キヤノンユーザー待望の真ハイブリッドモデル登場
キヤノンプロユーザー積年の望み、真のハイブリッドモデル「EOS C50」登場。
遂にこの時が来た。
筆者はスチルカメラマン兼ビデオグラファーとして、キヤノン機を業務に使用するようになって15年になる。「EOS C400」と「EOS C80」をメインに、「XF605」、「EOS R3」、「EOS R6 Mark II」など、キヤノンブランドを中心に撮影業務を遂行する生粋のキヤノンシステムユーザーである。そんな筆者らが、喉から手が出るほどに欲していたモデルが、長らくの沈黙を破って登場する。
現在のビデオグラファーの世界でスタンダードとなりつつあるのが、ソニーの小型シネマカメラ「FX3」であることは、もはや周知の事実だろう。
それに対抗するキヤノンのCINEMA EOSシリーズといえば「EOS R5 C」が有名だ。高画素スチルモデルをベースに、Log撮影時でISO 800/3200のデュアルベースISOを実現していたが、高感度側のディテールや色再現性、低照度でのAF精度には心許ない点があった。「EOS R5」のスチル性能をそのままに動画機能を強化した、スチルEOS寄りのハイブリッドモデルという位置付けであった。
キヤノンは、ソニーがFX3を発売してから4年半の歳月を経て、ついに頭文字に「C」を冠する、スチル撮影にも対応した本格シネマカメラを市場に初めて投入する。
筆者はこれまでPRONEWS上でEOS R7、EOS R6 Mark II、EOS R8、EOS R1といった評価機の速報レビューを担当してきた。しかし、CINEMA EOSを扱うのは今回が初めてであり、それが誰もが待ち望んでいた待望の機種である。こうした背景を踏まえ、本稿ではその実機を詳細に検証していく。
外観と操作性:スチルとシネマの融合
実物を手にした率直な感想として、まずは小さくて軽く、グリップも良好、そして「過去のどのカメラとも異なる」と感じた。フォルムはFX3を彷彿とさせるが、ボタン配置はスチルEOSのそれにCINEMA EOSの思想が融合している。
各ボタンの印字は、白字がVIDEOモード、グレーがPHOTOモードで機能することを示している。例えば「DISP(4)」ボタンは、PHOTOモードではスチルEOSのInfoボタンに相当する役割を果たす。
一方、VIDEOモード(CINEMA EOS)における「MGN(2)」ボタンの動作は異なり、ボタン操作のみで拡大倍率を変更することはできない。このモードでは、ボタンを押すことで拡大表示のオン/オフを素早く切り替え、拡大倍率の変更はセンターボタンで行う仕様だ。
このように、各ボタンはそれぞれのモードにおいて、CINEMA EOSとスチルEOS、各システムの伝統的な操作方法に準じた動作をするよう設計されている。
グリップ上面には「LOCK(8)」、「PEAKING(9)」、「WFM(10)」ボタンが独立して並ぶ。使用頻度が低いであろうLOCKボタンは、アサインカスタマイズの有力候補だろうか。上面の「REC(7)」ボタンも、個別にアサイン可能であることを確認した。

ボディ前面下部にも、独立したアサイン可能な「REC(13)」ボタンが配置されている。ボタン配置からも分かる通り、EOS史上類を見ないCINEMA EOS寄りのハイブリッドモデルと言えよう。
CINEMA EOSはメニューボタンを押しながらアサインボタンを押すことでダイレクトに機能を割り当てることができるが、EOS C50もその仕様を備えている。最軽量の機動力と13個ものアサインボタンを組み合わせることで、フレキシブルな運用に期待が膨らむ。
そして今回特筆すべきは、EOSとして初めてシャッターボタン脇にズームレバーが備わったことだ。これにより「じんわりズーム」といった、映画などでもお馴染みの映像表現が手軽に可能となった。
また、無段階のフレキシブルテレコン機能としても動作するため、最新のVCM単焦点レンズ一本で、軽量高画質ながら多様なフレーミングでの収録が可能になる。レバーは二段階で、それぞれ16段階のスピードをアサインできる。
個人的には三段階は欲しかったが、「じんわりズーム」用に「1」、「フレキシブルテレコン」用に「16」といった二段階アサインが合理的だろうか。イーズイン&アウトにも対応していれば、なおのこと実用度の高い機能だっただけに、今後のファームウェアアップデートに期待したい。
なお、筆者の評価機での検証時点では、スチルモードではこのレバーは機能しないようだった。
ボディとインターフェース
PHOTOモードとVIDEOモードは、電源OFFを経てそれぞれ切り替えて運用する、EOS R5 Cと同様のタイプだ。EOS R1やEOS R5 IIでも採用されたこの仕様により、スチルとムービーにそれぞれ最適化した設定を記憶させておける。
再起動が必要なため、シネマモードを搭載していないEOS R6 Mark IIなどのスチルEOSに比べると、切り替えには多少の時間が必要だ。
FX3を彷彿とさせる要素として、形状はもちろん、マグネシウムボディに直接ネジ穴が設けられている点も挙げられる。極めて合理的な仕様で、任意にコールドシューなどを追加することも可能だが、筆者の印象では、意外にFX3ユーザーでも直接アクセサリーを取り付けている人は少ないように思う。
