「NFT」は外せないCES2022

今年のCESに流れ込んできたホットなキーワードの一つが「NFT」だ。「Non-fungible token(非代替性トークン)」の略で、ブロックチェーン技術を活用することによって、映像、画像や音声をはじめとしたデジタルデータの売買や収集、投資をすることを示す言葉となっている。映像制作関係者がPRONEWS読者には多いと思われる。NFTは、映像の世界にも親和性のある話だ。

このブロックチェーン技術の最たるものは「Cryptocurrency(暗号通貨)」。 日本ではどうしてもビットコインなどの通貨を短期売買して利ザヤを得る投機対象として語られがちだが、「所有権の記録がデジタル上保存される」「暗号により取引履歴が残る」「新たなコイン生成がコントロールと所有権の移転が確認される」といったブロックチェーン特有の機能を持つ取引手段として期待を集めている。

Cryptocurrencyがオープンに語られ、ブロックチェーン技術が転用されたアート市場の新たなエコシステムが一足先に花開いたアメリカならではの視点で、「NFTとは何ぞや? 」「クリエイターやアート市場にどんな進化と変化をもたらすか? 」を語るセッションがCES2022でも設けられた。

NFT、 WTF?!?!

ブロックチェーン、暗号通貨、そしてそれがどのようにNFTバブルを生んだか? などを、アメリカ大手タレントエージェンシー「United Talent Agency」のデジタルアセット部門責任者Lesley Silverman氏と、プラットフォーム「Art Blocks Inc」CEO兼FounderのErick Calderon氏により、基礎的な部分から語られたセッションだ。

ちなみに、NFT市場に舞い降り、クリエイターとのコラボレーションを始めたセレブリティ代表としてパリス・ヒルトンが来るはずが、ドタキャンした回でもある。

セッションで語られた主な点は、

  • 2017年頃から始まったNFT市場の黎明期について(主にNYC)
  • ブロックチェーン技術を使ったNFT取引の概要
  • クリエイターの継続的な収入源を確保するスマートコントラクトの役割
  • Discordを軸にしたNFTコミュニティ(DM内のフィッシング詐欺には注意! )
  • 企業によるNFT市場参加はまずは既存コミュニティ支援から
  • と、「NFTとは何ぞや? 」に親切に応えた内容だ。

    例えば、ゴッホの絵が生前売れなかった話が挙げられる。「才能が見いだされず売れなかった」のではない。ゴッホ、弟のテオ(画商)共に没して「売るタイミングを逃した」のが事実のようだ。

    初回取引の値段が画家、画商には売上となる。当時に画家が描いたそばから絵を売ってもなかなか値がつきにくい。

    ゴッホもテオも「作品を書き貯め、展示会を催して、周知をし、人気を集めて販売す」を選択した結果日の目を見ることがなかったのだ。

    これがもしNFT市場であれば、テオは普通に兄との専属契約で絵をプラットフォームへ出品手配し、2次流通、3次流通をするたびに「誰が売り、誰が買ったか」が記録され、そのたびにゴッホも収入が得られることになる。

    仲間とDiscordを介したコミュニティでつながりを維持して創作意欲を保ち、Twitterで作品告知ができ、ゴッホの「俺は無名の画家のまま人生を終えるのか」という悲しみも解消された可能性もある。

    NFTはブロックチェーン技術特有の透明性が、作品が消えてしまうことを防ぎ、アーティストが自らの成功に参加できるようにする仕組みを生み出す新たなエコシステムといえる。

    セッションでは、NFTは「金融ツールの上にメディアが直接乗っかっているような仕組みのもの」と表現。アーティストは自分の作品が取引されること、自分の作品を購入してくれるコレクターのコミュニティに新たな価値を生み出し、取引が継続され、作品が永続することや自分たちのコミュニティにもっと多くの人が入ってくることを望み取引を奨励する。そのため、以前のアート市場よりもスピードが加速しやすいと語る。

