2025年10月の特集記事「建設中のDigi-Cast HANEDA STUDIOに行ってきた!」でも伝えた通り、クレッセントが昭和島に建設中の「Digi-Cast HANEDA STUDIO」は、単に巨大なスタジオを作るだけの計画ではない。ここでの試みは、モーションキャプチャーやボリュメトリックといった複数の技術を、設計段階からスムーズに連携できるよう一体化させることだ。本稿では、その思想を具現化する「VP棟」の最新状況をレポートする。
現地を訪れて興味深く感じたのは、役割の異なる2棟のスタジオが併設されている点だ。一つは、クレッセントが長年実績を積んできたモーションキャプチャーやボリュメトリックのための空間。そしてもう一方が、大型LEDウォールを備えたバーチャルプロダクション(VP)スタジオ「VP棟」である。
正式オープンを控えたスタジオ内では、テスト撮影や細かな調整作業が進められていた。夏の間に試行錯誤を重ねて構築されたという経緯を聞き、その徹底した準備の様子が伝わってきた。この施設は、単に既存の成功事例を踏襲するのではなく、映像と現実の新しいあり方を模索した結果として、現在の規模や構造に至ったのだろう。
特に目を引くのは、採用されているLEDの素性である。メーカーは台湾を拠点とする世界的な大手ディスプレイメーカーAUO。液晶パネルの印象が強い同社だが、VP用途のLEDとしては日本初の導入事例だという。既存製品を採用するのではなく、1.95mmピッチで2000nitsという高精細・高輝度な理想を追求するため、クレッセントが要望を出し、新たに共同開発したというから驚きだ。
技術スペックも徹底している。リフレッシュレートは通常3840Hz、運用により7680Hzまで引き上げ可能で、60Pの撮影でもフリッカーを極限まで排除する。反射を抑え、黒が沈み込む表面処理など、すべては「再撮専用」としての完成度を高めるために設計されている。特定のクリエイターを想定しながら細部を詰めていったという開発思想にも、鋭い現場感覚がにじむ。
何より圧倒されるのは、その大きさだ。横41.5m、高さ10mという規模は、単一のLEDスタジオとして国内最大級にあたる。実際にその中央に立つと、壁の大きさを測る意識はすぐに消え、視界全体が撮影空間として成立していることに気づかされる。
10mに及ぶ天井高は、既存物件の改修では確保が難しく、専用設計された建築ならではの仕様といえる。事前に数値は把握していたが、実際にスタジオの中央に立ち、視界のほぼ全域が映像に覆われることで、その規模を改めて実感した。それは巨大な「壁」を眺めるというより、撮影可能な「環境」そのものの中に身を置く感覚に近い。単に大規模なVPスタジオというだけでなく、空間の捉え方そのものを変革する設計となっている。
このスタジオの真価は、天井と壁に配置されたLEDの運用思想にある。天井面には明るさ4500nits、ピクセルピッチ5.2mmの高輝度パネルが組み込まれ、背景ではなく「環境光源」として機能する。さらに9面に分かれた天井パネルは、チルトやロールといった2軸での角度調整が可能だ。
壁に設置された可動式LED(3.9mmピッチ/明るさ4500nits)も同様だ。光量が必要な場所へ自在に移動させ、被写体を囲う。照明を仕込む感覚とセットを組む感覚が、LEDというデバイスを介して高度に統合されている。天井部には、ベース照明を支えるARRI製のSkyPanelも配備されている。
横22K、縦5Kという解像度を耳にした際、当初は想像が及ばなかった。しかし、実際の撮影ではアングルの制約を気にする必要はなく、自由自在なカメラワークが可能になる。そこには、物理的なLEDスクリーンの境界に起因する制限など存在しなくなるだろう。
実写カメラの画角に連動する「インナーフレーム」が表示されると、レンズ位置に合わせたパースが正確に再現され、モニター越しの世界は遠景まで違和感なくつながる。階段のデータへ向かってカメラを寄せていく際も、高い没入感とともに奥行きのある空間をリアルに感じることができた。
クレッセントの目的は、単なる巨大スタジオの構築に留まらない。真の狙いは、実写とCG、照明と背景など、これまで分断されていた各要素を設計段階から高度に融合させることにある。ボリュメトリックやモーションキャプチャーによって人物を3Dデータ化し、即座にバーチャルプロダクション(VP)へと持ち込む。この「一気通貫のワークフロー」こそが、スタジオ設計の根幹である。
このスタジオの誕生により、「ロケの代替としてのVP」という段階を脱し、「デジタル資産(3Dデータ)を現場で自在に操りながら、その場で完成形を創り上げるプロダクション工場」へと進化しそうだ。