CESでSphereでの基調講演は初
アメリカの航空会社として初の100周年を迎えたデルタ航空が、ラスベガスの新名所となりつつある”球形”の2万人収容の大型アリーナ「Sphere」で基調講演を行った。
2023年にオープンした「Sphere」は最先端の4D技術を使い、外も内も高精細のLEDで覆われたエンターテインメント施設だ。
基調講演の多くは「平たい巨大スクリーンのある壇上」で行うため、球形は誰も想像がつかない。みんな興味津々で、決められた日時に1人1枚だけもらえるチケットは長蛇の列だ。
日本人の感覚としては初詣の行列に近い光景なのだが、アメリカ人の方々の一部には新年早々衝撃だったらしく、生「ジーザス!!」を数回聞くことができた。 毎年神に向かって長蛇の列の私たちと、長蛇の列で神に嘆きを伝えるアメリカ人の、人口密度に対するお国柄の違いを感じた。
当日も並んで手荷物を預け、貴重品のみを握りしめて向かう体験は、奇しくも飛行機で旅に出るときのようだ。
100周年の振り返りを楽しく魅せる展示
エントランスに入ってみると、飛行機の機内をイメージした美しいブースが登場する。
中には歴代の機内ノベルティや制服などのアーカイブが展示されていて、どれもレトロかわいいデザインをしている。
その一方で、最新の機体紹介や映像の中にメッセージを飛ばせる展示や、「Apple Vision Pro」を使ったフライトシミュレーター体験など、最新のテクノロジーも活かしている。
100年の積み重ねとこれからの100年への意気込みが見える「故きを温ねて新しきを知る」を体現した展示だ。 堪能してブースを抜けると、機内食を再現した軽食やスナックが登場する。徹底的に旅情を掻き立ててもらい、指定エリアに向かう。
いざ! Sphereの内側へ!
飛行機がときどき飛んでくる美しい映像が、立体的に映し出されており旅先でのんびりしている気持ちになる。高所恐怖症的にはギリギリ!
上の方の映像を見ると、レンズへの反射光の具合から画像を球体に合わせて調整していることがわかる。そのため、平面の写真として撮影すると「地球儀からメルカトル図法の地図」になったように、ちょっと縮んで見える。
飛行機が着陸すると振動や風があり、4D映画鑑賞さながらの演出が面白い。
「従業員の参加」を基調講演の説得力につなげる新たな形
CTAのゲイリー・シャピロ氏の挨拶の後、飛行機の着陸と共にエド・バスティアンCEOが登場する。このバスティアンCEO、元々とてもプレゼンが上手な方だが、今日は雰囲気が違う。
後方を見ると、たくさんの従業員の方が参加。 顧客満足と信頼性を維持している従業員への称賛やエンゲージメントが、周年記念であること以外にも、この後の「かなり堅実な」パートナーシップ発表や華やかな演出につながってくる。
デルタコンシェルジュの発表
最新テクノロジーを顧客体験向上のためにさらに活用するという地に足の着いた取り組み、「Fly Delta」。 アプリに組み込まれているデルタコンシェルジュでは、生成AIを使用して、顧客一人一人の旅の状況を「よりスムーズに、日常とシームレスに」の実現を目指す。
クアルトリクス社の共同創業者兼会長のライアン・スミス氏とデルタ航空の客室乗務員のジーニー・ブレイディ氏もバスティアン氏と共に登場した。
CEOや事業責任者がテクノロジーの重要性を語る際、「実際の現場ではどうなのか」はなかなか伝わらない。 現場の目線から「パーソナライズをすることで、私たちはどんなサービスができるのか」を具体的に言ってもらうことは、デルタ航空の取り組みの継続性にかなり説得力が生まれた。
どの企業も「弊社の解はパーソナライゼーションです!」と技術的な側面での華やかさを、社外の方と語ることが多い昨今で、「従業員の目線でもこう取り組める」という声をあえて出すことは、現場の士気向上含めて取り組む企業への信頼につながる光景だった。
デルタコンシェルジュをハブに「Joby」や「Uber」とのパートナーシップ
顧客の旅程が首尾一貫してまとめてマルチモーダルな旅行の未来を目指した連携を複数発表。家から出発空港までの脚として、Jobyの電動エアタクシーサービスと
また、到着空港から宿泊先への道のりや滞在をつなぐ存在として、Uberと連携する。
もちろんUberEatsも対象でスカイマイルとの連携も2025年から始まる。会場にはUberのCEOであるダラ・コスロシャヒ氏が壇上に上がった。
数々の4D技術の演出に驚かされるSphereだが、この配達員の方が2人に飲み物を渡した瞬間、キャラメルマキアートっぽい香りが会場に放たれ、「香りも演出に使える」時代を感じた。
機内体験再構築の一環として「YouTube」とのパートナーシップ
2023年にスカイマイル会員向けのパーソナル化が開始されたDelta Syncを基盤に、YouTubeでのお気に入りのクリエイター、ポッドキャスト、音楽アーティストの作品が楽しめるようになる。
エアバス社「エアバス アップネクスト」との新たな連携
これまでの導入航空機という関わりだけではなく、共に航空技術の未来に向けた取り組みを進めるパートナーシップとして発表。共に技術研究を進めるだけではなく、新しい飛行技術のテストなども行う予定だ。
今回の基調講演は特に「地に足ついた取り組み」の印象が強いが、会場や壇上に従業員の姿があることで、より一層の実現可能性を期待できる内容だった。
神が… 神が2人もいる!エンターテインメント体験が豪華!
今回、100周年記念での従業員エンゲージメントも含め、とても豪華なエンターテインメント体験が待っていた。冒頭の「ジーザス!!」をじんわり味わっている場合ではなかった。
あのトム・ブレイディが旅の秘訣を語ってくれる!
NFLのスーパースター、トム・ブレイディが登場し、会場の歓声が一段と大きくなった。
シンプルだが自身の生活をどう整えているかを語ってくれた。 「試合と同じように旅行も準備をしておくと、移動時間も生産性が上がるよね」と史上最強のクォーターバックに言われると、多くの人が「その通りですね!」となる。 きっと見ていた人の1年間のやる気に少なからず火をつけているはず。
レニー・クラヴィッツのライブ、素晴らしすぎる!
Sphereの4D演出機能が十分に生かされる現場の代表格に「ライブコンサート」がある。
ロックの神様の場合はギターがものすごく気持ちよく響く。リアルタイムの映像を組み合わせた演出を、縦長に使えるところも、立ってギターを弾くロックにはぴったりだった。 (筆者は中学生から大好きなアーティストのライブが嬉しすぎて、ボロボロ泣いた。)
堅実なテクノロジー活用も「仲間あってこそ」が伝わる基調講演
Sphereで最先端の演出を選び最高のエンターテインメントを用意したことも、今回発表のあった顧客にパーソナライズ化した体験を生み出す「堅実なテクノロジー活用」との深いリンクも感じた。
どんなに堅実で良いビジョンや取り組みでも、共に未来を叶えるには「仲間として従業員やステークホルダーを捉える姿勢」が必要になる。 100周年の記念を共に祝い、次の100周年へと向いてもらうためにも、さまざまなステークホルダーを巻き込んで進もうとする企業の意欲も伝わってくる内容だった。