txt:萩原明子 構成:編集部
引き続きSXSW Film部門について見ていこう。「SXSW2019」3月8日から17日まで行われた期間中、会場の内外で目立った動きをみせていたのがNetflix、Amazonら新興勢のプロモーション合戦。番組タイトルがそのまま会場を貸し切りリアルな空間を演出をしていた。それは映像業界の立ち位置の変化を見せつけるようであった。
Amazonプライム新作引っ提げ、ニール・ゲイマン来場
Amazonプライムの新作「グッドオーメンズ」のニール・ゲイマン氏らが来場
SXSWは音楽、フィルム、インタラクティブとジャンルの幅が広く、世界から注目を集めるBtoBイベントである。オースティン・コンベンションセンターを中心に街全体が会場になって、カンファレンスやトレードショー、展示、スクリーニング、ライブが至るところで行われているのが特徴のひとつ。多くのクリエイターやプロデューサー、投資家が集まるイベントだ。
街をぶらぶらと歩いているだけで、思わぬ発見を得ることができるのもSXSWの特徴のひとつ。注目されているものは単純明快に長い列が作られる。今年のSXSWでは、開催序盤に長蛇の列があったのはHBOが誇るヒットコンテンツ「ゲーム・オブ・スローンズ」のプロモーションイベントだった。
今年4月15日に同シリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」が全世界同時放送されることもあって打ち出されたもの。ドラマのセットさながらの世界観を表現した館「BLEED FOR THE THRONE」が設置された。館の中はドラマに登場するキャラクターたちがずらり。参加者も登場人物のひとりになった気分で王国の儀式や村で過ごすことができる大掛かりなファン向けイベントだった。
大手スタジオのプロモーション展開はRed Riverストリートに集中し、コムキャストNBCユニバーサルやショウタイムなども大型の企業ハウスを構えていた。そんななか、ひと際目立っていたのがAmazonプライムビデオだった。英国SF作家ニール・ゲイマン原作の「グッド・オーメンズ」をAmazonプライムビデオのオリジナルとしてドラマ化、5月31日から配信を予定していることから、「グッド・オーメンズ」の巨大プロモーションを行っていた。同作にはベネディクト・カンバーバッチが悪魔役として出演されることも発表されている。
SXSWには原作者のニール・ゲイマン本人が来場し、出演予定のジョン・ハム(「マッドメン」)やデイヴィット・テナント(「ドクター・フー」)らと共に同ハウスのオープニングに顔をみせた。話題つくりに長けたAmazonの力の入れようを感じられる場面であった。
ケビン・コスナー舞台挨拶に登壇、Netflixフィルム新作上映&PR
Netflixフィルム新作「ザテキサスレンジャーズ」のオーディエンスチョイス用の投票用紙
新興勢の存在感はNetflixフィルムのワールドプレミア上映にも象徴されていた。3月29日に配信予定のNetflixフィルムの新作映画「ザ・テキサス・レンジャーズ(邦題)」が3月10日にパラマント・シアターで行われ、大きく注目を集めた。
同作は銀行強盗ボニーとクライド逮捕に駆り出された2人の元テキサス・レンジャーが悪党を追い詰める史実に基づく犯罪ドラマ。主演のケビン・コスナーをはじめほぼキャスト陣が揃った舞台挨拶も行われ、ケビン・コスナーは「テキサスが舞台のこの作品をSXSWでワールドプレミア上映スクリーニングを行うことができ、大変光栄だ」などと語り、会場は歓声に包まれた。
同作のプロモーション展開もRed Riverストリート内で行われ、「ザ・テキサス・レンジャーズ」ハウスの前にはやはり長蛇の列が作られていた。映画の舞台である1930年代のアメリカ南西部を再現したハウスの室内ではライブショーなどが行われた。こうしたかたちで上映とプロモーションを同時に打ち出すことで印象づけていたのではないか。映画「ROMA」でNetflixは監督賞初のオスカーを今年手にすることができたところ。抜群のタイミングに、映画スタジオとして抜かりなく攻める。そんなNetflixの戦略も目の当たりにすることができた。
Amazon、Netflixに続いて、同じくオリジナルコンテンツを広げているYouTubeも劇場上映を期間中に実施した。上映したのは映画「ベスト・キッド」シリーズの続編として、YouTube有料版で大ヒットを飛ばすドラマ「コブラ会」のセカンドシーズン。ラマー・シアターでスペシャルイベントとしてパネル講演やパーティーも企画しながら、話題を呼んだ。これら新興勢のSXSWにおける仕掛けは、映像業界における立ち位置の変化を表すものでもある。この5年でオリジナルコンテンツを一挙に増やし、賞レースの常連にもなりつつあるなか、今や欠かせないスタジオのひとつになっていることを明らかにさせていた。
ミッドナイトにホラー12作品が上映されたアラモシアター
一方、SXSWのフィルム部門はインディペンド映画にもこれまで力を入れてきた。次世代のスター監督輩出にも余念がない。そんななか、これからの活躍が期待される監督陣の作品が上映される企画も人気が高い。深夜0時からスタートする「ミッド・ナイト・シアター」ではトレンドのホラー系が揃い、短編映画12作品が一挙上映された。「DEEP Tissue」(アメリカ)や「One Side of the BOX」(同)など異彩を放っていた作品も多く、上映後に行われた舞台挨拶も拍手が巻き起こっていた。
グローバル展開で勢力を増すNetflixやAmazonのオリジナルコンテンツ展開もまだ歴史は浅く、ここ5年で増えてきたところ。インディペンド映画を支持するSXSWではある意味、新興勢は上映やプロモーション展開がしやすい場所なのかもしれない。業界の権威で伝統を守り続ける映画祭とは真逆の民意が制するSXSWで、今後も新興勢が大きく仕掛けていく可能性は十分にありそうだ。オリジナルコンテンツ制作はもはやOTTサービス事業の必須分野。大手OTTから地域OTTまで幅広く参加し、作品を扱うイベントとして、今後も期待できる。
txt:萩原明子 構成:編集部