IBC 2026のキヤノンブースを歩いていて、最初に目に留まったのは新しいカメラでもレンズでもなかった。ポッドキャストスタジオである。

「キヤノンとポッドキャスト」という組み合わせは、最初は少し意外に感じた。しかし展示を見ていくうちに、その印象は変わった。ここで提案されていたのは、マイクの前で話す様子を記録するだけのポッドキャストではない。シネマカメラやPTZカメラを組み合わせ、人物のスキントーンや背景のボケ、複数カメラによる画作りまで意識した、いわば「映像番組としてのポッドキャスト」である。

さらにブースを進むと、シネマカメラとサードパーティ製のロボティック雲台を組み合わせ、キヤノン純正のコントローラーから操作するデモが続く。そして最後に待っていたのは、40~1200mmを30倍ズームでカバーする超望遠CINE-SERVOレンズだった。

ポッドキャスト、ロボティック撮影、バーチャルプロダクション、そして超望遠。一見すると異なる展示が並んでいる。しかしブースを一周すると、それぞれが「カメラを中心に撮影環境全体をどう組み上げるか」という方向でつながっていることが見えてきた。

IBC 2026のキヤノンブース。ポッドキャスト、リモートプロダクション、バーチャルプロダクション、レンズなど、映像制作を支える幅広いシステムを展示していた

ポッドキャストというより、すでに「映像番組」だった

今回のブースで昨年から大きく変わった部分のひとつが、ポッドキャストエリアの新設である。英国で広がるビジュアルポッドキャストの制作環境を再現し、シネマカメラ、PTZカメラ、コントローラーなどを組み合わせたスタジオが構築されていた。

ブース内に再現されたビジュアルポッドキャストの収録セット。複数のカメラとマイク、照明を組み合わせ、小規模なトーク番組に近い制作環境を構築
映像付きポッドキャスト向けの制作ワークフローを紹介する展示。Open Gate収録による横位置・縦位置へのリフレーミング、人物AF、Frame.ioへのクラウドアップロード、リモートマルチカメラ制御などを提案していた

実際にその空間へ入ってみると、自分がこれまでイメージしていた「ポッドキャスト」とはかなり違った。音声収録にカメラを追加したというより、小規模なトーク番組のスタジオに近い。出演者を複数のカメラで捉え、画を切り替えながら収録する。シネマカメラによる背景のボケまで意識した画を見ると、ポッドキャストがここまで映像番組化しているのかと驚かされた。

このポッドキャストエリアでもうひとつ興味深かったのが、フランスのMiddle Thingsによる「Middle Control」を活用したカメラ制御のデモである。キヤノンのカメラと純正コントローラーを中心としたシステムにDJI製ジンバルを組み合わせ、同じコントローラーから操作できる環境を実演していた。スタジオには2台のPTZカメラと2台のシネマカメラが用意され、さらにEOS C50を搭載したDJI製ジンバルも組み込まれていた。

Middle Controlは、カメラやジンバルなどを統合して制御するソフトウェアである。対応するDJI RSシリーズのジンバルと組み合わせることで、キヤノンのカメラコントローラーからMiddle Controlを介してジンバルを操作できる。専用のPTZカメラだけでなく、ジンバルに搭載したEOS C50まで同じリモート制作環境に組み込める点がポイントだ。

ポッドキャストのような比較的小規模なスタジオでは、カメラごとにオペレーターを配置するのではなく、少人数で複数のカメラを扱えることが大きな意味を持つ。PTZカメラに加え、シネマカメラとジンバルを組み合わせることで、背景のボケやレンズ選択といったシネマカメラならではの画作りを取り込みながら、リモートカメラとして運用できる。単に「ポッドキャストを映像化する」というだけでなく、その制作方法そのものを小型化・自動化していく提案として見ると、この展示の狙いが分かりやすい。

ポッドキャストスタジオをリモート操作するコントロール環境。PTZカメラに加え、Middle Controlを介してDJI製ジンバルに搭載したシネマカメラも組み合わせた制作環境を紹介

