ドローンをはじめ、数々の撮影機材でプロの現場を支えてきたDJI。
その中でも「DJI Mic」シリーズは、インタビューやライブ配信、SNS向けの動画制作など、幅広いシーンで愛用されてきました。
そして前作「DJI Mic 2」の発売からおよそ1年半、最新モデル「DJI Mic 3」としてバージョンアップしました。Mic 3はMic 2より一回り以上コンパクトになりながら、機能のほぼすべてを刷新。
ワイヤレスマイク市場が小型化と高性能化の熾烈な競争を繰り広げる中、競合製品も次々と登場しています。では、そんな状況でユーザーは何を基準に次の1台を選ぶべきなのでしょうか。
今回のレビューでは、新製品DJI Mic 3の実力を検証しながら、その答えを探っていきます。
- DJI Mic 3(2 TX+1 RX+充電ケース):税込52,250円
- DJI Mic 3(1 TX+1 RX):税込33,660円
とにかくコンパクト、最速セッティングを実現
まず最初にお伝えしたいのは、この製品の「コンパクトさ」と「撮影までの速さ」です。初めて手に取った瞬間から、ケースやポーチにいたるまで徹底的にブラッシュアップされていて、思わず美しいと感じました。
動画をご覧いただければ、そのセッティングのスムーズさが直感的に伝わるはずです。
ケースをパカッと開ける心地良いフィーリングから始まり、レシーバーのパネルが即座に起動してステータスを表示、トランスミッターを取り出せば自動で接続が完了し、あとはレシーバーを装着するだけですぐ撮影が始められる、そんな流れるようなワークフローが実現されています。
トランスミッターのデザインは、最近発売された「DJI Mic Mini」に近い形状で、重量はMic 3が16g、Mic 2が28g、Mic Miniが10g、とMiniに迫る軽量化を実現しました。それでいて、機能面はMic 2やMiniと比べてほぼ全てにおいて充実しています。
本体ケースもMic 2よりさらに一回り小さくなり、付属のポーチは従来の四角い形(Osmo Pocket 3とほぼ同じデザイン)から袋型へ。よりコンパクトになったにも関わらず、オプションを一通り収納してもまだ余裕があります。
個人的には、仕切りをなくしてアクセサリーをポイポイっと放り込めるこのシンプルな仕様の方が使いやすく感じました。
外観上の大きな変化として、ラベリアマイクの入力端子が廃止された点も挙げられます。
軽量化には大きく貢献していますが、ラベリアマイクを多用するユーザーにとっては惜しい仕様変更かもしれません。ただし、本体自体がかなり小型化されているため、付属のクリップやマグネットを工夫すれば大半の撮影スタイルには十分対応できると思います。
Mic 2からの大幅進化ポイント
前作からの進化ポイントは数多くありますが、その中でも印象的だったものをいくつかご紹介します。
軽量化の秘密は「マグネット式クリップ」
トランスミッター・レシーバー共に小型化されていますが、特にトランスミッターに関しては、クリップ部分がマグネット式の着脱構造に変更されたことで、マイクの向きが変えやすく見た目もよりスッキリしました。
さらに、マイク入力端子やUSB-C入力端子の廃止も小型化に大きく貢献しています。
400mの伝送範囲
Mic 2では最大250mだった伝送距離が、Mic 3では400mに拡張されました。
実際に400mも離れて収録するケースは稀ですが、ドローンにも用いられるDJI独自のSDR技術を搭載し、2.4GHz/5GHzのデュアルバンド自動ホッピングにも対応。電波干渉や遮蔽物への耐性が大幅に強化され、安心感が増しています。
DJIのSDR技術については、DJI SDR Transmissionのレビューでも触れていますので、参考にしてみてください。
大幅に延びた動作時間
トランスミッター・レシーバー・充電ケース全てで動作時間が2時間以上延長され、充電時間も短縮されています。これは、長時間収録や演者に装着しっぱなしのシーンで特に恩恵があります。
さらにトランスミッター・レシーバーが急速充電にも対応し、わずか5分で約2時間分※、18分で80%まで充電可能。現場での予備対応として非常に心強い進化です。また、内部ストレージも「8GB→32GB」と大幅に収録時間を延ばしました。
※トランスミッター/レシーバーがアイドル状態で、バッテリー残量25%未満になった場合。5V充電器使用時。
内部収録と読み込み方法の改善
Mic 2でも32-bit floatによるトランスミッター内部収録が可能でしたが、データを取り出すには本体にUSBケーブルを直接挿して、個別にデータを吸い上げる必要がありました。
Mic 3ではUSB端子を廃止し、充電ケースに格納することで読み込みが可能になり、しかも2つ同時に読み込めるためバックアップ作業が格段にスムーズになりました。
加えて「デュアルファイル収録」に対応しており、一つは元の音声、もう一つにアルゴリズムでトーンやバランスを整えた加工済みファイルを同時に保存できます。
これにより、ある程度加工された音声がそのまま使えるうえ、非常用に無加工の音声をバックアップとして持っておくことができます。
音質面の進化:アダプティブゲインコントロールとトーンプリセット
音質に関する機能も充実しています。アダプティブゲインコントロールは、急な音量変化に応じて自動で補正し、音割れや不自然な音量差を防止します。ワンオペ撮影ではとても助かる機能です。
さらに、3種類のトーンプリセットも搭載されています。
- REGULAR:ナチュラルな音質
- RICH:低音を強調
- BRIGHT:高音を強調
シーンに合わせて音のキャラクターを簡易的に切り替えられます。
この違いを含む音声比較の動画を制作しました。DJI Mic 3、Mic 2、S社の汎用的なB帯マイクとの比較もしました。
ノイズキャンセリングなどの補正機能は全てオフ、音量出力のみを揃えた状態で比較しています。
Mic 3、2共にトランスミッター内部収録で、B帯マイクは受信機をmiシュー接続でカメラで収録しました。
結果として、Mic 3はノイズが少なく、低域から高域まで安定した高音質を実現していました。是非ご自身の耳で聴き比べていただければと思います。
◆32-bit float(32ビット浮動小数点)とは?
