開局6年目のニュース専門チャンネル
ABEMA NEWS(アベマニュース)は、新しい未来のテレビ「ABEMA」が2016年に開局と同時に配信を開始したニュース専門チャンネルだ。テレビ朝日とサイバーエージェントが新しい形の動画配信事業として「ABEMA」を発足、その中でニュースコンテンツ企画制作をする株式会社AbemaNewsを設立した。
最新ニュースを24時間配信し、さらにはノーカットでの記者会見放送など地上波テレビのルールにとらわれない番組で構成されている。いわば、地上波とネットのハイブリッドであることも彼らの強みだ。
ニュース番組の収録や生放送は、東京・六本木のテレビ朝日の一角にある「EXけやき坂スタジオ」で行われている。2021年、ABEMA NEWSにソニーのCinema LineであるFX6が3台導入された。ニュース配信の世界にシネマカメラが導入され、日々運用されていることは、非常に興味深い。
今回は、ABEMA NEWS 技術統括の森山顕矩氏と、「ABEMA Moning」プロデューサーの河野晋也氏に、ソニーCinema Line/FX6の導入意図や、その経緯、また実際の運用などについてお聞きした。
森山顕矩氏
テレビ朝日 技術局技術運用センター(ABEMA NEWS 技術統括)
河野晋也氏
サイバーエージェント(ABEMA Morning プロデューサー)
ABEMA NEWSとCinema Line:インタビュー動画
演出目的で導入したFX6が、ニュースの現場に与えた変化とは?
――ニュースの現場にシネマカメラが導入された事は大変興味深いです。FX6導入の経緯を教えて下さい。
森山氏:
FX6は、2021年4月末に導入しました。それまではPTZカメラや放送用スタジオカメラを用いて一般的なテレビ番組の制作方法で行っていました。
開局後数年経ちまして、ABEMA NEWSは、2021年にリニューアルの準備を進めていました。いろいろ変えていこうという中で、映像制作方法も刷新の動きがあり、表現方法や演出も変えようと、さまざまなテストに取り組んでいました。
そのタイミングで、FX6が発表され「これだ!」と採用しました。FX6導入の決め手は、フルサイズセンサー搭載のコンパクトな筐体、そして何よりもSDI端子が実装されているシネマのような表現ができるカメラであることです。
スタジオでのカメラ選定をする上で、他にもソニーのデジタル一眼カメラα7シリーズなども候補には上がっていましたが、SDI出力がなくカメラの先にスキャンコンバーターが必要で煩雑になるために、スタジオ運用での導入は断念しました。
またF55クラスですと、運用面では問題ないですが、FX6の前では、コンパクトさに欠けてしまいます。
デジタル一眼カメラαシリーズで培われた瞳AF(オートフォーカス)機能の性能の高さは、すごく魅力的です。特にABEMA NEWSの場合、アナウンサー1人の収録であれば、ある程度割り切ってAFを使って配信します。
緊急のニュース配信でも、少人数体制のためAFを使用していますが、これまで運用上、ピントが外れるなどの問題は起こっていないです。カメラの位置調整と画角さえ決めれば、演者さんが動いてもフォーカスを合わせ続けてくれるので非常に助かっています。
FX6は、まさに空いていたところを埋めてくれたポジションのカメラだと思います。結果、FX6がABEMA NEWSにはうまくマッチしました。
河野氏:
制作側の視点で言うと、被写界深度の浅い映像も番組の中で使用します。ただ、生放送でかつニュース番組でシネマのような表現ができるカメラを使うことはあまり聞いたことはありませんが、以前よりこういったカメラでニュース番組を制作してみたいと思っていました。
被写界深度が浅くなる事で、背景がぼけて被写体(=アナウンサー)が印象的に際立ちますので、ニュースを伝えるという上でも、視聴者の方が、内容に集中でき、相性が良いのでは?と考えていたからです。単純に映像も心地よいものになります。
――実際にどのように運用されていますか? システム構成も合わせてお教えください。
森山氏:
現在3台のFX6をリモート雲台に載せて、別室のサブ(副調整室)からオペレーションしています。つまりカメラマンはスタジオのフロアにはいません。サブ(副調整室)からそれぞれの映像を見ながら、全て一つのオペレーション卓でカメラマンが、操作しています。
また、放送用のサブ(副調整室)のシステムと繋いでいるため、タリー情報などもサブ(副調整室)から送り、オペレーションが完結するシステムで構成されています。
森山氏:
ABEMA NEWSにはカメラマンやVEが24時間常駐していません。一方、ニュースは、24時間365日、いつ起こるかわかりません。緊急のニュース速報があれば、いつでも生配信できる状態にするのが至上命題です。
ABEMA NEWSでは、ディレクター1名でも、カメラ操作できるようにし、最小限スタッフのみで配信可能なコンパクトなシステム構築をしており、電源も基本的に24時間つけています。
河野氏:
レンズの選択については、当初は、放送用サーボ付きズームレンズを想定していましたが、実際にスタジオが組み上がり、カメラを置いてリハーサルしてみたところ、物理的に背景をぼかす演出というテーマが難しくなりました。
そこでFX6には、Gレンズで「FE PZ 28-135mm F4 G OSS」を2本、50mm単焦点のレンズを1本導入しました。ズームレンズは主に演者1ショット等を撮り、進行に合わせてオペレートしています。2ショットなど広い画を撮るカメラには背景をぼかすために単焦点レンズを使用し、あとは制作面で補うことにしています。
――従来のカメラシステムとの違いはどうでしょうか。シネマカメラでの運用は、いかがですか?