人物を長時間映すビジュアルポッドキャストでは、スキントーンや背景、小道具の色再現も画作りの重要な要素になる。興味深かったのは、シネマカメラやPTZカメラなど性格の異なる機材を組み合わせながら、映像全体の色の方向性をそろえていたことだ。センサーサイズやレンズによって被写界深度や背景のボケ方には違いが生じるものの、異なるカテゴリーのカメラを組み合わせたマルチカメラ制作まで見据えた展示となっていた。

PowerShotからCINEMA EOSまで、カテゴリーやセンサーサイズの異なる機種を横断しても、色の方向性が統一されていることを確認できる展示もあった

サードパーティ製雲台も純正コントローラーから操作。XCプロトコルが広げるカメラ制御

ポッドキャストエリアからマルチカメラ展示へ進むと、カメラ制御の提案はさらに広がっていった。ここで重要なのは、シネマカメラをロボティック雲台に載せて動かすことだけではない。サードパーティ製の雲台がキヤノンのXCプロトコルに対応し、キヤノン純正のコントローラーから操作できる点である。

複数のPTZカメラやサードパーティ製ロボティックシステムを配置したマルチカメラ展示。XCプロトコルを介したカメラ制御の広がりを紹介していた

XCプロトコルは、キヤノンのリモートカメラシステムで使用されるIP制御プロトコルである。対応するサードパーティ製機器にもXCプロトコルが実装されることで、キヤノンのカメラと外部メーカーのロボティック機器を組み合わせ、キヤノン純正のリモートカメラコントローラーから操作できる環境を構築できる。

その具体例として展示されていたのが、EOS C400とZANUSのロボティック雲台を組み合わせたシステムである。フルサイズセンサーを搭載するEOS C400を外部のパン・チルト機構に搭載し、XCプロトコルを介してキヤノン純正のコントローラーから操作する。PTZカメラのような一体型システムだけでなく、シネマカメラとサードパーティ製雲台を組み合わせた構成まで、同じ操作環境へ取り込めることを示すデモである。

ZANUSのロボティック雲台に搭載されたキヤノン「EOS C400」。XCプロトコルへの対応により、キヤノン純正のコントローラーから操作できる構成を展示

さらに、multiCAM Systemsの「SPIRIT Head」とシネマカメラを組み合わせた展示もあった。ここでもポイントは、サードパーティ製のロボティックヘッドを単独で動かすことではなく、XCプロトコルに対応することでキヤノンのカメラ制御環境へ組み込めることにある。

multiCAM Systemsの「SPIRIT Head」にキヤノンのシネマカメラを搭載した展示。XCプロトコルに対応するサードパーティ製ロボティック機器をキヤノンのカメラ制御環境へ組み込む提案

カメラと雲台を別々のシステムとして扱うのではなく、共通のプロトコルを介して一つの操作環境へまとめる。これにより、固定されたPTZカメラ、シネマカメラ、サードパーティ製ロボティック雲台など、撮影目的に応じて異なる機材を組み合わせながら、オペレーター側の操作環境を統一できる。XCプロトコルの役割が、キヤノン製品同士をつなぐだけでなく、外部メーカーを含む撮影システムへ広がっていることが、この展示から見えてきた。

外部のリモート雲台に搭載されたキヤノンのシネマカメラ。XCプロトコルを介して、サードパーティ製機器を含むリモート撮影システムを構築する方向性を示していた

その先には、複数台のPTZカメラを連携させる「Multi-Camera Orchestration(MCO)」の展示が続く。MCOはマルチアングル撮影を支援するシステムで、カメラの登録や役割(ロール)の設定、キャリブレーション、撮影中の操作などを一元的に行える。複数のカメラにそれぞれ役割を設定し、連携させながらマルチアングルの映像を構成できる点が特徴だ。

Multi-Camera Orchestrationのデモ環境。複数のPTZカメラを連携させ、マルチアングル撮影を少人数で運用するワークフローを紹介
Multi-Camera Orchestrationの設定画面。人物とカメラ位置を確認しながら、それぞれのカメラに役割を割り当てる

