テレビ局でCinema Line FX3導入

KYTの愛称で知られる鹿児島讀賣テレビは、1994年に開局した鹿児島県に5つある民放局の中で最も新しいテレビ局。ローカル局として地元独自の情報を盛り込み、自社制作番組、月~金曜午後6:15~の夕方のニュース情報番組「KYT news every. かごしま」、そして毎週金曜午後3:50~のオリジナル情報番組「かごピタ」などを担当している。これらの地元取材用の撮影機材として、テレビ局では珍しく、大判センサー搭載のシネマカメラが導入された。それがソニーのCinema Lineカメラ「FX3」だ。

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通常、テレビ局の取材カメラといえば、ショルダータイプのカメラ(ENGカメラ)か、ディレクターや記者自身が一人でカメラを回しながら取材するハンドヘルドタイプのカメラ=通称"デジカム"が定番だ。

鹿児島讀賣テレビでは、ENG機材も使用される中、画質や画風のトーンが異なるシネマカメラを導入した。その理由とは何か?

「かごピタ」を担当し、技術周りの取りまとめ役である技術局 技術部の百瀬将義氏と、「KYT news every. かごしま」の中で、主にニュース取材の撮影、編集を担当する、報道制作局・撮影の濱田恵太氏に、今回のFX3導入の経緯とその理由、実際の活用実績について話を伺った。

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濱田恵太氏(左)、百瀬将義氏(右)

百瀬将義氏
技術局 技術部(鹿児島讀賣テレビ)

濱田恵太氏
報道制作局・撮影(鹿児島讀賣テレビ/鹿児島ビジョン)

若い局だからこそ新しいテクノロジーにも積極的

――FX3導入の経緯を教えてください

百瀬氏:

局としてシネマカメラを導入するのは今回が初めてです。社内的にもシネマのような被写界深度の浅い印象的な映像ニーズが高まっています。鹿児島では一番若い局なのもあって、考えが柔軟で、固定観念にとらわれる方もあまりいないので、新しいテクノロジーの導入も積極的ですね。
ソニーのXDCAMもかなり早い時期に採用しました。今回、FX3のようなシネマの映像表現が可能なカメラの本格導入にも大きなハードルもなく、地上波テレビ局としては早い方だと思います。

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濱田氏:

地元九州の話になりますが、九州写真協会主催の映像コンクールが開催されています。毎年約30作品が応募されるのですが、最終選考に残る10作品そのほぼ全てがミラーレス一眼カメラで撮られた映像なのです。そうした傾向もあって、小型でシネマのような被写界深度の浅い印象的な映像が撮れるカメラは必須の機材になっていますね。これまでは私が個人所有しているα7Sなどを使ってきましたが、やはり業務用機材ということで、局に導入されたのがFX3でした。

FX3
ソニー、Cinema Lineシリーズ最小最軽量のフルサイズセンサー搭載カメラFX3。筐体サイズはミラーレス一眼カメラ同等だが、動画撮影がしやすい操作性と冷却ファンを内蔵し長時間の収録をサポート。2021年3月発売

機材の入れ換えではない、実現したいことがあった

――今回FX3導入での目的はどんなものがあるのでしょうか?

濱田氏:

今回の導入は決してデジカムの入れ換えというわけではなく、FX3の特性を取り入れたくて導入しました。「大判センサーを活かした演出効果」、「シネマカメラの特長である豊かな色表現」、そして「高感度性能を活かした撮影効果」、これら3つの実現したい目的がありました。

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ニュース番組内のコーナー企画などでFX3が多用されている

1:大判センサーを活かした演出効果

濱田氏:

