Vol.08 日本のスタートアップのカメラソリューション2例[CES2022]

日本のスタートアップが熱い!

経済産業省、JETRO、NEDOによるスタートアップ支援プログラム「J−Startup」は、CES2022に52社(コロナによって現地での直接参加を見送った企業あり)が参加した。その中から、カメラを利用したソリューションを2つ紹介したい。

沖縄のスタートアップによるアナ・デジ変換カメラ

沖縄のスタートアップであるLiLzは、低消費電力IoTカメラと機械学習を活用して、アナログメーターなどの目視や巡回点検をリモート化、自動化できるクラウドサービスLiLz Gaugeを展示した。

Vol.08 日本のスタートアップのカメラソリューション2例[CES2022]
IP65に対応した筐体

工場、研究所、各種プラント、工事現場、商業施設などの現場において、メータや計器類の監視やチェック業務は非常に多い。こうしたメーター類の多くはアナログなものであり、表示だけがデジタルの7セグメントLEDであっても計測データをデジタル的に収集できないものがほとんどである。そこでIoTカメラと機械学習によってアナログ情報をデジタル変換するものである。

システムは「LiLz Cam」と呼ばれるIoTカメラと、クラウドシステム「LiLz Gauge」で構成される。LiLz CamはLTEまたはBLEでLiLz Gaugeやスマホアプリに接続する。LiLz GaugeはAPIを介して他のシステムと接続することで、プラント全体の制御を自動化する事が可能になる。

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システム構成

LiLz Camは内蔵のリチウムイオンバッテリーで3年稼働させることができる。これは現場では非常に重要なことで、電源が供給できなかったり、立ち入りが困難であったりすることが多いために、極力メンテナンスフリーで連続稼働できることが望ましいのだ。

またLTEまたはBLEといったワイヤレスで接続できることも重要。電源や通信のためのケーブル類は無いに越したことはない。暗いところで使用する場合のために照明も内蔵している。レンズは標準レンズにケンコー・トキナーの望遠2倍と8倍のレンズに対応するアダプタも同梱されている。カメラは他にも温度や湿度の耐性、防塵防滴はIP65相当で過酷な現場環境にも対応できる仕様である。

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ケンコー・トキナーの望遠レンズを装着した場合
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クラウド側での分析画面の例

データ化のための機械学習はエッジ側ではなくクラウド側で行う。これはバッテリー寿命を優先しているからだ。対象となる機器ごとに設定を行い、使用する計測アルゴリズムの選択ができる。円型、半円型、7セグ型、カウンタ型、色のついた警告灯などを読み取ることができる。より精度を上げるために、画像を人的に確認し必要に応じて修正することもできる。これは設置環境や求められる精度やデータ化の頻度などで使い分けを行う。

このようにすでに可視化されている情報を人間が確認している作業を、遠隔化や自動化するといったニーズは、IoTの現場に限らず、放送や営巣制作の現場でも有益な場面もあるのではないだろうか。たとえば放送マスターや各種機材の表示内容の取得、交通信号に連動したデジタルサイネージなのである。

フェアリーデバイセズのLTE搭載PoV(Point of View)ウエアラブルカメラ

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首にかけることでハンズフリーになるLINKLET

もう一つの示唆に富んだガジェットは、フェアリーデバイセズのLINKLETである。「Wearable Technologies」、「Streaming」、「Digital Imaging/Photography」の3部門でCES 2022 Innovation Awardsを受賞した。LINKLETは映像と音声による同期型のコミュニケーションに特化したもので、ライブ中継システムとも言える。音声はリアルタイムの双方向での会話が可能で、声による指示を受けながらハンズフリーで必要な映像を送ることができる。この通常のスマホでももちろん可能なことであるが、ハンズフリーが極めて重要なことである。

LINKLETはコネクテッドワーカーというコンセプトから、遠隔メンテナンス関連や警備、あるいはその先にはリモートによる観光、放送によるライブ中継といったニッチなマーケットで改良を重ねながら徐々に幅広いところに広がっていくものであると考える。

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イノベーションアワードを3部門で受賞

LINKLETはハードウエアとして非常によく練られたガジェットである。ハンズフリーでPOV(Point of View)を実現する際に、人間の身体の中で最もカメラがブレない位置と装着方法が現在のスタイルなのだと言うことだ。さらに、実は映像以上に重要である音声の扱いや音声処理に優れている。複数の音源が存在している場合に、本体に内蔵された複数のマイクから最適なものを使用したり、クラウド側で高度な音声認識エンジンを動かすことができる。

そしてLINKLETは、リアルな場所にいる人が遠隔地、すなわちその人から見たらバーチャルと言える別の場所(空間)にいる別の人に対して、会話によるコミュニケーションしながら、現地の映像を得ることができるもの、という味方ができる。これはいま注目されているメタバースそのものである。

メタバースというのはオンラインのバーチャル空間のことだけでは無い。オフラインからオンライン空間にいる人や物を、リモートで操作するものではない。オンラインとオフラインを自由自在に往来するものである。このことはCES2022ではヒュンダイのメタモビリティーという考え方に明確に現れている。

LINKLETは単体で使用できるが、必要に応じてスマホアプリも使う。これらはいまできることを実装して積み上げられてきたノウハウである。インターネットとAIなどによって、スマホで実現できるようになったさまざまな体験を、スマホという汎用機よりも遥かに快適に使うことができる。

こういう点から次世代のスマホのあるべき姿というものは、決してディスプレイがフレキシブルになることだけではないはずだ。こうしてそろそろ次のスマホ的なるものが見え隠れし始めている。