PMW-300 その使い勝手はいかほどに?
SONYの「PMW-300」
SONYよりPMW-EX3の後継機種にあたるPMW-300が9月に発売された。EX3の後継機種と言っても中身はPMW-400の1/2インチ版といっていいかも知れない。筐体はPMW-400と同じショルダータイプでも良かったのではないか?と筆者は思ったのだが、1/2インチ版のPMW-300がショルダー型として出てしまってはPMW-400の販売に影響が及ぶとの営業上の戦略もあるのだろうか。PMW-300はPMW-160、200と同じシリーズの上位版という位置づけなので、記録フォーマットは4:2:2 50Mbps記録を筆頭にXDCAM EX方式まで記録できる。今回のレポートは既に4:2:2 50Mbps記録のレポートが各所から上がっているので省かせていただき、このカメラの使い勝手などを検証してみたいと思う。
ハンドヘルド?ショルダー?
このカメラのフォルムの特徴は、PMW-200の筐体にビューファインダー(VF)が搭載されたデザインで、まさにPMW-EX3の流れを汲む形態となっている。数々の放送や業務分野での収録現場ではENGタイプのカメラに代わってハンドヘルドカメラが多くの現場で活躍している昨今(DSLRは除く)、ファインダー上での視認性の問題はこの手のカメラでは大きな問題だった。このPMW-300は、SONYが出したひとつの回答なのであろう。
このカメラの優位点はENGカメラライクな操作性に尽きると思う。ボディーデザインは最近のSONYのトレンドを踏襲した形となっていて、PMW-100、160、200とボタン配置が共通するデザインだ。レンズ交換が可能という点でも撮影現場の幅を広げることができる。
現在販売されているのは14倍ズーム搭載のPMW-300K1である。このレンズはEX3に標準で付いていたレンズと同じ物の様だ。今回レビューで主に使用したのはK2というモデルに付属するFUJINON製16倍レンズ(K2は2013年内発売予定)。このレンズはPMW-320Kに搭載されていた1/2インチB4バヨネットマウントレンズと同じものである。PMW-300のマウント方式はEX3と同じEXマウント方式が継承されている。その為K2モデルのレンズはB4マウントなのでEX-B4マウント変換が付属する。
特徴的なVF
まずこのカメラの特徴的な存在のVFであるが、このVFは上位機種のPMW-400と共通するパーツで作られており、PMW-320/350世代のものと比べると解像度や液晶バックライトの光漏れ等が改善されていてとても見やすくなった。光の漏れが減ったため黒はより黒く締まった印象だ。またPMW-400のVFとはカメラへのマウント方法が違うためスイッチやつまみ類の位置が変わった。撮影者から見やすい位置にゼブラ、ミラー反転スイッチがあるため、今までのカメラのようにゼブラを切るために手探りでスイッチを探す様な事はなくなった。
使用されている液晶パネルは960×540(QHD)。今までの640×480とは一段解像度が上がった仕様となっている。
またカメラ本体とは実に良く考えられた取り付け方法になっていて、前後上下とVFをかなりの範囲を動かすことができる。また左方向にも2~3cm引き出すことも可能である。
前後方向に動く量が大きいので、カメラに取り付けるレンズの長さによりベストなポジションが得られるのではと感じた。しかしPMW-200などの液晶パネルと違い、このVFはかなり重くなったため、PMW-300はもはやハンドヘルドカメラの範疇を大きく超えてしまっているのではないかという感じがする。
出力系
PMW-300はHD-SDI端子が2つ装備されている。スイッチャーへの出力とSDIモニターなど同時に出せるのは好ましい。またタイムコード入出力やGenlockも装備されているのでマルチ収録現場での使用も問題ない。その他HDMI、i.Link(4ピン)も装備されており、i.LinkはそのままHDV/DV信号を出すことができる。別売のWi-FiアダプターはHDMI端子の下にあるUSBに装着する。
ハンドリングは?
