txt:宮川麻衣子(未来予報) 構成:編集部
映画もドラマもプレミア上映。インフルエンサーを取り込む仕掛けがそこに!
Westworldのクリエイティブチームとキャストのパネルセッションに急遽イーロン・マスク氏がゲストで現れると会場は熱気と興奮に包まれた
SXSW2018はFilmの勢いが止まらなかった。ワールドプレミアを行う映画は年々増えており、ダウンタウンの真ん中に位置するパラマウント劇場前のレッドカーペットには、連日出演者や監督、メディア、そしてファンが集まり異様な熱気を作っている。独自のプロモーションを行いファンを熱狂させる仕掛けは、Film関係者やファンだけでなく、オースティンに来る人たちをも虜にしてしまう。音楽フェスとして始まったSXSW、ここ10年ほどはInteractive部門が注目されその名を知られるようになったため、参加者もInteractiveに集中している。近年は特にトレンドをキャッチアップする目的での参加も増えているため、仕掛ける側としては、映画関係者に限らずSNSでの拡散を狙いやすい。
今年のFilmは映画だけでなく、ドラマシリーズについても大注目だった。NBCで放送された「This is us」はアメリカでも超人気のドラマシリーズだ。シーズン2の最終回を迎える前日に、最終話をSXSWの映画館で上映。最終回当日には主要キャストとプロデューサーによるパネルセッションも行われた。コンベンションセンターの中でも基調講演が行われる一番大きなBallroom Dで行われたが、何時間も前から列をつくっているのを見かけた。
HBOが手掛ける超人気ドラマ「ウエストワールド」のキャストが大集合
劇中で精巧なアンドロイドホスト、ドロレスを演じるエヴァン・レイチェル・ウッド氏と、メイヴを演じるタンディ・ニュートン氏
2018年4月22日(アメリカ)に「ウエストワールド シーズン2」が放送開始される。2016年にシーズン1が放送され人気を博した。待望のシーズン2だけに、ファンはSXSWで行われるイベントやパネルセッションに注目した。そもそも「ウエストワールド」の世界設定自体がSXSWと非常に相性がいい。
最新鋭の施設とアンドロイドを備えた体験型テーマパーク〈ウエストワールド〉。そこは、人と見分けのつかないアンドロイド〈ホスト〉に対し、人間〈ゲスト〉が欲望のままに振る舞うことができる世界。ホストたちはパークの中で役割を与えられ、ゲストが来るたびに記憶がリセットされる。しかしアンドロイドたちが次第に目覚めていく、という物語である。「ウエストワールド」は製作総指揮にJ.J. エイブラムス、監督脚本を「インターステラー」「ダークナイト」のジョナサン・ノーラン(映画監督クリストファー・ノーランの弟)とその妻リサ・ジョイが務め、アンソニー・ホプキンスなど映画俳優を多数起用した、大作ドラマである。
この「人間とアンドロイド(A.I.)」というテーマはSXSWのInteractiveのセッションでも度々取り上げられる。例えば、「生きている人間から意識をコピーされたマインドクローンは“人権”を持つのか」「ロボットは人間の最高の相棒になれるか?」「ポケットの中のアシスタントの未来」などのタイトルがついたセッションが2015年から多くなっている。さらに近年SXSWの大きなテーマとして「人間性(ヒューマニティー)」が取り上げられ、スピーカーの口からもよく聞く単語だ。
SXSW期間中に、西部開拓時代をモチーフしたテーマパーク〈ウエストワールド〉がオースティンの街にも再現された。建物やお店があり、キャストも衣装を着て、来場者はカードゲームやドラマさながらのシーンを味わうことができる。現地入りする前からチケットが売り切れていたようで見に行くことが出来なかったが、会期中にSNSや動画メディアでバズっていた。
Escape this reality.
— Westworld (@WestworldHBO) 2018年3月12日
Relive #SXSWestworld. Season 2 premieres April 22 on @HBO. https://t.co/DspP9BGsDX
一方、コンベンションセンターでは、主要キャストとクリエイティブチームによるパネルセッションが行われた。パネルセッションには、ジョナサン・ノーラン、リサ・ジョイ、そして俳優陣はエヴァン・レイチェル・ウッド、タンディー・ニュートン、ジェームズ・マースデン、ジェフリー・ライトが登壇した。
「ウエストワールド」のフランチャイズ化!?シーズン2はShogun World?!
