これから必要とされるワークフロー・デザインとは?
“ワークフローをデザインする”といっても、現状では問題も多いだろう。撮影にあたっては、まずデータの収録方法やコーデック / フォーマットの選択、そして最近特に重要度を増しているデータマネジメント作業。そして編集コーデック等への変換やRAW・Logデータの現像・変換作業、さらにそこからカラーグレーディングに至るDIプロセス、平行してプロキシデータ等での編集作業を介して、フィニッシングのオンライン作業からQC(クオリティ・コントロール)などを経て、送出やデリバリー先別のトランスコード作業…そして完パケ納品。
これだけの作業が現状での最大公約数的なデジタル映像制作のワークフロー概要だが、これを誰かが各項目において適正な機材を選択して、データをスムーズに管理することはなかなか難しい。しかしプロ映像制作業界がこのデジタルプロセスを受け入れてしまった今、 これをいかに早く習得し、消化して自分のモノにしていくかが、 成功への鍵となることも間違いではないだろう。期せずして富士フィルムが先日、映画用のフィルム製造の中止を発表した。ビデオの世界でもLOG収録など、これまでのビデオとは比較にならない表現力を持つカメラが出てくれば、オンエア時には当然作品の優劣も顕著に現れてくる。フィルムもすでに実用的未来はなく、ビデオも次のステップへと進んでいる現状において、映像制作プロフェッショナルとしてはやはり新たなワークフローを理解し、親しんで触れていかなければならないことは確かだ。
日本と海外を比べると、そのワークフローデザインと呼べる役割を担うという部分に関しては、2つ大きなポイントがあると思われる。
一つはプリプロダクション時におけるワークフローデザイン作業の徹底だ。多くの日本の制作現場の話を窺ってみると、プロプロダクション(企画制作会議から制作設計など)に時間をかけられていない。またその時点で、技術プロセスにおけるスーパーバイザー的なワークフローデザイナー(設計者)といえる要員がほぼ不在だ。最終的な作品の品質や形状をプリプロ段階で想定できなければ、ワークフローデザインは成立しない。むしろ最初からポストプロダクション作業を念頭いれた技術設計が必要なのだ。ただしこれは特定のポストプロダクションを使用しなければならないという意味ではない。デスクトップにおける個人クリエイターのポスト作業でも全く同じ事が言える。個人は個人なりに、技術的にも多岐に渡る技術ノウハウをコントロールできさえすれば、それは成立するのが現状だ。
もちろん大型作品となればその設計は困難を極める。テレビ局などは作業自体もすでにシステム化され各担当に分かれていて、グレーディングやDI、QCなどの新たなプロセスをそこに挿入することすら難しい現状があるし、組織も含めて全てのデータの流れをコントロールするにはかなりの技術知識とノウハウが必要だ。そのような場合、こうした技術やどこで何が起こるとどんなことが生じるかを見極められる『テクニカル・ラインプロデューサー』的な専任の存在が必要となってくるだろう。
もう一つは、ポストプロダクションの存在自体の変革と進化である。すでに『箱貸し賃貸営業』だけを行うポストプロダクションに未来は無いと言っていい。これは全世界的にも明らかな傾向だ。しかしこれからのワークフローデザインの要はポストプロダクションにある、とも言える。そこにはポスプロからの制作者側への提案、不可能を補うプログラム技術開発、そして制作に関わる体制自体の改善要求が必要だ。つまり、これまでの待ち受け業務から、プリプロ段階からの作品介入といった営業転換、そしてそれを受け止める企画制作側への啓蒙も必要となってくるだろう。もちろん制作側もそれを受け入れる度量とリアルな技術情報を有することが望ましい。特に映画やCMなどは、現段階で作品のデータラインを完全に最後まで把握できる位置にいるのはポスプロである。要は、作品の工程管理も含めて、まずはポスプロありきの、”ポストプロダクション・オリエンテッド”な制作の考え方こそが、これからは作品のクオリティにつながるのである。
まあ、確かにこれは正論であり、それだけでは成り立たないのが現実。しかし、ピュアに作品クオリティを追求したいのならば、誰かがそこを目指してもいいのではないだろうか?これからのポスプロの役割こそ、まさしくワークフローデザイナーなのだから。
まだある話題になったプロダクトやサービス
最後に、その他の話題となった製品やメーカー展示をいくつかピックアップして紹介しよう。
Roland | R-88
Rシリーズのフラッグシップモデルで、完全プロ仕様のフィールドレコーダー・ミキサーとして音声収録の現場で活躍が期待できそうな『R-88』が登場。オールインワンオーディオレコーダー・ミキサー・オーディオI/Fとなる『R-88』は、その搭載機能とスペックからすればコンパクト(?)といえる筐体に、160×160のタッチパネルディスプレイでのコントロールUI、XLRのアナログ入力・マイクプリアンプを8基搭載して、同時に8トラック収録が可能。プラス独立2トラックの最大10トラックのレコーダーとして機能する。さらにUSB端子も装備して、10ch入出力オーディオ・インターフェースとしても使用可能だ。
Metabones | EFマウントアダプター
