大型センサー搭載モデルではない。Cinema Lineの頂点に位置するVENICEシステムを次のステージへ押し上げるための拡張プラットフォームである。
映画制作の現場では、より高い没入感やスケール感を求める動きが今後も続くだろう。RIALTO 65は、その流れに対するソニーの回答であり、ラージフォーマット市場への本格参入を示す重要な製品と位置付けられる。
2027年前半の商品化に向けて、今後どのような映像作品が生まれるのか注目したい。
