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国内ではB波帯の高音質無線マイクとして使え、海外ではその国の利用可能な周波数帯に自動的にセッティングされるTheosシリーズ。無線マイクの音を録音技師だけでなく、監督(ディレクター)や他のスタッフに簡単に聞かせることができる20ch受信機「DIFB」をレビューする。

600MHz~900MHz帯まで1台でカバーする高音質無線マイク専用の多チャンネル受信モニター

Deity Microphones社から、Theosシリーズに多チャンネルモニター受信機が登場した。これをレビューする前に、簡単にTheosシリーズを解説しておく。

Theos(ティーオス)は、600MHz~900MHz帯まで使える多機能無線マイクで、世界中の多くの国の電波法に準拠した利用可能な周波数で無線運用が可能なマイクシステムだ。音質は非常に高く、ゼンハイザーのMKH 416などを繋ぐと、まるで有線で聴いているのと変わらない音質である。無線の使用はデジタル変調方式で、音質劣化を極限まで抑えた仕様となっている。

受信機(D2RX)は1台で2つのマイクを受信することができ、乾電池での運用となる(USB-C外部電源にも対応)。デジタル音声伝送のほか、Bluetooth接続による送信機(DLTXおよびDBTX)のコントロールを行っており、受信機側から使う周波数を変えたり、マイクゲインを調整したり、電池残量を確認したりすることが可能だ。もちろん、スマホアプリによる高度な調整にも対応している。

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ファンタム出力が可能なDLTXのセット

一方、送信機側は32bitフロート録音機能を搭載しており、録音機としても高性能である。また、DLTXはプロ仕様のLEMO 3ピン端子を備え、48Vファンタム電源が使える。これにより、前述のようにプロ用のショットガンマイクを直接使うことができるのが特徴だ。また、送信機のレコーダーはタイムコードシンクロが可能で、アプリから同社のTC-1(タイムコード発生器)と同期でき、マイク端子に音声TC信号を入力すると、自動的にJAM同期する。

さて、今回レビューするのは、上記の送受信システムに対応した受信専用機DIFBである。マイクシステムの受信機(D2RX)とほぼ同じサイズ・形状のDIFBは、本体上部にあるつまみで、記憶している最大20chの周波数を簡単に切り替えてモニターすることができる。もちろん、録音に影響することはない。

主な用途としては、映画やテレビの撮影時に、録音技師(音声マン)以外のスタッフがマイクの音を聞くモニターである。通常はミキサーの音を有線か無線で監督(ディレクター)に聞かせるが、DIFBは無線マイクの音をダイレクトに聞かせることができる。ただし、複数のマイクを使っている場合、そのどれか1つだけを聞くことになる。

映画の現場では、ブームマン(マイクブームを振る人)が自分のマイクの音を聞いたり、他のマイクの音を聞いたりすることに使うと想定される。複数のブームを使う場合、他のブームの音を聞けることはかなり助かるだろう。

また、筆者の場合、インカム代わりに使うこともある。もちろん、その場合には送信機1つがインカム用になってしまうが、出演者が少ない場合には有用だ。無線マイクのトラブルが起きた時に、レコーダーのボリュームを触ることなく、特定のマイクだけを選んで聞くということにも使える。

使い方は簡単。つまみがチャンネル切り替えとボリューム調整を兼用

多くの設定はアプリで自動的だ

さて、実際に使ってみた印象を述べよう。まず音質だが、マイクで捉えた原音がそのまま届いてくる。つまり、音響性能は受信機(D2RX)と全く同じだ。おそらく、内部回路のほとんどはD2RXと同じだと思われる。

上部のつまみは、チャンネル選択と音量調整を切り替えて使える。つまみを押し込むと選択と調整が切り替わる。音響機器に不慣れな監督に持たせても誤動作させる心配も少ないだろう。

一方、受信する周波数の設定だが、専用アプリで簡単にできる。もちろん、本体だけでも可能だ。本体だけで設定する場合、使う送信機をオンにしておけば、自動サーチで稼働中のすべての送信機を自動検出し、チャンネル登録する。アプリの場合も同様で、アプリから認識できる送信機をDIFBに登録することも可能だ。