このところのEFレンズの需要は、本家キヤノンのみならず多くのカメラで使用されており、それに乗じて様々なEFマウントへの変換アダプターを目にする機会が本当に多くなった。香港製のMetabones社も、EFレンズをはじめ、マウントアダプターメーカーとしてはすでに広く知られた存在だ。これはソニーのNEX-FS700/FS100などの業務用ハンディカメラのコーナーに展示されていたもの。NEXシリーズでのEFレンズ使用の要望はやはり海外でも多いようだ。
ToolsOnAir | TV Station in a Mac
MacのみのQuickTimeベースで、テレビ局と同じシステムを構築するユニークなシステム『ToolsOnAir』。『Just:』シリーズは、実際に放送局で実績のあるエンジニアが開発を手がけた、Macだけを使った放送局構築ソフトウェアシリーズだ。マルチカメラ収録と編集の『Just:in』、スケジュール送出システムの『Just:play』、ライブ送出用のソフト『Just:live』などのソフトウェアラインナップを構成することで放送局システムが完成する。
ATOMOS
年々ブースが肥大化しているATOMOS。『NInja2』『SAMURAI』に続き、このIBCで発表された小型レコーダーの新製品は『RONIN』(画像無し)。スタジオやOn-Setシステムラックなど、ラックマウントで使用できるハーフラックサイズの小型レコーダーでHD-SDI入力とフロントにはヘッドフォンジャックを装備、バッテリー以外にAC / DC電源を備える。また同社はATOM OS 3へのバージョンアップ(MacとPCでの各種NLEサポート)も発表している。
JVC ケンウッド | GY-HM-600 / 650
今年のNABで登場してきた、1/3 220万画素の同社初となる3CMOSセンサー搭載のHDカメラ『GY-HM650・HM600』が正式発表され実機展示。1/3型センサー搭載カメラとしては最小サイズとなる。 F11/2000lxを実現したフジノン23倍レンズを搭載し、最短29mm〜667mm(35mm換算)を実現。ズームリングは開展角90度の間でズーミングできるので操作性に優れている。上位機種となる『GY-HM650』は、キヤノンEOS等で使用しているH.264 UHQモード(35Mbps)に対応、Wifi対応、プロキシモード0.8MBのモードも積んでいる。また放送局などでもスタンダード化しているMXFファイルフォーマット対応。またネットワーク接続用USBホスト機能(Web Server、FTP)、GPSも内蔵している。デュアルSDスロットでリレー・デュアル、そしてバックアップ(MPEG-2収録のみ)の3タイプ収録も可能。HD/SD、HD/プロキシビデオ(Web用)同時記録も可能(650のみ)。バッテリーはIDX製の専用ミニバッテリーを搭載している。『GY-HM600』は市場想定価格で50万前後で、10月下旬発売、『GY-HM650』(60万前後)は12月中旬発売予定だ。
取材後記 | 取材の彼方へ
「いいね!」という取材のために…
最後に、今回のIBC会場取材にご協力頂いたメーカー、販社の各ご担当者に改めて御礼を申し上げたい。各方面の尽力により今回の取材は成立したといえる。実は今回の取材において、筆者はレジストレーションの手違いからプレスとしての入場を拒否された。しかも事務局側の都合で、昨年までのレギュレーションを勝手に変更されていたという不可解な事由によるものだ。過去に執筆したIBC関連記事の掲載履歴やNABなど他国でのプレスとしての経歴があることなど、PRONEWSのサイトを見せていくら説明しても断固入場拒否である。結局は一般入場での取材範囲での内容となった。今年は様々な事務局側の対応のまずさが目立った。また出展メーカー各社も設営日では、事前に知らされていない不本意な入場制限にあってスムーズに設営準備が出来なかったなど、IBC側の不可解&意味不明なレギュレーション変更によって、様々な困惑とトラブルがあったと聞く。そもそも気位の高い(!)展示会であることは周知の事実だが、地球の反対側からわざわざやってきたにも関わらず、全く融通が利かないこのような対応は非常に不快な思いを受けた以上に、筆者としては取材という実業にも影響する。
今回、事務局側の発表は若干名の入場者増ということだったが、このユーロ経済不況の影響からであろう。その実、昨年までに比べて明らかに入場者は少なく会場は閑散としていた。実際には欧州南部(イタリア、スペイン等)からの入場者は明らかに減っているという情報もある。さらに悪評高いホテル料金の高騰化。IBC事務局とアムステルダム市が談合し、この期間の市内のホテルの約90%の部屋を抑えてしまうので、期間中は通常料金の3倍〜5倍というあり得ない料金設定になっている。当然まともで手頃なホテルは早々に満室になってしまうので、次年度も出展を決めているメーカーは1年前から部屋を抑えているというのが現実だ。正直、このような状況が来年以降も続くのならば、IBC自体の行く末はブラックに近いダークグレーだ。今後の発展を考えても、運営事務局には諸般の改善と再考を切に願うところである。来年は9月13〜17日の日程で、また同じくアムステルダムRAIで開催予定なので、行かれる方は早めからの周到な準備をお奨めする。
txt:石川幸宏 構成:編集部