6台のカメラを活用して演奏の様子をライブ配信
カメラマンやクリエイターはどんな思いでGHを選んでいるのか?第2回目に登場していただいたのは、トランペット演奏者兼配信スタジオWAO亭亭主の田中淳氏。自宅リハーサルスタジオで配信・収録のサービスを手掛ける田中氏に、GHを選ぶ理由や新たなGH5 IIへの期待を聞いた。
田中淳
フリーランストランペット奏者。1965年生まれ。スタジオミュージシャンとして活躍する一方で、格闘技イベントRIZINの音楽を担当するほか、テレビ番組などのジングルを制作。コロナの影響でライブ等の仕事が激減したため、昨年9月からライブ配信をスタートさせ、自宅地下のスタジオWAO亭から、ライブ映像を発信している。ビックバンドが好きで、WAOrchestraを主宰。この秋にライブ開催を予定している。
▶WAO亭 Studio
――ライブ配信を始めたのは2020年9月とお伺いしましたが、その以前動画撮影経験はありましたか?
田中氏:
スチルは多少かじっていたかな?という程度で、動画はほぼゼロからのスタートです。最初はビデオカメラを借りて試してみましたが、なんだか画質が白っぽくて好みに合わなかったのでミラーレス機で撮ってみると私のイメージにぴったりでした。
――LUMIX GHシリーズを選んだ理由は?
田中氏:
私の撮影スタイルは、カメラは据え置きでピントはMF固定が基本です。前後に何人か並んだカットを写すとき、フルサイズだと一人にピントを合わせると他の人がボケてしまいます。しかし、マイクロフォーサーズのGHなら、被写界深度が深いので、そんなに絞り込まなくても全員にピントが合います。
しかし、一番の理由は経済的負担が低く済むことですね。ジャズのライブは出演者が意外と多いです。たとえばビッグバンドだと20人になることもあります。一台のカメラで全員を画面に入れようとすると人物の顔が小さくなるため、アップ用のカメラが別途必要となります。それから少人数の編成でもペダルを踏む足下の別撮りをリクエストするドラマーも居たりして。その点、GHシリーズなら、とにかくコストパフォーマンスが高いので低予算でカメラが増やせます。
このほかにも、GHシリーズは熱に強いのでフリーズしないのもGHシリーズを選ぶ理由の1つです。以前、練習から本番まで全部、7時間ぶっ続けで収録しましたが、1回も止まりませんでした。
――今インタビューしているスタジオには、カメラがたくさん並んでいますが、これはどのような設定のセットですか?
田中氏:
ドラム、ベース、ピアノのトリオ、ピアノトリオの配信の時に使った設定ですね。奏者が三人だから、引きとアップ用にカメラは基本的に一人に2台。全体を写す俯瞰用カメラも必要です。映像はHDMIで出力してスイッチャーにケーブルで接続します。
配信中はモニターに張り付いてスイッチャーを切り替えます。スイッチャーはATEM Mini Extreme ISOなのでカメラは8台までOK。カメラ内蔵のSDカードは使わず、データはすべて外部ストレージに記録します。
――これだけの台数のカメラを設置するのに、何か工夫されていることはありますか?
田中氏:
カメラ用の三脚以外に、マイクスタンドも三脚代わりに使っていますが、マイクの中には1本1キロを越えるものもあり、意外と頑丈です。GHシリーズは軽いしカメラ用雲台を組み合わせれば強度は十分。ドラムの風圧で揺れることもありません。もともとマイクスタンドはたくさん所持しており、ライブハウスなどに出張して配信するとときも、備品のマイクスタンドが使えます。それに三脚は伸ばした脚が大きく広がるのでつまづく危険があります。
一応テープで床に固定しますが、この間もカメラごと倒されて今は修理に出しています。その点マイクスタンドは、低い位置で脚が広がっているのでこのような心配はありません。
マイクは楽器やシチュエーションごとに30本以上用意して録音
――撮影や配信面では、どんなことにこだわっていますか?
田中氏:
ご覧の通りフロアがケーブルだらけですが、これはHDMIケーブルのほかにマイク用ケーブルなどがあるからです。私はミュージシャンなので、とにかく音にはこだわってます。マイクは楽器やシチュエーションごとに使い分けるので30本以上を用意し、それぞれの楽器ごとにマイクをセットして録音します。
録った音声はオーディオインターフェイスに入れてMacで加工、ATEMに戻して画像に同期させて配信します。映像も大切ですが、やっぱり私の場合「音ありき」ですね。それに本番中に演者がのって来ると音が大きくなったりするので、常にレベルメーターを見てゲインを調整しています。
音声と映像、通常なら数名で分担するところを一人でやっているので配信中は大忙しです。それから配信は長時間に渡るのでカメラの電源はACアダプターから供給します。お陰で床はケーブルで蜘蛛の巣状態です。
――どのような設定でGHを使っていますか?