森山氏:
ABEMA NEWSは、新しい事にチャレンジするという意識が強い社風です。ニュースの現場でシネマカメラを使うこともその一つだと言えます。FX6は、筐体もコンパクトでSDI出力端子もついていますし、雲台に載せ、サブ(副調整室)からのオペレーションなどスタジオカメラ的な使い方も可能で、テレビ朝日のニュース・報道としてのクオリティーも担保されています。
ABEMA NEWSは、スマートフォンでの視聴が多いのですが、テレビ、パソコンなどの視聴環境を踏まえた画作りを意識しています。スマートフォンサイズを考慮して、意図的に人物を際立たせるために少し画角をタイトに撮ったりすることもあります。
またニュース番組の演出としてフリップやモニターを再撮することも多くあります。その場合は、別の放送用カメラで撮影を行いますが、その際に映像のトーン合わせもCinema Lineであれば、比較的に容易に実現できます。FX6からRec.709で出力しつつ、シネマティックな表現も残しながら、他のカメラの映像にもうまく融合できる部分も良いところです。
テレビ朝日の技術局としても、新しい技術はどんどん取り入れて研究活用しています。その中でもABEMA NEWSは、新しいことにチャレンジする急先鋒となっていますね。
河野氏:
現在はスマートフォンだけではなくTVモニターでの視聴者数も増加傾向にあります。スマートフォンだけに視聴者層を絞っているわけではありませんが、ABEMA NEWSは単純に生放送で終わるのではなく、放送後もオンデマンドで後から視聴可能ですので、映像単体でしっかり見てもらえるような番組作りを心がけています。
ABEMA NEWSは、世の中で今何が起きているかを24時間365日リアルタイムでお伝えするのが、一番の強みで、プラットフォームとしてもそこを目指しています。いつ見ても心地よい映像でニュースをお届けすることが、このFX6の導入によって実現できたと思っています。
――FX6での映像について、視聴者からの反響などはいかがですか?
河野氏:
ABEMA NEWSは視聴者からコメントを直接頂けます。FX6導入後の反響で、「キレイな映像ですね!」などのコメントを多く頂きました。演者さんからも良い反響を頂いています。
ここ(EXけやき坂スタジオ)は、ご覧の通りガラス張りで、屋外の景色も見える環境です。一年を通じて、季節の移り変わりや時間など、その時のリアルな状況もこのカメラなら伝わるのではないかと思っています。たまに他のチャンネルの映像を見た時に、他とは違う映像の仕上がりだなとは感じますね。
FX6にしたことによって映像のクオリティーは担保されました。良い意味で、我々の目が肥えてきたと思います。視聴者にも被写界深度の浅い印象的なニュース番組といえば、ABEMA NEWSだと思っていただけるのではないでしょうか?
森山氏:
肌のトーンも自然で滑らかに階調が出ますので、映像表現の高さや美しさを感じますね。ガラス張りのスタジオでの収録ですので、外を歩いている人も映像的には結果として、ぼけによるぼかしが入り、プライバシー配慮という点でも良いですね。
FX6と一緒に目指す、次の映像表現
――今後どのように活用していきたいですか?
河野氏:
FX6での収録映像は、綺麗に仕上がりますので、番組PRや素材用によく二次利用します。ですが、まだFX6の性能を100%活かせていないと思っています。FX6だからこそできる映像表現を、もっと演出面、制作面でも活用したいです。
現在の制作体制でいうと、スタジオで撮影はAFのみで収録を行っていますが、今後はカメラマンに付いてもらうなど、より高度な使い方に取り組みたいですね。
ただ制作現場の現状で、密を避けるというご時世的な部分もあり、コンパクトな制作体制で運営するのが基本になっています。スタジオの改良を含めて、クオリティーの高い映像表現ができるベースは整いましたので、これからはFX6の使い方を研究して、もっと番組自体を知ってもらえるように番組制作に取り組みたいと思います。
森山氏:
中継素材の撮影をCinema Lineのカメラで取り組んでも面白いと思います。現在、ニュース素材は、ENGカメラで撮影したものが送られてきます。特に人物を取り上げる場合は、Cinema Lineのカメラを利用して中継することも、新しい手法になると思っています。
今は全てRec.709で出力していますが、そこもS-Cinetoneで出力するなど、もっと作り込んだ画もドキュメンタリーなどで活かせると思います。生放送でも演出でS-Cinetoneに柔軟に変えたりするのも面白いかなと思っています。
映像表現という部分では、今回Cinema Lineを導入して、ニュース番組でも肌の質感や色のトーンをよりこだわって撮る意義を見出せたので、この部分の幅をさらに拡げていきたいですね。
――ソニーCinema Lineについて、感想や要望はありますか?
河野氏:
限られた予算やリソースの中で最大限のパフォーマンスを発揮しなければならない仕事には、FX6の選択は正解だったと思います。またFX3もロケなどで運用しやすそうですから、導入したいですね。
プライベートでは、FX3が気になっています(笑)。テレビ番組はもちろんですがプライベートでもいい映像が残せるカメラは欲しいですね。
森山氏:
欲を言えば、FX6に着くサーボ電動ズームレンズのラインアップが少ないので、今後、さらに拡充されてくると良いなと思いました。またネット配信機能の拡張で、カメラ本体からの配信ができるようになると、現場からの配信やリモートプロダクションなども実現でき、使い道がさらに拡がるでしょうね。