txt:宮川麻衣子(未来予報)with Tom INOKAWAa.k.a.猪蔵 / 構成:編集部

Filmは大作とローカル作品をバランス良く共存させることに成功している

Filmのメイン会場は伝統あるパラマウント劇場。ワールドプレミアにセッションに授賞式と、連日泣き笑いが繰り広げられる。ホテルの会場と違って劇場の形になっていることが更に見ている側に興奮を与える

SXSWはいつでも変化しているが、“今”の変化の流れの中で、うまくバランスを取って、一番面白いなと感じたのが繰り返しになるが、Film部門だ。スピルバーグ監督がサプライズで「レディ・プレイヤー・ワン」のワールドプレミアに登場したり、スパイク・リー監督、バリー・ジェンキンス監督、俳優のイーサン・ホーク氏、ヒュー・ジャックマン氏、マーク・ハミル氏らがセッションに登壇し、連日メディアを賑わせたことはすでにお伝えしている。

上映される映画の89にものぼる作品がSXSWをワールドプレミア(世界で一番最初に上映すること)に位置付けた。大作だけでなく、アメリカの文化に深く根ざした作品やドキュメンタリー、インディーズ作品など、選りすぐられた作品が多数上映された。優れたバランス感覚で、どちらに偏る事なく、しかも見る側もそれを楽しんでいた。どの会場も毎回満席の印になっていたからだ。

■Daughters of the Sexual Revolution

1970年代の女性解放運動の中で、低い地位にあったダラス・カウボーイズのチアリーダーたちの回想ドキュメンタリーの話だ。セクハラ・パワハラについて、日本では#metooほどのムーブメントは起こらなかった。私自身も酷い経験をしたが、me tooとは主張出来なかった。日本には言ってはいけない空気がある。それに負けたと言っていい。70年代は想像も出来ない。ましてや、チアリーダーだと露出もあり、男性に媚びる印象が当時もあったため、同じ女性からも卑下されていたようだ。彼女たちがどのように団結して、立場を改善していったかの話だ。

内容的には非常にローカルでパーソナルな作品だった。どういう立場だったか、空気だったのか、映像化されるとよくわかる。それ以上に、当事者とその家族や周りの人たちにとって、大変意味のある事だと感じた。会場にはドキュメンタリーの出演者と家族や知人が見に来ていて、一緒に泣いたり喜んだりしていた。ドキュメンタリーのショートムービーには、浄化作用がある。第三者の目から捉えられた自分の人生を客観的に見る事で、消化できなかった思いや願いを、いくらか解放できるんだと感じた作品だった。

■Film Festival Awards

司会はコメディアンのジム・ガフィガン氏が務め、終始ラフな授賞式だった

Interactive Innovation Awardsと同日に発表されるFilmのアワード。授賞式はワールドプレミアが行われるパラマウント劇場で行われた。物語部門とドキュメンタリー部門、そしてショートフィルム部門でWinnerが発表される。全ての作品を見れた訳ではないので、どういう作品が授賞しているか解説できないのだが、面白いと思ったのは、ショートフィルム部門にテキサスの高校生枠があることだ。感度の高い映画関係者が多数出席する場で、地元の非常に若いフィルムメーカーをフィーチャーするのは、本人たちの夢を後押しするだけでなく、全体の若返りを促進する。発表された瞬間、人一倍大きな叫び声で歓喜していたのを見るだけでも刺激があった。

クロージングで上映は、ウェス・アンダーソンが描く近未来の日本

ファンが6時間前から並んだクロージング上映。ウェス・アンダーソン監督ほか、キャストのビル・マーレイ氏、ジェフ・ゴールドブラム氏、ボブ・バラバン氏、野村訓一氏、プロデューサーのジェレミー・ドーソン氏、音楽スーパーバイザーのランドール・ポスター氏が顔を揃えた