いまは"日ネタ"と呼ばれる、デイリーニュースの中で使用しています。先日もあるカフェ取材で、店長さんへのインタビュー撮影がありました。基本、周囲の方が映り込まない配慮が必要です。FX3で絞りを開けて、被写界深度を浅くして撮ることで、本人以外の周囲の方がいい塩梅でぼけるので、編集時に周囲のぼかし処理が不要になります。機能がそのまま良い方向の演出につながることがいいですね。
いわゆる街ロケの中では、料理のクローズアップショットでシズル感を演出しています。料理のクローズアップカットなどでFX3を使う場面が一番多いですね。例えばKYT news every.の中で、「気になるランチ」という企画コーナーがあります。
店内の取材シーンなどのメインカットは、取り扱いが慣れているENGカメラであるソニーのAVHDカムコーダーHXR-NX5JやPDW-F850で撮影していますが、料理シーンのみクローズアップしてFX3で撮影することで、色味も被写界深度の雰囲気も、他ENGカメラで撮った映像素材と全く異なるので差異化できます。
発色の良さを生かして、素材からフォーカスインさせるなど、演出面での効果も狙っています。牛肉ステーキなどのアップでとても美味しく見えます。空腹時にこの素材の編集は危険です(笑)。
暗い店内でも被写体の明るさをISO感度で調整できますし、色味も高品質でかなり違って見えます。これが映像の中でも際立って、料理の印象を良くする効果にもなります。むしろ他のカットと色味を合わせることなく、メインの被写体である料理を際立たせることができるのです。他のスタッフにも「番組のキモとなる部分でFX3を使うと良いよ!」と教えています。

2:シネマカメラの特長である豊かな色表現

濱田氏:

冬の撮影では、ニュース企画の中で薪ストーブの特集がありましたが、雰囲気の演出でFX3のトーンが活躍しました。炎の質感やリアルな色再現は、さすがだなという雰囲気を撮影できました。
Cinema Lineの共通思想でもあるS-Cinetoneに興味があり、今後は使っていきたいと思っています。

3:高感度性能を活かした撮影効果

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濱田氏:

例えばコンサートのライブ会場などで客席の人を撮る際、周囲が暗い現場や、ドキュメンタリー番組などの、狭い場所での撮影や夜間などの暗がりで照明がない、もしくは使えない場所での撮影では高感度性能をもつFX3は暗部での撮影に強いため非常に助けられますね。
6月中旬くらいに、近年産卵場所として注目されている喜入海岸で、海亀の産卵シーンの夜間撮影がありました。夜間撮影は外部電源供給用に大型蓄電池を現場に持ち込み、定点観測撮影を行いました。自然の動物が被写体のため照明は焚けないのです。 夜中23時から明け方4時くらいまで撮影しましたが、FX3でははっきりと写っていて、高感度の良さを実感しました。他のカメラと比べるとかなりノイズ少なく画質の差が出ていて驚きましたね。
また水族館での撮影でも照明は禁止されているため、FX3の高感度ならでは、ノーライト撮影が実現できることも助かりますね。
あと夜間の事件など突発的な取材にもいい。なぜなら実証済みなんです。FX3だとノーライトでもキレイに写るんですよ。街灯の光量だけで補えられます。

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自然観察など夜間でノーライトの現場でも、暗所撮影においても高感度性能を持つFX3が活躍。収録画面の比較、FX3(左)、α7SⅡ(右)
※画像をクリックして拡大

セットアップとレンズ、お気に入りの機能

――取材時のFX3標準セットアップを教えてください

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取材時には、XLRハンドルユニットに2波受信可能なワイヤレスマイク用UHFシンセサイザーダイバーシティチューナーUPX-P03Dを装着

濱田氏:

FX3に同梱のXLRハンドルユニット、そこにガンマイクとミニモニターをつけることが多いですね。収録フォーマットは各人に任せていて、編集機が対応していないXAVC HS 4K以外はなんでもOKです。
私自身はXAVC S 4Kで撮っています。XAVC Sのデータは高画質でありながら軽くて取り扱いも便利ですね。4K素材でもネットワークサーバ経由できちんと再生できるのは凄いですよね。フレームレートは30pもしくは60pですね。120pは今後スポーツ撮影で活かしたいと持っています。
AF(オートフォーカス)はかなり使用します。移動撮影時のフォーカス合わせは難しく、FX3ならば人物撮影はリアルタイム瞳AF、動く被写体においてはタッチトラキングを活用し対象物をしっかりと追えます。4K撮影時、FX3の背面液晶モニターではマニュアルフォーカスでのフォーカス確認が難しいため、AF使用は必須ですし、非常に重宝しています。
最近は私以外のスタッフもFX3を使う機会が増えています。色々な機能のことやその機能をどういう場面で使えば良いかなどを聞かれることも多くなりました。例えば、全画素超解像ズーム機能は4Kでは1.5倍ですが、フルHDだと2倍になるため、エクステンダーと同じように使えて便利だよ、という話はよくしています。

――レンズラインアップはどうでしょうか?