このワードが聞き慣れない方のために補足します。イメージとしては「音のRAWデータ」に近いフォーマットです。従来よく使われる24-bit形式に比べ、理論上クリッピング(音割れ)が起こらないのが大きな特徴です。
広大なダイナミックレンジを持つため、入力が大きすぎても後処理で下げれば音割れを防ぐことができます。逆に小さな音も持ち上げやすく、ノイズの影響が少なく済みます。注意点としては、雑音含めた環境音は当然一緒に収録されますので、音のモニタリングは依然として重要です。
ついにタイムコードに対応
このように、Mic 2にはない素晴らしい機能が盛りだくさんとなっていますが、もう一つ目玉の進化ポイントが「タイムコード対応」です。
マルチカメラ撮影において、カメラ同士のタイムコード同期は編集の作業効率を大幅に高めますが、意外と見落とされがちなのが「外部収録音声のタイムコード同期」です。
録音スタッフがいればタイムコードジェネレーターを渡すだけで済みますが、いない場合は編集時にカメラ音声と照合しなければならず、カット数が多いと同期作業だけでも一苦労です。
近年では録音機器自体にタイムコード機能を搭載するものも増え、音声とタイムコードは益々密接な関係になっています。Mic 3ではタイムコードの入出力に対応し、トランスミッターの内部収録のデータにもタイムコードを埋め込めるようになりました。
筆者はソニーFX3とTentacle Sync Eを用いてテストしました。方法は2つあります。
- 直接同期:3.5mmフォンジャック経由でMic 3レシーバーに同期。
Tentacleのケーブルをカメラ用マイクロUSBケーブルに差し替え、カメラと同期。 タイムコードの直接入力が可能なカメラでのみ有効。 - 音声チャンネルに書き込み:3.5mmフォンジャックでMic 3レシーバーに同期し、レシーバーの設定を「タイムコードオーディオ出力」に切替。
カメラのLチャンネルにタイムコード信号が記録され、編集時に抽出して同期。
こちらは通常のミラーレスカメラなど、タイムコード入力端子を持たない一般的なミラーレスカメラでも同期可能。
※Osmo Pocket 3/Osmo Action 4/5 Proは、USB-C経由で同期可能。
ソニーユーザー必見のmiシュー連携
DJI Micシリーズと特に親和性が高いのがソニー製カメラです。Mic 2やMic Miniでもお馴染みの、miシュー専用カメラアダプター(別売)を使用することで、レシーバーをケーブルレスで接続することができます。
そしてMic 3では、miシュー経由でカメラへの4チャンネル独立出力(クアドラフォニックモード)に対応しました。カメラ本体で4チャンネルのパラ収録(48kHz/24bit設定)ができ、しかもカメラ側からレシーバーへ給電まで可能です。
※対応機種は、公式の対応カメラリストをご確認ください。
筆者もFX3などのソニー製カメラをよく使用するため、このアダプターによる連携は非常に有難いポイントです。
さらにMic 3は、1台のレシーバーで最大4台のトランスミッターを同時接続可能で、加えてメインレシーバーに最大7台のサブレシーバーを追加することで、4TX/8RXのグループ構成が可能となり、最大32台の個別収録やグループ内の一括制御・モニタリングを実現します。人数の多いトーク番組やライブ配信など、マルチカメラ収録においても柔軟に対応してくれます。
まとめ
ここまでMic 3の魅力を紹介してきましたが、忘れてはいけないのが他のDJI製品との連携です。特にOsmo Pocket 3やOsmo Action 4/5 Pro(Osmo 360にも対応予定)とはレシーバーなしでそのまま接続が可能です。
小さなカメラポーチ1つで撮影が完結できるため、スピーディな取材やVlog収録など、荷物を最小限にしたい撮影には最強の相棒になってくれます。
一方で、旧製品になってしまったMic 2ですが、ラベリアマイクを多用したい方にはまだまだお役目があります。
Mic 3ではトランスミッターのマイク端子が廃止されたため、ラベリアマイクは装着ができなくなっています。ラベリアマイクは服の中などに隠したりする用途で設置の幅を広げてくれるとても便利なアイテムです。私も撮影ではマイクを隠すことがよくありますので、この点は少し残念でした。
しかしOsmo PocketやActionに個別接続すれば、Mic 2とMic 3を混在させることも可能で、用途に応じて使い分けるという選択肢もあります(残念ながら、レシーバーに関しては互換性はないようです)。
総じてMic 3は、これ以上ないほどの小型軽量化と抜群の無線安定性を兼ね備えた、ワイヤレスマイクの完成形のひとつと言えます。他社も近い性能を持った製品を次々と投入しており、スペック比較では一長一短ありますが、この価格帯でこれだけの性能が手に入るのは大きな魅力です。
「お守り代わりに1セット持っておいて損はない」というのが私の結論です。
DJI製品ユーザーはもちろん、Mic 2をすでにお持ちの方、高性能で小型ワイヤレスマイクをお探しの方にも強くお勧めできる一台です。
北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
WRITER PROFILE




