ワークフロー・デザインの要は、新たなポストプロダクションのあり方

一つ正しておかなければならないことがある。「ワークフロー・デザイン」というキーワードを基に今回の特集を構成しているが、そもそも”デザイン”とは、どういうことか?人によっては、個人の感性による、感覚的なものであると思われている節もあるかもしれないが、少なくともここで言う”デザイン”とはそういうことではない。

“デザイン”とは、その道に精通した基礎的なロジックと確実なテクニックを身につけた上で、目指すオブジェクトをどう効率的に配置し、有機的に機能させるかを、緻密な計算の上で構築していく高度な設計技術と、それを扱うセンスを合わせた能力のことである。そこを前提に「ワークフロー・デザイン」というポイントを念頭において会場を歩いた今回のIBC2012。2日目あたりまではそうした指向の製品やテクノロジーについて具体的な発見はなかったが、3日目に回ったポストプロダクション関連の技術展示がある会場の、とりわけトランスコード等のコンテンツ・デリバリーの展示にその志向性が顕著に現れていることを確認することができた。

Telestream | 注目の『VANTAGE』が未来を指し示す

VANTAGEを中心に展示を展開したTelestream社のブース

IBC2012では、高解像度HDをはじめとする多彩なビデオ&オーディオ フォーマットへの高品質な変換を行うメディアエンコーディング動画変換ソフト『Episode』の、米axie Video社/axie1.0との協業を発表したTelestream社。これにより、Adobe Premiere ProCS6からのダイレクトエクスポートが可能になり、エンコード作業を集中化できる。

これまでTelestream社は、メインのSD/HDビデオーオーディオ素材を各種フォーマットにエンコードするハードウェアデバイス『Telestream Pipeline』と、業界唯一とされるクロスプラットフォーム対応のマルチフォーマットエンコーディングソフトウェア『Episode』を中心に、効率的なトランスコード・ワークフローを提供してきた。

トランスコードソフトの世界も、オブジェクトを配置して構成を俯瞰で管理しやすいノード型GUIが主流に

しかし同社が買収した『VANTAGE』を中心にした製品展開を、昨年4月のNAB2011で発表したことで、以降その方向性を大きく変えようとしている。今回の展示も従来製品から、このVANTAGEにより力を入れてきた。VANTAGEは業界初の、大量のデジタルビデオ処理を一つの管理されたワークフローに統合する、新たなエンタープライズ向けのトランスコード・マネジメント・ソフトだが、このマネジメントソフトの名前に大いに注目したい。そこには何を隠そう『Vantage Workflow Designer』という名前が付いているのである。

はっきりと『Vantage Workflow Designer』の文字が…

VANTAGEはインジェスト、トランスコード、素材管理、ファイル解析、ファイル品質管理、メタデータ処理を一体化したフレームワークを提供し、主要なビデオサーバー、ストリーミングサーバー、VODサーバー、SAN、その他のネットワークシステムとシームレスに統合できる。また既存のシステムやファイルフォーマットに依存せず、メタデータや自動アナライズ、また他のQC(品質管理)ソフトなども自由なワークフロー設計が可能になっている。また大きな特徴として数百種類のテンプレートが用意され、それを基に簡単にワークフローデザインができる仕組みだ。

またVANTAGEはファイルの高度な解析や診断、修復、補正機能もあり、メタデータやプロパティを解析してエラー検出からそれらの補正や修復を自動で行うことができる。さらにデザインと呼べる部分では、低品質エンコードの再エンコード処理や黒味やサイドクロップ、レターボックス等の自動判定など、各作業の自動分岐処理を自由に構築し、その作業進捗状況も随時把握することができる。

Digital Rapid社のトランスコーディングソフト『Kayak』もノード型GUIを採用

同社に関わらず、Digital Rapid社の『Kayak』など、トランスコード・ワークフローソフトの世界ではこのところ、VANTAGEのような直感的なノードタイプのGUIを導入して、その作業のフローを視覚化し、誰もが作業内容や進捗状況を確認できるようになってきている。

CatDV | The Queen’s AwardやPRONEWSAwardなど受賞歴多数

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昨年のPRONEWS AWARD2011ファイルベース部門受賞にも輝いている、英国Square Box Systems社のアセットマネジメントシステム『CatDV』は、簡便なオートメーション機能で複雑なワークフローを単純化し、様々なデジタルメディアの資産を効率よく管理するためのアセットマネジメント・ソリューションソフト。これもまた、これからのワークフロー・デザインを効率的に実現する優れたソフトウエアといえるだろう。

ソースクリップや、その他あらゆるメディア資産を編集者にとって必要な様々プロパティと共にカタログ上に管理。自動的にムービーや静止画のサムネイルを生成して、メディア本体がオフラインの場合でもカタログ上での検索や情報の閲覧ができる。また低解像度のプロキシムービー作成機能によって、オフラインメディアのプレビューもでき、クリップの表示方法も状況に合わせて様々な方法から選択変更が可能だ。

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『CatDV』は元々、銀行など金融システムのITノウハウを持つ同社の資産を利用したアセットマネジメントシステムなので、データ管理に関するスペシャリストとしてのノウハウがつぎ込まれているため、映像制作業務でも多くのフォーマットのクリップやログデータのインポートやエクスポートに対応様々なプロフェッショナル作業における制約の中でも、タイトな制作スケジュールの中で多数のメディアアセットを管理できるのだ。クロスプラットフォーム対応でスケーラブル、柔軟性も高いので、個人から小規模制作プロダクション、そしてポストプロダクションまでの使用が可能である。なお、この『CatDV』ソフトウェアは今春、英国女王陛下から『The Queen’s Award』をFOR ENTERPRISE:INNOVATION カテゴリーにおいて受賞しており、その楯と目録が会場ブースに展示されていた。

これからのワークフローの基盤となるのは?

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これからのワークフローの基盤となるのは、むしろポストプロダクションの次のステージでのあり方だ。その中で今後のポストプロダクションの重要な役割として、制作フローにおける映像データの統括管理という側面がますます注目されていくだろう。今年6月の特集でも少し触れたが、日本のポストプロダクションではまだ自社で独自のプログラムを書いて、オリジナルのワークフローを生成するまでのスキルを有するところは少ない。ハリウッド等では”無いものは作る”という感覚を基本に、そうしたプログラミングや新たなワークフローシステムの組成を自社で組み立てるというスキームを持っている。導入したソフトの機能を使うだけでは充分その役目を果たせなかったデジタルワークフローの構築。そうしたこれまでの状況の中でこうしたワークフローデザインツールが出てきたことで、既存のポストプロダクションでも、独自のアイディアを反映したワークフローデザインが自在に生成できるようになる。素材管理、編集、グレーディングから各納品別のトランスコード、そしてアーカイブと、全ての映像データ管理を統括的に管理できるポジションにあるのはポストプロダクションなのである。

txt:石川幸宏 構成:編集部


Vol.05 [Workflow Design from IBC2012] Vol.07