IBC 2026のAvidブースに足を踏み入れて、まず感じたのは展示の勢いだった。会期に合わせてAvidは新しい発表を相次いで行っていたが、ブースを回っていくと、それらがばらばらの新機能ではなく、一つの方向へ集まり始めていることが見えてきた。

Media ComposerやPro Toolsといった制作ツールのイメージが強いAvidだが、今回その中心に据えられていたのは「Avid Content Core」である。映像や音声などのアセットに加え、制作に関わるワークフローやリソース、コストといった情報まで結び付けて扱うクラウドネイティブなプラットフォームだ。ブラウザベースのMedia ComposerもAIも、この基盤の上に配置されていた。

「MAMの次」を狙うAvid Content Core

Avid Content Coreが興味深いのは、従来型のMAMの延長では説明しきれない点だ。映像素材を保存、検索、管理するだけでなく、そのコンテンツを誰が、どのようなリソースを使って制作し、どれだけのコストがかかったのかといった制作情報まで関連付けて扱う。

Avid Content Coreのデモ。番組のRundownやShow Timingに加え、ストーリー、担当タスク、コンテンツを一つの環境で管理する

デモ画面を見ると、その範囲が素材管理にとどまらないことがよく分かる。番組の進行表から担当者のタスクまでが同じ環境で扱われ、報道制作の進行そのものがContent Core上でつながっている。

IBC 2026で披露された新機能「Insights」は、こうした制作情報を経営の判断材料へと広げるものだ。制作活動とコストを結び付けてスタッフや機材の利用状況を可視化し、ERPのデータと組み合わせることで、人員や機材の需要予測、稼働率の低いリソースの把握、より正確なコスト配分に役立てる。Avidは将来的に、制作コストとコンテンツが生み出す収益を結び付けて把握するところまで広げていく構想を示している。

一方、ポストプロダクション側では、Media Composerの中からContent Core上の素材にアクセスする。報道制作とポストプロダクションでは作業内容こそ異なるが、背後に共通のデータ基盤を置くことで、制作現場から運用、さらにビジネス部門まで、同じコンテンツと制作情報をそれぞれの視点から利用できる構造だ。

Media Composerの編集画面とAvid Content Coreを並べたデモ。Media Composer側にはGeminiを利用するパネル、Content Core側には素材一覧やプレビュー、Avid Assistが表示されている

Media Composerがブラウザへ、AIは制作フローの中へ

Content Coreを軸とした変化を分かりやすく示していたのが、ブラウザベースのMedia Composerだ。Google Chrome上でMedia Composerのタイムラインを扱い、Content Coreで管理されたメディアを使って編集できる。

Avid Content Coreを使ったデモ。左画面ではContent Core Insightsに自然言語で問い合わせ、右画面ではブラウザベースの編集環境とAIアシスタントを表示している

ポイントは、単に「ブラウザで動画編集ができる」ことではない。Media Composerで築いてきたプロフェッショナル編集のワークフローを、ブラウザ側へ広げる考え方にある。ブラウザで素材の確認や準備、編集を進め、必要に応じてデスクトップ版Media Composerでの本格的な編集へつないでいく。デスクトップ版を置き換えるのではなく、拡張する位置づけだ。

そこにGoogle Cloudとの連携によるAIが加わる。Gemini EnterpriseをMedia ComposerとContent Coreに組み込み、Content Coreでは映像の解析、文字起こし、意味情報の生成を行うことで、自然な言葉で必要な素材を検索できる。

Media Composer側にはGeminiを利用するパネルが用意され、Bロールの生成やストック映像の検索、タグ付け、ロギング、翻訳などを編集環境の中から実行できる。さらにMedia ComposerのAIエージェント機能「Ready to Edit」は、自然言語による指示で、素材の同期、台詞の文字起こしと映像との位置合わせ、プロジェクトのBin整理といった編集前の準備作業を支援する。

Content Coreには新たに「Avid Assist」も加わった。権限管理などの統制を保ったままAIエージェントを動かすための仕組みで、特定のLLMに依存しない設計を採る。作業を外部のAIツールへ切り出すのではなく、既存の制作環境の中で自動化を進める点が特徴だ。

こうして見ると、AvidのAI活用は、編集ソフトに機能を一つずつ追加していく発想とは異なる。素材を探す、準備する、編集する、制作状況を管理するという各工程の中にAIを配置し、制作フローそのものに組み込もうとしている。

NAB Showから約半年で具体化した新しい軸

今回の展示でもう一つ印象に残ったのが、変化の速さである。2026年4月のNAB ShowからIBC 2026までは約半年。その間にContent Coreを軸とした取り組みは、ブラウザベースのMedia ComposerやAIエージェントを組み込んだワークフローへと具体化した。

Media Composer本体の更新も続いている。9月1日に提供を開始した「Media Composer 2026.8」では、Shared Projectsによる共同編集の選択肢を広げ、Enterpriseティアでは初めてAvid NEXIS以外のサードパーティ製共有ストレージにも対応した。このほか「PhraseFindAI Multicam Auto Cut」の追加や、OpenTimelineIO 2.0 Adapterの更新なども行われている。

とはいえ、ブース全体を見渡すと、主役はあくまでContent Coreだ。Media ComposerやAvid NEXISなど、Avidが積み重ねてきた制作ツールやインフラをContent Coreにつなぎ、クラウド、AI、アセット管理、制作管理を横断する環境へと組み直そうとしている。ブラウザ編集、AI、素材管理、制作コストの可視化は別々のテーマではなく、いずれもこの共通基盤の上で一つの制作フローに置かれている。

長くMedia Composerを中心にAvidを見てきた立場からすると、IBC 2026で感じた変化は、新機能が増えたことそのものではない。編集ソフトを中心とする従来のAvidの姿を残しながら、その周囲にあった素材、制作情報、リソース、コスト、AIを一つのデータ基盤でつなぎ始めたことだ。Avidが次にどこを軸に制作環境を広げようとしているのか、その方向が今回の展示からはっきりと見えてきた。