txt:宮川麻衣子(未来予報) 構成:編集部

SXSWへ7回目の参加となった今年、常にその変化を感じながらも、今年は自分にとってより大きな転換を感じた年だった。イベントは水物であるので、社会状況や特に参加者のマジョリティの変化に左右されやすい。それは当然の事だし、SXSWは“民主的”を掲げるイベントなので、毎年の色が違う、それが面白いという一面もある。

SXSWはどう変化していくか。感じた兆し。

コンバージェンスプログラムであるVRの一画には、ヴァーチャルシネマの部屋が設けられ実際に見ることができる。Filmで上映されたウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」の360°メイキングムービー。ストップモーションのセットの中に入ってキャストの犬たちに話しかけられる映像体験だった。セットを組む様子などが360°で楽しめる。いかにも各カテゴリの融合領域という感じがした

近年、運営側はコンバージェンスというコンセプトを掲げ、Interactive偏重だったSXSWのプログラムや参加者を“均す”動きを見せた。各カテゴリの垣根なくすため、どのバッヂを持っていても優先順位付きでセッションや映画やライブに入れる制度に去年から変わった。また、コンバージェンストラックが設けられ、実験的ストーリーテリング、食、ジャーナリズム、社会的インパクト、スポーツ、スタートアップビレッジ、VR/ARがそれにあたる。トラック名を見ていただくとわかるが、テクノロジー関連、またスタートアップ関連は主役というより、one of themである。振り返れば、SXSWに行ってみたいと憧れの目で見ていた2006、2007年あたりは、SXSWといえば音楽とWebのイベントのイメージだった。そう考えると、だいぶごちゃ混ぜの、何でもありのイベントだという事がわかる。

一方、(32年間のうちたった7年間の話でしかないが…)スポンサーがド派手に存在感を示すというよりは、細かく会場や賞、EXPOごとに付くことに重きを置くよう変わったようだ。今年から車のスポンサー枠がマツダからベンツに変わった。マツダの前はシボレーだったが、どちらも会場間の移動用に循環車両を提供していた。SXSW仕様に装飾された車が循環するので、会場のあちこちでスポンサー車を見かけていた。しかし、ベンツは車は走らせず、コンベンションセンターから少し離れた屋外スペースにEXPOを作った。

昨年、ベンツとSXSWがフランクフルトで開催したカンファレンス「me Convention」のミニ版だ。ベンツそのものよりも、新しいカンファレンスのプロモーションという感じだった。講演会場だけでなく、座ったり寝転がったりするスペースや、ワークショップスペースがあり、しかもセッションの中身はヨガが体や心にどう影響を及ぼすかというプログラムがあったり、ゆっくりと考え、自分や課題に向き合う環境があった。

他にも、各賞について、前からスポンサーベースだったが、しっかり「〜awards by ●●」と明記し司会者がきちんと説明している印象だった。それぞれのカラーにあったものに特化して、企業の考えやコンセプトを見せていくように変わったのかもしれない。

Musicはより地元のオーディエンスを大切にしている?

期間中は教会もライブ会場になる。いつも満員だった。この時ばかりにと、アーティストも演奏しながらビールを飲む

さらに、Musicの変化が顕著だった。ここ数年はヘッドライナー的に現役の有名アーティストが直前に発表されライブを行っていた。Lady gaga、Eminem、Justin Timberlake、Coldplayなど。そしてモンスターエナジー、ドリトス、アップル、MTV、非公式にRedbullなどが大きな野外ステージを作ったり、コンサート会場で大きなライブを開催していた。ほかにも、小・中規模会場では、音楽マガジンやpandoraなどの音楽サービス主催でパーティーライブを行っている。

今年は大きなステージほぼはなくなり、小・中規模が増え、盛り上がっていた。しかも、アンオフィシャルのパーティーが増えていた印象だ。そうするとどういう事が起きるかというと、バッヂや1日限りのリストバンドを買わなくても入れる無料パーティーだらけになる。公式パーティーであればバッヂが当然必要で、むしろ持っていないと入れない会場もある。公式だか公式じゃないかよくわからないところは、一応バッヂ所有者用のラインはあって優先されるが、何も持ってなくても待っていれば入れる。全く関係ないところもあった。これまではバッヂを買っているかいないかでくっきり線が分かれていたが、より、地元の人たちと混ざるというか開かれるように変わった。

世界的に有名になったイベントだからこそ、揺り戻し的にLocalを大事にする動きになっているのかもしれない。Interactiveも著名人を招いたり、大企業によるセッションがある一方で、非常に細かくテーマが細分化され、新しすぎる価値観を提示するセッションが多数ある。人数的に人気/不人気の差が激しいので、参加者側がまだまだ追いついていってない感はあるが、色んな価値観や考え方・文化に触れられる最高のチャンスだと、私は思った。そしてまた来年オースティンの街を訪ねることになるだろう。

txt:宮川麻衣子(未来予報) 構成:編集部


Vol.07 [SXSW2018] Vol.09