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LEDウォールのモアレや偽色の発生を抑制するOLPFモデル登場

BlackmagicDesignからURSA Mini Pro 12Kが発売されて2年が経つ。そのURSA Mini Pro 12KにURSA Mini Pro 12K OLPFというモデルが登場した。OLPFは「Optical Low Pass Filter」の略で、このローパスフィルター搭載モデルを従来機と一緒に検証してみた。

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URSA Mini Pro 12K通常モデルとOLPFモデルを2台用意してテストを行った

URSA Mini Pro 12Kというカメラは登場時、12Kという解像度にも驚いたが、それ以上に、4Kでも8Kでも、スーパー35の同じ27.03mmのセンサー幅のまま撮影できて、12KのRAW画像でもDaVinci Resolveを使用すれば、快適に動作するということも衝撃的だった。

そんな画期的なカメラにも関わらず、現場で見るURSA Mini Proはどれもが4.6Kで、12Kにはお目にかかる機会がほとんどなかった。メーカー公式サイト価格でもURSA Mini Pro4.6K G2が878,800円なのに対して、12Kは936,800円である。この差58,000円!その価格差なら、自分は4Kで撮影してもイメージサイズは変わらずに、8K、12Kのアドバンテージも残している12Kカメラの方に魅力を感じる。多分、この12Kというインパクトが独り歩きし「編集が重そう?」とか「今は12Kとか必要ないし」といったことで敬遠されているのではないだろうか?

URSA Mini Pro4.6K G2はバーチャルプロダクションのスタジオに常備のカメラとして設置されていることが多い。しかし、ここでもやはり12Kの使用事例は少ない。そこで登場したのがOLPFモデルである。LEDウォールはモアレとの戦いだ。ローパスフィルターは、かつてほとんどの単盤式のビデオカメラには搭載されていた。カメラの解像度が少なかった時期は隣り合わせた画素ごとの輝度と色の変化が大きく、モアレや偽色が発生しやすくなり、その抑制のためにローパスフィルターが存在した。

ローパスフィルターは一つのピクセルが受光する色を隣のピクセルに拡散することで、輝度や色が急激に変わる被写体(例えば、空バックのシルエットなど)にも対応することができるという目的で搭載されるようになってきた。

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OLPFのフィルターの様子。通常モデルとOLPFモデルの外観の違いはない。フィルターの有無のみで見分ける

今回は最近急激に増えてきたLEDスタジオでの使用を検証するために、LEDディスプレイレンタルで実績のあるブリッジリンクの本社でLEDウォールのスタジオとしては使いやすい1.9mmピッチと0.9mmピッチという2種類のLEDディスプレイを用意してもらった。

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左が1.9mmピッチモデル。右が0.9mmピッチモデル。0.9mmピッチは横幅7.2m、高さ4.05mの325インチ8K大型モニターの組み合わせでテストを行った
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今回はブリッジリンク本社にて、1.9mmピッチのLEDと0.9mmピッチのLEDの2つを使用させてもらった。1.9mmはマットな質感で高品質な映像だ。UHDの解像度で7.3m×4.1mとバーチャルプロダクション的には適度な大きさも得られる。

もう1つの0.9mmの方は、同じ大きさをネイティブの解像度で表現するとなると8K映像送出のパワーが必要になってくる。それでも超高精細な映像は今回の12Kという高解像度のカメラで撮影してもピッチの目が出ることは少なかった。こちらも映像自体は艶やかな質感を表現しているが、黒に関してはマットな表現で撮影に向いている。LED自体が主役になる撮影は、この高精細ピッチが力を発揮するだろう。

それに12Kの解像度となると描写力のないレンズでは微妙な違いがわからないため、ローパスフィルター有無の効果が判別できるレンズ解像度をもつFUJINON Premista19-45mmT2.9を富士フイルムから提供していただきテストを試みた。

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富士フイルムのFUJINON Premista19-45mmは、スーパー35に加えて最大46.3mmのイメージサークルをカバーするシネマレンズだ。ZEISS eXtended DataやCooke /i Technologyの両方との互換性により、レンズ情報を簡単に書き出すことが可能。28-100mmや80-250mmなどの同シリーズと組み合わせると、頻繁に使用される幅広い焦点距離をカバーできるのも特徴としている。

モアレが発生するメカニズムとは?