    企業が既存コミュニティの支援から取り組んだ好事例としては、2021年12月にロレアルパリUSAが行った、新しい口紅シリーズ「Reds of Worth by Colour Riche」発売でのNFTアートの取り組みを挙げた。ロレアルパリUSAは、NFT市場で収益を得ているアーティストの大半は男性であることに課題感を持ち、女性アーティスト5名に口紅の赤い色にインスピレーションを得たNFTアートを依頼。アーティストは一次売上の100%を獲得、「二次市場」での売上の50%は、女性支援活動へ寄付を行っている。

    登壇した2名は、新世代のデジタルネイティブな人材、クリエイティブな人々、アーティストを発掘し、必ずしもデジタルアートの声を持っていない人々と組み合わせを今後もより促進したいと語る。

    How Technology Finally Disrupted the Art Market

    続いてのセッションでは、「アーティスト、アートワーク、そしてNFT:セカンダリーマーケットがいかにアーティストによって取り戻されたか」がテーマ。

    先ほどの「United Talent Agency」のデジタルアセット部門責任者Lesley Silverman氏をモデレーターに、アーティスト名「ThankYouX」で知られるRyan Wilson氏、NFTアートの印刷とフォトフレームの「Infinite Objects」COOのRoxy Fata氏、NFTやデジタルアートをディスプレイ展示をする「Danvas」CEOのJeanne Anderson氏、NFTのクリエイター向けツールやコレクター向けマーケットプレイス「Blockparty」CEOのVladislav Ginzburg氏と、アメリカのNFT市場を代表したメンバーが、彼らの市場の今を語った。

    基本的には先ほどのセッションと共通するが、より当事者目線で生っぽい体験から語られた。このセッションでは特に、「今までのアート市場とは全く違う商流や動きを作るもの」として、コミュニティやSNSが重要な役割を果たしていることに軸足が置かれていた。

  • コレクターとアーティストとの関係の変化
  • 分野への参画=エコシステムやコミュニティの一部になること
  • 収集した後に所有権の証明としてのデジタル展示
  • セッションで語られた主な点は、以上の通りだ。実際に生み出す、支援する、コレクターとなる、それぞれのアングルで語られた。

    共通して語られた、破壊的創造に至る部分は「アートの民主化」という側面。アーティストは今まで見えない存在だったコレクターと対話をし、DiscordやTwitterやTelegramで大きな取引も行うような構造変化がある一方、成長過程の市場でもあり、全員が最前線となって、より良くしていく必要がある点にも触れられていた。

    NFTでお茶の間へ。日常を飾る

    キープレイヤーによるセッションの中でも触れられた通り、NFTの所有権はブロックチェーン技術により記録される。所有権の証明として「飾りたい」という欲求も今後発展すると捉えられている。

    確かにSNSに「買ったよ!」とシェアする以外、現状、美しいディスプレイで鑑賞そのものをする場は少ない。

    そのようなニーズを受け、今回Samsungから発表された次世代型のスマートテレビに搭載される「スマート・ハブ」機能の中には、「NFTプラットフォーム」が入っている。

    NFTの購入未経験者にも、自宅のディスプレイから「NFTのデジタルアートワークを探し、購入、取引」が行えるようになり、自身が所有するNFTを「自宅鑑賞」することができる。

    画質も2022 MICRO LEDでは、100万ステップを超える明るさと色レベルのコントロール、DCIとAdobe RGBの色域を100%表現する等、アート作品にも耐えうる仕様となっている。 アーティスト兼デザイナーのRefikAnadol氏による2つの独占メディア作品も付属するため、「自宅に飾る」という習慣も取り入れやすい。

    先ほど、「アートの民主化」の文脈でエコシステムが語られたNFTだが、好みの作品やアーティストに出会えるかもコミュニティ探しに掛かっており、利便性はこれからでもある。

    直感的に探し、見つけて、所有し、自宅鑑賞できるようになることで、すそ野が広がり、多くのアーティストが見出され、コレクターが自宅鑑賞して楽しむ世界も、近づいていると感じる製品だ。 もしかしたら、未来のゴッホのようなアーティストを、私たちは自宅で見つけて、飾る日が来るかもしれない。