はじめに
ATEM Mini Extreme ISOが登場してから約4年後の2025年4月4日。コンパクトなサイズながらスケーラー内蔵の8入力の個別収録機能やストリーミング機能など盛り沢山の機能を搭載したこのATEMスイッチャーに待望の新モデル「ATEM Mini Extreme ISO G2」が発表された。
NAB 2025に合わせて発表されたATEM Mini Extreme ISO G2は、昨今爆発的に増えた多様なライブ配信現場で使われ続けた初代ATEM Mini Extreme ISOの設計思想をしっかりと踏襲している。そのうえで、長年ユーザから指摘されてきたウィークポイントを確実に潰し、さらに、これまで存在しなかった全くの新機能を搭載し、使用環境の幅を一段と広げる進化を遂げた。これは単なるマイナーチェンジではなく、現場運用の"詰め"を完成させたモデルチェンジと言える。
そんなATEM Mini Extreme ISO G2がついに先日発売となり、幸い筆者もレビュー機としてお借りすることができたのでその進化を今回レビューしていく。
外観と機能
1.ATEM Mini Extreme ISO(初代)との比較
筆者所有のATEM mini Extreme ISO(初代)と並べてみた。NAB 2025の会場で見た時はかなりサイズが大きくなった印象を持ったが、ほんのひとまわり大きくなっているぐらいであまり変わらないことに気づいた。
ただし電源アダプタがかなり大きいものになっており、従来の60Wアダプタが120Wアダプタになり、別売りの3Pコードを使用するタイプになった(この電源コードは他のBlackmagic Design社製品同様同梱されていないため、ユーザ自身で用意する必要があるので注意が必要だ)。消費電力が増えた結果によるものだが、逆にそれだけパワーアップしていることを示している。
2.トップパネル(操作部)
ATEM Miniシリーズを使ったことのあるユーザであれば一目見れば、「ATEM Miniだ」とわかるインターフェースは踏襲している。
従来はラバー素材だったボタン類が樹脂製に変更された。特にクロスポイントのボタンはATEM Micro Panelで使われているタイプになり、より操作性が向上した。
また従来機では、クロスポイントボタン上部にはカメラコントロールに関するボタン群が存在していたがこれらは撤廃され360°ノブなど主にオーディオに関連するボタンになった。
さらに従来機にはなかったTバー代わりのフェーダーを備え、より直感的なトランジション操作が可能になっていることがわかる。なお、PVWボタンを押しながらクロスポイントボタンを押すことでクロスポイントボタンをPVW選択キーとして使用できる。
FTBボタンに誤操作を防ぐ機構が備えられているのは個人的には嬉しい配慮だ。
〈8入力なのに10個あるクロスポイントボタン〉
ATEM Miniシリーズではこれまでクロスポイントボタンの割り当て変更はできなかったが、ATEM Setupアプリ上でクロスポイントボタン(1〜10)へのソース割り当てが自由に変更できるようになった。
これにより「左4つはカメラ、右4つはメディア・グラフィック」というような使い分けが容易になった。従来のATEMシリーズでは固定された入力順序に依存していたため、運用ごとに再学習が必要だったが、本機では操作体系そのものをユーザが設計できる。
3.リアパネル(入出力)
背面は大幅に刷新されている。まず目を引くのが10G Ethernetポートだ。
この10G Ethernetポート採用により、ネットワーク経由でのリモート操作だけでなく収録ファイルの転送などワークフローの柔軟性が一気に高まり、本機に接続されたSSDやCFexpressカードにネットワーク経由で接続して収録したファイルを参照できる。従来の1Gでは難しかった高速ファイルアクセスや安定した遠隔制御を実現している。
Ethernetポートの上部にはCFexpress 2.0(TypeB)スロットを採用している。これにより、従来のUSB-C外付けSSD収録では避けられなかった「USBポート占有問題」が解消され、2台のPCにUVC出力をしつつISO収録を行うことが可能になった。
従来機の2つのHDMIアウトも3つに増え、Thunderbolt出力を含めた合計5出力の内容を自由にアサインすることができるので、どんな現場でも1台で柔軟に対応することができる。イベント会場のスクリーン送出や返しモニターなど、別系統出力が可能になった。
これまで上位モデルでしか実現できなかった柔軟な出力ルーティングをG2では単体でこなせる。
〈XLR入力(ファンタム電源対応)を2系統搭載〉
従来機でよく聞く不満点が、アナログオーディオ入力が3.5mmステレオ端子だった点だ。ノイズに弱く入力レベルも民生仕様だった従来機から本機ではXLR/標準プラグ対応のコンボジャックに変更された。ファンタム電源にも対応しており、ミキサーを介さずにコンデンサーマイクを接続することもできる。LINE/Micのレベル切り替えやファンタム電源のOn/OffはATEM Software Controlから行う。