PTZカメラ側にも運用の幅を広げるアップデートが用意されている。CR-N700、CR-N400、CR-N350では、登録した人物の顔を識別し、設定した優先順位に応じて追尾する「顔登録追尾(要有償ライセンス)」が2026年10月のファームウェアアップデートで追加される予定だ。複数人が画面内にいる状況でも、あらかじめ指定した人物を優先して追尾できる。

「顔登録追尾」の設定画面。あらかじめ顔を登録し、複数人が画面内にいる場合でも優先する人物を追尾対象として設定できる

CR-N700とCR-N400では、SDカードを利用したカメラ内部への映像記録機能も追加予定だ。ネットワークを利用したライブ運用に加え、カメラ側にも映像を記録できるようになる。記録した映像はWebブラウザーやRC-IP1000から再生できるほか、IP経由でFTPサーバーへ転送することも可能になる。

バーチャルプロダクションの展示にも、機器同士をつなぐという同じ方向性が表れていた。RFマウントの電子接点を介して得られるズーム、フォーカス、絞りなどの光学データをCVメタデータとして対応するバーチャルプロダクションシステムへ出力する。実写カメラの画角と仮想空間を連動させ、自然なCG合成につなげる仕組みである。

カメラ、レンズ、雲台、ロボティックシステム、バーチャルプロダクション。個々の機材を共通の制御やメタデータでつなぎ、一つの撮影システムとして運用していく方向性が、この一連の展示から見えてきた。

40~1200mmを30倍ズームでカバー。最後に待っていたCN30×40

ブースを一周した最後に目に入ったのが、超望遠CINE-SERVOレンズ「CN30×40 IAS J/R1・CN30×40 IAS J/P1」である。焦点距離40~1200mmを30倍ズームでカバーし、Super 35mmをネイティブでカバーするシネマレンズだ。内蔵1.5倍エクステンダーを使用すると焦点距離は60~1800mmとなり、35mmフルサイズセンサーもカバーする。

40~1200mmを30倍ズームでカバーするキヤノンの超望遠CINE-SERVOレンズ「CN30×40 IAS J/R1・CN30×40 IAS J/P1」。シネマカメラと組み合わせた超望遠撮影システムとして展示されていた

40~1200mmという数字を実機の前で見ると、このレンズがカバーする撮影領域の広さが実感しやすい。ワイルドライフやライブプロダクション、コンサートなど、被写体から距離を取る必要がある撮影において、長い焦点距離を生かした映像表現を狙える。

RFマウントモデルの「CN30×40 IAS J/R1」は、対応するCINEMA EOSカメラとの組み合わせでオートフォーカスを利用できる。EOS C400ではファームウェアVersion 1.0.7.1によって同レンズへの対応が追加され、同時に「自動露出ランピング補正」にも対応した。ズーム位置に応じてカメラ側でゲインを補正し、ズーミングに伴う光量変化を抑えて映像の明るさを維持する機能である。

IBC 2026のキヤノンブースを歩いて感じたのは、「新しいカメラが何台あるか」だけを見ていては、この展示の全体像を捉えきれないということだった。入口のポッドキャストではシネマカメラとPTZカメラに加え、Middle Controlを介してDJI製ジンバルまで同じ制作環境へ組み込む。その先では、XCプロトコルに対応するサードパーティ製ロボティック雲台とシネマカメラを組み合わせ、キヤノン純正のコントローラーから操作する。さらにバーチャルプロダクションではレンズ情報を外部システムへ渡し、最後のCN30×40ではカメラとレンズの連携を超望遠撮影の運用へと広げていた。

ポッドキャストから1800mmの超望遠まで、一見すると距離のある展示が同じブースに並ぶ。しかし端から端まで歩いてみると、その間をつないでいたのはカメラ、レンズ、制御機器、ソフトウェア、そしてサードパーティ製機器までを連携させる仕組みだった。「カメラを中心に制作環境をどう組み上げるか」という視点こそが、IBC 2026のキヤノンブースを貫いていた。