スマートフォンで映像撮影のリアル

数年前なら映像制作にスマートフォンを使う?と無謀に思われていたのだが、今ではさまざまなシーンで活用が始まっている。近年発売されたスマートフォンは4K60P log撮影に対応し、機材はポータブルで撮影の自由度を大幅に高めることが可能だ。各社から充実したハンドヘルドジンバルが発売されているうえ、スマートフォン向けアナモフィックレンズアダプターも充実してきている。さまざまな面で、確実にシネマ撮影向けのカメラに近づいていると言えるだろう。被写界深度の浅い表現や暗部ではなければ一眼カメラと遜色ない感じだ。近い将来、スマートフォンがこの部分も克服されるのは想像に難くない。

実際に2023年10月31日に開催されたAppleのオンラインイベント「Scary Fast」は、iPhone 15 Pro Maxを使って撮影されて話題になった。また、アメリカやヨーロッパではインディーズなど、スマートフォンを使った作品が増えてきている。日本国内でも、三池崇史監督によるiPhone 15 Proを使った最新短編映画「ミッドナイト」が話題になったばかりだ。スマートフォンでの撮影は、今後、ゆっくりだが着実に従来のカメラに代わる選択肢として増えてきそうだ。

動画撮影にスマホが選ばれ始めている理由[Modern Smartphone Shooting]Vol.01説明写真
Appleのイベント「Scary Fast」の様子。イベントの様子はiPhone 15 Pro Maxを使って撮影を行っている

本特集は、そんなクリエイティブなツールとしての地位を確立しつつあるスマートフォンの映像制作に焦点を当てて最新事情を紹介する。iPhoneに寄った内容が多くなるが、スマートフォンが撮影に選ばれる理由について紹介しよう。

スマートフォン動画撮影の評価を大きく変えたApple ProRes Log登場

スマートフォンの動画撮影を語るうえでもっとも大きなブレークスルーは、iPhone 15 Pro/Pro MaxのApple ProRes Log撮影機能だ。Logは、よりダイナミックレンジが豊富な映像を記録可能で、エッジのシャープなども自然だしグレーディング耐性もある。自分が狙ったクリエイティブな仕上げを実現可能だ。

印象はほぼ一眼と変わらないくらいの質感まで持っていくこともできるし、通常のカメラで撮影した映像を他のプロジェクトに混ぜたり、スマートフォンで撮った印象を消すことも可能だろう。素材の容量が非常に大きくなるのは欠点だが、iPhoneだけで作品を作ってみたいと思いたくなる質感は非常に魅力的だ。

「ProResエンコーディング」のオプションから「HDR」「SDR」「Log」を切り替えることが可能
iPhone 15 ProではProResで「Log」動画を撮影することが可能

ちなみに、Androidスマートフォンの中でもXperiaの上位機種はS-Logに対応する。また、サードパーティ製アプリ「Filmic Pro」とLog撮影が可能になる「Filmic CineKit」を使用すれば、Androidモバイルデバイスでも10ビットLogが利用可能だ。

Blackmagic Cameraアプリの登場

iPhoneの場合になるが、iPhone向けアプリ「Blackmagic Camera」アプリの登場もスマートフォン映像制作の進歩に大きく寄与している。iPhone標準のカメラアプリよりも、さらに細かい制御が可能で、コーデックやカラースペースは色空間をRec709、2020、P3から選択できる。UIも優れており、記憶メディアとしてのiPhone残容量まで表示、PCM、外部マイク収録可能。HEVC形式でApple Logを撮ることも可能で、データを軽くできるのも特徴だ。

Blackmagic Cameraアプリは、さまざまなカメラのマニュアル設定が可能で、無料で使用可能

Blackmagic DesignはNAB 2024でAndroid版のBlackMagic Cameraアプリをリリースすると発表した。iPhoneの映像撮影で大きな話題となった同アプリだが、Androidでも無料で使用可能となる予定で同様に話題を起こしそうだ。ただしProResやApple Logなどの対応はどうなるのだろうか、気になるところだ。

