バーチャルプロダクションやコンサート、イベント演出、プロジェクションマッピングのハイエンドメディアサーバーとして定着したdisguise。同社CEOのFernando Kufer氏が来日したタイミングでdisguiseの過去、現在、未来について話を聞くことができた。
ライブソリューションからバーチャルプロダクションソリューション提供へ
――disguiseは設立以降、パンデミックも乗り越え成長を続けています。その鍵となったものは何なんでしょう?
Fernando氏:
disguiseは、20年以上の間、ビジュアルソリューションの市場に参入しています。私たちは成長と変革を続けていて、コロナ禍期間も含めて、鍵となる3つの柱を基に会社を築いてきました。
3つの柱とは、「(1)イノベーション」、「(2)コミュニティ」、「(3)パートナーシップとプラットフォーム」ですね。
――disguiseのここまでの道のりでターニングポイントとなった出来事は教えていただけますか?
Fernando氏:
最初に、私たちが市場に先駆けて導入した3Dビジュアライザーがありました。その後、2019年のNABで「NAB Product of the Year Award」を受賞したxRの発表が起点でしょうね。その後、ネイティブにUnreal Engineと統合し、かなり複雑なライブショーや没入型エンターテインメントを世界中で実現し、それらがバーチャルプロダクションなどの新しい分野にも応用されてきました。
私たちのプラットフォームの強力さ、数々のコネクション、技術、パートナー、そして経験がこれらに活かされています。そしてもちろん、情熱的で献身的なdisguiseチーム、世界中のディスガイザーたち(disguiseユーザー)のおかげです。もちろん、そこには日本も含まれます。
NAB 2019でdisguisはWorldStage、ROEと合同でExtended Reality(xR)を展示。「NAB Product of the Year Award」を受賞した
――disguiseはもともとライブエンターテインメントのビジュアライゼーションツールでしたが、まったく新しい分野のバーチャルプロダクションやxRのソリューションに対応するようになりました。何がきっかけだったのでしょうか?
Fernando氏:
私たちは2000年代初頭にイギリスでスタートし、Massive AttackやU2といったバンドの映像を担当しました。その後、ライブイベント、演劇、オペラ、ブロードキャストそしてバーチャルプロダクションのLEDソリューションなど、様々な分野に進化してきました。私たちのxRの研究や開発、実験は、市場におけるバーチャルプロダクションやバーチャルイベントの急な需要に適した解決策であることが証明されました。
2020年3月にはパンデミックによりそれまでの主力だったビジネスの95%を失いましたが、2020年6月には「rx」と「vx」という最初のxRソリューションを発売、1年後には会社の規模を倍増させ、2022年にはExtended Reality(xR)技術がエンジニアリング・サイエンス・アンド・テクノロジー・エミー賞を受賞し、イギリスのクイーンズアワードでイノベーションの表彰も受けました。
ユーザーだけでなく、必要なものをサポートし、導いてくれたチーム、パートナー、クライアントなしには、これを達成することはできませんでした。
disguiseでは、共に創造すること「Create together」を重要と考えており、パンデミック時ほど、それが真実であると感じたことはありませんでした。私たちが世界中のパートナーの皆さまと達成できていることをとても誇りに感じています。日本のパートナーの皆さまも様々なことを達成しており、さらに幸せを感じ誇りに思います。
例えば、ヒビノは現在、バーチャルプロダクションおよびxR業界におけるリーディングカンパニーの一つであり、東映やニコンクリエイトはバーチャルプロダクションにdisguiseを使用、TBSやテレビ朝日、テレビ東京は放送にdisguiseを使用しています。また、「アナと雪の女王」や「ハリー・ポッター」といったイマーシブなシアターでもdisguiseが使用されています。このように、私たちのプラットフォームは非常に柔軟であり、様々な分野の高度なニーズに応えています。
――disguiseのユーザーの中で、現在の「ライブエンターテインメント」「バーチャルプロダクション」「xR」の占める割合を教えてください。
Fernando氏:
概算ですが、ライブが25%、バーチャルプロダクションが30%、xRが25%、そしてLBX(ロケーションベース型アトラクション)が20%という割合です。メディア&エンターテインメント市場の4つの主要な分野において非常に良いバランスとなっています。
――バーチャルプロダクションにdisguiseを導入するメリットはどういったことでしょう?