まずはモアレや偽色がなぜ発生するのかということをわかっていないといけないのだが、自分もこの記事を参考にした。Photo Cafeteria氏のブログ「デジカメにローパスフィルターは必要だ」という記事を読んでもらった方がわかりやすい。長年ふわっとしか理解できていなかったローパスフィルターのことを、平易な解説で丁寧に解説してくれて、理系を断念した自分にも理解できた。デジタルカメラで撮影する人にとっては必読のブログだ。

前述のとおり、隣り合わせたピクセル間に急激な色の変化が起こる時に偽色やモアレが発生する。つまり、解像度が低いカメラの方が偽色やモアレが起こりやすいのでローパスフィルターが必要というわけだ。実際、高解像度を売りにしたα7Rの登場からローパスフィルターレスのカメラが主張をし始めた。高解像度になるとピクセル間に急激な色の変化も起こりにくいというのは理屈としてあっている。

しかも、このローパスフィルターはピクセル間をブレンドしてくれるため、シャープネスが落ちてしまうということが長年問題視されていた。せっかく解像度を上げたのに、その解像感を得られないというのはもったいないということから、近年はローパスフィルターを搭載しないカメラが増えつつある。

そこに来て、この高解像度の化け物のような12Kカメラに搭載されたのは何故だろう?これが一番効力を発するのはLEDウォールを使ったスタジオなのでは?という仮定の下、被写体にLEDを選んでみた。

偽色は明らかに軽減され、モアレも抑制される

LEDディスプレイは発光する点の集合体である。真っ黒のパネルに発光している点で映像を描いている。LEDの解像度とカメラの解像度が同じくらいなら、その発光している色だけを抽出するのだが、より解像度が高いカメラになってしまうと、この地の黒と光体の境目さえも描写できてしまう。実は今回、通常のURSA Mini Pro 12KとOLPFをLEDディスプレイ面にジャストでフォーカスを合わせるというようなレアなケースでテストしてみて、初めてLEDを使った撮影におけるローパスフィルターの重要性を理解できた。

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12Kともなると通常の4Kモニタリングでも実際の画像は確認できない6倍の拡大をしてFHDでピクセル等倍で表示してみるとノーマルの方が偽色の影響なのかカラフルな縞模様が見て取れる。OLPFの方はディテールの表現は弱くなっているがそういった縞模様が現れることはない。

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拡大した範囲
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これは12Kの映像をFHDに縮小しての表示になるが、OLPFに比べノーマルの方が木の陰の部分の赤みが気になる。これも等倍にするために青枠の部分を6倍拡大した画像が下記になる。

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これが偽色による影響なのかはわからないが、ノーマルが飽和して滲んでしまっているような赤で表現されているのに対して、OLPFは素直な描写をしている。画像はすべてBlackmagicRAWに対してBlackmagicFilm to Rec709のLUTをあてているが、彩度に関してはOLPFの方が落ち着いた色合いに出ているように感じる。

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0.9mmピッチのLEDでも検証したところ、こちらの方は6倍拡大しても、LEDの粒が認識しづらいほどの高精細さだが、それにも関わらずノーマルは縞模様が発生していたが、OLPFの方はそんなことはなかった。

これを見れば明らかだがLED撮影においてはローパスフィルターの有効性は多大なものだ。LEDウォールを使用した撮影においてはURSA Mini Pro 12K OPLFの方を選択した方が賢明だろう。偽色は明らかに軽減されているし、モアレも抑制されている。ただし、モアレとなるとまた別の展開があって、撮影された画像がモアレは出ていなくとも、それをどんな解像度のモニターで見るかによってモアレが発生してしまうのである。

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これはDaVinci Resolveでの検証時の画像だが、左のクリーンフィードの画面はモアレは出ていないが、左のエディターのビューウインドウはひどいモアレが出ている。12Kのオリジナル素材はモアレは出ていないのだが、それをどんな解像度で表示するかによってモアレが発生してしまうのである。つまり規則正しく並んだ輝度差のある物体を撮影する場合はモアレは避けて通れないのである。

もちろん12Kネイティブ解像度で見れる環境なんて、なかなかないので4KなりHDにリサイズして完パケとすることがほとんどだろう。そういった時に元の素材にモアレが出ていないのであればブラーなどの処理によりモアレは抑制できるが、偽色にいたっては処理がもっと複雑になってくる。そういった意味でも、解像度をギリギリ保ちながら偽色対策ができているOLPFの方を自分は評価する。

今回のテストは1.9mmピッチと0.9mmピッチという高解像度のLEDとテストする場所を提供してくれたブリッジリンクと、12Kという解像度に見合ったレンズ描写力を持つFUJINON Premista19-45mmを提供してくれた富士フイルムがあって実現できたことだ。改めてここで感謝したい。

新しい技術が出てくるとそれに伴って素晴らしい機材ができてきて、そして新たな問題も発生してくる。それを解決するために過去の技術を参照するという構図も面白い。まだまだURSA Mini Pro 12K OLPFというカメラは探求していく価値のある次世代のカメラだという印象を受けた。

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小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、SEKAI NO OWARI、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。バーチャルプロダクションのVFXアドバイザーの一面も。CG背景アセット制作会社Chapter9のCTO。