映像アーカイブの世界でもいよいよ実用的進化の時代を迎えたといえる。ワークフローデザインを考える際の重要なファクターであることは、ファイルベース化によって肥大化する映像データの管理と、それ以前の映像資産のファイル化という点でもこれから本格的なアーカイブ作業が発生してくると考えられる。

現状でもっとも信頼のある、そしてもっとも簡便なアーカイブメディアはLTO(リニア・テープ・オープン)だ。LTOはこれまで唯一のディープアーカイブとしてのシステムとして実用されていたが、データへのアクセスや世代間問題もあり、すべてのユーザーがそこに満足していたわけでもない。LTOシステム以外の選択肢も含めて、着実なその進化が窺われた。

CACHE-A
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2008年にQuantum社で LTO-3 A-Seriesの開発に携わっていた主要メンバーがスピンオフして設立された会社、Cache-A社。業務用映像制作向けのファイルベースワークフローに最適なNASベースのアーカイブシステムを供給している。Quantum社からこのA-Series関連技術ライセンスを取得し、LTO-4をベースとした次期A-Seriesの開発を進めてきた。

Cache-Aは、業界標準のLTOテープドライブをメディアとした製品として非常にコストパフォーマンスが高く、日本でもすでに多くのプロダクションが導入している。IBC2012では新たにデスクトップとオンセットの双方で利用できるような堅牢シャシーと64ビット対応に付随した処理能力2倍のディスク帯域を持つ、LTO-5を使用した次世代のアーカイブシステム”Prime-Cashe-5″の次世代バージョンを発表。

SPACE
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英国GBLabs社の、2009年にIBCでデビューした映像制作向けストレージ『SPACE』。オープンファイルシステムのXFSを採用した、RAID6の耐障害性に優れた大容量ストレージシステム。10ギガビット/ギガビットイーサネットによる接続で、クライアント側の専用ソフトなしでも簡単につながるAvidとFinal Cut Proなどのシステム共存も可能で、非圧縮HDやProRes、2KのDPXなどマルチストリーム再生にも対応している。バッテリー駆動が可能な『mini SPACE』4TBは149万円から。

ソニー『オプチカルディスク・アーカイブ』システム
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ソニーは90年代半ばに、AIT(Advanced Intelligent Tape / アドバンスドインテリジェントテープ)と、1リール式で大容量のSAITというアーカイブ用の大容量磁気テープ規格をアーカイブシステムの開発を進めていた。ただし映像用アーカイブとして使いづらかったのは権利面での規制を厳しくしたため、一般的な普及・拡販を妨げていた経緯もある。

そんなソニーがTDKなど他社ベンダーからのデバイス販売を発売当初から公言した、ある意味でオープンな規格として出現した業務用ブルーレイディスクパックを利用した『オプティカルディスク・アーカイブ』システムがこの10月下旬に発売される。ちょうど1年前のIBC2011で初めて参考出品され、その後、昨年のInterBEE、今年のNABを経て、このIBC2012のタイミングでようやく正式な製品発表と発売日が決定した。

最大の特徴は、なんといっても操作性の簡便さだ。通常のブルーレイディスク12枚を1つのストレージメディアとして認識し、PCをHDDを接続するのと同じ方法で1つの大容量ストレージのボリューム空間として認識する。

ソニー・オプチカルディスク・アーカイブ製品について

DFW_05_kita.jpg ソニー プロフェッショナル・ソリューション事業本部
コンテンツクリエーション・ソリューション事業部
商品企画部 商品企画3課 統括課長
喜多幹夫 氏

正式な製品発表にあたって…

昨年のIBC2011ではまだR&Dということでプロトタイプを展示させて頂きましたが、今年のNABでの正式な製品化のアナウンスを経て、今回のIBC2012ではモデル名と価格、またカートリッジメディアの製品ラインナップを発表させて頂き、ソニーのオプティカルディスク・アーカイブ製品の初代モデルとして正式に発表しました。基本コンセプトは1年前と変わりないのですが、昨年のプロトタイプからはさらにディスクのサイズギリギリにコンパクトにしてカートリッジケースを小さくしています。最初のモデルとなる『ODC-D55U』では、リアパネルにはDCinとUSB3.0の口しかありませんので、シンプルにPCに接続して頂き、付属のドライバーさえインストールすればすぐに外部ドライブとして認識して使用することができます。もちろんWindows(XP〜8)、Mac(10,6〜Mountain Lion)とも最新環境に対応、今後はLinux対応版等も検討しています。

この製品はフラットなITストレージなので、映像に関わらずどのようなデータを収納管理して頂いても構いません。長寿命であることと、温湿度の耐環境性能や災害などのディザスター(耐障害)性能も高いですし、また光ディスクの基本的な技術の流れとして長年にわたって再生互換を持つという特徴があります。弊社の提案としては、このドライブに保存してそのまま棚管理して頂き、あとは忘れて下さい(笑)というシンプルなコンセプトですので、これまでのテープ素材をファイルベース化してアーカイブすることでそのまま移行して頂くという使いやすさでは、すでに多くの顧客に賛同頂いております。

LTOなど既存のアーカイブとの使い分けは?

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すでにオートメーションのロボットシステムで稼働するようなLTOベースのシステムで管理されているお客様は、すでにある程度安定化した環境でシステムを稼働させていると思いますので、すぐにオプティカルディスク・アーカイブに移行することはないと思います。しかし実際には過去の映像資産というのはまだかなりの量がアーカイブされていないという現状があり、ユネスコのデータでは全世界で約2億時間分の素材がデジタイズを待っているという情報もあります。そうした映像資産をアーカイブする際に、すべてのユーザーがファイルベース化+オートメーションのアーカイブロボットシステムに投資できるかというと、それは非常に難しいですし、今後ファイルベース化して記録し、そのまま安心してデスクの側に置いておいておけるというニーズは高まってくると思われます。LTOのような、いわゆる”コールド・アーカイブ”と呼べるようなシステムと、データにすぐアクセスできるような、この光ディスクのアーカイブのシステムは、適材適所で使い分けが考えられますし、今後も共存すると考えています。

光ディスクの耐久年数は様々な実験データから、再生機があれば50年は劣化せずに読み出し可能であること、インターフェースも現状ではUSB3.0のみだが、今後の製品化では、Thunderboltやe-SATAなどの入出力もニーズによって対応していくという。また価格も魅力的で、ドライブユニット『ODS-D55U』で67万2千円(税込)という本体価格と、メディアも300GBで1層式の追記型である『ODC300R』でも市場予想価格で2,800円、最大容量1.5TB、4層式追記型の『ODC1500R』でも24,800円と、プロフェッショナル用のアーカイブメディアとしても、非常に妥当な価格だと思われる。

放送局、ポストプロダクションはもちろん、個人でも手が届く価格帯であることは、小規模な制作プロダクションやドキュメンタリー制作者、さらには急増するデジタル一眼によるムービーや、RAWデータなどのスチル画像も大容量化している現状があることから、今後は様々なクリエイティブコンテンツのアーカイブシステムとしても有効だと考えられる。

ちなみにこのオプティカルディスク・アーカイブの12枚 / 1ドライブという数量とサイズだが、ドライブ構造のチェンジャーシステムにおける高さ設計のバランスと、ブルーレイ1枚の現行最大容量である128GBを、データテープのMAXである1.5TBというサイズに符合できる枚数がちょうど12枚であること。さらに手で持ったときのフィット感なども含めて、様々な条件における絶妙なバランスの数として選択・設計されている。

txt:石川幸宏 構成:編集部


Vol.04 [Workflow Design from IBC2012] Vol.06