txt:猪蔵 編集部/ 構成:編集部

現地での反響を受け広がる上映の道

アカデミー賞とカンヌ映画祭をつなぐのはSXSW Film部門ではないのか?と言われるほど今年のSXSW2018のFilm部門は熱く、25周年にふさわしい年にとなった。1000近くの作品がスクリーニングされる中、日本からは、3作品のみスクリーニングされた。全体の多様性の多さに比べまだまだ日本からの作品が少ないと言える。3月に開催されたSXSW2018から8ヶ月ほど過ぎ、すでにSXSW2019が動き始めている。

今回世界中から長編・短編・VRなどの多種多様な映画が集まるSXSW2018「Film Festival」で、ワールドプレミア上映され、現地でも注目された1作品が、全国上映を実現させ加速度的に注目を集め始めている。それが、ドキュメンタリー映画「旅するダンボール(原題:From All Corners)」だ。世界中の捨てられたダンボールを拾い集めて、財布にアップサイクルするダンボールアーティスト・島津冬樹氏(CARTON)の物語を描いた監督の岡島龍介氏にその想いを聞くことができた。

ダンボールを愛してやまない島津氏のドキュメンタリーである。おそらく作品が完成するまでに島津氏のダンボールへの偏愛が多くの人を動かしたであろうと想像に硬くない。そんな「旅するダンボール」は、12月7日から全国上映中だ。

※このインタビューは、SXSW2018開催時(2018.03)に行われ、加筆修正された

■「旅するダンボール(原題:From All Corners)」

「旅するダンボール」ストーリー

世界30カ国の街角で捨てられたダンボールを拾って、かわいくてカッコいいダンボール財布に。不要なものから大切なものを生み出す、いま世界からもっとも注目の”ダンボールアーティスト”島津冬樹の活動に迫ったドキュメンタリー映画。わたしにもできるかも!と思わず参加したくなる、未来を支えるみんなのアップサイクル!

  • 公式サイト: carton-movie.com
  • 2018年/日本/91分/カラー/アメリカンビスタ/ステレオ/DCP
  • 日本語字幕:Mika Totechinsky
  • 出演:段ボールアーティスト・島津冬樹
  • ナレーション:マイケル・キダ監督:岡島龍介製作:汐巻裕子撮影・編集:岡島龍介音楽:吉田大致VFX:松元遼L.A.撮影:サム・K・矢野
  • 2018.12.7(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA/新宿ピカデリーほか全国順次公開中

    「旅するダンボール」© 2018 pictures dept. All Rights Reserved

    ダンボールがテーマの映画ができるまで

    撮影、編集を務めた岡島龍介監督

    ――今回の作品、岡島監督自身が苦労した点は何でしょうか?

    まず段ボールがテーマの映画で2時間ということで構成が持つのかな?と戸惑いは隠せなかったのが正直なところです。主人公である島津冬樹氏の密着取材で彼の段ボールに対しての愛情は十分に分かったのですが、フィルムメーカー側のメッセージとは何か?視聴者に何を感じ取ってもらいたいのか?島津氏は段ボールの見る目を変えてもらいたいというメッセージを終始にわたり訴え続けてきました。

    彼にとって段ボールが大切なものであることは間違いありません。しかし、私たち観客にとって大切なものは決して段ボールに限るわけではなく、人それぞれ違うのだということに気付き、プロットポイントとして捉えることができました。撮影中はこの映画のゴールはどこなのか?何を訴えたいのか?そこを見出すのに一番苦労しました。

    この映画の終盤にアップサイクルという言葉ができてきます。まさにこのアップサイクルがこの映画の最大のメッセージとなっています。

    わたし自身この言葉を知りませんでしたが、このアップサイクルの世界的な潮流を知ったとき、まさに島津氏の行っている行動はアップサイクルそのものであり、また取材を通して世界の関心がこのアップサイクルに集まっていることにも気づかされました。密着取材終盤にこれが光明となり、糸口が見つかった途端、ピッツバーグや中国への取材が決まったりと、この映画が急速に動きだしたのを覚えています。

    アップサイクル=元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すことを、最終的な目的とする

    (左)島津冬樹氏と岡島龍介監督(右)

    島津氏自身がダンボール映画を製作したいと言ったのがこの映画の発端だという。自分の活動を買ってもらうことが全てではなく、考え方を伝えるのに映画という手法でもいいのではないか?という部分に端を発している。伝わることは他にもあるのではないか?ということで当初、島津氏自身でセルフドキュメンタリー活動を始めるが、やはプロの客観的視点が必要ということで多くの人を巻き込んでいく…。

    ――今回SXSWに出品した経緯を教えてください。

    世界中の映画の買い付けや映画プロデュースを数多く手掛けているピクチャーデプト汐巻プロデューサーの考えも大きいです。

    世界のオーディエンスは今何を求めているのか?今のトレンドは何なのか?について常にアンテナを張っている方で、島津氏の活動を知ったとき長年の直感でSXSWに狙えると思ったそうです。反応も上々でしたのでよかったです。

    株式会社ピクチャーズデプト汐巻氏は、映画製作や配給を務め、過去のSXSWにおいても濱田岳主演「SAKE-BOMB」(原題)を出品している。

    ――SXSWで作品が上映された気持ちをお聞かせください!反応はいかがでしたか?

    世界中から8000作品以上の映画の応募があり、その中から数百の作品のみが選ばれ、今回こうしてSXSWという素晴らしい場所で世界の観客に向けてお披露目することとなりました。

    今回私たちの作品の上映は3回ありました。やはり初回の上映は緊張しかありませんでした。アメリカ最大級といわれるだけあり、街のいたるところでテレビ中継されたり、記者の方々がレポートしてる様子を毎日のようにみていると世界中から注目されているんだということを身近に感じました。

    幸いなことに3回の上映とも多くのお客様に来ていただき、そして笑いあり、涙ありと感情むき出しに反応してくれたことはとても嬉しかったですし、今後の作品への大きな自信にもつながりました。日を重ねるごとに取材の数も予定より多く入ったりと、取材人からの反応もよかったように感じました。

    ――最後に次の一手をお聞かせください!

    世界から注目されはじめている島津氏の活動は今後地球規模でよき方向に向っています。

    この映画を通して彼の活動が普及できれば、この地球にとって意味ある活動だったと思えるはずです。そしてそれが次の世代へと繋がっていき、世界中の人たちの意識改革ができれば、こんな嬉しいことはないと思います。

    島津氏のアーティスト活動に対する関心も高まっていますので、まずは日本公開へ向けて、向けての準備に注力したいと思います。ぜひ応援よろしくお願いいたします。

    12月8日に開催されたトークイベントの様子。左より岡島龍介監督、島津冬樹氏、音楽を手がけた吉田大致氏

    島津氏の思いは、周りを巻き込んで映画製作へまで拡がり今回の全国公開するまでに至った。岡島龍介監督も巻き込まれたその一人とも言える。島津氏の思いは、スクリーンを通してさらに多くの人へ広がっている。アップサイクルという地球規模での考え方の潮流ともありこの作品は世の中に大きな役目を果たしそうだ。

    一つの小さな思いが多くの力を巻き込み花開いた好例と言えるのではないだろうか。しかし彼らにとっては日本での上映も始まりにすぎない。「旅するダンボール」のように日本から多くの作品出品されることを願って止まない。そうSXSW2019は、もう始まっているのである。

    txt:猪蔵 編集部 構成:編集部


    Vol.09 [SXSW2018] Vol.00