やはり、ボディのネジ穴を傷付けてしまうことに抵抗感があるのではないだろうか。かく言う筆者も、最軽量ボディを活かしたハンディ運用や、ジンバル、ステージ上固定カメラとしてのスマートな運用を想定している。
ケージなどの余計な荷重をかけずにドローンに搭載したい場合などには、これ以上ない機能性を発揮するだろう。
インターフェースはシンプルながら堅実な作りという印象だ。ケーブルがバリアングルモニターに干渉することはなく、HDMIももちろんType-Aを採用している。タイムコード端子はDIN規格で、EOS R5 CやC400と同一形状。EOS C80、C70、XF605に対しては変換が必要となる。

EOS R5 Cを含むCINEMA EOSのタイムコード端子は、入力だけでなく出力にも対応している。これにより、ジェネレーターなどを使用せずとも、各カメラ間での同期が容易に行える。
筆者の運用するシステムでは、一度同期を行えば半日程度の撮影でも59.94fpsで1フレームもずれることがない精度を確認している(C400、EOS C80、XF605)。
実機検証:長時間収録でもズレないタイムコード精度
長時間の収録では、同一メーカーのカメラ同士でも多少のフレーム差異が生じることがあるが、6時間程度の連続収録において、これらCINEMA EOSのカメラは1フレームもずれることがなかった。エンジンが同一であることで、その精度が保たれているようだ。
ちなみに、CINEMA EOSや業務用カムコーダーに対し、EOS R7では6時間で7フレーム、PowerShot V1では24フレーム(59.94fps時)の差が生じていた。
電子機器である以上、長尺の単一素材であってもフレームに多少の差が生じることは避けられないが、現行のCINEMA EOSで統一することで、これらの精度は担保されるようだ。
C50に関しても同一エンジンであると聞いているが、この件に触れたからには、実際の検証データを添付しておく。
今回検証したのは上記6機(EOS R6 Mark II、XF605、EOS C80、C50、R3、V1)。
5時間の連続収録を行い、素材の頭を揃えた状態で後半のフレームを比較するという、カメラメーカーなら目を覆いたくなるような検証を行った。
結果、業務用カムコーダーおよびシネマモデル3機種は見事に1フレームすらずれていないことが確認できた。
V1はやはり6時間で24フレーム(59.94fps)前後ずれる。
驚いたのはEOS R6 Mark IIが健闘している点だ。フレームはほぼ整合しており、その精度はR3を遥かに凌駕している。この辺りは世代の問題なのか、R1やR5 IIでも機会があれば試してみたい。
Genlock搭載モデルとなると、ソニーではFX9(生産完了)、キヤノンではC400となり敷居が上がるため、このあたりの仕様が用途によってはコスト感を大きく左右するだろう。
精密機器とはいえ、半日に満たない時間の中で正確に動作しない現象が生じるケースがあるという点に、筆者は個人的に強く関心を持っている。他メーカー製のカメラでも、業務用カムコーダー、シネマ機、スチルミラーレス機を所有されている方がいれば、ぜひ検証して結果を教えてほしい。
さて、冒頭からかなりニッチなテストを行ってみたが、一体何割の読者がついてきてくれているだろうか。しかし、例えばGenlock機能のない複数台のカメラで野外イベントを長時間収録したとしよう。前後でリップシンクがズレるような事態、それを同期させるコストなど想像もしたくはない。多種多様なカメラを用いる場合の落とし穴として、筆者自身も経験があるため、共有した次第だ。
実機検証:低照度AF性能をEOS C80、EOS R6 Mark IIと比較
筆者はこのクラスのカメラには、劣悪な環境や要求の高い現場でどう振る舞うか、といった信頼性の検証こそが必要だと考えている。なぜなら、整えられた環境下ではiPhoneですら目を見張るような映像が収録できる時代において、動画専用機としてそれは当然のことだからだ。
もちろん、突出したAF性能が分かる作例や、技術革新が視覚的に確認できるものであれば話は別だ。
そんな前置きをしたので、察しの良い方はお気付きだろう。引き続きマニアックなテストが続くので、そのつもりで読み進めてほしい。
続いて、冒頭でも触れた低照度でのAF性能を見ていこう。
筆者は舞台袖などの薄暗く狭い環境での撮影も多く、その際にはEOS R6 Mark IIのハンドリング性を重宝している。ただ、低照度でのムービーAF性能には心許なさを感じており、機会損失を招いた経験が幾度かある。
FX3のような選択肢があればそちらを選んだが、長い間それは叶わなかった。EOS R5 Cは、FX3の弱点であるバッテリー持ちという課題を同様に抱えている上、高感度側の表現性や手ぶれ補正がないため、身軽に扱いたい用途での導入にはいたらなかった経緯がある。
当方の検証環境においては、EOS R6 Mark IIよりやや改善といった感覚で、劇的な変化は感じられなかった。最小AFフレームが大きいことも、コントラストを見失う原因になっているように感じる。逆に、EOS C80の低照度測距性能には改めて驚かされた。
