どう使えば良いのだ?AG-AC90
最近は、映画のようなカットの切り返しで対談などを行うライブ配信「シネUst」方式を多用している。映像的にはパンフォーカスで隅々までピントが合っているテレビバラエティとは異なり、被写界深度を浅くして人物を映画のように印象的に見せるという特徴がある。詳細は前回レビューしたAG-AF105の記事を見ていただきたい。さて、筆者は繰り返すが、いわゆるビデオ撮影とは一線を画した「シネUst」映像に興味を持っている。そんな私に編集部から「AG-AC90を使ってみない?」と言われた。「レンズ交換が出来るフォーマットを使うというのが大前提なんだけど…」と聞き返してしまった。質実剛健なデザインからは、これまでのビデオカメラというカテゴリーでどう使えば良いのか?と頭をもたげながら、実機を受け取って、一路福島へ。「ふくしま会議」という中継現場に実戦投入することにした。
なにはともあれ実践投入!
実機を見た印象はデカイ!という感じでAC160とか130のようにレンズ部分がぶっとい感じ。大型センサーでもないのになんでこんなに大きいのだろう?でも逆に現場での存在感はあるのでその点は業務機らしくいいかもしれない。民生機にオーディオアダプターだけがついた業務機はクライアントに「こんなカメラで大丈夫?」という目線で見られることもあるので。説明書を読もうとすると肝心な部分はCD-ROMの中にあるのでプリントアウト。パソコン機器ならまだしも業務用カメラならここは印刷しておいて欲しい…と文句言いながら説明書を熟読。特に難しいところはない素直なカメラな感じはした。今回の現場は3カメによる国際シンポジウムのネット配信&収録。配信はSD画質だがプログラムアウトはHD画質でレコーダーAG-HMR10Aに収録というもので、AG-AC90はそのメインカメラとして大抜擢という状況。他のカメラは民生機のキヤノンG10が2台である。
フロントヘビーな重量バランス
まずAG-AC90がむむっ!となるのはカメラの重量バランス。三脚穴がボディセンターについているのだが、かなりレンズヘビーなのである。なので前後をスライドさせてバランスできる三脚じゃないと使えない。一般的な民生用の小さな三脚ではフロントヘビーで使い物にならない。業務用のカウンターバランスが取れるちゃんとした三脚を使うというのが大前提になる。
電源アダプターはAC160/130やAF105のようなバッテリーを模したカプラーを介するものではなく、DCケーブルを直接カメラに指すタイプ。バッテリーと共用できないのは伝統といったところか(民生機が業務機に対して現場アドバンテージをとれる数少ない特徴に、バッテリーを挿したままACアダプターも使える点がある。いざハンディで動き回ろうという時に電源を落とさずに移行できて便利なのだ)。液晶はソニーっぽい位置にありプッシュするとニョキっとオーディオアダプターの下から出てくる。パナソニックの内蔵液晶はどうもいい印象がないのだが、だいぶ見やすくなっている感じはした。業務機には珍しくタッチディスプレイなのだがこれまでパナソニック機でわかりにくかった「今このメニューの何画面目にいてあと何画面めくればあるんだよ?」という分かりにくさが解消されている。慣れればこれまでハードボタンで設定していた時より早く設定できる。
噛めば噛むほど出てくる味
国際シンポジウムの中継のメインカメラで必要なことは、素早いズームによるフレーミングと話者がプロジェクターの画面にかぶった時の露出補正である。ズームはカム式ではないので回転させても止まることはないが、動かす速度に応じてストロークは調整されるので使いやすかった。ただ、ゆっくり回すと最広角から最望遠まで150度くらいあるので手のひねりが1回では足らず困った。このあたりのチューニングが設定にもないのが惜しい。回転方向も固定だ。
露出に関してはこのクラスには珍しくリングが装備されているので直感的に動かすことが出来る。こちらは設定で絞る回転方向を切り替えることができる。フォーカスも専用のリングがある。現場で1時間ほど使っていると、ズーム、フォーカス、露出のマニュアルリングの快適さと、それをオートに切り替えるボタンの分かりやすさがジワジワ感じられてくる。
サイドの一番前にあるボタンが上から「アイリスのオートマニュアル切替」「フォーカスのオートマニュアル無限大切替」「手ぶれ補正のオンオフ切替」「ホワイトバランスの切替」になっている。アイリスボタンだけは突起がついているのでブラインドタッチしても分かりやすい。
次にメニュー項目から超解像iAズームを試してみた。光学では29.8mmからの12倍で広角側は申し分ないのだが、望遠側はもう少し寄りたくなる。パナソニック機はズームの数値が2ケタの数字で液晶に表示されるが、超解像iA領域になるとDという表示になる。驚いたのは光学領域から超解像iA領域にいくときのスムースさだ。ほとんど光学ズームのままいくような感じ。しかもこの25倍が実用レベルなのだ。民生機だとデジタルズームは40倍とか100倍とかむやみに高倍率まであるので実用的に使えるデジタルズームの領域がつかみにくいが、AG-AC90の場合は完全な実用域としての25倍。業務機らしい考え方でとてもいい。センサーの大きさやレンズの質が違うので直接比較にはならないが、AG-AC160/130の22倍ズームが本当は欲しいが手が届かないというユーザーには、この超解像iAズームの25倍はありだと思う。特にセミナーやシンポジウムでカメラがホールの一番うしろになってしまう場合も実用域のデジタル25倍は心強い。
画角の変わらない手振れ補正!
