txt:中村文子 / 猪蔵 構成:編集部
PressDayに見る4Kへの期待
今年のCESは会期前日にプレスカンファレンスが集中して行われた。その中でもPRONEWSとして外せない企業のSHARP、Panasonic、SAMSUNG、そしてSonyのカンファレンスへ足を運んだ。これらのプレスカンファレンス会場に入るための行列がその企業に対する世界的な注目度を推し量る一つの目安と編集部は考えている。毎年途方も無い行列ができるSAMSUNG以外の日本企業2社は予想を裏切る大行列と、予想以上の空席が目立つカンファレンスとなり明暗が分かれたのだった。時系列に順を追って紹介していこう。
SHARP | 液晶事業に集中することを全面に打ち出す
今年もプレスデイの過酷な1日が幕を上げた。プレスデイは朝8時から各社のカンファレンスが行われ、最終は夜7時を過ぎだ。全社を回りたくとも時間帯がかぶったり、入場制限がかかったりとお目当ての会場に入れないことも多々ある。そんなプレスデイで日本企業のトップバッターを務めたのがSHARPだ。業績不振からその存続が危ぶまれた昨年夏から4ヶ月ほどが経過し、一体どのような戦略をもって製品を発表するのだろうか。
まさに「液晶屋」。液晶事業に完全特化し選択と集中で立て直しを図るオープニングの挨拶が終わると登場したのが独自液晶ブランドIGZO(Indium, Gallium, Zinc Oxygen)シリーズの紹介だ。
IGZOはすでに日本市場限定で発売済みのAQUOS Padなどに搭載され、省電力性、高精細表、高感度タッチパネルを追求したモデルである。今後はアメリカ向けへの製品にも積極的に導入し、米CORNING社とパートナーシップを組んでその弾みをつけると発表した。
続いては4K対応テレビ「AQUOS Ultra HD」。CES以前に今年の発売を発表していた画質追求タイプのICC PURIOSに対し、多機能搭載で差別化したモデルだ。スマートTV機能「SmartCentral」や3D表示モードを搭載し、FlashやHTML5ベースのアプリを実行できる。
60インチから90インチの液晶サイズ・全18種類にSmartCentralを搭載。販売予定価格は1499.99ドルから6499.99ドルと発表された。本プレスカンファレンスとは別に、Qualcommが行ったキーノートセッションでは同社がSHARPと液晶技術、特にモバイルディスプレイにおける消費電力の削減において良いパートナーシップを組めるだろうと語っている。このことからも、複数のパートナー企業と組んで往年の「液晶のシャープ」を目指そうという熱量のある姿勢が感じられるセッションであった。
Panasonic | テレビだけじゃない!エンジニア畑の社長と共に打ち出す戦略
昨年の出足が嘘のよう。熾烈な席争いになったPanasonic。今年のオープニングキーノートが控えているためか、今年は筆者が滑り込めた最後のプレスだったほど大勢の人が詰めかけたPanasonicのプレスカンファレンス。昨年、Myspaceと連携したSmart VIERAが発表された時正直筆者は困惑を隠しきれなかった。Panasonicが競合他社との争いにのみ注力してしまい、使い手である人を忘れてしまったのではないかと感じたからだ。2012年は同社にとって厳しい1年となった。上期連結業績において当期純損失は前年の1,361億円の赤字から5,490億円悪化し、6,851億円の赤字を計上したのである。その規模の大きさに第一報が流れた時言葉を失ったほどだ。
その逆境をどう克服していくのか。1年の行く先を占う今回のCESで発表されたのは、テレビスクリーンに個人設定ができるmy Home Screenのコンセプトからなる「人」にフォーカスした製品群であった。
全ての機種にVIERA Connect コンポーネントとブラウザ、WiFiをビルドインし、SMART TVとしての標準機能を実装
Smart VIERAの新製品など32機種は、プラズマテレビ・液晶テレビどちらも16機種ずつ展開するという力の入れようで、Smart VIERAにおいては新製品を24機種一挙に2013年春から北米市場で発売を開始する予定だ。同時にフラッグシップ製品も革新し、プラズマテレビはフルHD3D Neo PlasmaパネルのZT60シリーズ、Infinite black Pro PanelのVT60シリーズの他、3シリーズを揃えた。 my Home Screen対応モデルはVT60となる。液晶テレビでは、Ultra Slim Metal Bezel(額縁枠)のWT60シリーズとDT60シリーズ、my Home Screenを搭載するET60シリーズの他、4シリーズをラインナップした。
このままテレビの発表だけで終わってしまうのかと思っていた矢先、うれしくも登場したのは3MOS Ultrafine Full HDのX920や、ライブストリーミング可能なV520などのビデオカメラとGPS対応防水モデルLUMIX TS5を始めとする新LUMIX全9モデル。ビデオカメラはフルHDやライブストリーミング機能など機能面を、LUMIXは筐体タイプやズーム性能、価格などバリエーション豊富にラインナップしてきた。
そして、最後のニュースはやはり理容家電・調理家電の展開強化だろう。北米ではテレビメーカーとして受け入れられているPanasonicは本年さらに理容家電・調理家電の北米展開を強化することを決定した。理容家電は日本同様「Panasonic Beauty」のブランドネームによって統一したイメージで展開する。また、料理家電は小型製品シリーズ「BREAKFAST」を投入する。Panasonicが総合家電メーカーとしての世界戦略で2013年がどう推移するのか、引き続き注目していきたい。
SAMSUNG | 意欲的製品に心が躍る、エッジの効いたモデルを発表