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個人所有のα7Sとレンズ群を共有できるのもFX3の強み

濱田氏:

レンズは、メインでFE 24-70mm F2.8 GMと、単焦点FE 50mm F1.8などを使用しています。個人所有では、α7S用にFE28-70mm F3.5-5.6 OSSと、E PZ 18-105mm F4 G OSSがありますが、FX3でもこれらのレンズも使用することがあります。
先日、個人的にレンタル使用した新しいFE PZ 16-35mm F4 Gが小型でパワーズームも使え、ムービー撮影向きでとても良かったですね。かなり接近した撮影でもしっかりと人物を捉え、なかなかすごいなと思いました。
あとは望遠ズーム系のFE200-600mm F5.6-6.3 G OSSや、FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSSは会社でぜひ導入したいレンズではあります。

百瀬氏:

局としては、FX3や他のカメラ機材の台数を増やすよりも、まずはEマウントレンズを増やしていくことになります。

――FX3のお気に入りポイントや機能はいかがでしょうか?

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FX3はボディ前面右下のRECボタンが使いやすい

濱田氏:

ボディの前面右下にRECボタンがあるところです。カメラを上部に構えた時でもRECが容易で、これはビデオカメラ操作系のアイデアですよね。
あとは4chの音声入力です。3・4chの音声が活きるのがありがたいですね。2chのみではバックアップ音声が取れないんですよ。そのためワイヤレスマイクを3・4chに入れて、1・2chにカメラ音声を入れるなどの対策ができます。あとは外部電源が使用可能なところでしょうか。モバイルバッテリーも使えますし、ENGバッテリーでUSBポートから電源供給できるのも便利です。
XLRハンドルユニットが堅牢な作りなのは嬉しいですが、もう少しネジ穴が多かったり、ユニット上部にもホットシューがあればライトなどを装着できて、もっと便利だと思います。

突発的な取材には、FX3に持ち替えて

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今後も番組内の素材撮影用カメラとして、FX3の活躍の場が増えそうだ

――テレビ局から見たFX3の導入メリットと使い勝手はどうでしょうか?

百瀬氏:

これまでシネマカメラをサブカメラとして導入したことはありませんでした。今回のFX3導入により、カメラマンにとっては、撮影の幅、素材や表現の幅を広げられるようになったので、そこは大きなメリットになっていると感じています。
現在、撮影兼編集スタッフとして7名が在籍しており、その中でまだ使い慣れていないカメラマンもいますが、濱田を中心に徐々に浸透しているようです。FX3の特性や機能が随所に活かされた番組内の企画コーナーは、今後もかなり増えていくでしょうね。

濱田氏:

突発的な中継などではやはりまだENGカメラの稼働が多いです。操作性や共通認識としてもENGカメラが使用されています。そういった現場での取材の即時性に対応した機能が実装されれば、Cinema Line カメラも現場で使われることは大いに考えられますね。

――今後、FX3でどのようなものを撮影したいですか?

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枕崎方面から開聞岳を望むアングルで、種子島宇宙センターからの夜間のロケット発射の瞬間をα7Sで当時撮影した写真

FX3でとらえたペルセウス座流星群(濱田氏撮影)

濱田氏:

個人的には種子島での宇宙ロケット打ち上げのシーンを撮影したいですね。打ち上げの際は、鹿児島の局は全てSNG(衛星中継車)を出して取材しますが、別企画として、夜の打ち上げシーンでぜひFX3を使ってみたいです。夜の打ち上げ時は、近くにいると昼間のように明るくなり、幻想的で綺麗なのです。
これまでにも中継で5回ほど、個人でα7Sを使用して2回ほど枕崎から撮影していますが、FX3であればもっと効果的に撮影できると思います。



Vol.07 [Cinema Line~今、広がる大判の世界] Vol.09(近日公開)▶