Fernando氏:
disguiseはシンプルなセットアップを実現するプラットフォームソリューションを提供しています。Unreal Engine、Unity、NotchやTouchDesignerといった3Dエンジンをネイティブに使用でき、さらに、2Dや2.5D(VPステージで最も使用されている形式)と3Dの組み合わせも可能です。
disguiseには、現在12のオフィスと80以上の国でのパートナーがあります。経験と専門知識を備えたチームがサポートします。
私たちのソリューションはスケーラブルに展開可能で様々なサポートを実現しています。LAで開発されたVP Accelerator Programなど、様々なレベルのトレーニングを世界中で展開しています。
disguiseは、必要な時にそばにいます。一度disguiseを使ってみると、新しい領域に進出したり、新しいチャレンジをしたいという欲求が生まれ、私たちはそのチャレンジの旅に同行します。
disuguiseは基本的にプラットフォームであるため、特定のツールやエンジンの使用に限定されません。様々なAPIが使用でき、まだ連携していないテクノロジーやパートナーとも接続することができます。
研究開発が常に行われており、柔軟でクリエイティビティーに満ちています。最後に、セットアップやトレーニングといったオペレーションのサポートについても一貫したアプローチを行っています。多くの国に拠点を置く企業にとって重要な要素です。
――disguiseはソフトウェアとハードウェアの提供を必ずセットで行っています。今後ソフトウェアだけの提供というのはあり得るのでしょうか?
Fernando氏:
私たちは完璧なサポートを提供しようと心がけています。そのためにはユーザーがどのような環境でどういった用途に使っているのかを把握することが大事です。ソフトウェアだけの提供だと、現状のようなサポートが提供できません。今後もソフトとハード、両面での開発に力を入れていきます。
――バーチャルプロダクションは今後もさらに発展することが予測されますが、このテクノロジーは次にどこに進むと予想されますか?
Fernando氏:
どんな技術のサイクルでも、まずはイノベーターが登場し、それに続いてアーリーアダプターが現れ、そして今ではアーリーマジョリティーに広まりつつあります。その結果、ビジネスモデルもそれに合わせて変化しています。
バーチャルプロダクションは初期の段階では科学の実験であり、イノベーターや大手予算を持つスタジオや西海岸のテック企業など、新しいことに挑戦し、異なるものを創造し、失敗を恐れない勇気を持った人々にしか興味を持たれませんでした。
disguiseでは、バーチャルプロダクションとLEDウォールが業界にもたらすチャンスを理解し、以前存在しなかった産業を創り出すために、まず研究開発を重視しました。私たちはクライアントの撮影現場に立ち会い、何千時間もの共同作業から、堅牢でスケーラブルな製品化されたプラットフォームを作る必要があることを知りました。私たちの調査では、イノベーターにとっては科学プロジェクトや一回限りのプロジェクトが成功を収める一方で、キャズム(深い溝)を越えるためには「完全なソリューション」を提供する必要があることを示していました。
それがなければ、市場は大型の常設LEDボリュームから離れていってしまうでしょう。それは、カスタムメイドの科学プロジェクトから効率的なモジュ-ル式でスケーラブルなプロダクションツールへのシフトが進むからです。
キャリブレーションの時間を短縮することは、重要な次のステップであり、私たちはこれに取り組んでいます。近々発表予定のニュースをお待ちください。OmniverseとDCCツールを同じシーン上のエンジンに接続する機能の装備、NeRFの進歩、そしてコンテンツ制作のためのAIもあります。これらの分野での最初のイノベーションを年内に発表する予定です。
最終的には、柔軟性があり、お客様が映画や広告、ミュージックビデオ、テレビなどのバーチャルプロダクションを行うことができるソリューションを開発することであり、そのモジュール式のスケーラブルで再現性があるプラットフォームがdisguiseなのです。
そしてもちろん、これらのすべてが、日本のニーズに合わせて、国や文化に適合するようにテストされ、検証されることになります。
テクノロジー業界トップの技術を融合させたサービスを提供
――disguiseは様々なテクノロジー業界のリーダーと提携を発表しています。Epic Games、ROE Visual、NVIDIA、Netflixなど。それによってどういった変化がありましたか?