実際問題カメラの上部のグリップを持った場合、ずっしりと重く、なおかつ極度の前重状態である。重心位置はかなり前進している感がある。そのためこのカメラを担いだ場合は、右手には大きな負担がかかってしまうので、担いだ状態での長時間ロケはきついかもしれない。特にK1モデルの14倍レンズはグリップ部分が回転するというギミックのせいで、グリップする右手の位置がレンズ光軸よりかなり外側になってしまう。また、グリップ部分が巨大なため、通常のENGレンズの様に母子球(親指の付け根)部分でレンズの重さを支える事ができず、手首にかなりの負担がかかってしまう。レンズ的には非常に軽い仕上がりになっているにもかかわらず、手首に負担がかかってしまうデザインなので残念だ。
写真左:K1付属14倍ズームレンズ、右:K2付属16倍ズームレンズ
しかし解決策はある。後部にバッテリーを積み、重心を後ろにずらす事で右手の負担は軽減する。幸いにもこのカメラの底部にはチェストパッドが内蔵されていて、引き出した時に丁度良い位置に1/4インチネジが切ってある。
このネジ穴を利用しVマウントバッテリープレートを取り付けるブラケットを自前で作ってみた。結果は非常に良好。Vマウントバッテリーを後部に搭載する事でベストバランスに生まれ変わった。こうなると重量は6kg弱となりPMW-320/350とそれほど変わらない重さになってしまうが、逆にバランスが良くなることで非常にオペレートしやすくなる事は確実だ。サードパーティーからこのようなパーツはそのうち出てくるのではないかと思う。
またこのカメラは本体サイズが小型なため、担いだ時の安定感が今ひとつである。体に接する部分が肩、と右手だけになるので、どうしてもファインダー側に傾いてしまう。今回試しにチークパッド代わりにクッション材を写真のように上部に取り付けてみた結果、驚くほどの安定感が得られた。
このような部分にチークパッドがあるだけで担いだ時の安定感はかなり増す
高S/Nがもたらす新たな世界
一世代前のEX1やPMW-320は筐体のデザインが違うだけで心臓部のCMOSと画像処理エンジンは同じであった。今回この部分が大きく見直されS/N比が54dBから60dBと大きく性能が上がった。
■アイリスクローズドゲイン+18dB時のノイズ比較
上の画像を見ていただきたい。PMW-300とPMW-320を、アイリスをクローズした状態で+18dBまでゲインを上げてみた。+18dBまで感度を上げてもノイズレベルはこの程度までしか上がらない。極めて高S/Nだということが分かる。またカメラの感度も320のF10(2000lx)から上がりF11となった。このローノイズと高感度性能は照明が使えない環境でのロケや演劇などのステージ、ブライダルなどの室内での厳しい照明条件下でもゲインアップを積極的に使うことができる。
Wi-Fiおよびケーブルコントロール
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最近のトレンドとしてWi-Fiによるコントロールもフィーチャーされている。オプションのUSB Wi-FiによるP2Pコントロールや、ネットワーク上のPCからのコントロールも可能。ピント、ズーム、アイリス、RECなどの基本的なコントロールが可能。特にズーム操作などはかなりシビアなスローな動きにも乱れることなく追従してくれる中々なものである。但しカメラ側からは撮影中の映像は送られて来ない。現場で調整する場合は手元にケーブル接続されたモニターが必要となる。
リモートコントロールユニット「RM-B150」
また本機は上位機種に搭載されているリモートコネクターが搭載されている。別売のリモートコントローラーRM-B150およびRM-B170と8ピン専用ケーブルで接続が可能になる。このユニットはスタジオではおなじみのアイテムなので、システムカメラとしても十分活用することができる。
1/2インチレンズ交換の強み
EXマウント2/3変換アダプター「ACM-21」
本機は別売の2/3インチアダプター(ACM-21)を取り付ける事により、レンズ資産が豊富な2/3インチレンズを使用することが出来る。実質テレ側に1.33倍シフトするので、舞台撮影などのズームがあともうひと寄り!という所で重宝する。最近では放送用SDレンズが中古市場でもかなり手ごろな価格で手に入るようになった。舞台用の長玉と割り切る場合は放送用SDレンズという選択もありではないかと思う。1/2型CMOSは光学特性の良いレンズ中心部を使うので、比較的絵が荒れにくいというメリットがある。
総括
このカメラはハンドヘルド的な使い方というよりは、むしろ三脚に据え付け、しっかり絵を撮るといったイメージではないだろうか。VFは撮影者にとって見やすい位置関係に調整できるので、今までのハンドヘルドカメラでの三脚運用と比べ利点は大きい。ただレンズ交換ができるカメラなので、レンズによっては重いレンズ+本体重量となるのでそれなりの重量になる。この重量を支えるための三脚取り付け部分は1/4ネジでの接続となるのでちょっと不安が残る。より強固な三脚への搭載を可能にできるようにENGカメラと同じ三脚アダプター接続方式にできないものかと思う。
各社新フォーマットの4Kを模索中ではあるが、実際の収録はまだ当分の間HD収録が中心になると思われる。このような流れの中でも、積極的にHD新機種を投入するSONYの業界に向けた意義は大きいのではないだろうか。