次に三脚からはずし、ACアダプターもはずしてバッテリー駆動に変えて手持ちにしてみた。ハンディにするには重いカメラだが、ファインダーのアイカップを目にあて、グリップに入れた右手とズームリングに添えた左手との3点で保持すると安定した。手持ちで試したのは5軸ハイブリッド手振れ補正。光学12倍の最大望遠にして話している人物を狙い「O.I.S」のボタンをオンに。するとどうだろう!ピタリと手振れが収まった。しかも驚いたのが画角が変わらないということだ!手振れ補正というとなんらか光学的にセンターを切り出し広角側を捨てるという概念があるが、AG-AC90の場合画角が変わらない。これまで手振れ補正は撮影する前に入れるか入れないかを決めるものだったが、AC90の場合は撮影しながら入れるか入れないかを決めればいいということになる。アイリス、フォーカス、ホワイトバランスのボタンの並びに手振れ補正のオンオフボタンがあることも納得できる。
7個もあるユーザーボタン!
ユーザー設定ボタンは本体に3個、さらにタッチパネル液晶になったことで液晶内にさらに4個、計7個配置されている。7個のボタンにアサインできる機能は12種類でプッシュAF、逆光補正、スポットライト補正、黒フェード、白フェード、ATW、ATWロック、デジタルズーム、ヒストグラム表示、RECチェック、ラストシーン削除、メニューである。デジタルズームはデジタルエクステンダーのようなものでボタンを押すたびに×2倍→×5倍→×10倍と切り替わる。これがトグル型で必ず標準含めて4つのポジションをループしてしまうので実用的には使えない。設定で倍率を1つにロック出来るならポン寄りに行ってまた元に戻るという使い方が出来るのに惜しい。
素直な画質!
録画はSDXCカードで2スロット。リレーもダブルレックも出来るのでバックアップにも便利だ。音関係は内蔵マイクがあり5.1chからズームまで指向性を細かく変えられる。さらに標準でキャノン端子もついているので安心。画質調整の設定はDVX100以降の流れをそのまま組んでいるので大判センサーではないものの絵作りもある程度追い込める。気になる画質だがこのクラスでは珍しい3MOSも相まってかしっかりした発色で落ち着いている。オートでのフォーカスやアイリスの追随もよく、サブカメラとして使ったG10より1クラス上の画質を感じた。パナソニックとソニーは双方の設定を相当追い込まないと色が合わせにくいがパナソニックとキヤノンはホワイトバランスの調整程度でそれほど違和感なく色を合わせられたのは今回の新たな発見だった。
え?20万なの?
ここまで使ってみてふと考えてみた。いったいこのカメラはいくらなのか?なんと20万を切る実売価格なのだ。20万クラスの業務機といえば、民生機にオーディオアダプターをつけた程度のものか、発売時期がかなり前のモデルしかない。ズーム、フォーカス、アイリスの独立リングがついていて画角の変わらない手振れ補正に実用的な25倍デジタルズーム、業務用音声端子がついていることを考えるとこれはかなりお買い得ではないか?シンポジウムの中継を終えまったくこのカメラに興味がなかった私だが「これは欲しい!」という気持ちに180度変わっていたことに驚いた。通信簿で言うとオール4みたいなカメラだ。
AC90はまさに自分が潜在的に欲しいカメラだった!!
予算がコンパクトな時は民生機を使い、予算がある時は業務機のカメラを使ってマルチカメラのネット配信と収録をこなしてきた私は常にどこまでを自分の機材として持てばいいか?について悩んでいた。あまり高価で高機能なカメラは使いこなせない。しかしいつまでも民生機だけを使っていてもスキルがアップしない。民生機からカジュアルな業務機にステップアップすれば学べることも多くなるし業務機を使うカメラマンと話す基礎も身につく。そう考えたときボタン配列やメニューがオーソドックスで必要十分な機能を持つAG-AC90というカメラは「民生機からステップアップするときの理想の業務用カメラ」ではないだろうか?