また、過去の接続履歴も本体に保存されるので、レギュラーの仕事では、それを呼び出すだけでよい。

海外運用にも対応

アプリで送受信機とモニター受信機DIFBも一気に海外仕様に

Theosの最大の魅力は、海外で運用する場合に、何の知識もなく、その国の電波法に則した設定に変えてくれるところだ。スマホが必要となるが、GPSで国を判断し、その国でアプリを立ち上げると設定変更を促してくれる。

もちろん、DIFBもこれに対応しており、本体をいじることなく、アプリから全ての設定や周波数の設定を行ってくれる。

映像録音以外の使い方も

多言語音声ガイドへの活用も

インカム代わりに使う例はすでに紹介したが、受信モニターDIFBは、使う人がチャンネルを簡単に切り替えることができる特徴を使った活用法も見出されており、実際に使われ始めている。博物館などの音声ガイドである。主音声の他に英語ガイド音声など、違う音声を無線で送ることができるわけで、そういった用途でも使えるわけだ。

メーカー自身も、Theosシリーズはユーザーのアイデアで色々な活用法を見出してほしいと言っている。Deityは非常に若い企業で、ユーザーの意見を積極的に取り入れた開発をしているのが特徴だ。このDIFB以外にも、小型の超高音質4chレコーダー、6chレコーダーの開発も進んでいる。

発売される製品は、単体発売はもちろんのこと、送信機1台(DBTX)+DIFBが3台のパッケージも用意されている。

拡張性の高さがTheosの魅力
外部アンテナや電源管理システムも充実

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電源不要で受信機にダイレクトに接続可能なパッシブアンテナ(無指向性)
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電源(別途アンテナディストリビューターが必要)で動作するアクティブアンテナ「SF1」。強い指向性を持ち、混信しやすい現場や広い会場での無線マイクに必須のアイテム
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非常に小さいパワーデリバリーシステム:PSD-Mini。データ通信仕様のHIROSE 4pinによる高度な電源管理が可能。入力はHIROSE 4pinに加えて
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アンテナディストリビューターSRD-Mini RF Distro。1組の外部アンテナ(BF1およびSF1)を最大4台の受信機(送信機8台)に対応。パワーデリバリーPSD-Miniとはケーブルレスで接続可能だ

余談だが、筆者はTheosシリーズを導入して映画録音をしている。このシリーズは拡張性に優れており、ボディパック型受信機でありながら、外部アンテナが使える。無電源のパッシブアンテナBF1は取り付けマウントやケーブルがワンパッケージになっており、オーディオバッグに簡単に取り付けられる。混雑するB波帯での利用では、アンテナ性能が混信から身を守る唯一の手段とも言え、外部アンテナが使えるという点でもTheosの優位性は高い。ちなみに、筆者の実験では400m離れても音は途切れなかった。

さらに、電源を使ったアンプ内蔵のアクティブアンテナSF1は、さらに受信感度が上げられるだけでなく、強い指向性があり、より安全な録音を可能にしてくれる。

これまで、このような拡張性の高い無線マイクシステムは非常に高価で、必要最小限のシステムでも100万円を超えてしまっていたが、Theosの場合、アクティブアンテナシステムを導入したとしても、送信機2波が30万円台で揃う。

その他、電源管理のパワーデリバリーも紹介しておく。録音で最も厄介なのが電源管理だ。音響機器の数だけバッテリーが必要となり、残量の監視が必要不可欠だ。パワーデリバリーシステムとは、レコーダーや受信機、その他の電源を必要とする機器を1つのバッテリーから供給し、残量管理を行うものだ。大規模な映画ではパワーデリバリーの導入が当たり前になってきている。Deityのパワーデリバリーは専用のスマートバッテリーを使えば正確な残量と、使用可能な時間を表示してくれる。専用バッテリーでなくても、VバッテリーやUSB-C、その他の9〜16VのDC電源を供給源として、音響機器等へ最適な状態で電源供給することができる。

このように、Theosシリーズは、小型軽量でありながら、プロが必要とする様々な機能を提供してくれる。電波法が改正され、古い無線機器が使えなくなる時期にあり、買い替えを検討しているプロは、Theosシリーズを買い替えの候補に検討するべきだろう。

WRITER PROFILE

桜風涼(渡辺健一)

桜風涼(渡辺健一)

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。