音楽ライブ収録を手がけるアバンクがパン・チルト機能を備えたCinema Lineカメラ、FR7を選ぶ理由
ミュージックビデオなどの制作や、音楽ライブ、シンポジウムなどのライブ配信を手がける株式会社アバンクが、ロックバンド「ROTH BART BARON」の音楽ライブ配信、収録にて、ソニーのフルサイズセンサーを搭載し、レンズ交換可能でパン・チルト機能を備えたCinema Lineカメラ ILME-FR7 (以下FR7)を採用した。
パン・チルト機能が搭載されたCinema Lineカメラの使い勝手や、利点などを、
株式会社アバンク 代表取締役 堤健斗氏、
そしてカメラマンとして参加した山崎宏夢氏・高瀬玄太郎氏にお話を伺った。
堤健斗氏
株式会社アバンク (代表取締役)
山崎宏夢氏
フリーカメラマン
高瀬玄太郎氏
株式会社テイクファイブ(カメラマン)
ソニーのカメラを歴代使用し続ける
―株式会社アバンクについて教えてください堤氏:
番組の企画やミュージックビデオなどの制作、そしてインターネットライブ配信の企画、制作、配信などを行なっています。近年は配信に関わる業務が多くなっている印象ですね。
堤氏:
2020年から一気に配信の依頼が増えた印象です。当時は無観客でのライブ配信もありましたし、最近では有観客ライブと共にオンラインでの有料配信も増えています。 人気のあるアーティストだと会場のチケットが取れない場合もあるので、オンライン配信が選択肢としてあるのはとてもいいことだと思います。
堤氏:
PXW-FS5とPXW-FS7の時代からソニー製のカメラを使用しています。
高瀬氏:
私はNEX-FS700Rから使っています。その後PXW-FS5とPXW-FS7、そしてPXW-FX9になり、現在に至るという感じですね。
山崎氏:
私も同様ですね。特に大きな理由があったわけではなく、新しい製品が出て、その方が改良されているし、ということでCinema Lineカメラを自然に使い始めたという感じですね。スムーズに以前のカメラから移行できていると思います。
堤氏:
ただ、FX6、FX3が出たことで「揃えやすくなった」というのはあると思います。FX9だけの頃は使用する際に特別感も多少ありましたが、FX6、FX3の出現で、それぞれのサイズ感などでライブ会場で使用する全てのカメラをCinema Lineで揃えられるバリエーションも揃ったのかなと感じています。
また、費用感的に複数台揃えやすくなったことも大きいと思います。
さらに、G Masterレンズも現場での評判が良く、相乗効果でFXシリーズでいこう、という流れができたと感じています。
また、FX6は普段使いというか、S-logではなくREC709で撮るような場合にも使えますね。とてもバランスが良いです。
山崎氏:
カメラマンとして、FX6は比較的小さいので、長時間撮影でも、そのサイズ感、軽さはとても良いですね。
―今回さらにFR7を導入されましたが、発表当初のご感想はいかがでしたか
堤氏:
ニュースリリースを見て単純に興味が湧きました。Cinema Lineシリーズの画質でリモート操作ができるということで、何か今までではできなかったことができるなと感じた、というのが大きいですね。「攻めているな」と感じました(笑)。
高瀬氏:
私の感覚では「やっときたか」という感じでした。それまではリモート雲台などいくつかの製品を組み合わせて同じようなことをしていましたが、FR7では本体からSDIとLANケーブルの2本を出すだけでリモート操作ができてしまう。
その手軽さに加えて、現場にある他のCinema Lineカメラと色が合う。まさに「やっと丁度良いものが出てくれた」という印象でした。
音楽ライブ収録の現場で活躍するFR7
株式会社アバンクが音楽ライブでFR7を使用した事例
2023年3月配信 “HOWL” TOUR ~FINAL~(ROTH BART BARON)
会場:昭和女子大学人見記念講堂
2023年7月配信 BEAR NIGHT4 Live(ROTH BART BARON)
会場:日比谷野外音楽堂
―今回、ROTH BART BARONの昭和女子大学人見記念講堂、日比谷野外音楽堂で行われた二つの公演でFR7を使用されましたが、いかがだったでしょうか
堤氏:
先程も話にありましたが、それまでも色々な製品を組み合わせれば同じようなことはできました。しかし、やはり他のCinema Lineカメラと色を合わせたいと思っていたので、小さめなFX3、FX30を三脚に乗せて固定アングルにするしかないと考えていました。
ただ、他のカメラはもちろん動いているので、そのアングルだけ固定ではなあ、と悩んでいました。
