IBC 2026のパナソニックブースで、ひときわ目を引いたのが、IT/IPプラットフォーム「KAIROS」の大型コントロールパネルだ。3段に並ぶME(Mix Effects)の操作部、大量のクロスポイントボタン、3本のTバーフェーダー。従来のKAIROSのコントロールパネルとは異なる、放送局のメインスタジオを意識した大型操作卓が展示されていた。
今回展示されたのは、製品化に向けて開発が進められている一次試作機である。まだ完成品ではないものの、実際に操作できる段階まで開発が進んでいた。大型化によってボタンの数が増えただけでなく、その配置や操作感には、放送現場のスイッチャーオペレーターの使い勝手を考慮した工夫が盛り込まれている。IBC 2026の会場で確認した実機の特徴と、今後の開発の方向性を紹介する。
放送局の要望から生まれた3ME・40クロスポイントの大型パネル
大型コントロールパネルの開発は、放送局から寄せられた要望を背景に進められてきた。KAIROSはソフトウェアベースの映像制作プラットフォームで、放送だけでなく、ライブイベントやステージングなど多様な用途に対応する。一方、放送局のメインスタジオでは、多数のカメラや映像素材を扱い、複数のMEに相当する操作部を使い分けながら番組を制作する。そのため、従来の放送用スイッチャーに近い操作環境が求められていた。
新しい大型パネルは、3ME・40クロスポイント構成の「AT-KP340」と、3ME・30クロスポイント構成の「AT-KP330」の2モデルを展開する。IBC 2026で展示されていたのは、40クロスポイントを備えるAT-KP340の一次試作機だ。国内向けには、それぞれ「AT-KP340T」「AT-KP330T」の型番で展開する予定となっている。
従来の「AT-KC10C1」がTバーフェーダー2本、24クロスポイントの構成だったのに対し、新モデルでは3本のTバーフェーダーと3MEの操作レイアウトを採用する。各MEの操作部が独立して並ぶ姿は、放送局で使われてきた大型スイッチャーを思わせる。KAIROSの柔軟な映像制作機能を、放送現場で慣れ親しまれた物理パネルから操作できるようにすることが、今回の開発の狙いだ。
取材時の説明によると、現在のレイアウトに至るまでには、複数の設計案が検討されてきたという。パナソニックはNAB ShowやIBC、Inter BEEなどの機会を通じて放送局関係者から意見を集め、原寸大の図面などを使いながらボタンの配置や操作範囲を検証してきた。今回の一次試作機は、こうした検討を具体的なハードウェアへと反映したものだ。
大型パネルの登場によって、KAIROSの操作環境には新たな選択肢が加わる。イベント制作や小規模なシステムに適した従来型パネルに対し、新モデルは放送局のメインスタジオや大規模なライブ制作での運用を想定している。
ボタン配置で指先の操作感はどう変わるのか
実機を前にして特に気になったのが、クロスポイントボタンのサイズと配置間隔だ。40クロスポイントを備えるAT-KP340では、限られた操作範囲に多くのボタンを配置する必要がある。単純にボタンを増やせば、その分パネルが横に長くなり、操作時の手の移動距離も増えてしまう。
取材時の説明では、従来のKAIROSコントロールパネルは17.4mm角のボタンサイズに対し、新しい大型パネルでは15mm角とボタンサイズを2.4mm、さらに配置ピッチも2mm小さくすることで、より多くのクロスポイントを操作しやすい範囲に収める設計だ。
数値だけを見るとわずかな違いだが、実際に操作面を見ると、ボタンの密度が高まっていることが分かる。設計では、5本の指を使った操作や、手を大きく動かさずに複数のボタンへアクセスしたいという放送局からの要望も考慮されたという。映像の切り替えを繰り返すオペレーターにとって、必要なボタンに素早く指が届くことは、操作効率に直結する。

もう一つ印象に残ったのが、ボタンの押し心地だ。IBC 2026で展示された一次試作機は、押した際に明確なクリック感のない仕様だった。実際に指で押すと、従来の放送用スイッチャーに見られるカチッとした感触はない。操作時の反応を指先で確かめたいオペレーターにとっては、好みが分かれる部分だろう。
