IBC 2026の朋栄(FOR-A)ブースで見えてきたのは、放送システムのソフトウェア化を一気に進めるための派手な提案ではなく、現場が実際に移行しやすい形に落とし込む考え方だった。

ブースには木目調のアクセントウォールと黒を基調とした展示空間が組まれ、壁面には「Connecting the Present, Building the Future」の言葉が掲げられていた。大小のモニターには、ノードベースの画面やマルチビュー、ステータス表示が並ぶ。

中心にあったのは、朋栄のソフトウェアベースの機能統合型ライブ制作ソリューション「FOR-A IMPULSE」である。画面上では柔軟な信号処理やシステム構成を扱いながら、手元には同社の物理コントロールパネルが置かれている。その組み合わせが、今回の展示の性格をよく表していた。

IBC 2026の朋栄(FOR-A)ブース。黒と赤を基調にした展示空間に、FOR-A IMPULSEを中心としたソフトウェアベースシステムのデモが並んでいた

従来の操作感をソフトウェアへ移すFOR-A IMPULSE

FOR-A IMPULSEの大きな特徴は、朋栄がこれまで展開してきたハードウェア製品の考え方をソフトウェア化し、ライブ制作に必要な機能を統合していく点にある。ビデオスイッチャーではHANABIシリーズで培ってきた操作性を意識し、カラー補正や信号処理ではFA-9600で培われた機能をソフトウェア上で扱う方向性が示されていた。

FOR-A IMPULSEのデモ環境。マルチビュー、ノードベースのGraph Editor、スケジュール表示などを複数画面で表示し、物理パネルと組み合わせていた

ソフトウェア化と聞くと、すべてをPC画面上の操作へ置き換える印象を持ちやすい。しかし、放送現場では操作体系を急に変えることが難しい場面も多い。FOR-A IMPULSEは、従来のスイッチャーパネルを活用できる点を打ち出し、現場の操作感を残したままシステムを更新していく方向を示していた。

Graph Editorの画面。入力、処理、出力をノードとして配置し、映像・音声の接続関係やシステム構成を視覚的に確認できる
Studio 4 MV、Studio 5 PST、Studio 4 Checkなどのノードを拡大した画面。VIDEO/AUDIOの接続点やプレビューを見ながら構成を追える

ブースで目を引いたのは、その「新しさ」と「慣れた操作」の同居だった。モニターにはGraph Editorのようなソフトウェア画面が表示される一方、卓上には現場で使われてきた物理パネルがある。ソフトウェア化を、オペレーターの手元から切り離していない。

従来型のスイッチャーパネルとFOR-A IMPULSEのソフトウェア画面を組み合わせたデモ。慣れた物理操作と新しいソフトウェア制御を同じ卓上で扱える構成だ

ここに、朋栄らしい移行設計がある。新しいプラットフォームへ進みながら、オペレーターが慣れた操作感を手放さずに済む。単なるソフトウェア化ではなく、現場の身体感覚を残したままシステムを更新していく提案に見えた。

FOR-A IMPULSEは、現時点ではオンプレミスでの運用に力点を置くプラットフォームとして紹介されていた。クラウド化やリモート運用の流れが強まる中で、あえて現場内にシステムを置く考え方は、国内の放送現場にとって分かりやすい選択肢となる。

小規模サブの統合から広がる運用自由度

具体的な活用例として興味深かったのは、小規模なスタジオサブを複数持つ環境での使い方だ。たとえば2つのサブをFOR-A IMPULSEで統合し、通常番組ではそれぞれを分けて使う。一方、特番などでは片方のサブを休止し、1つの大きなスイッチング環境として使う運用が考えられる。

Studio 4とStudio 5をFOR-A IMPULSEで1つのシステムに統合し、通常運用、非常時運用、特番運用に応じてスイッチャーリソースを振り分ける構成例

従来であれば、機材を移動したり構成を組み替えたりする必要があった場面でも、ソフトウェア化された基盤ならシステム構成を柔軟に切り替えられる。GUI上では映像の入出力やプレビューを確認しながら操作でき、仮想的な機材構成を把握しやすい。

実際のデモ環境では、画面上に複数の映像やステータスが並び、ソフトウェア上でシステム全体を見渡す構成になっていた。プレビューを確認しながら切り替えられる点も、従来の映像制作の感覚とつながっている。

IBC 2026の会場では、ソフトウェア化やIP化、AI活用といった言葉が何度も聞こえてきた。その中で朋栄の展示は、未来を遠くに置くのではなく、いま使っている現場の設備や感覚から次へ進むための提案だった。

FOR-A IMPULSEは、放送システムの更新を大きな断絶にしない。これまでの機材を知る現場にとって、そこがもっとも実感しやすい価値になるのではないか。