人見記念講堂のライブでは、弦隊をおさえるカメラとしてFR7を使ったのですが、ステージ上でのポジション的に今までだと固定カメラにせざるをえない場所でした。
山崎氏:
ステージのほぼ真ん中、ボーカルの後ろですね。
堤氏:
ライブのステージでは、演出的に中には人を入れることはできませんが、その位置からアングルを動かしたりズームができたのは、実際の映像をみてとても良いなと思いました。当然ですが、固定カメラとは撮れる画が全く変わりますし、使う頻度も変わってきますね。
山崎氏:
物理的に人が入れない場所に設置できるのが魅力ですし、一番やりたかったことでしたね。
堤氏:
今後は、ジブを入れるのが厳しいような狭いステージの上部に設置して、アングルを回して演者も観客も撮るといったようなこともしてみたいですね。
高瀬氏:
昇降する台座に乗せると、さらに色々な画が撮れますね。
―FR7のリモート制御での撮影についてはいかがでしたか
堤氏:
通常、カメラの設定を変更する場合、カメラの設置場所まで行って設定する必要があります。しかしリモートカメラではリモート制御場所から設定変更可能でとてもメリットを感じました。従来、固定で使うカメラは通常アクセスしづらい位置にあることが多いので結構大変でした(笑)。
高瀬氏:
また、あってはいけないことですが、固定カメラの録画忘れもあり得ます。なのでリモート制御でそういったミスも回避できるのはとても助かりますね。
―コントローラーの印象はいかがでしょうか
堤氏:
制御はリモートコントローラーRM-IP500で行いました。ジョイスティックでの操作とFR7本体のモーターの動きが良い感じに合っています。
高瀬氏:
動きがとてもスムーズですね。速度を可変させたい時に、ジョイスティックを徐々に倒し込んで、ゆっくり動き出して、その後被写体の動きに合わせて早めに動かそうとした場合など、急に早くなるのではなく滑らかに速度が変わっていきます。
堤氏:
Web UIも使ったのですが、こちらはとても良い出来になっていると思います。設定画面がFXシリーズのカメラの液晶画面のメニューと同じなので、カメラを設定している感覚で設定ができます。 所謂リモートカメラの設定画面はそれぞれ独自の画面構成になっている場合が多いのですが、FXシリーズの画面になっているので迷うことなく操作ができます。
堤氏:
一番ドン引きの気持ちの良い画角をプリセットに入れておいて、その時々で動かした後に一度戻そう、という時にプリセットを使いました。起点となる場所を3つプリセットして、その都度同じように使いました。毎回完全に同じ場所に戻せるので、ありがたいですね。
山崎氏:
人見記念講堂ライブで弦隊をメインに使いましたが、おそらくもっと小さなセンサーだと広角側が難しかったのではと思います。被写体とカメラの距離が近い環境でレンズ的に無理なくワイド感を出すという意味ではフルサイズでよかったと思います。
また、被写界深度も浅くできるので、弦隊のメンバーそれぞれにピントを送るような画づくりも可能でした。
高瀬氏:
ドーム球場のような大きな会場よりも今回のような規模のステージの方がより効果的かもしれませんね。大きな会場だと、カメラから被写体までの距離が比較的遠くなるため、パンフォーカスのような画になりやすいですが、小さめのステージで例えば天井に設置をすると、美術セットの吊り物などをわざと前ボケさせて被写体を映すなど、フルサイズセンサーを活かした画づくりができると思います。
堤氏:
今後はボケ感も含め、フルサイズであることを狙った画づくりも積極的に取り入れたいと思っています。
堤氏:
FR7では暗所用にISO12800が使えるので、比較的暗い会場でもノイズが抑えられた明るい映像が撮れるのはとても助かりますね。
高瀬氏:
ISOを上げずに明るさを得ようとすると、レンズの絞りを少しでも開けてという発想になるので、使用するレンズの開放値を気にしますし、当然深度も変わるので画づくりにも影響しますしね。
堤氏:
日比谷野外音楽堂のライブでは夕方から夜にかけて行われたので、電子式可変NDフィルターは助かりましたし、それをカメラまで行かずに調整できるのがさらによかったですね。
―FR7は、本体収録が可能です。またデュアルスロット搭載でもあります。それぞれのメリットを教えてください。
堤氏:
ライブ配信だけではなく、後日編集したものを改めて配信することも多く、その場合はFR7は本体で収録ができるので非常に安心感がありますね。 さらに画質は他のCinema Lineカメラと同じ品質なので、現場ではS-log3で撮影しましたが、色合わせについても全く問題ありませんでした。
―PTZカメラでの撮影における最適な人員配置はどう思われますか?
