F1.2と言えば、プロの現場で使われる高価なレンズの象徴。しかし、キヤノンからその常識を打ち破るレンズが登場した。

2025年11月28日、キヤノンからEOS Rシリーズ用の単焦点レンズとして「RF45mm F1.2 STM」が新たに発売。大口径でありながらも6万円という破格の安さで発売前から大きな話題を呼んだ。筆者も強い関心を持ち、さっそく予約して購入。本稿では、同じく11月に登場した最新ボディ EOS R6 Mark IIIに装着し実写した体験をもとに、写真・動画の両面からこのレンズの特徴や描写性能、使いどころについてレビューしていきたい。

中身はほぼLレンズ。外観の特徴と仕様について

キヤノンのRFラインナップに新たに加わった「RF45mm F1.2 STM」は、手頃な価格でF1.2の大きなボケ味を楽しめる標準レンズという、これまでにない立ち位置にあるレンズだ。

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F1.2の大口径レンズ。フィルター径は67mm

焦点距離45mmは人間の視覚に近い自然な遠近感を持ち、スナップやポートレートなどの写真撮影はもちろん、動画用途でも幅広く対応する万能画角として扱いやすい。

さらに注目すべきなのは、2007年発売の「EF50mm F1.2L USM」とほぼ同等のレンズ構成を踏襲している点だ。Lレンズの設計思想を受け継ぎつつ、現代の光学設計とSTM駆動を採用したことで、より軽量かつ扱いやすく再構成されている。

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レンズの長さはおよそ75mm。質量はわずか約346g。キヤノンのEF・RFレンズシリーズのなかで開放F値1.2のレンズとしては最軽量となる

そして何よりインパクトがあるのは価格だ。EF50mm F1.2L USMが発売時194,250円だったのに対し、RF45mm F1.2 STMはおよそ6万円と1/3以下。時代が進み物価が高騰しているにもかかわらず大幅に低価格化されており、F1.2の大口径レンズとしては破格の安さといえる。

外観はコンパクトながら必要十分な造りで、コントロールリングとフォーカスリングを備える。STMによる静粛で滑らかなフォーカス動作は動画撮影においても有利だ。

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コントロールリング、フォーカスリング、AF/MFスイッチを搭載。手振れ補正は非対応なので、ボディ側の手振れ補正に依存する

F1.2が描き出す「個性」:写真と動画における描写の特性

開放F1.2の大きなボケ味と"ちょうど良い柔らかさ"

実写してまず感じたのは、開放付近の描写がややソフトでありながらも、不自由しない程度に解像してくれていることだ。F1.2でも画角の大半は十分なシャープさとコントラストがあり意外なまでに扱いやすく感じた。

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F1.2
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F1.2
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人物撮影では肌の質感が自然にまとまり、過度にシャープになりすぎず、程よいやわらかさが立体感を生む。

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F1.2
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ただし、画角の四隅に関しては明らかにぼやけた写りになる。単純に被写界深度が浅いだけでなく明らかにシャープさが落ちるので、くっきりとした描写を求めるのであれば絞り込んで撮影したい。

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F1.2
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描写の特性を見るためにF値を変えて撮影テストをしてみたので参考にしてほしい。

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F1.2。同じ場所でF値を変えて写真を撮り描写を比較した
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画角の隅(左上)の部分の描写をF値ごとに比較
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中央部の描写をF値ごとに比較
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F2.8まで絞り込めば、中央部だけでなく四隅のぼやけた描写も大幅に改善されほとんど気にならない。F8まで絞り込むと中央部ほか画角の大半は非常に優れたシャープさとコントラストを実現する。とはいえせっかくこのレンズを使うのであれば、絞り開放付近で撮影したいところ。基本的には四隅に解像感が気になるようなものを入れないような構図を心がけることをおすすめしたい。

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F2.8
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F2.8
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なお、周辺光量も絞り開放ではっきりと落ち込む。これは画角中央を強調する自然なビネット効果としてそのまま残しても良いが、カメラ内の「レンズ光学補正」から「周辺光量補正」を有効化することで手軽に補正することもできる。撮影シーンに応じて補正のON/OFFを使い分けたい。

