「アメリカンフットボール」特有の環境への挑戦
これまでも、エンターテインメントで育まれたテクノロジーを、実際に人が”触れる”領域の未来へと応用を続けてきたソニー。 今回のCES2025のプレスカンファレンスでは、SonyHondaMobility「AFEELA」予約開始や3D映像制作のハードルをグッと下げるプラットフォーム「XYN」に加え、地元アメリカに熱いファンコミュニティを持つ「NFL」との提携を発表した。
他のスポーツでも定評のあった技術をアメリカンフットボールの環境にフィットさせることは、新たな挑戦になる。攻守の切り替えやラインの管理が厳しく、ボールを抱えて走れ、選手同士のコンタクトも多い環境に、技術をフィットさせることになる。
Hawk-Eye Innovationsの審判補助技術の活用
フィールドスポーツの「ライン際1mmの勝負」を捉えてきたボールトラッキングとビデオリプレイを組み合わせた技術で、アメリカンフットボールでのフェアネスを後押しする。
撮影および放送映像技術の進化を加速
4Kシステムカメラの高速撮影技術での決定的瞬間を捉えるスーパースロー再生や、多数のカメラの同時使用や切り替えを通して、臨場感溢れた魅力的な放送体験を加速する。
Beyond Sports B.V.を活用したリアルタイムビジュアライゼーション
試合のリアルタイムデータを「トイ・ストーリー」「シンプソンズ」テーマでアニメーション化。Z世代やアルファ世代など若い世代やグローバルな観客との関係構築の強化に本腰を入れている。
新型コーチ用ヘッドセット
アメリカンフットボールのヘッドコーチは全体配置や選手の動きが見えやすいスタンドの上の方からヘッドセットで会話をするが、スタジアムはさまざまな音に溢れている。
ヘッドセットはノイズキャンセリング技術を搭載し、2025年のNFLシーズンから使用する。大事な部分で実戦想定なので、かなり念入りにテストをしていた様子もうかがえる。
CESの開催都市でもあるラスベガスでは、スポーツベッティングの人気もうかがえる。 アメリカンフットボールの試合映像が流れている率は高く、スポーツ観戦を楽しむことと賭けることが隣接していて「フェアであることは楽しさの一部」というシビアな目を感じる。
また、「ヘッドコーチと物理距離がある」はこのスポーツならではであり、ヘッドセットのタイムラグの無さや音質はかなり重要になるはずだ。 いつも移動時間にSonyのノイズキャンセリングヘッドフォンを使っている身としては、あのレベルで声が聞こえたら、戦略を伝えやすいだろうなと感じている。
ただ、あまりにNFLの試合環境が日本と桁違いにダイナミックすぎて、カンファレンス会場での発表やコンパクトな展示からはなかなか実際の姿は知ることができない。
今回は、CES会場を抜け出し、ラスベガス・レイダースの本拠地へソニーの技術で「実装された姿」を見に行く機会を得た。
ラスベガス・レイダースのホーム、Allegiant Stadium で出かけてみた!
CES会場よりほど近いところにラスベガス・レイダースの本拠地Allegiant Stadiumは存在する。観客側の内装や展示は「観戦ムードやファンの士気を上げるスタジアム」そのもの。 根強い人気に支えられたスポーツであることがわかる。
アメリカンフットボールならではの「配信と関わり方の深さ」
リアルタイムデータを活用するにも、少なくとも3種類のスタイルを想定していた。先ほどのアニメーション化で届ける次世代のファン、現地で観戦するファン、家やスポーツバーなどで視聴するファンと、同じデータでもデータの見せ方は最適化される。映像のリアルタイム性に加え、見る人にもチームにもフェアであることを重視していた。
14台ものカメラによる多様な角度の映像も「判断のためのテクノロジー」の一環
映像配信用だけではなく、3Dリプレイなどルールの判断に即座に使えるUIにプレイデータの可視化と判断のためのAI活用に積極的に取り組み、NY本部との連携速度も重視してシステムを動かしている。
ボールだけじゃなくポジションそのものをフィールド全体から追える必要のあるスポーツであることを前提に作られている。試合の時間軸上、データピークタイムへのレジリエンスにも留意しているそうだ。
観客やチームの心に火をつけるUIはそのままに、裏側はゴリッゴリのテクノロジー!
ここまでキレキレの中身でも、表向きはもちろんスポーツらしい情熱や闘志を前面に出している。
「我々がこのスタジアム作りました!」と関わった人のモニュメントがいくつか飾られているため、家族連れで来るきっかけにもなる。 え!入っていいの? と驚いたロッカールームも大型ディスプレイがありつつ、メッセージは非常にスポーツチームらしい闘志に溢れている。
先ほどのヘッドセットを使う現場である、コーチがフィールドよりもスタジアム上部で試合展開を見る部屋も発見。
その一方でものすごい規模と数のサーバールームが裏側に控え、このスタジアムの来場者やアメフトファン達を支えている。
大きなサーバールームをいくつも、何か所も備えているスタジアムの最新映像設備群や、スポーツ領域でのテクノロジー投資をこの規模でお目にかかることはなかなかないはずだ。
ひとえに「ファンにとって楽しい良い体験を作りたい」という目的や「テクノロジーによる良い判断が、楽しさの担保につながる」という実感があるからこその結実をここに感じた。
テクノロジーは「プロにも初心者にも楽しい」であってほしい
アメリカンフットボールの環境に合わせたシステムや、それを支える映像・AIそしてIP配信でのテクノロジーの活用は我々が思うよりも綿密に配備されていることは驚きだった。その一方で、訪れる人やチームの体験は、昔からある良い部分や情熱を大切にできるよう、体験がアップデートされている。
どんなに賢くて良い取り組みでも忘れてはいけないポイントだと感じた。 楽しさが大切な領域は、ハードルを感じさせずに自然とアップデートできた方がいい。
テクノロジーやイノベーションと聞くと「関係ない難しいもの」となってしまう人をわざわざ作るのではなく、「プロにも初心者にも楽しいテクノロジー」を目指す最高の形を見せてもらった。