山崎氏:
今回のようなライブの撮影の場合は1人1台が良いと思います。2台を1人で操作すると両方ダメになるような気がします。
高瀬氏:
パンやズームなどのワークが出来るカメラなわけで、そこには人の感性が入ってきます。そういう意味でカメラマンとしては他のカメラと同じく「1台のカメラ」として考えます。カメラの側にいないだけで、カメラを操作するという考え方は変わりませんね。
また、有人カメラでも撮れる場所をPTZカメラに置き換えるか、というと、それはちょっと意味合いが変わってしまう気がしています。なのでステージの上など、有人が難しい場所に特化すべきかなと思っています。
さらに求める新しいFR7の姿とは?
―FR7の機能リクエストがあれば教えてください堤氏:
リピートモードがあると良いなと思いました。AからB、BからAをずっと繰り返す動きをさせられると、撮影によってはそれで良いポジションのカメラもあります。いつそのカメラにスイッチングするかはこちらで決めれば良いですし、そういった場合は複数台をワンオペすることも可能ですね。
高瀬氏:
カメラが360度回転できると良いですね。カメラを天吊りする際にカメラの向きを確認しますが、万が一間違えてしまった場合、既に照明さんやステージ上で他の準備が進んでいると、その後やりなおすのは難しいです。機構的に難しいのだとは思っていますが、そこの自由度があるとさらに助かります。
堤氏:
パワーズーム搭載レンズがさらに増えると良いですね。現在は、SELP28135G、SELP1635G、SELC1635Gの3本なので、もっとバリエーションが増えると助かりますね。
ただ、クロジールから新しくズームコントローラーが発売されると聞いています。これにより、どのレンズでもパワーズームが使えるようになることに期待したいですね。
高瀬氏:
これはコントローラーについてなのですが、ジョイスティックを一番倒した状態での動きの速度をもう少し早くしてほしいです。別のカメラが使われている間に目的のアングルを作っておいてそこからスタートさせたい場合、素早くその状態に到達できると良いですね。
堤氏:
プリセットだと早く動くんですよね。手動でも早く動くと良いと思います。
堤氏:
PTZカメラの使い方にはまだまだ伸びしろがあり、どういう使い方ができるかを考えていきたいですね。これからも「あ、この使い方いいね」といった方法を発明していくというか、この先どんどん生まれていく可能性が結構あると考えています。
色合わせなどを考慮すると撮影現場の全てのカメラをCinema Lineで揃える意義は非常に大きく、PTZ機能を搭載しているCinema LineカメラであるFR7は非常に利用価値の高いカメラだと思いました。
今秋11月以降リリース予定 FR7 Ver.2.00 アップデート機能:
①FreeDプロトコルに対応しVR/AR撮影が可能に
②新たなベースルック「709 tone」追加でシステムカメラとの色合わせをしやすく
③プリセット機能の拡充で撮影対応力アップ
・PTZ トレースメモリー機能に対応 (PTZの軌道を記録・プレイバック可能に)
・プリセットのズーム・フォーカスの速度が調整可能に
・PTZ シンク機能に対応 (PTZの移動開始と終了のタイミングを同期可能に)
④外付けのコントローラーによるマニュアルズームレンズのリモート制御に対応
⑤Cine EI クイック, フレキシブル ISO に対応 (=FX3)
⑥カメラID・リールNo.およびクリップ名の変更に対応 (=FX9)
⑦RTMP/RTMPS プロトコルに対応
⑧S&Q モード時のAFに対応 (=FX6 Ver.4.00)
⑨FreeD出力時のSDIRAW出力に対応