毎度お馴染み中華ゾーン定点観測

今年のCES 2025で、初めて自社BASSDRUMのデモ展示を行う機会を得た。場所はVenetian Expoの2階、ユカイ工学のブースの一角だ。テクニカルディレクションを担当する私たちにとって、これ以上ないチャレンジングな場となった。

初展示は、刺激的で新しい発見の連続だった。世界中の来場者が私たちの製品にどのような反応を示すのかを直に感じ取れる機会は貴重だ。一方で、「自分たちのブースに張り付きっぱなし」という課題にも直面した。ラスベガスというエンタメの街にいるにもかかわらず、他のブースを一切見ることができないのは非常に残念だった。

最終日の午後、ようやく自由時間が訪れた。CESも残り4時間。まず、LVCCのNorth Hall、サムスンやLG、ソニーといった名だたるブランドが集まるメインエリアへ向かった。そこには最新技術を駆使した華やかな展示が広がっていたが、目に飛び込んでくるのは「AI」の文字ばかりだった。「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」「AI」。どのブースもAI関連のプレゼンが目立ち、わずか30分で「AI疲れ」に陥った。

「Design&Source」という名称とは裏腹に出展社は中国企業

そこで私はSouth Hallの「Design&Source」、通称「中華ゾーン」へ逃げ込むことにした。ここは主に中国系企業がOEM製品などを展示しているエリアで、テックトレンドよりも実用性重視の製品が多い。どこか深圳の電気街・華強北を思わせる空気が漂っていた。毎年訪れるこのエリアだが、今回は最終日の特別な光景に出会うことになった。

まだ会場は終わってないのに撤収モード

その光景とは、「展示品処分祭り」だ。最終日ともなると、多くのブースが撤収を始める。持ち帰りコストを抑えるため、展示品をその場で販売する企業が続出するのだ。「Sample for sale」の張り紙があちらこちらに現れ、展示品を安価で売りさばく姿は圧巻だった。一部のブースでは「For Charity」、つまり無料配布も行われていた。ラスベガスの一角で、現金やWeChat Payを使った即席のマーケットが展開される様子は、まるで深圳の蚤の市そのものだった。

最終日の中華ゾーンには、私が知らないもう1つのCESの姿があった。そう恒例の地味CES特別編をお届けしよう。

実物を手にできる瞬間に立ち会おう

普通のスマートフォン用のケーブル、スマートフォンを磁石でくっつける形の三脚、キーボードにマウス、派手に光るパリピ向けのスマートスピーカー、謎の電飾、歯磨き用のウォーターフロス…。これら展示されているものの多くに、「For Sale」の札がつけられていて、札がついていないものでも「これいくらで買えます?」と聞くと、値段を教えてくれる。どの品も、展示品処分だ。かなり安く買うことができてしまう。

このように、展示品の店に「サンプル売ってます!」という表示がされ始める。そうこうしているうちに、「For Charity」、つまり無料で持っていけ、というのも出てくる。

最終日のこの場所では、基本的に何でも買える状態だ。しかし、本来製品販売の場ではないため、取引はほとんど現金で行われる。アメリカでは現金を使う機会が少なくなっているが、ブースでは現金が活発にやり取りされている光景が広がっていた。しかし、試しに「WeChat Payで支払えますか?」と聞いてみたところ、どのお店も快く「OK」と答えてくれた。

中国の方でWeChat Payを使わない人はいないと言っても過言ではない。これはキャッシュレス決済サービスの代表格であり、利用が非常に一般的だからだ。当然ながら、WeChat Payは中国発のアプリケーションなので、支払いは米ドルを人民元に換算して行われる。まさにグローバルな場で、中国のテクノロジーが実際の経済活動においてスムーズに活用されている様子を目の当たりにする体験となった。

支払いはWechat payで人民元か米ドルの現金。

中国語で少しでも会話ができれば価格交渉がスムーズになる。「持ってけ泥棒!」みたいなノリで最初の提示価格の半額くらいで購入も可能だ。ラスベガスの一角で飛び交う人民元。そして人民元ベースの価格交渉。ここはラスベガス・コンベンション・センターのサウスホールではなく、深圳の蚤の市なのではないかという状況が、CES最終日の中華ゾーンに出現していた。そんな中でも、おもしろいプロダクトがいくつかあった(購入可能)ので紹介したい。

MRYES「4 Colors E-ink smart casecover」

AmazonのブースではカラーE-inkベースのKindleが展示されて話題だったが、MRYES(Shenzhen UR Innovation Technology)の「4 Colors E-ink smart casecover」は、カラーE-inkが組み込まれたスマートフォンケース。

アプリをダウンロードしてケースをスマートフォンに装着、すると、ケースに埋め込まれているNFCを経由して、自分の好きな写真をスマホケース上のE-inkに表示できてしまう。E-inkだから、充電の必要もない。

こんな、ちょっとびっくりする最新型スマートフォンケースも展示品投げ売り祭りの例外ではない。「いくらで売ってくれますか?」「180元」「100元にしてくださいよー」「150元ならいいよ」「120元!」「しょうがないなー、110元で持ってけ泥棒!」みたいなやり取りを中国語で行い、約15ドルで購入完了。実際に使ってみると、スムーズな使い勝手で驚かされた。

JTLLink 「Smart Health Ring」

次はJTLLinkのSmart Health Ring、睡眠解析用のスマートリングだ。フィンランドのOura Ringの中国版ということだろう。展示品は展示品投げ売り価格、約20ドル。早速着用してみた。これを書いている時点で睡眠していないので、どんな解析が行われるかは不明だが、アプリを見た感じ、いろいろな機能がありそう。

Shenzhen Rich Age ElectronicsのSmart Glasses

スピーカーとマイク付きスマートサングラスを着用する筆者。某社の価格の1/3ほどか

Shenzhen Rich Age ElectronicsのSmart Glassesはスピーカーとマイク付きのスマートサングラス。イヤホンを装着せずに音楽を聴くことができる。他の人には聴いているものは聞こえない。オンライン会議などにも使える。これも値切って約40ドル。

Vormor「AI Scanning Pen」

最後のVormorの「AI Scanning Pen」は、AI翻訳ペン、Wi-Fi経由でChatGPTを使って翻訳を行っているらしいが、本当のところどういうバックエンドシステムなのかはわからない。しかしながら、ペン先で文字をスキャンして翻訳結果を得たり、音声入力でリアルタイム翻訳を行ってくれたりもする。他にもいろいろな機能がある。翻訳の精度は全然問題ない。そんな翻訳ペン、CES展示品投げ売り価格、たったの20ドル。お店の人が撤収作業中に話しかけたのが良かったらしい。

最後はまたAIに戻ってきてしまったが、コンセプトモデルや未来展示ではなく、実際に動いている商品の展示、しかも、その場で安価で買えてしまう。コンセプトではなく、「実際に触れる、使える」AIは中華ゾーンにあった。ここでAIの理解が進む。しかも、撤収時には、お値打ち価格でゲットできてしまうのだ。

最終日まで足を止めるな

ブースごとカーゴ便で撤収。DIYでできることは自ら行う

最終日の「Design&Source(中華ゾーン)」は、CES全体の派手なショーケースとは一味違う魅力を持つ。タオバオなどでも購入できる商品が多いが、その場で触って買える体験には特別感がある。

次回CES2026に参加される方は、ぜひ現金かWeChat Payを準備して、CES最終日、撤収間際のゴールデンタイムに開催される「中華蚤の市」の祭りに加わってほしい。きっと特別な体験になるだろう。