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「映像の編集作業は映像信号を受けたマスターモニタで確認するべき」と言われ、古くからのセオリーであるとともに、もっともだとも思う。しかし、一つ聞きたい。

「そのモニタの表示は正しいのですか?いつメンテしました?」

そのモヤモヤに対する回答が、Datacolor社から提示された。Spyder Proの3D LUT対応だ。

より色にこだわる機能が身近に

先日、Datcolor社のSpyder ProのソフトウェアV.6.4がリリースされ、その中に映像技術に詳しい方には見逃せない内容があった。3D LUTの書き出しのサポートだ。今回は3D LUTの書き出し機能に絞って紹介する。

何が起きたのか?

Spyder Pro Ver6.4で3D LUTを使ったキャリブレーションをサポートした。これにより、計測した現状のカラースペースからRec.709/BT1886やRec.2020/BT.1886などのカラースペースへの変換を行う3D LUTを作成できるようになった。

3D LUTと聞くとクリエイティブな事柄をイメージするが、元々は今回のような「調整」の用途での利用で使われ始めた技術だ。

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図 3D LUTによるカラースペースの変化 ※シミュレーション

これまでのキャリブレーション

恐らく、皆さんが知っている「キャリブレーション」はPCのモニタへの出力に対してのものだと思う。

キャリブレータを使って、モニタの特性を測りICCプロファイルを作り、それを基にカラーマネジメントを通して色を調整し、さらにPCのグラフィック機能やモニタのカラーテーブルに調整を加えて変更を行い色を管理するものだ。

優れた方法であることは確かだが、この方法はあくまでも「PCの管理下」に対してのものであり、それ以外には効果はない。

3D LUTを使ったモニタキャリブレーション

ただ、キャリブレーションをしておきたいモニタは、必ずしもPCの管理下ではない。マスターモニタ、TVモニタ、モニタと呼ばれるものの多くはそうだ。

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図 モニタ管理の関係

紹介する3D LUTを使ってのキャリブレーションの方法は、今ある映像データ自体のカラースペースを目的のカラースペースに変換するものだ。この際に3D LUTを利用する。

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図 3D LUTを利用したキャリブレーション

この方法だと入力された映像に3D LUTを反映するパート(機能部分)があればPCの必要はない。例えば3D LUTを反映する機能を持ったモニタなら作成したLUTを読ませれば良いだけだし、ない場合でも間にLUT Boxを挟めばいい。

この方法を使うことで、対象モニタの選択肢が広がる。プロジェクターなども候補に挙がる。注意するポイントとしては、映像信号自体に調整を加えることと、ターゲットとなるカラースペースが限定されていることだ。ただ、ターゲットになるカラースペースに関しては、はほとんどがRec.709/BT.1886になるだろうから問題はないだろう。

実例

それでは実際の使用例を見てみよう。まずはSpyderによる3D LUTの作成からみよう。その後はその使用例だ。

Spyder Pro でのLUTの作成

Spyder Proを使用しているPCに目的のモニタを接続してデュアルディスプレイ状態にして、接続したモニタ側で通常通りのキャリブレーション操作を行うことになる。

これまでと同じキャリブレーションの設定では、ターゲットにするカラースペースに近い輝度/色温度/ガンマの設定を行い3D LUT適用前のベースを作る。これにより3D LUT変換時の効率を高める。

その後、3D LUTの形式とターゲットを選びキャリブレーションを開始する。これで目的の3D LUTが書き出される。

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図 3D LUTを作成する工程

LUTに対応したモニタの場合

それでは作成した3D LUTを利用する例を見てみよう。LUTに対応したモニタなら、Spyder Proで作成したLUTを読み込ませるだけだ。

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図 全体図

LUTに対応してないモニタの場合

多くのモニタがLUTをサポートしてない。むしろLUT機能を装備したモニタの方が少ないだろう。既存に設置した古いモニタなどそうだろう。そういった場合を見てみよう。

このような場合はLUT Boxを挟むことで利用可能だ。

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図 全体図

注意としては、民生用モニタなどの場合は表示補正機能をオフにすることが前提だ。

まとめ

実は、Spyder Proの3D LUTを作成する機能は既存にある競合のものと比べて簡易だ。競合製品のものは様々なターゲット、詳細設定/情報がある。Spyderのそれは少数のターゲットで細かな設定/情報はない。HDRにも対応してない。

しかし、簡易的でも意味は大きい。さらにコストは数分の一で、趣味でも手に届く範囲だ。これは大きなアドバンテージだ。

色の管理(カラーマネジメント)は全体に

私がカラーマネジメントの話をする際は「カラーマネジメントは部分的に良くしても意味はない。全体的に行わなくては効果が低い」という。
今回の件も「全体の一部」だが「必要な一部」だ。

常に正確な色を見る

PC内での作業においてはカラーマネジメントの機能が充実したが、その外部は課題だった。

今回のSpyder Proの3D LUTサポートにより、PCによるカラーマネジメントの及ばない撮影時/独立した再生時においても正確な色を確認でき、作品のクオリティの向上につながるだろう。

最後になるが。この機能は決してモニタの表示能力を性能以上に良くするものではない。あくまでも「整える」ものだ。モニタの性能による差はもちろんある。心しておきたい。

WRITER PROFILE

高信行秀

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。