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Blackmagic CameraアプリのAndroid版は、Google PixelとSamsungのGalaxyの最上位機種に対応予定だ

Appleからは、「Final Cut Camera」が2024年6月に登場予定だ。マルチカメラ機能のほかに、ゼブラ、ピーキング、ISO、シャッターなどの調整が可能なようだ。Androidのユーザーならば、Filmic Proの選択が有力となりそうだ。

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Final Cut Cameraアプリを使えば、一度に複数のアングルで撮影できるライブマルチカムが実現可能になる

外付けSSDへの記録に対応

iPhone 15 ProシリーズはProRes記録に対応可能だが、広大な空き容量は必要だ。10ビットHDRによる1分間の撮影のサイズはHDで約1.7GB、4Kで約6GBの空き容量が必要。iPhone 14ではストレージ不足が大変な問題となっていた。

iPhone 15では、USB-CによるSSD直接録画対応で解決が可能。各社から対応ストレージの発売が増えてきており、「iPhoneで100GB撮りました」「200GB撮りました」と話を聞くことも珍しいことではなくなってきている。

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iPhone 15 ProにはUSB-Cを搭載し、各社から外部ストレージとして認識できるSSDが登場してきている。写真はSUNEAST「Pita Portable SSD」

スマートフォン向けリグの登場

iPhoneの撮影では露出のコントロールやバッテリー寿命に悩まされることがあったが、NDフィルターを簡単に交換できる仕組みをもったリグケージの使用で解決が可能だ。注目はTILTAのiPhone 15 ProとPro Max用の「Khronos」だ。ハンドル、電力供給、フィルター、ライトをまとめて搭載可能だ。Khronosの優れたところは、iPhoneの背面に充電可能な静音ファン/冷却システムを搭載したことで、iPhoneの室温の高い環境では熱停止のおそれがあるといった問題を解決できそうだ。

5000mAhのバッテリーが内蔵されたグリップと空冷ファンで長時間の撮影でも安心して使用可能。同じTILTAから発売のNucleus Nano IIを付け合せることで、さらに本格的な撮影を実現可能だ

RØDE Microphonesは「PHONE CAGE」を発売する。MagSafe iPhoneまたはMagSafe対応ケースを装着したその他のスマートフォンを取り付けるためのマウントやケーブル管理スロット、ハンドル、マイク、ライト、三脚などを取り付けるための多数のねじ式およびコールドシューマウントを備えている。

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MagSafeに対応したアルミニウム製スマートフォン用リグ「PHONE CAGE」

SmallRigは標準ユニバーサルモバイルフォンケージ「All-In-Oneモバイルビデオキット」を発売する。2つのサイドハンドルを装備し、素早く取り外したり取り付けることが可能。67mmの磁気吸着フィルターに対応し、遮光も手軽に可能だ。

67mmの磁気吸着フィルターに対応し、複数の機能を一体化したハンドルを実現したSmallRigの「All-In-Oneモバイルビデオキット」

1インチセンサー搭載

Androidスマートフォン寄りの話としては、1インチセンサー搭載も話題だ。Xiaomi 14 Ultraなどが該当機種だ。

1インチセンサーは、コンパクトデジタルカメラやドローンに搭載されているお馴染みのセンサーサイズだが、一部のスマートフォン最上位機種にも搭載が始まっている。1インチセンサー搭載により、自然な色味や光学的な浅い被写界深度を実現可能だ。

1インチセンサーサイズ搭載を特徴とする「Xiaomi 14 Ultra」

iPhone 15 Proシリーズであれば、Apple Log、Blackmagic Cameraアプリ、外付けSSDにProResで録画できるのは素晴らしい環境だ。スマートフォンの本体価格約20万円は確かに高額だが、これだけのレベルの映像をこの小さな本体で撮れるならばある意味お手頃の価格といってもいいかもしれない。

スマートフォンとシネマカメラの比較には議論の余地が十分にあるのは承知だが、ミドルクラスカメラ並の仕様を実現してきているのは事実である。本稿以降の実機の体験レポートで、その実力を紹介していこう。