Fernando氏:
Epic GamesのおかげでUnreal Engine上で動作するxRとVPステージのマーケットリーダーになることができました。
ROE Visualは当社のLEDパートナーであり、全拠点にxRステージを共創しており、私たちと一緒に研究開発しているのに加え、LAではVPアクセラレータプログラム(VP研修プログラム)に貢献してくれています。
NVIDIAとのストーリーは、Omniverseの初期の頃、Rivermaxの実装に始まり、Fabric(disguiseの製品)の立ち上げ、私たちのサーバーのほとんどがNVIDIAで動いていることから、この提携は当然のステップとなりました。現在、RTX、Omniverse、そしてAIの統合に取り組んでいます。
私たちは2018年のN-lab LA時代からNetflixと付き合っています。彼らのステージを使ってコンテンツを提供するサードパーティーのニーズに基づいて、学習と進化の旅を続けています。
――特に最近、Move.aiとのパートナーシップにより、リアルタイムマーカーレスモーションキャプチャが実現できるようになりました。これはどのようなものなのでしょうか?
Fernando氏:
AIを使ったマーカーレスモーキャプは非常に興味深い進展です。私たちはMove.aiと共同で5月31日にInvisibleをローンチしました。これは、xRステージやVPセットに対してリアルタイムのマーカーレスモーキャプソリューションを提供する非常にエキサイティングな技術です。
さらに、教育、スポーツ、医療など、シミュレーションやトレーニングの分野への展開も視野に入っています。
――Move.aiがカメラトラッキングに利用できるようになることはないのでしょうか?
Fernando氏:
今のところ、その予定はないです。Move.aiはモーションキャプチャに特化しています。
――最後に、昨年、「Polygon Labs」や「Mapping Matter」、「Previz」の買収発表がありました。この先、disguiseはどのような方向に向けて発展していくのでしょうか?
Fernando氏:
私たちはプラットフォームであり、企業、教育、没入型アトラクションなどの新しい市場への展開に伴い、xRは重要な要素となります。さらに、これらの将来の顧客は映像の経験が少なく、包括的なサービスが必要です。そこで、xRやバーチャルプロダクションの専門家のMeptikが、PTCやサバンナ芸術デザイン大学などの顧客向けにステージを開発・調整するソリューションを提供します。
放送では、クラウドベースのチームと放送業界の専門家が必要でしたので、Polygon Labsというパートナーと協力し、放送業者がUnreal Engineを使用するための移行をサポートしています。これにより、放送業界外でも成長している魅力的なプラットフォームが提供できています。
Mapping MatterとPrevizはクラウド戦略の一環であり、disguiseプロジェクトをクラウド上で3Dで視覚化し共有することができます。コメントを追加したり、サードパーティーに対してレビューのためのリンクを送ったり、さらに重要なことはコンテンツをdisguiseに保存することができます。これにより、クリエイターとショー・エクスペリエンスの技術的な検証のシームレスな統合が可能となります。
disguiseは今や3つの部門からなるビジネスとなっています。
(1)ソフトウェア&ハードウェアのパワフルなプラットフォーム
(2)クラウド・ソリューション
(3)クリエイティブ&テクニカルサービス
これら3つはすべて、エキサイティングな新展開です。
――disguiseの未来の展開に期待しています。今日はありがとうございました。
disguiseはプラットフォームでしかないと言いつつも、新しいテクノロジーを常に意識し、総合ソリューションの提供へと足を踏み出すdisguise。映像だけにとどまらない次の表現に期待が高まるインタビューだった。
小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、SEKAI NO OWARI、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。バーチャルプロダクションのVFXアドバイザーの一面も。CG背景アセット制作会社Chapter9のCTO。