ただし、今回のボタンが最終仕様というわけではない。現地での説明によると、クリック感のあるタイプも候補に挙がっており、国内市場向けの仕様も含めて検討が進められているという。押した際の重さやストローク、クリック感の有無は、連続操作のしやすさや誤操作の防止にも関わる。製品版でどのようなボタンが採用されるのか、引き続き確認したいポイントだ。
大型タッチパネルと「mini Karios Creator (ミニクリエーター)」で操作を集約
新しい大型パネルでは、物理ボタンの操作性に加え、各種機能へのアクセス方法も見直されている。クロスポイントの素材名表示にはカラーLCDを採用。一次試作機では5個単位で配置された表示器に素材名やシーンに応じた色を表示し、多数のボタンが並ぶ操作面でも、各ボタンに割り当てられた機能を識別しやすい構成となっていた。
さらに注目したいのが、各ME列に配置された大型カラータッチパネルだ。会場の一次試作機では7型の画面を備え、トランジション操作やスナップショット、マクロなどの機能を扱えるよう開発が進められていた。その中でも興味深いのが「mini Karios Creator(ミニクリエーター)」と呼ばれる機能だ。
KAIROSでは、PC上のソフトウェア「Kairos Creator」を使用して、映像効果や画面内の素材配置などを設定できる。しかし、生放送の最中にスイッチャーオペレーターがPCのマウスへ手を伸ばし、設定画面を切り替えて操作することは、必ずしも効率的ではない。mini Karios Creator(ミニクリエーター)は、ライブ中に必要となるKairos Creatorの一部操作を、コントロールパネル上で実行できるようにする機能である。
例えば、番組中に表示している出演者のワイプが画面上の時計と重なり、ディレクターから位置の変更を指示された場合を考えてみたい。従来であればPC側で設定を変更する必要がある場面でも、コントロールパネルから直接ワイプの位置を調整できれば、映像の切り替え操作から大きく手を離さずに対応できる。こうした運用の実現が、mini Karios Creator(ミニクリエーター)の目指す方向だ。
ジョイスティックを利用したDVEの調整やリモートカメラの操作についても、現地では今後の活用が想定される機能として説明があった。物理ボタンやTバーフェーダーによる従来の操作感を残しながら、タッチパネルを通じてソフトウェアの機能を呼び出す。操作方法を状況に応じて使い分けられることが、大型パネルの特徴となっている。
もっとも、IBC 2026で展示されたのはハードウェアの評価を先行させた一次試作機であり、ソフトウェアには開発途中の機能も残されている。展示時に確認できた操作と、今後の実装を想定している機能は区別して考える必要がある。タッチパネルと物理操作部の連携が、製品版でどこまで仕上がるかが注目点となる。
2027年度の発売に向けて開発が進むKAIROS大型コントロールパネル
国内向けモデルの発売予定時期は、3ME・40クロスポイントの「AT-KP340T」が2027年度第1四半期(2027年4~6月)、3ME・30クロスポイントの「AT-KP330T」が同年度第2四半期(2027年7~9月)となっている。現時点では開発中の製品であり、仕様が変更される可能性もある。
今回のIBC 2026で印象に残ったのは、KAIROSが放送局のメインスタジオで求められる操作環境に向けて、着実に進化していることだ。3ME構成や40クロスポイントという規模の拡大に目が向きがちだが、実際に触れてみると、ボタンの間隔や押し心地、指の届く範囲といった細部にこそ開発の狙いが感じられた。
従来の放送用スイッチャーで培われてきた操作性と、KAIROSならではの柔軟な映像制作機能を組み合わせる。大型コントロールパネルは、その両立を目指す製品といえる。一次試作機の段階ではあるが、実際に操作できるようになったことで、製品化に向けた方向性が具体的に見えてきた。今後、ボタンの操作感やmini Karios Creator(ミニクリエーター)の完成度がどのように高められるのか、製品版の登場に注目したい。