10日間に渡って開催されたSXSW2018も終わりに近づき、クロージングで上映されたのはウェス・アンダーソン監督の最新作「犬ヶ島(Isle of Dogs)」だった。ウェス・アンダーソン監督はテキサス大学オースティン校に在学中に映画制作を始めており、ここオースティンにはゆかりがある。

映画制作者となるための一番重要な時期を大学生としてここオースティンで過ごしました。ルームメイトだったオーウェン・ウィルソンと出会い、一緒に作る映画を作るようになりました。PCL(映像ストックサービス)で60年代、70年代の映画をたくさん見て、(ゴダールとかの監督の名前をたくさん挙げて)影響を受けました。もちろんショートフィルムや本なども。ライブラリーでたくさん吸収した時期でした。

「犬ヶ島」は、近未来の日本を舞台に、捨てられた愛犬を探す少年と犬たちとの冒険の旅を描いたストップモーションアニメである。あらすじとしては、主人公12歳の少年・小林アタリが、犬インフルエンザの大流行によりゴミの島(犬ヶ島)に隔離されてしまった愛犬スポッツを単独救出しにいく。そこで出会った5匹の犬たちと壮大な冒険を繰り広げ、犬ヶ島だけではなく、そこを管理するメガ崎市まで影響を及ぼす事件を起こすことになる。

会場に貼られたポスター。日本語フォントのデザインが目立つ

舞台が日本ということで、相撲、浮世絵、和太鼓に、架空の都市“メガ崎市”など、ファンタジックでクールな文化として日本が描かれていた。メガ崎市の人たちは日本語を話すが、犬たちは英語を話す。いわば、異国の日本を犬たちの目線で見ているような感覚だ。普通、外国映画で描かれる日本はどこか違和感があり、映画が終わるまでその事が気になって内容が頭に入ってこないということがよくあるが、犬ヶ島は一切そういう事がなかった。日本と日本文化に対しての理解とリスペクトを感じる作品だった。見ている方の空気も、クールな文化への憧れに満ちていて、登場人物と一緒に一喜一憂する(やはりリアクションが激しかった)。

この違和感のある構造にウェス監督自身は以下の様に語ってくれた。

メガ崎市の市長役、野村訓一氏には、もっと早くもっと乱暴にと何度もディレクションしました。確かに、日本人キャストは全部日本人が務めています。でも聞き取るが難しいくらいの早口で、英語字幕はありません。途中から英語のアナウンサーが通訳したり、犬たちがちょっと説明したりします。英語、日本語もどちらもわかると、さらに面白くなる、という仕掛けなんですよ。

トリビアとしてIsle of Dogsを早口で言うと”I love Dogs”に聞こえるダブルミーニングだ。映画を見たあとに発音してみると、その意味がよくわかる。

来場者全員に、PRO-犬-DOGSと刺繍された白いヘッドバンドが配られ、ほぼ全員着用して上映に望んだ。見た目にも一体感があった。白いヘッドバンドは実際に劇中に出てくる

オーディエンスが投票して選ぶオーディエンスアワードのヘッドライナー部門は、犬ヶ島だった。民主的なSXSWで、オーディエンスアワードに選ばれる事は一番名誉な事にあたる。

上記読んでいただいただけで、SXSWはかなり幅が広いというか、コンテンツの多様さに驚かれるのではないだろうか。基本的はアメリカの文化、社会、課題がベースだが、その背景を知ってセッションや作品を見ると、理解が深まるだけでなく、日本の見えていない課題へのヒントにもなると思う。ちょうど、犬ヶ島を見て日本とアメリカを客観的に見れたように。

と、真面目な事を言ってしまったが、勉強、勉強という気持ちだけでは見えてこなかった事が今年は見えた。一緒に騒いで泣いて笑って共感する事で、理解出来る事が沢山あると思った2018年だった。

txt:宮川麻衣子(未来予報)with Tom INOKAWAa.k.a.猪蔵 / 構成:編集部


Vol.08 [SXSW2018] Vol.10