先日、昭和島で建設が進むDigi-Cast HANEDA STUDIOを見学してきた。運営は株式会社クレッセント。場所は「昭和島にある」程度しか知らず、とりあえず近くに行ってから探せばいいだろうと軽く考えていたが、そんな心配は不要だった。湾岸道路を曲がった瞬間、目の前に巨大な建物がドーンと現れたのだ。
まず目に入ったのはLED Stage棟。一棟まるごとLEDスタジオという規模感に圧倒された。隣には4Dviewsスタジオなどを備えたプロダクション棟も建設中である。
案内されたのは第1スタジオ。建設資材がまだあちこちに置かれた状態だったが、メインの巨大LEDはすでに設置済み。この日はシーリングLEDの点灯テストも行われていた。
感想は一言、とにかくデカい!日本で最大級とされる東宝7stや大映Gstに匹敵する大きさだ。
メインLEDとシーリングLED
メインLEDは高さ10m、幅41.5m。緩やかなカーブを描きながらL字に配置された黒壁は圧倒的である。台湾AUO社がこのスタジオのために開発した1.95mmピッチ、2000nitの高輝度パネルを採用。全体の解像度は驚異の 21K×5K に達する。これを可能にしているのは、ハイスペックGPUを搭載したPCを多数並列で動かす独自システムだ。
シーリングLEDは23.5m×15mで、スタジオの半分を覆う規模。ピッチは5.2mm、明るさは4500nit。さらに両サイドには6m×6mの可動式スクリーンが2面あり、こちらも3.9mmピッチで4500nitだ。硬いキーライトこそ無理だが、それ以外はLEDだけでロケに近い環境を作れる。
当日はシーリングLEDの一部の点灯が見られ、4500nitのフル点灯は眩しかった。メインLEDの光量よりも環境用LEDの光量の方が映像の仕上がりには重要になってくる。それが4500nitというのは頼もしい限りだ。
トラッキングはVicon
このスタジオのもう一つの特徴は、トラッキングに Vicon を採用している点である。クレッセントといえばViconの代理店として知られる企業だが、最新モデル「VK26」を導入し、バーチャルプロダクションと組み合わせている。
海外ではViconを利用するスタジオも少なくないが、日本では依然として赤外線マーカー方式が主流だ。しかしシーリングLEDを上下に動かせる環境では、そのたびにキャリブレーションをやり直す必要がある。Vicon方式なら外周の専用カメラが撮影カメラのマーカーを捉えるため、LEDを動かしても問題ない。この点は大きな利点だ。
充実した機材ラインナップ
カメラはすでにVENICE2とPremista 19-45mm / 28-100mmが導入済みであり、将来的には Scorpio35 テレスコピッククレーン も常設される予定だ。この規模のスタジオにふさわしいラインナップだ。完成すれば世界でも最大級の常設LEDスタジオになるのは間違いない。
さらに隣のプロダクション棟には4Dviewsスタジオが2室、LightCageスタジオ、モーションキャプチャやプレビズ用スタジオも整備される計画だ。こちらについては改めて触れることにする。
ハコが先か、中身が先か
「こんな大規模なLEDスタジオ、本当に需要があるのか?」という疑問は多いだろう。実際、計画を聞いた当初の自分も「これは無謀ではないか」と思った。
しかし――ハコが先か、中身が先か。
日本の映像文化は"小さな箱"の中で器用に発展してきた。だがこれからは、モーションキャプチャ、プレビズ、ボリュメトリック、3DGS、AIなどが絡み合い、確実に変化していく。Digi-Cast HANEDA STUDIOは「Link-All」というコンセプトのもと、その変化を先取りしようとしている。

もしかすると、既存の常識をぶち壊すのは、業界の外からやってきた黒船のような存在なのかもしれない。
小林基己|プロフィール
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。バーチャルプロダクションのVFXアドバイザーの一面も。noteで不定期にコラム掲載