txt:曽我浩太郎(未来予報) 構成:編集部
未来学者たちの「ポスト・テクノロジー化」を象徴するSXSW2018
「シンギュラリティ(人工知能が人間を越える技術的特異点)」の提唱者で有名なレイ・カーツワイルが今年のSXSWで制作を発表したのは、なんと未来の「小説」だった。このことが象徴する通り、今までテクノロジーを語ってきた人々の注目は今コンテンツやストーリーテリングにある。
一握りの人にしか広がりを見せないハイテクノロジーのサービスが日々沢山輩出されていったり、テクノロジーへの過度な期待がビジネスメディアによって増殖していく一方で、そのような事に興味が無い多くの人々の生活や、意識の変化が実感できていないのが理由だろう。
カーツワイル氏自身も、自分自身が世界に投げかけたシンギュラリティへの過度な期待と恐怖が一人歩きしているのを悔やんでいるのではないかとも思える発表だった
一方で、映画や音楽は世界や言葉・国・人種・所得・性差など様々な壁を取りはらう可能性がある事は誰もが理解してくれるはずだ。このせめぎあいこそ、今一番ホットな面白さが詰まっていると私は感じ、今年のSXSWは私にとって今までで一番エキサイティングだったかもしれない。
SXSWがコンバージェンス(ミュージック・フィルム・インタラクティブの融合領域)を推す理由
SXSWのミュージックフェスティバルは今年で32周年。フィルムは、25周年。インタラクティブ(元々はマルチメディア)は20周年を超えている。この20年以上、これらが交差する領域をつなげていく動きが見られたが、昨年より異なるカテゴリのバッジ(入場パス)でもカンファレンスなどに入場できるシステムになり、その融合は一気に加速した。また、24個あるカンファレンストラック(ジャンル)のうち10個がコンバージェンスのトラックとなっており、全体で行われているセッションの半分くらいはコンバージェンスのトラックになっている。
コンバージェンスプログラムとは、具体的には食・ファッション・社会課題・VR/AR・スポーツ・ゲーム・スタートアップ(!)、そしてストーリーテリングなどだ。SXSW=インタラクティブというイメージは、ここ数年でアメリカ人の中では払拭されてきたようで、コンバージェンスのトラックに多くの人が熱い期待を寄せているのを去年以上に肌で感じた。
今回はそのコンバージェンストラックの中でも、特に注目が集まるExperimental Storytelling(実験的なストーリーテリング)のトラックに当たるセッションや作品から、未来のイメージを広げていきたい。
フィクションをデザインする建築家が映像で訴えかける都市の未来
オーストラリアの建築家、リアム・ヤング氏は少し変わった建築家だ。国立競技場の建設で日本でも話題になったザハ・ハディドをはじめ、有名事務所とプロジェクトを共にしてきたヤング氏。建築以外のテクノロジーや科学者・エンジニアが描く未来の構想に触れるたびに、自分自身が生業としている建築家の仕事が違う仕事に置き換わってしまうのではないかと感じ、リサーチ機関を設立。科学者やデザイナー、映画業界や企業などとコラボレーションをしながら、未来の都市のフィクションストーリーを映像やインスタレーションで発表するようになった。
SXSW Cities Summitというトラック(都市計画やサスティナビリティ、エコについて専門的に話すカテゴリ)のクロージングパフォーマンスとして行われたのが、彼の作品「CIty Everywhere」だ。先進国から新興国まで自由自在に動き回る都市の主観映像にCGが組み合わさり、少し暗い雰囲気でストーリーが展開する。映像の中には特に解説は入っておらず、ヤング氏自らが映像に合わせてリアルタイムでナレーションをするというスタイルだ。
例えばIoT(Internet of Things)により人の動きがセンシング可能になったり、ドライバーレスの車が行き交う「未来のスマートシティ」において、どのような問題や事件が起きるのかというディストピアストーリーが話されたり、ロボットによって効率化した未来の産業の可能性などが語られ、未来の各都市を旅しているかのように体験することができる、まさに実験的な体験ができるストーリーテリングだ
彼は自分自身のコンテンツを「ドキュメンタリーとフィクションの中間にある」と語ったが、まさに私たち未来予報が掲げているコンセプトと同じで嬉しかった。ヤング氏のように未来の議論を少しでも多く誘発できる魅力的なコンテンツを私たちはもっと作らねばならないし、もっとこのような事を目指すクリエイターの仲間が日本にも増えればいいなと感じた。
世界をつなぐインタラクティブドキュメンタリーで多様な世界を見渡す
昨年より始まったSXSWアートプログラム。審査を通過したアーティスト数組がSXSWに招待され、期間中に展示を行うSXSWの中でも新しい試みのひとつだ。今年受賞した「Life Underground」は、世界中の地下鉄に乗車している人々のライフストーリーをつなげる試みだ。世界14都市以上の映像が公開され、今もまだそれは広がり続けている。
各地の地下鉄車内の音をバックに、世界中の多様な人々の話に耳を傾けると、一人一人がユニークなストーリーや様々な異なる価値観を持っている一方で、国を超えて同じような考え方や興味関心ごともあり、それらが際立って聞こえてくる。
ライフストーリーのジャンルで各地の話をつなぐこともできる。連続して見ていると気候や服装や電車の中の行動の違いにも気づき、自分にとっての日常と非日常が入れ混じる不思議な感覚を味わえた
展示だけでなく、コーヘン氏は同時にセッションも行った。これだけの規模の世界を越えるストーリーを作るためには資金調達や現地のアシスタント・コーディネーターの採用も大変だが、撮影のプランニングや各地の許可取りはクリエイターにとって一苦労だろう。そんな中、コーヘン氏はITP(国際公共交通連動)と協力関係を築いて撮影を進め、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市の地下鉄の駅構内でイベント的に上映を開始して賛同者を集めるなど、パートナーシップをうまく組んで作品を作る、プロデューサー的な側面も持つクリエイターだと感じた。
コーヘン氏は20年以上ドキュメンタリーを撮り続けているプロフェッショナル。地下鉄でスマートフォンを見るのではなく、顔を上げて他人のストーリーに想いを寄せてみることが多様性を見つめ直す一つのきっかけになるだろうとセッションの中で語った
SXSW2018のブレイクアウトトレンドは「グローバルコネクション」。もっと国を超えて世界をつなげるストーリーを!
毎年SXSWインタラクティブアワードのセレモニーで発表される、その年のブレイクアウト・トレンド(一番話題になったこと)は“Globally Connected:世界的なつながり”だった。北米だけでなく、日本を始めとするアジアやヨーロッパ、そして南米やアフリカからの参加者も増える中で、各地の人々が交わりながら未来を議論する様子は、今まで以上にSXSWの可能性を感じることができた。
今、リアム氏やコーヘン氏がSXSWに招待されるのも、世界中を巻き込んだ対話を生むきっかけになるストーリーを巧みに生み出しているからだろう。このようなクリエイターを前にしてみると、果たして私はどれくらい世界をつなげるストーリーを今年のSXSWで国を超えてアピールができたのだろうか?自分の心に手を当てて考えてみると多くの課題や悔しさが残るのが事実だ。
「終わる頃にはすでに来年のことを考えざるを得られないのがSXSW」と毎年言っている気もするが、何年来ようが、こうした“未来の自分との対話”ができることが、なによりもSXSWからの贈り物なのだと再確認して、来年にのぞみたいと考えている。
txt:曽我浩太郎(未来予報) 構成:編集部