毎年参加できないプレスが続出する、PressDayの最難関SAMSUNG(毎年入場規制される)のカンファレンスに今年は準備も万端で望むことができた。初めて踏み入れた人気No.1カンファレンスで見たものとは?多くのプレスが詰めかけたSAMSUNGのプレスカンファレンスは同社の躍進に対する自信が感じられる演出が随所に織り込まれ、冒頭に登場した「CONNECTED WORLD」のコンセプトの元、Galaxyシリーズの展望や4K対応のテレビがせり上がって登場するなどスケールの大きい話題を提供し、プレス陣を沸かせた。
大掛かりな演出は「F8000」のお目見えと共にスタートした。プレス席エリアに中途半端に大きな白い台があり、何かが出てくるとは思っていたが液晶テレビがせり上がる演出には驚いた。
液晶テレビのF8000シリーズは4Kモデル、有機ELモデルを搭載。スマートテレビとして必要十分な機能に飽きたらず、新たに1.35GHzのクアッドコアCPUを搭載し、昨年比で処理速度を3倍高速化した。他にも音声認識による操作を実現した「INTELLIGENT VIEWING」や今までのストリーミングコンテンツ閲覧履歴を分析し、自動でレコメンドするエンジンの「S-Recommendation」などを搭載。また、連携ストリーミングコンテンツエンジンもNetfixとHulu Plusに対応している。
金属製の枠にパネルが浮いているようなデザインが目を引く注目の4K対応の85VインチテレビS9000は、具体的な発売時期や価格は発表されなかったもののフルHDからのアップコンバート表示に対応する機能を搭載するということで、PRONEWS的には期待が高まるモデルであった。
何より心躍ったのは、レンズ交換タイプデジタル一眼カメラ「NX300」の発表だ。3Dと2Dのスチールおよび動画撮影が1本のレンズで撮影できる、映像屋にとってその活用シーンが湧き出てくる意欲的なモデルである。
APS-C 2,030万画素のCMOSセンサーを備え、新マウントであるNXマウントの規格とした。カラーバリエーションはブラックとシルバーの2色展開。DRIMe IV imaging engineを搭載し、色再現性やノイズ低減の機能を向上させた。肝心の動画スペックは1080pで、対応レンズのNX 45mm F1.8 2D/3D lensとの組み合わせにより、1つのレンズで3Dと2D撮影に対応する。WiFi機能も標準装備し、iOSおよびAndroidアプリのSamsung SMART CAMERA Appを介して画像をタブレットなどに転送したり、クラウドへアップロードできる機能を備えた。
他にも、スマート家電として新型オーブンやEvernoteアプリを内蔵した冷蔵庫を発表したりと、同社の躍進を支えるGalaxyシリーズだけではないSAMSUNGの底力と勢いを感じた。
Sony | 全面に押し出す4K戦略とは?
毎年映画関連のスターや監督が登壇する事が通例であったが、2013年のスタイルは一転。 ハワードストリンガー氏から平井氏に社長が替わり本格的に平井氏リードによるプレスカンファレンスとなった。ここ数年ブースのキーカラーの黒から全体的に白くなった事も大きく変わった印象を受けた。
開始前には、360°スクリーンにカムコーダーを組み立てるムービーが流れ、Sonyの持つクリエイティブものづくりの力強さが伝わって来た。”BE MOVED”のコピーさながら完成度の高い物だった。
今回ソニーも大きくテーマに掲げるのが4K。すでにデジタルシネマなどプロ業界では4Kでのワークフローが試行錯誤されている中、F65の成功を起点に業務用4Kビデオカメラの技術を民生向けに展開する戦略を示唆。民生向け4Kビデオカメラのプロトタイプを参考出品した。おそらくリリースは、NABと思われるが、ベースはNX5Jっぽいが、残念ながらリリースの時期はまだ決まっていないそうだ。併せて好評のカムコーダーNEX-FS700Jオプションで NABの頃に4Kレコーダー( [Interface unit HXR-IFR5 +RAW Recoder AXS-R5])も登場する予定だ。
またコンテンツデリバリーに関してもグループ企業であるソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのメリットを生かして、ネイティブ4Kコンテンツの配信に取り組んでいくことも表明。4Kコンテンツが家庭にもやってくることになる。さらに4Kコンテンツ制作スタジオ3net studiosが設立された。
平井氏は、世界最大の56型の4K有機ELテレビのプロトタイプをデモしながら最後に、発表4Kは決して遠い”未来のもの”ではなく、Sonyが身近にして行くとコメントを力強く残した。
総括
昨年のCESは、率直に言うと日本企業に勢いがなく特に中国・韓国勢に空気感から負けてしまっているイメージを受けていた。だが、選択と集中を掲げたSHARPや、「人」の声を聴くという王道に立ち返り、新たな販売展開を拡大するPanasonicの発表内容は今年何かが日本の家電業界に起こる良い予兆を感じさせるとても有意義な時間であった。
また、アジアのSAMSUNGから世界のSAMSUNGへ急成長した同社は、今まで打ち立てた実績を存分に発表すると同時に意欲的なモデルを多数発表するなど、今後も期待を良い意味で裏切り続ける企業として存在し続けて欲しいと思っている。PressDay最後を飾った Sonyが編集部的には印象に残った。積極的に4Kを押し進めるSonyの未来を語る力強さを感じることができた。既に展示会は始まっている。現場での参加者の手応えをみつつさらに会場からレポートをして行こうと思う。
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