txt:岡本侑子(kiCk inc.) 構成:編集部
SXSW2019期間中、NHKエンタープライズはトレードショーで2つの展示を行い、NHKは、昨年に引き続き8Kシアターを展開した。日本企業も多数SXSWに出展を行う中、どのような展示が行われていたのかをレポートする。
(1)THE TIME MACHINE
VRの映像を通して1964年の渋谷にタイムスリップするというもの。VR体験だが体験している人のVR映像に合わせて裏側ではギミックを用意して、新たな体験価値を創造していた。
企画構想は2年前から行われており、発起人であり代表理事の土屋敏男氏(日本テレビ)と齋藤精一氏(ライゾマティクス)、永田大輔氏(DISTANT DRUMS)の3名が理事となり設立した。1964年当時の映像は過去の写真から「記憶の中の街並み」として3DVRで再現した。
正面からの装置装着の様子
ヘッドマウントディスプレイだけではなく、ディスプレイのついた装置も背中側に装着する。これには体験している人が装着しているVR内で見ている映像が映っていて、スタッフはそれに合わせてギミックを発動させている。
ギミックとして何が発動するのか。
発動するギミックは2つ。
1つ目は、渋谷のシンボルである「忠犬ハチ公像」。VR映像の中にも登場するが、なんと映像内でハチ公が登場するタイミングに、模型のハチ公像に触ることができ、映像とリンクして実際に触っている感覚を味わうことができる。
移動方法はスタッフ手動。ブース内はあまり広くないので、体験者が歩き回ることができるように、登場しない時は暗幕の中に隠れている。
2つ目は、風。建物屋上から地上へ降り立つシーンがあるのだが、ちょうど高所から移動している時には、ふわりと風を受ける。これもスタッフが体験者一人一人に付き添い、うちわで風を上下左右から送っている。
1964年当時の渋谷の様子は、3D VRであるだけにあたかもその当時の風景の中に自分自身が入り込んでいるような感覚になった。そこにリアルなギミックが発動することで、感覚により深みが増しているようだった。
(2)Caico-INVISIBLE VR
NHKエンタープライズと資生堂が共同で、映像を用いない「聴覚と嗅覚」中心とした新しいタイプのVRの出展を行なった。
アイマスクをして、リラックスチェアに腰掛ける。そこにヘッドフォンを装着。 ヘッドフォンからは川が流れる音、虫が飛び交う音、都市の車が通る音など、様々な風景音が約6分間流れる。
そこに椅子に取り付けられたアロマシューター2つが音に合わせた香りを出す。
香りは3秒ほどで消えるため、次の香りがアロマシューターから出るまでには香りは残っていないので、風景音に合わせて目まぐるしく香りも変わっていった。VR音響という言葉を聞いいたことがある人はあまり多くはないだろう。VR音響とは立体的な音技術のことで、エンターテインメント業界では注目されている技術だ。
今回の展示では、あたかも自分がヘッドフォンから聞こえる音の風景に入り込んでいるような感覚を覚え、嗅覚を刺激されることで映像が無くてもリアル感が増していた。視覚がないことで人間は想像力を膨らませ、より没入感が得られているのかもしれない。
(3)8K THEATER
SXSW2018に引き続き、8K展示も行われていた。SonyのクリスタルLEDディスプレイシステムを使用した440インチのスクリーンと、22.2chの没入型サラウンドサウンドシステムで、約20分ほどの映像美とサウンド体験を展示していた。
映像コンテンツは、ダンスパフォーマンス映像、サカナクションやSuperflyのライブ映像などの音楽コンテンツ、今回特に目玉となったのは「Sting and Shaggy The 44/876 Tour」であった。
昨年12月1日にBS4K/BS8Kの放送がスタートしたばかりだが、ライブで観客として観覧する視点とは異なり、撮影されたライブでしか味わえないアーティストとのカメラの距離感の近さを存分に活かした映像と、ライブ会場にいるような感覚を味わうことができた。
エンターテインメントにテクノロジーが溶け込む時代へ
これまでは、リアルな場に行かなくては体験できなかったものが、映像×テクノロジー、音×匂い×テクノロジーなど、リアルな場での体験に近づけるために、様々な場所にテクノロジーが溶け込み始めている。それは、リアルな体験とは別の新たな感覚を生み出し、それはそれで心地よいと感じることもある。そうすると、これまで以上にリアルな体験の価値が高まり、深まっていく。
SXSW2019では、その場でしか体験することができない「エンターテインメント×テクノロジー」が展示されていた。ぜひSXSW2020に足を運んで欲しい
txt:岡本侑子(kiCk inc.) 構成:編集部