田中氏:
いつもHDMI出力で記録しているので、Cinema 4Kや60P 10bitで撮影後の加工を前提にした記録方式は使いません。色味や画質の調整ができる「フォトスタイル」は「ヴィヴィッド」が基本で、曲調や奏者の希望に応じて、撮影中に色みや明るさ設定を変えることもあります。たとえば夜がテーマの曲だと、サビのところだけノスタルジックに変えてみたり。とにかく一瞬で変えられるので演者には好評です。
特にGHシリーズは前ダイヤルの後ろに一列に並んだWB、ISO、露出補正ボタンがとても使いやすく、ソニーと比べると使用頻度の高いメニューの階層も浅くてユーザーのことを良く研究していると思います。
ISOはいつも1000以下で撮影しています。WAO亭のスタジオは意外と明るいので、明るくしすぎると眩しくて演者が楽譜を読めなくなります。しかし、なかには暗いライブハウスもあるので、そのときはGH5Sを借りることもあります。
高速連写撮影機能の6Kフォトモードもよく使います。モニターを眺めていて良いシーンだと思ったらスイッチャーの前を離れてカメラの所までシャッターを押しに行きます。大きなサイズにプリントするときも、6Kは4Kより画質が断然きれい。手ぶれ補正も効くので失敗もありません。
GHはミュージシャン好みの画なのかもしれない
――ミュージシャンが好む画というのはありますか?
田中氏:
一言でいうと黒が締まっていてシックな感じ。露出もアンダー目で撮ると、「あっ、これがいい」と皆さんおっしゃります。撮影のときは露出補正のほか、AEロックもよく使います。ハイライトの部分に露出を合わせてAEロックすれば暗部がつぶれて全体に暗いイメージに。プログラムAEと組み合わせると便利です。
ホワイトバランスはオートが多いですね。ライブハウスの照明は、いろいろな種類の光源が混ざったミックス光です。最初はグレーカードを使ったりケルビンで設定してましたが、下手にマニュアルで設定するよりオートのほうが簡単だし色味も自然。なので最近はオートばっかりです。それに他社に比べてパナソニックはミックス光に強くてちゃんと白が白に出ます。
私の配信を利用するミュージシャンにはリピーターが多いのですが、「これって、もしかしたらGHがミュージシャン好みの画なのかな?」と、思うこともあります。
――配信にはどのようなレンズを使っていますか?
田中氏:
広角がメインです。マイクロフォーサーズは広角レンズが充実しているので、レンズ選びは特に悩みません。最初はパナソニックのVARIO 7-14mm F4が第一候補でした。でもオリンパスの方が開放F値が1段明るいので、こっちにしました。
値段は高いですが、EDレンズなので写りがシャープで、周辺の流れが気になるときは、1~2段絞れば大丈夫です。このほか単焦点では寄りのカット用に パナソニックのLEICA DG SUMMILUX 25mm F1.4、浅い被写界深度が必要なときはLUMIX G 42.5mm F1.7などを使います。
GH5 IIは逆光に強い。ライブハウスのゴーストを抑制
――従来機種と比べて、GH5 IIで良くなったと感じた点はありますか?
田中氏:
MOSセンサー表面のARコーティングが変わって逆光に強くなりました。ライブハウスで演者の後ろからスポットライトを当てて逆光で撮ると、これまでは人物がゴーストに埋もれてしまい使いものにならないことが多かったですが、GH5 IIで撮ってみたら「あっ違う」とすぐに思いました。たたでさえライブハウスは点光源が多くてゴーストが出やすい条件なので、ライブ配信をしている仲間は喜ぶでしょうね。
手ブレ補正もGH5 IIのほうがGH5よりも強力ですね。スタジオから配信するときも、固定しているカメラを雲台から外して手持ち撮影に切り替えることがありますが、何をやっても画が揺れないみたいな感じです。それにUSB給電と充電に対応したのでUSBCケーブルをカメラから抜けば即手持ち撮影ができるし、バッテリー残量を気にしなくて済みます。
それからほとんどの方は気にしないかも知れませんが、GH5 IIの方がHDMI出力の遅延が少ないです。2フレームくらいのわずかな差ですが、音声と画像のズレが少なくなりました。とにかくGH5 IIは私がこれまで使ったカメラのなかで最も欠点がないカメラです。
次世代機種にはタリーランプ搭載を望む
――GH5IIにあったらいいなと思う機能はありますか?
田中氏:
私のようにマルチカメラで音楽のライブ配信をするユーザーは多くないかも知れませんがタリーランプが欲しいです。今どのカメラの映像を配信しているかが演者に伝わらないと目が泳いでしまいます。
それから、カメラ機能ではないので、パナソニックとは関係ありませんが、電動スライダーとか電動雲台などのアクセサリーをこれから揃えて行きたいです。なんと言っても一人で全部の作業をやっているので、他所のライブハウスなどで見かけると羨ましくなります。
中村文夫|執筆者プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。日本カメラ博物館、日本の歴史的カメラ審査委員。