EOS C80とその上位機種であるC400のセンサーは、数段高性能なものが使われていることがうかがえる。
また、モニター収録は行っていないが、R3でも近しい低照度測距性能が得られたので、センサーの特性によるものかもしれない。
ソニーの検出輝度範囲は仕様表で確認ができる。FX2でEV-4、FX3でEV-6となっている。
今回は短い試用期間であったため比較はできなかったが、実機を手にできるようになったら、各社の小型シネマモデルを持ち寄って、低照度環境下でのベストハンドリングモデルを検討してみたい。
LiDARセンサーを内蔵したフォローサーボモーターを使えば、低照度でのAF性能を飛躍的に向上させることは可能だが、できればカメラ単体で解決したいという想いが強い。
スチルカメラとしての実力:舞台撮影でR3を超えるAFを実感
さて、先に触れた通り、頭文字にCを冠するシネマモデルとして初めて、スチル撮影に対応したモデルである。であるならば、純粋にスチルカメラとしての実力はいかがなものか。
シネマカメラとしての作例は他の方にお任せして、誰も検証してくれなそうな部分、しかし筆者には非常に魅力的な部分でもあるため、舞台撮影でテストしてみた。
結論から言うと、期待値以上であった。
若干UIやレスポンスにいたらない部分があるかと想像していたが、良い意味で完全に裏切られた。世代の差もあるのか、むしろEOS R3より顔や瞳の認証速度が速く、正確で、非常に良好な結果が得られた。
今回はレンズボタンにトリミングをアサインし、50mmと擬似80mmを瞬時に切り替えながら撮影したが、これはこれで新しい扉が開いたような感覚だ。このレンズとの組み合わせは何よりも軽く、そしてEOS C50のグリップが深いため非常に安定している。
トラッキング性能も素晴らしく、激しく動く被写体も確実に捉えることができた。フレームを向けた瞬間に顔と瞳を判断し合焦するため、撮れ高の次元が異なる。大袈裟だが、EOS R1を手にした時のような感覚を覚えた。
これは最新のVCMレンズとの組み合わせによる最適化の影響も大きいのかもしれない。
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シネマ機としてXCプロトコルに対応するのはもちろん、スチル機としてCanon Camera Connectにも対応しており、タブレットやスマートフォンとの親和性も申し分ない。
ストロボ接点がない点、電子先幕撮影に非対応な点を除けば、写真も映像も非常に高い次元でこのコンパクトボディに凝縮されていると言える。
また、バッテリーライフについても、写真モードでは驚くほど長持ちした。本格的なシネマ機を小一時間駆動させられる新型バッテリーで、電子先幕やストロボ接点を取り払った、ある意味で洗練されたスチル機を動かしているのだから当然だろう。
朝から4時間ほど、1300枚の撮影を行ったが、バッテリーは60%以上も残っていた。
CINEMA EOSとしての核心性能:多彩なRAW収録と新機能
メインである映像の収録性能を見ていこう。
7K、5K、2.5Kの3サイズでRAW収録を、圧縮率を指定して行うことができる。これは既存のCINEMA EOSの中で、最高スペックのRAW収録汎用性を意味する。
また、オーバーサンプリング機能は、フルフレーム4Kのみならず、スーパー35(1.6倍クロップ)時にも対応しているという充実ぶりだ。
そして、昨今一部のSNS系コンテンツで主流となっている縦撮りUIへの対応も、シネマカメラとして業界初となる。EOS R50 Vのような自動認識ではないものの、アサインボタンにも割り当てが可能なため、アグレッシブなアングルでも誤動作の心配なく、確実で迅速なUI変更が行える。特に記録フォーマットなどを横UIのまま変更するのは大変だったので、このようにアクセスできるのは非常に助かる。
クロップ同時記録にも対応している。4K素材からFHDで任意の箇所を切り出し、もう片方のスロットに収録できる。横素材に対して縦の切り出しにも対応しているため、縦FHD動画の即納品に対応しつつ、バックアップで4Kの引き素材を保管しておくといった用途にも使えそうだ。
他にも新機能があるが、検証を行う余裕がなかったので簡単にまとめておく。
- オープンゲート記録
- バーチャルプロダクション対応
- 高い放熱性能(炎天下4K撮影でも停止しない)
- トップハンドルでのREC、ズーム操作
- 純正PLマウントアダプターに対応(電子接点付き)
- EOS VR SYSTEM対応
結論:悩ましくも魅力的な一台
駆け足で進めてきた評価機のレビューであったが、問題が一つ生じている。1台にするか2台にするか、はたまた3台奮発してしまおうかで、非常に悩んでいるところだ。
Nick Tsutomu|プロフィール
IT教育系制作会社を経て2025年で個人事業13年目を迎える撮影監督兼カメラマン。ホテル、ウエディング、不動産、舞台、イベント、芸能、映画、CMなど多ジャンルにて小中規模の撮影をメインにスチルからムービー空撮までフレキシブルな監修を強みとしている。美容学校写真講師を兼任していた経験やブライダルメイク室との人脈からヘアメイクの斡旋なども行っている。サウナが好き。
