放送用カメラの活況にみる次の映像業界のヒントは?
今年のIBCで目立ったのは、放送用ビデオカメラの活況である。今年も新たなソリューションを生み出す、多くの放送用ビデオカメラが登場してきた。もちろんその部分も押さえつつ、目立ったものを取り上げていこう。
グラスバレー
グラスバレーは最新の放送カメラシステム「LDX」シリーズを発表。同社としては第三世代となる最新のCMOSセンサー『Xensium-FT』を搭載、肩載せのパッド部などカメラマンが創造作業に集中できるようなエルゴノミックデザインを採用、さらに刷新された色管理機能など、新たなテクノロジーが搭載されている。また筐体外観は全く同じながら、中身のソフトウェアの違いで3つのタイプが存在する。
「The LDX WorldCam」は、マルチフォーマット対応のカメラシステムでハイエンド向けのフル機能を装備、「The LDX Elite」は1080pに対応したハイエンド・プロダクション向け、「The LDX Premire」は、もっともスタンダードでベーシックな放送用HDカメラだ。このLDXシリーズの最大の特徴は、システムソフトウェアをアップグレードすることで、購入後は筐体を買い換えなくとも性能をアップグレードできるという新たなコンセプトにある。予想価格帯は$60,000〜$100,000とのこと。
フィリップス時代からこれまで日本ではあまり馴染みの無かったグラスバレー社製のカメラだが、現在K2サーバシリーズや編集システムEDIUSの浸透で、いまやキー局、地方局にも多くの機材導入実績のある同社が、そのアセットマネジメントとの親和性の良さから、今後放送用カメラ分野でもその市場に触手を伸ばしてきそうだ。ちなみにK2サーバの『K2』は、エベレストに次ぐ世界最高峰の山、K2に由来している。
パナソニック
パナソニックは4月のNABで発表した、P2HDカメラの新機種 「AG-HPX600」を正式発表。最大の特徴は本体重量が2.8kgとショルダータイプとしてはかつて無い軽量となっていること。実はこのカメラ機材重量の軽量化というポイントは、欧米では特にいま大きな問題となっている。日本ではありえないようなことだが、欧州の某放送局でショルダータイプのカメラを背負った負担増による撮影スタッフの腰へのダメージからくる健康被害が現在、大きな労災問題として訴訟にまで発展し、ついにはその保障など放送局自体の経営圧迫するという事例があり、この件が他局まで影響が広がっているという。いまや放送用カメラの軽量化は機材選定の重要なポイントとなっているのだ。
AG-HPX600はその他にも、WiFiによるiPad等一般的なタブレット端末等での遠隔操作が可能。最近では報道現場でもiPad等でのスケジュール管理や様々な作業管理を行うケースも増えていることから、放送撮影現場における最新のワークフロー構築に便利な機能として注目だ。
その他では、小型軽量のハンディタイプのAVCHDカムコーダー「AG-AC90」を発表。1/4.7型 3MOS搭載、29.8mm〜最大25倍デジタルズーム搭載のワイドレンズ、マニュアル操作可能な3リング搭載など、スタンダードな機能が凝縮された使いやすそうなビデオカメラ。
ソニー
ソニーは、「Believe Beyond HD」をテーマに新たなブロードキャストワークフローにおける”デザインパーツ”を今回のIBCでは発表している。IPネットワーク、光ディスクアーカイブなど、放送分野においても新しいワークフローを構成する魅力的なソリューションが目立つ。
全体的にはNABと同じテーマを基に、4K、3Dといったその先のHDソリューションを「Value(バリュー)」「Efficiency(エフィシェンシー・効率化)」「Expansion(エクスパンション)」の3つをテーマとして展開。「Value」は、お客様の制作されるコンテンツに出来るだけバリューを付加できるようなシステム / プロダクトを訴求していくこと、「Efficiency」は、どこの放送局からも出ている要望として更なるコスト面を意識した効率的なシステム提案、そして「Expansion」はHDのプロダクトをさらに広範囲に拡げるとためのアフォーダブルな製品ラインナップの充実など、HDソリューションの更なる浸透率を高めるプロダクトを中心に展示が行われた。
山内勝則氏に訊く「Value」「Efficiency」「Expansion」とは?
ソニー Vice President Professional Solution Europe 山内勝則氏
「Value」ポイントでの大きな目玉は、まず4Kです。4KプロジェクターとともにF65カメラなど撮影部分でも4K製品を映画などのハイエンドプロダクションへ投入してきましたが、ここに来て4Kにまつわる状況が変わってきまして、これまで関係ないと思われていた放送局も4Kに対する興味を示してきているので、ブロードキャストでの4Kをどう使っていくか、また家庭にどう4Kコンテンツを普及させていくのかというところを新たなテーマとしています。また3Dについても以前ほどの勢いはないものの、今後ソニーはスポーツ放送を中心に3Dでのライブプロダクションの訴求をさらに進めていきたいと考えています。またテクノロジーデモの段階ですが裸眼の3Dモニターなど新たな3D技術も展示しています。
「Efficiency」分野で今回提案しているのは、IPネットワークを使った効率的なライブプロダクションです。いまのHD-SDIの世界ではどうしてもケーブリングの問題も出てきますし、現場でのオペレーションの人員も必要になりますが、IPネットワークを利用すれば遠隔地でのコントロールも可能になり、人とモノの効率化が図れます。またこれまでのIPのネガティブポイントとして信号遅延が挙げられますが、今回はそこにも新たな独自技術を投入し、充分ライブにも耐えうる伝送スピードを可能しました。現行のオンエアコンテンツをすべてIPで代行するにはまだ時間が掛かりますが、これまでライブ中継が入れなかった分野や教会、パブリックイベントなどの分野など、こうしたIPネットワークを使ってライブ中継が可能になるなど、今後の多方面でのIP中継システムの可能性は高いと考えています。またアーカイブのEfficiencyとして、これまで技術展示をしてきた光ディスクによるアーカイブシステムも新製品として正式に発表し、10月から発売します。
「Expansion」では簡単に言えば商品ラインナップを増やすということですが、特にカメラのアフォーダブル製品などを充実させていきます。XDCAMのHD422メモリーカムコーダーシリーズではずっとお客様からご要望のあったハンディカメラシリーズを充実させ、PMW-200(1/2インチ 3板)、今回の新製品であるPMW-160(1/3インチ 3板)、そしてPMW-100(1/3インチ 単板)という3兄弟が揃いました。スタジオカメラ分野ではカメラアダプターを2機種出しています。いまHDが全世界的に完全浸透しているわけではなく、まだまだ地域格差もあり、より広範囲なHD需要はこれからもあると考えています。それらに応えていくために分野別、用途別に細かく訴求出来る製品を作っていくことが我々メーカーの命題だと考えています。
txt:石川幸宏 構成:編集部