登壇者が一人ずつ紹介されステージの席に着くと、会場は興奮に包まれた。まずはSXSWにて初公開だというシーズン2の新しいトレーラーが上映された。撮影もシェアも口外もNGだとアナウンスされたので、本当に少しだけお話する。
シーズン1で提示された謎へのヒントを少しずつ与えながらここで回収していくのかな?という印象と、事前に情報が少し公開されていたように、甲冑を着た兵士や着物を着たメイブ(タンディー)がトレーラーの最後の方に出てくる。「SW=将軍ワールドまたは侍ワールド?」ということなのだろうか、西部開拓の世界観だけではなく、日本の戦国時代がモチーフとなっていた。一瞬しか見れなかったが、俳優の真田広之が新シリーズに出演しているようだ(後日、正式発表に発)。“This is OUR World.”とドロレス(エヴァン)がトレーラーの中で言い放つと会場では大きな歓声と拍手が送られた。会場の全員が新しいシリーズに大いに期待を持った。
人生も自分自身をも変えてくれたドロレスという役ーエヴァン・レイチェル・ウッド
自分がアンドロイドだと気付いていく難役を演じることによって、価値観が変わったというエヴァン氏。アンドロイド視点で描かれるこのドラマは、出演者自身の考え方までも変える力があるようだ。パネルの中で印象的だったことの一つに、司会のジェイソン氏(WIRED)とタンディーとのやりとりがある。男性によって運営される〈ウエストワールド〉の中でドロレスとメイヴという、とても強い女性を演じてみてどうだったかという質問に対して、メイヴ役タンディーが「(特別に強いということではなく)普通よ!!これは本当に普通のこと!」と激しく主張していた。エヴァンも全面的に肯定し、私の周りに座っていた女性たちもその通りと同調していた。
タンディーはメイヴを演じる上で、女性暴力に対抗する国際NGO「V-Day」でのボランティア経験についても話した。コンゴでの活動では、性暴力や圧力により女性たちは何度も何度も殺され、精神が破壊されていることを目の当たりにした。メイヴを演じる際にいつも彼女たちのことを思うと話していた。「メイヴはロボットなので(精神的に)殺されても生き返るが、彼女たちはそれでもなお生きなければいけない」
役者自身からこういった話を直接聞くことが出来るのもSXSWならではだと感じた。SXSW全体のテーマでも、女性(マイノリティーも)の権利については長年議論されている。
人間性とは何かという事をテーマにしたウエストワールド。この物語で描かれるアンドロイドたちは皮肉にも“人間的”である
この物語がA.I.の黙示となれば幸いだと語る監督脚本を担当するジョナサン・ローラン氏
人工知能に対する倫理的な議論はここ何年もSXSWでテーマに挙げられる。裏返せば「人間とは何か?人間性とは何か?」というテーマだ。このセッションだけでなく他の多くのセッションのスピーカーも一番の関心事として挙げている印象だった。
おまけ:呼んでないよー!イーロン・マスク氏、サプライズ登場
イーロン・マスク氏が登場すると会場はさらに熱狂の場と化した
パネルセッションの終盤、サプライズゲストが登場した。イーロン・マスク氏の登場に会場は一気にボルテージが上がった。ジョナサン・ローラン氏とは長年の友人だそうで、彼が製作したファルコン・ヘビーのショートドキュメンタリーをこの場で初公開するというプレゼント付きだった。全く驚くべき仕掛けだ。こちらがその映像だ。すでにPRONEWSでも彼のセッションの速報はお伝えしたがその前日にサプライズは起こったのだ!
デヴィッド・ボウイの「Life on Mars?」をバックに、ロケットの搬出・打ち上げからブースターの回収、宇宙空間のStarman(Teslaに乗った宇宙服を着たマネキン)の様子が、打ち上げ成功に歓喜する人々の豊かな表情とともに流れる。メインブースターが海に落下しつつも、2基のサイドブースターが無事にケープカナベラル空軍基地に着陸したシーンでは、会場から大歓声が起こった。
これまで打ち上げの成功と失敗を繰り返してきたスペースXだが、最大級のロケットの打ち上げとブースターの再利用技術を世界に示しながら、電気自動車を乗せ宇宙に送るというのは彼らの思想を象徴している。人の心に十分に残る、よく出来たシナリオだと思った。私は2013年にも、SXSWでイーロン氏の基調講演を聞いた。その時も宇宙開発と火星ミッションへの思いを力強く話していて、ロケットのイメージアニメーションを流した。まさに描いた夢を叶えているという事に、改めて感動した。
人の心を動かし共感させるのは、最新のテクノロジーであろうがなかろうが、良く出来たストーリーである。会場にいた誰もが、マスク氏の虜になっていた。打ち上げ中継時からBGMに使われていた「Life on Mars?」の選曲も憎いとしか言いようがない。直接的には火星ミッションにかけてあるのだろうが、デヴィッド・ボウイの曲だけに、多重にかけられた意味を考えてしまう。退屈でつまらない現実に嫌気がさして別の夢の世界(火星)に逃げ込む女の子の話の歌である。
映像を流す前にマスク氏は次のように語った。
マスク氏:世界には悲惨な出来事や解決しなければならない問題がたくさんあります。でもそれらを次々と解決することだけが人生ではありません。インスパイアされ奮い立たされるようなが目標が必要です。毎朝起きて、自分が人類の一員であることを喜べるような目標です。だから我々はこのミッションを行ったのです。ロシアの科学者ツィオルコフスキーは言いました「地球は人類のゆりかごである。しかし人類はゆりかごにいつまでも留まっていないだろう」と。
ツィオルコフスキーは1857年に生まれのロケット研究者である。マスク氏は彼の言葉を引用しながら興奮した様子で続けた。
マスク氏:今、人類は宇宙に向けて飛び立つ時です。人間が持っている意識の枠組みを広げる必要があるということです。それは私に生きる喜びを与えてくれます。どうかみなさんも同じように感じてくれたら。
人間とは何だろう。この命題にそれぞれの方法で迫ろうとする人たちの話を聞くことができた。「ウエストワールド」のアンドロイドたちは自分とは何かを知りたくて外の世界(パークの外)に答えを求める。今見ている世界から出て行き、自分という存在を考える。自分とは何か、人間とは何かを考えるために、洞穴の中から出て行く。そうして人類は発展してきた。皮肉的にも、それこそが“人間らしさ”ではないだろうか。
txt:宮川麻衣子(未来予報) 構成:編集部