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TSP撮影センター

LEDウォールを使ったバーチャルプロダクションは、LEDディスプレイやメディアサーバー、トラッカーなど使用するデバイスが高価なため、ハイエンドのコンテンツ制作にしか使用できないと思っている人が多い。確かにシステムを組むだけで億単位になってしまうためスタジオの使用料もかなりの額になってしまう。しかし、そんな状況に一石を投じる、ミドルレンジの制作費でも対応できるシステムを組むチームやスタジオも少しずつ出てきている。

東京サウンド・プロダクションら4社によるバーチャルプロダクションのワンパッケージサービスを提供開始

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まずは東京サウンド・プロダクション、ビジュアル・グラフィックス、ブリッジリンク、デジデリックによるバーチャルプロダクションの出張パックの取り組みだ。東京サウンド・プロダクションが撮影技術、ビジュアル・グラフィックスがUE関連システム、ブリッジリンクがLEDディスプレイ、デジデリックが背景CGアセットといった4社共同で、出演者や演出面以外の全ての工程を賄う。

もともと4社は東京サウンド・プロダクションの芝浦海岸R&Dスタジオにバーチャルプロダクションのデモルームを構えていた。そのシステムを丸ごと、希望された撮影場所まで持っていき設置して収録しましょうというサービスである。これはレンタルLEDで実績のあるブリッジリンクとビジュアル・グラフィックスのカメラトラッキングシステム「LinkBox」の機動性により実現した企画だ。

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カメラにビジュアル・グラフィックスのカメラトラッキングシステム「LinkBox」を使用

バーチャルプロダクションは、まだ制作会社にとっても経験値が少なく、制作費が算出しにくいというのが難点だ。それをデジデリックの事前に用意されたテンプレート的なアセットと、撮影に慣れたTSPの技術陣と撮影&照明機材込みで、設置から撤収まで含めて298万円から、というパッケージのプランだ。バーチャルプロダクションは様々なロケーションを瞬時に実現できるというのが強みだ。それが丸ごと来てくれるというのは心強い。

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左から東京サウンド・プロダクションの掛田憲吾氏、ビジュアル・グラフィックスの戒能正純氏、ブリッジリンクの乃一勝憲氏、デジデリックの日浦康之氏

3面LEDディスプレイを備えたASTRAYの北参道スタジオオープン

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2023年6月にオープンしたASTRAYのスタジオは北参道の駅の真上という恵まれた立地だ。縦3.5mの常設の1.8mmピッチのLEDウォールがコの字状に3面を覆うスタジオは小ぶりながらもトラッキングにstYpe社のRedSpyを備え、精緻なカメラとのシンクロが可能だ。手ぶらで来られるスタジオをコンセプトに掲げ、撮影、照明機材、そして背景アセットまでも取り揃え、スタッフも抱えている。

グリーンバックと違い、ポストプロダクション作業が通常のロケーション撮影のように進められ、あらかじめ用意されたアセットなら、スケジューリングもコンパクトにまとめられる。恵まれた立地も鑑みると、多忙な出演者の隙間を縫っての撮影などに効力を発揮するだろう。

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LEDディスプレイのメインは7680mm×3360mm/サイド2面は4480mm×3360mm
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Aximmetryの稼働も開始。LEDとクロマキーの両スタジオを備えるパンダスタジオお台場

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大型LEDディスプレイ標準設置の第2スタジオ

恵まれた立地ということならここもそうだろう。日本橋浜町、赤坂、銀座、秋葉原、大阪と数多くのスタジオを抱えるパンダスタジオが、2023年1月20日にお台場のアクアシティ6Fに撮影スタジオをオープンした。

4つのスタジオが併設されているが、LEDが常設になっているのは第2スタジオに当たる、今まで日本橋浜町にも赤坂にもLEDのスタジオはあったがインカメラVFXという観点ではなく、美術としてLEDディスプレイを備えているという印象だった。ここに来てやっと高さ3m横6mというLEDウォールと言えそうなスタジオが誕生した。スタジオのロビーを入ると天井いっぱいまで広がる高さ4mはありそうなLEDウォールが待ち受けるので、スタジオの3mの高さは少々物足りなく感じるものの、LEDまでのストロークが取れるので使い勝手は良い。

ただ、パンダスタジオ自体はインカメラVFXのシステムを保有していない。そこでAximmetryを取り扱っているSTUDIO TECHと協力してインカメラVFXシステムの導入を試みている。Aximmetryはアジアでシェアを広げているバーチャルプロダクションソリューションであるグリーンバックからLEDまで低コストで対応できるのが売りだ。この特集の中でも取り上げてきたがスクリーンプロセスならトラッキングの機能などは必要としないが、インカメラVFXをやろうとすると必携となってくる。

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クロマキースタジオタイプの第1スタジオ
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バーチャルプロダクションプラットフォームを提供する「Aximmetry」。写真はAximmetryのインターフェース

このパンダスタジオもLEDやカメラなど機材込みでスタジオ金額を設定している。ただ、LEDが2.6mmピッチということもあってLEDのモアレを気にするなら、備え付けのmicro4/3のカメラではなく、フルサイズなどを用意しておくとLEDまでの距離など自由度は上がるだろう。

今後はこういったスタッフ、機材からシステムまでオールインワンな提供の仕方も定着していくのかもしれない。特にバーチャルプロダクションはロケーションの提供もここに含めることができる。今までは映像制作といえば、必ずオーダーメイドな産業だった。これがバーチャルプロダクションの登場によりセミオーダーで映像も制作できる時代になったように感じる。カメラマンをしている自分にとっては悲しい一面もあるが、利用する人にとっては選択肢の一つとして歓迎されるのではないだろうか。

まとめ

冒頭にも伝えたようにバーチャルプロダクションのシステムは基本的に高額になりがちだ。今回紹介したスタジオも様々な努力でコスト削減を実現してくれている。その分、得意な分野と苦手な部分というのが生まれてくるのは必然だ。こればっかりは自分の目で見て、使用用途に合っているかどうかということを見極めながら、新しい技術への挑戦をしていただけたらと願う。

小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、SEKAI NO OWARI、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。バーチャルプロダクションのVFXアドバイザーの一面も。CG背景アセット制作会社Chapter9のCTO。