さらに32ch MADI入力端子が追加された。Blackmagic ATEM Microphone Converterと組み合わせることで、ミキサーレスでのイベント配信やPAシステムとの連携も視野に入る。
なお、ヘッドフォン端子も3.5mmステレオ端子から標準プラグに変更になった。
まだまだある大きく進化したポイント
1.フルスクリーンのオーディオメーター
筆者が特に注目したのがこの機能だ。
本機ではMultiViewとは別に、フルスクリーンのオーディオメーターをHDMI出力できるようになった。オーディオメーターではレベルメーター以外にも、EQカーブやコンプレッサー、リミッターなどの設定状態までをリアルタイム表示できる。
これまでのATEMでは、オーディオメーターがマルチビュー画面の1/16サイズで片隅に小さく表示されるだけだった。細かい情報を見るにはPC上のSoftware Controlを開く必要があったが、本機では外部モニター1台で完全なオーディオワークスペースを構築できる。ライブ配信や小規模中継など、専用音声卓を置けない現場では極めて有効だ。このオーディオメーターはUVCでPCにも出力できるのでHDMI出力が足りない場合はPCに表示することもできる。
XLRやMADI入力はトップパネルのBNKボタンでUIを移動することで表示・操作が可能だ。クロスポイント上のSELボタンで操作したい入力を選択し、上部のボタンと360°ノブで値を操作する。
EQやダイナミクスなどを操作する場合、トップパネル中央の機能ボタンを押すことで上部のような画面を表示できる。
超高級のデジタルミキサーを彷彿とさせるUIでデジタルミキサーを扱った経験のある人間であればそこまで操作に悩むことはないとは思う。ただ、映像畑のユーザには少し抵抗がある画面かもしれないがこれを機に実際にいろいろ触って各パラメータの意味や効果などを予習しておくといいだろう。
2.最大8個のストリームを入力ソースとして割り当て可能
Blackmagicのカメラにはネットワーク経由で映像を送出できるものがある。先日にはついにBlackmagic Cameraアプリもアップデートされ、ストリームに対応した。本機はATEM Streaming BridgeやBlackmagic Streaming Decoder 4Kを使用しなくても最大8入力をHDMI入力の代わりの映像ソースとして使用することができる。
ATEM Software Control上でリモートソースを追加した上でXMLファイルを書き出し、アプリの設定からXMLファイルを読み込み設定することでカメラ映像をネットワーク経由でATEMに送出できる。
インターネットを経由するストリームを受信するためにはルーターのポート解放が必要になる点には注意が必要だが、筆者所有のPYXIS 6KカメラにXMLを読み込ませ、ATEMに映像を送出することができた。
3.一番の注目機能。Thunderbolt入力
本機には2系統のUSB端子とは別に1系統のThunderbolt端子が付いている。DaVinci Resolveなどのアプリケーションからの映像を入力ソースとして扱えるので、VTRのポン出しに大きな力を発揮する。
またこのThunderbolt経由の映像信号はフィル・キー出力に対応している。映像をアルファチャンネル付きで扱えるため、アニメーションのあるテロップなどを簡単に映像に合成することができる。
このようにThunderboltとThunderbolt Keyでスティンガートランジションが動作していることがわかる。
筆者は以前、PRONEWSで同社製のMedia Player 10Gのレビューを寄稿したが、このMedia Player 10Gで行えるフィル・キー出力機能をこのATEM Mini Extreme ISO G2は有していることになる。
従来機ではフィル・キー出力で2系統の入力が必要だったため、8入力のスイッチャーでは残り6入力となり、現場によっては入力数が足りなくなるケースがあったが、本機のThunderbolt経由の映像入力は8系統のHDMI入力とは別に扱えるため、8入力を残したままにすることが可能だ。
さらにトップパネルにあるCUE/RUM/DUMPの3つのボタンはDaVinci Resolveに搭載されているリプレイヤーの送出ボタンとして使用できる。
〈PCと1台で8入力リプレイ機能の全てを備える〉
本機は入力ソースを全て個別に収録することが可能だ。収録中でもメディアに溜まっていくファイルは同一ネットワーク上のPCで立ち上がっているDaVinci Resolveからグローイングメディアとして開くことができ、その映像を即リプレイ用に使用することができる。
これを本機Thunderbolt入力・CUE/RUN/DUMPボタンと組み合わせて使用することで、極めてシンプルなマルチカメラリプレイシステムが構築できる。フィル・キーでの合成も可能なのでスティンガーを使用したリプレイ送出もお手のものだ。同社製Replay Editorと組み合わせて使えばスロー再生もボタンひとつで行え、さらにそのスロー再生はDaVinci Resolveに備わるオプティカルフローなど高品位なフレーム補完を使って行うことができる。PCとスイッチャーをThunderboltとLANで接続するだけでこれを構築できるのは驚愕だ。