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F1.2 周辺光量補正OFF
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F1.2 周辺光量補正ON
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近接撮影においても描写は良好だ。最短撮影距離は45cm、最大撮影倍率は0.13倍。現代のレンズとしてはあまり寄れるレンズではないが、イスに座ってテーブルの上のものを撮るくらいであれば支障なく撮影できる。

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F1.2
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F1.2
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ボケ味と立体感、軸上色収差

F1.2ならではの浅い被写界深度により、背景は大きく滑らかにボケてくれる。とくに中距離での撮影では被写体がふっと浮かび上がるような立体感のある画作りが可能で、スナップやポートレートの表現力を自然に高めてくれる。

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F1.2。ボケがうるさくないので気軽に開放で撮りたくなる
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F1.2。標準画角でありながらも被写界深度が浅いのでピントの合った被写体が際立ち独特の立体感がある
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せっかくこのレンズを使うのであればF1.2を多用することになるに違いないが、その際は軸上色収差を避けがたい。光が当たって明暗差ができるような場所、例えば金属や窓、木々の枝などでパープルフリンジが目立つ。

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F1.2
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ボケの前後で軸上色収差が見られ、パープルフリンジが目立つことも多い。

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上の写真を切り出して拡大した。枝の縁に色がにじんでおり、手前のほうでは紫色が、奥側では緑色のフリンジが現れている。気になるようであればRAW現像ソフトで補正したい
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F1.2。コントラストがある場所でも明暗をバランスよく描写してくれるが、やはりピント面の前後で軸上色収差による色のにじみがわずかに現れている
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玉ボケとコマ収差

玉ボケは絞り開放のF1.2でレモン形となる。多少絞り込むことで丸い形に近づくので玉ボケが目立つようなシーンでは、F値をうまく調節して撮りたい。

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F1.2
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画像:F1.4
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F1.6
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F1.2ではコマ収差もはっきりと現れる。特に周辺部で点光源が横に伸びたような形になるので、イルミネーションなどの撮影では注意したい。

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F1.2。イルミネーションなど夜の撮影では点光源の形が崩れてしまう。すっきりとした見た目にはならないので、この癖を活かせるような構図を目指すか、絞って撮影するなどして対応したい
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逆光耐性とフレア

逆光ではフレアやゴーストが出る場面もある。ただ雰囲気として活かせるレベルなので、表現次第では魅力として使える。なお、レンズフードは本体に付属せず別売りだ。今回の撮影テストはいずれもレンズフードなしで撮影している。フードがあればゴーストやフレアの影響を受けにくくなるはずだ。

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F1.2
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F1.2
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動画作例あり:F1.2で日常を「シネマ」に変える

動画撮影では、STM駆動の静粛性や、滑らかなピント移動、そして何よりF1.2らしい浅い被写界深度の映像美が大きな魅力だ。レンズには手振れ補正がないものの、ボディのEOS R6 Mark IIIに手振れ補正があるので、手持ち撮影でも安定して収録できた。

F1.2で撮影すると露出オーバーになりがちなので、NDフィルターはほぼ必須だ。フィルター径は67mmと一般的なので、フィルターを用意するのに苦労はしないだろう。

AFの追従は決して速くはないので、動き回る被写体を追うのは難しい。とはいえ多くの場面では実用レベルで、人物撮影やVlogでも十分使えるだろう。フォーカスリングの操作性は良好なので、必要に応じてマニュアルフォーカスを活用したい。

動画では開放の柔らかさや、極端に浅いピント面が"シネマ的"な雰囲気として活きてくる。被写体が背景から浮き立つような立体感は、まさに映画のような映像の力がある。見慣れた日常の風景でさえも特別な場面のように切り取ることができて、スナップ的にムービーを撮るのがすこぶる楽しかった。このレンズのF1.2だけで撮った映像を作ったので、ぜひ参考にしてもらいたい。

