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隠れた潮流を見つける場としてのCES

昨年、CTA(全米民生技術協会)が100周年を迎え、今年は新たなロゴにリニューアルされたCES 2025。今年も最先端技術が集結する場となったが、会場全体を席巻していたのは「AI」というキーワードだった。しかし、AIは抽象的で、企業ごとに解釈や活用方法が異なるため、一括りに語るのは難しい。

そこで本レポートでは、AIトレンドの陰で静かに注目を集めていた「デジタルキャンバス」という新たなディスプレイの活用の可能性に焦点を当て紹介したい。

CESは最新技術を披露する場であると同時に、膨大なプロダクトの中から未来のトレンドを見出す楽しさがある。特にディスプレイ技術は成熟の段階に入り、新たな用途や市場の創出が期待されている。

今回は、進化したディスプレイがどのようにインテリアやアートと融合し、新たな価値を生み出しているのかを掘り下げていく。

インテリアに溶け込むディスプレイの進化

従来のテレビは、オフの状態では部屋を占領する黒い長方形になってしまうという課題があった。この問題に対する解決策として、各メーカーがより家庭内のインテリアに調和するテレビを提案しはじめている。

Samsung The Frameシリーズ

Samsungが2017年から展開している「The Frame」シリーズは、その代表例だ。額縁のような外観と、視聴していないときに絵画や写真を表示するアートモードを備え、テレビがリビングに自然に溶け込む工夫がされている。交換可能なベゼルフレームや、反射を抑えるノングレア加工、環境光センサーによる色調補正など、ディテールにもこだわりが見える。さらに、サブスクリプションサービス「Samsung Art Store」と連携し、世界の美術館の名画や、ユーザー自身の写真を表示できる。

CES 2025で発表された最新モデル「The Frame Pro」では、完全無線化とNeoQLEDパネルの採用により、さらなる高画質化と利便性の向上が実現されている。

CES2025のブースではThe Frameとプロジェクションマッピングをかけあわせ、提携している様々な美術館を再現するインスタレーションが展開されていた。

Hisense Canvas TV

2017年以降、The Frameの売上は好調で、他社からも類似商品が次々に発表されている。Hisenseの「Canvas TV」も同様のコンセプトを持つ製品だ。ノングレア液晶や交換可能なベゼル、環境光調整機能などを備え、The Frame同様の機能を搭載している。

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LG ARTCOOL Gallery

LGの「ARTCOOL Gallery」は、一見するとデジタルキャンバスだが、実はダクトレスエアコンというユニークな製品だ。静止画やアニメーション、自身の写真を表示でき、使用時は額縁が少し傾いて空気の吹き出し口が出てくるようになっている。このように、家電がインテリアに馴染むためにインテリア擬態するという戦略をとる際、壁にかけがちな「額縁」が注目されていることが窺える。

Amazon Fire TV Ambient Experience

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Amazonもこうした流れを意識した取り組みとして、ストリーミング再生を行っていないときに、テレビをAlexa搭載スマートディスプレイとして使用できる機能「Fire TV Ambient Experience」の一環として、昨年から「AIアート生成機能」を展開している。自社開発の「Titan Image Generator」を活用し、ピクセルアートや油絵風など多様なスタイルのアートを生成し、ディスプレイに表示する。

FireTVやEcho ShowなどのAOD(Always On Display:常時表示ディスプレイ)は、多くの場合最新の情報を一覧表示するダッシュボードとして使われていたが、ディスプレイの大型化にあわせてデジタルキャンバスとしての活用も期待されつつある。

ePaper技術の進化と実用化

静止画表示において、ePaper技術の進化も注目されている。電気泳動技術を用いたePaperは、画面更新時のみ電力を消費するため、省エネルギー性能に優れる。電子書籍リーダーのみならず、最近ではスーパーの電子値札などにも採用され、用途が広がっている。また、ePaperでフルカラー表現が実現し、昨年にはカラーePaperを搭載したKindle Colorsoftが発売されるなど、カラーePaperの普及が期待されている。

PocketBook InkPoster

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CES2025で発表されたPocketBookの「InkPoster」は、E Ink社の最新技術「E Ink Spectra 6」とシャープのIGZO技術で狭額化することで、一見普通の額縁にしか見えないデザインを実現している。Wi-FiやBluetooth経由で画像を簡単に切り替えられ、1回の充電で1年間利用できる省エネルギー設計が特徴だ。

ePaperは動画表示には適していないものの、静止画を活用したデジタルアートやポスター用途には非常に実用的である。印刷コストや廃棄物削減にも貢献する可能性があり、環境負荷の低減にもつながる。

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かなり近づいて見るとePaperならではの独特の階調感が出ており印刷と同等とは言えないが、遠目に見る分であればほとんど問題がないように感じられる

デジタルキャンバスの可能性

ディスプレイ技術の進化がもたらす「デジタルキャンバス」という新たな用途は、インテリアとアートの融合をより自然に、日常的に実現するものだ。SamsungやHisenseのように、美術館の名画を家庭に取り入れるだけでなく、NFTやジェネラティブアートなど、デジタルならではの表現とディスプレイの親和性は高い。

これまでにも、インタラクティブ/ジェネラティブオンスクリーンアート作品をキュレーションして配信しようとした「FRAMED」や、任意の映像やデジタル作品を額装することができる「Infinite Objects」など、様々なデジタルキャンバスサービスが提案されてきたが、いよいよディスプレイ技術の成熟により、今こそ取り組むべきホットな領域になりつつあるのではないだろうか。

ディスプレイが単なる映像再生機器から、インテリアの一部やアート作品のキャンバスへと進化する中で、家電メーカー、アーティスト、消費者がそれぞれの立場から新たな価値を創造していく未来が見えはじめている。これは、アーティストにとって表現の場を広げ、消費者にとっては日常にアートを自然に取り入れる手段となり、家電メーカーはライフスタイルとアートをつなぐ存在へと変革することを意味する。

ディスプレイ技術のさらなる進化と、それがもたらす新たなライフスタイルの可能性に、今後も注目したい。