〈Thunderbolt入力を使うときの注意点〉
DaVinci Resolve、ATEM Miniのファームウェア、Desktop Videoを最新にアップデートしておくのをお勧めする。筆者はDesktop Videoをアップデートするのを忘れてDaVinciがATEMをモニターデバイスとして認識しないトラブルに見舞われた。
また、DaVinciのタイムライン設定のモニターフォーマットをATEMの動作フレームレートを合わせておく。ここが異なる場合Thunderbolt入力は黒しか表示されなかった
ATEMのダウンストリームのフィル・キーを上記のように設定し、DSKをONにしておけばRUNしたときだけスティンガー含めたリプレイ映像がオーバーレイ合成される。
さらにATEM Mini Extreme ISO G2に求めること
入出力信号の色空間指定
ATEMシリーズには入出力の色空間を指定する機能がない。接続する機器によって入出力の色空間が変更できないケースが存在するため、稀に接続した機器の色がおかしく表示されたり、映像のレンジが異なりコントラストが正しくない映像として扱われるケースがある。
特にレンジに関しては現場で気づけないことも多いため、しっかり指定して運用できるようになってほしい。
オーディオバス不足
これは筆者の業務範囲に限るかもしれないが、コロナ禍も終わり配信イベントの性質が大きく変わり、現在では現地参加の観客がいて、かつ講師がオンラインで登壇するハイブリッド配信がかなりの割合になってきた。そこで必要になるのがご存じの「マイナスワンオーディオ出力」である。現状ATEM Mini Extreme ISOに存在するオーディオバスはMasterバスのみであので、マイナスワンのための音声バスがない。
ATEMシリーズにはミックス・マイナス機能もあるが、これは少し用途が異なり、PGMを出力した場合には音声はPGM音声のみになる(例えばCAM1を出力した場合にPGM音声からCAM1の音声が引かれた音声がエンベッドされる)。すなわちUVC接続した会議アプリが立ち上がっているPCには、別にオーディオI/Fを接続して別でマイナスワンの音声を返す必要がある。
残念ながらこの時点で外部の音声ミキサーが必須となってしまい、機材構成が大きくなる要因となってしまっている。
PGM音声と別にMixを作成できるAUXバスが存在し、それをUVC出力に割り当てることができれば外部ミキサーを使用せずにオンライン登壇者に音声を送ることができる。
アナログオーディオ出力端子
また、ATEMシリーズにはヘッドフォン出力以外のオーディオ出力端子が存在しない。
ステージ上のスライド用PCやHyperDeckなどでATEMに映像出力した場合に、ATEMに入力された音声を外部にアナログ出力することが本機のみでは不可能なため、会場音響に渡すために別にディエンベッダーなどを用意する必要がある。先述したAUX音声バスがあれば外部に出力したい音声信号のみをAUXバスに送り、会場で流すことが可能になる。
ただ、これはどう転んでもG2に搭載不可なため、将来発売されるG3での実装を期待したい。
Fairlight Panel不足
これは本機に限ったことではないが、ATEM Micro Panelのように映像用コントロールパネルだけではなく、ATEM内蔵のFairlightのコントロールパネルの発売が待たれる。
これまでのATEM MiniシリーズやConstellationシリーズであれば外部の音声ミキサーに接続されて使われることが多かったと考えられるが、本機のようにMADI接続でたくさんのオーディオ入力ができる本機ではオペレーション上フィジカルコントローラがあれば外部ミキサーを使わずとも、同社製のATEM Microphone Converterを使い高品位な音声の配信が可能であろう。
まとめ
ATEM Mini Extreme ISO G2は、Extremeシリーズが抱えていた運用上の課題を解決するだけではなく、ネットワーク、オーディオ、収録、出力、そのすべてが次のレベルに引き上げられている。
特にCFexpressカード収録とXLR入力の追加、そしてフルスクリーンのオーディオ表示は、配信現場の実務を知るエンジニアほどその恩恵を感じるはずだ。元来ATEM Miniシリーズは同社ATEMシリーズの中でも「エントリーモデル」の位置付けではあるが、Extreme ISOを冠するこの製品シリーズにいたっては、上位モデルにはないISO収録含めても到底「Mini」には収まらない、「ライブ配信機材の一つの解」であると言える。その上でG2はその中でもプロフェッショナル向けの決定版として位置づけられるべき1台である。
サカイアキヒロ|プロフィール
1984年生まれ。映像カメラマン/配信エンジニア/録音技師。 業務用音響機器メーカーでエンジニアとして培った音響とネットワークの知識を活用しライブ配信現場でテクニカルディレクターからCMやWebドラマの録音技師として幅広く活動中。YouTubeでは機材レビューや配信技術などの動画を発信中。