どんな人におすすめ?類似レンズとの比較から見る立ち位置

「RF45mm F1.2 STM」は、どういった人に適したレンズなのか。仕様が近いレンズと比較しながら考えてみよう。

RF50mm F1.2L USM/RF50mm F1.4 L VCMとの比較

キヤノンのRFレンズラインナップにはすでに「RF50mm F1.2L USM」や「RF50mm F1.4 L VCM」といった大口径の優れたレンズがある。これらはそれぞれ価格が328,185円と215,001円で高級なレンズだ(いずれもシステムファイブの税込価格)。

これらに対して「RF45mm F1.2 STM」は、59,400円なので圧倒的に安い。光学性能についてはすでに見てきたように、いくつかの分かりやすい弱点がある。つまり完璧な画質より、F1.2の個性ある描写を気軽に楽しめることに魅力がある。価格や扱いやすい軽量性を重視する人におすすめしたい。

RF50mm F1.8 STM / RF35mm F1.8 MACRO IS STMとの比較

次に価格帯と焦点距離が近いレンズを比較してみよう。キヤノンの手軽な価格帯・標準域の焦点距離のレンズとしては、「RF50mm F1.8 STM」や「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」などがある。筆者はこれらのレンズも以前から愛用している。

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左から「RF50mm F1.8 STM」、「RF45mm F1.2 STM」、「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」

「RF50mm F1.8 STM」は、キヤノン純正レンズでありながら2万円台で購入可能なことから、"コスパ最強"のレンズとして非常に人気がある。たしかに魅力的なレンズではあるが、このレンズも絞り開放付近では描写に甘さがあり光学的にいくつか分かりやすい欠点が見える。また同じSTMでもこのレンズはオートフォーカスの駆動音が大きいので動画撮影では扱いづらい。さらにコントロールリングとフォーカスリングがひとつにまとめられてしまっているなど操作性の観点でも劣る。

「RF45mm F1.2 STM」ならば、F1.2という一層大きなボケの量や優れた立体感の表現力を手にすることができる。「RF50mm F1.8 STM」が単焦点レンズの入門とするならば、「RF45mm F1.2 STM」は、さらに一段表現力を高めたい中級者以上を目指すユーザーにぴったりのレンズだ。

「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」は、癖や弱点が少なくより扱いやすい単焦点レンズだ。手振れ補正がある上に、被写体に寄って大きく撮ることができるハーフマクロの特性も持つ。絞り開放でもシャープな描写なので、初心者から上級者まで幅広い人におすすめのレンズだ。価格もおよそ7万円と、比較的手を出しやすい。

「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」がそつなく何でも撮れる万能レンズであるのに対して、「RF45mm F1.2 STM」はより浅い被写界深度で表現力に優れた個性の強いレンズだ。

35mmがややぼんやりと風景を眺めるような感覚に近い画角であるのに対して、45mmは自然体でありつつも何かを見つめるような画角だ。そういう意味でも「RF45mm F1.2 STM」は、より撮影者の意思が写真や映像に表れやすいレンズだろう。汎用性を求めるなら「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」を、より個性ある表現力を求めるなら「RF45mm F1.2 STM」を推したい。

結論:こんな人に最適

  • F1.2の世界を低価格で体験したい人
  • ポートレート・スナップ写真を撮りたい人
  • 動画撮影で個性的な表現をしたい人
  • 写真・映像表現にマンネリを感じていてなにか変化が欲しい人

「RF45mm F1.2 STM」は、"扱いやすい標準画角"、"大きなボケを持つ個性的な描写"、"圧倒的コスパ"という3点がそろった、非常に魅力的な大口径単焦点レンズだ。弱点さえも不思議と"味"として楽しめてしまい、撮影していて毎日が楽しい。「買ってよかった」と心の底から思えたレンズなので、ぜひ読者の皆様にも一度手に持って体験してもらいたい。


尾田章|プロフィール
カメラのある日常の楽しさを発信する"くらしフォトグラファー"。カメラ機材の使い方、写真の撮り方などをYouTube、運営ブログ「KOBE FINDER」にて"Aki"として初心者にもわかりやすく解説。