VPFG2025_top

本特集のVol.02では、G-WORKS「SITE V」のスタジオレポートを中心にお届けした。Vol.03においても、引き続きSITE Vについて紹介する。今回は、G-WORKS代表 吉川賢司氏に話を伺った。

インタビュアーはCM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督で、建築と撮影の会社Chapter9のCTOとしても活動する小林基己氏が務めた。

建設機械メーカー発のインハウス制作会社

VPFG2025_01
G-WORKS代表 吉川賢司氏

小林氏:

株式会社G-WORKSはどのような会社ですか?

吉川氏:

G-WORKSは岡山県を拠点とする建設機械アタッチメントメーカー「株式会社タグチ工業」のインハウス制作会社として2016年にスタートしました。製品プロモーション・採用ブランディングがメイン事業となります。

TV-CM・SNS動画・製品プロモーション映像・ホームページ・ECサイト・カタログ・チラシなど企業に必要なあらゆるコンテンツを制作しています。その他にも東京ビッグサイトや幕張メッセで行われる展示会の企画・運営や新卒採用の会社説明会などイベント関係もスタッフ全員で協力して取り組んでいます。私たちのポートフォリオはタグチ工業のホームページを見てもらうのが一番分かりやすいと思います。全部内製化していますから(笑)。

G-WORKSがスタートした時の1番の課題は「採用」でした。タグチ工業の製品にグラスパーという木造家屋解体用の建機アタッチメントがあるのですが、国内シェアは1位を獲得しています。その他にも業界をリードする製品が沢山あり、業績は好調に推移しているのですが、一般の方には馴染みのないB2B製品ですので、学生の認知は低く採用に大変苦戦していました。

小林氏:

つまり人材的な問題ですか?

吉川氏:

その通りです。B2C企業のように盛んに広告展開をしている会社は学生への認知度も高いのですが、B2B企業となるといかに業績が良くても会社名を知られていないので学生との接点が生まれにくいのです。

小林氏:

業績は良いにも関わらず、なかなか採用が難しいのですね。

吉川氏:

そうです。G-WORKS設立当初に、私が会社説明会イベントに参加してもほとんど学生が来てくれない状態でした。このような状況で私たちのグループの代表は、B2B企業も積極的に採用ブランディングを進めるべきだという考え方の持ち主で、これまでいくつかの大手広告代理店に依頼をしてきました。しかし、ひとつひとつのコンテンツのクオリティは高くても、それを継続し続けるのはコストが合わないという現実がありました。そして外部への委託を続けたとしても、社内にブランディングのノウハウが蓄積されないというのが一番の課題でした。そうした背景から、「中小企業が制作会社をシェアできないか」という発想にいたり、G-WORKSを設立する流れになったのです。

小林氏:

では、タグチ工業さんだけでなく、他の会社の仕事もされているのですね。

吉川氏:

はい。現在はインハウスとしての仕事が7割、その他の企業様の仕事が3割くらいの構成です。私たちのコンテンツ制作へのアプローチは、他の制作会社と少し違っていて、このアプローチだと沢山の企業様の仕事を請け負うことは現状では難しいのです。

例えば、弊社の男性カメラマンやディレクターは、油圧ショベル、高所作業車、フォークリフトや天井クレーンなどの免許を取得しています(笑)。製品プロモーション映像を制作する際には、自分たちで製品を操作して、その感覚を掴んだ上で製品プロモーション映像を制作するという進め方をしています。これは、映像制作に限らずG-WORKSが制作するすべてのコンテンツは、制作したものをそのまま納品して終わりとはならないからです。インハウスとして、目的を持って制作したコンテンツの効果を分析しなくてはいけません。時には営業マンと一緒に商談や展示会に向かい、自分たちが制作したコンテンツを使う営業を現場で確認し、使いにくいところはフィードバックをもらいさらに改善してくということを、クリエイター全員で取り組んでいます。よく言われるPDCAサイクルのすべてにクリエイターが関わるということです。

私自身も、自分で制作した会社説明映像と資料を持って、学生に向けての会社説明を行います。展示会では自分で重機を操縦しながらユーザーさんの意見をヒアリングしますし、営業マンと一緒に取引先でプレゼンテーションをすることもあります。そうすることで、ちゃんと製品が売れるコンテンツ、学生に興味を持ってもらえるコンテンツを作ることができると信じています。このスタイルを9年続けてきました。お陰様で、あれだけ苦戦していた新卒採用も安定して採用できるようになってきました。因みにTV-CMの線引きも自分たちで行います。

こうして実践を通してグループ内に蓄積されたノウハウを、同じような課題を持っている企業へ提供したいという思いで、インハウス以外の仕事をしています。G-WORKSのスローガンは「Movin’on! ともに歩き、ともに成長していく」です。このスタイルでやっているので沢山の企業様の依頼を受けることが今はまだ難しいのです。

私はG-WORKSのことを、B2B企業のブランディングに特化した「超実践型」クリエイティブ集団と言っています(笑)。

バーチャルプロダクションスタジオ設立の経緯

小林氏:

そんなインハウス制作会社がなぜバーチャルプロダクションのスタジオを設立されたのですか?

VPFG2025_02
第1スタジオはバーチャルプロダクションの設備を完備

吉川氏:

ここを訪れるすべての方に同じ質問をされます(笑)。

実は10年前のまだG-WORKSを設立する以前から、グループの代表と「製品をきちんと撮影できるスタジオが欲しいよね」という話をしていました。ただ、業務が多忙であったり、早急に必要だという判断にいたらなかったりということもあり、ずっと保留というか、なかなか計画が進みませんでした。しかし、コロナ禍になって、私たちの仕事のかなり大きな割合を占めていた展示会がすべて中止になってしまったのです。

それで、比較的多くの時間とリソースが空きまして、そこに補助金の後押しもあり、「この機会にスタジオを作ろう」という話になったのです。最初の計画では、スタジオのサイズ感はこれよりももう少し小さく、全面グリーンバックにして普段は何も置かず、必要な時だけキャットウォークからグリーンバックを吊り下げられるようなスタジオにしようという話で進んでいました。

ところがある日、グループの代表がとあるハリウッドのドラマのメイキング映像を見て、「すぐにこれについて調べてくれ!」と言われました。それが巨大なLEDディスプレイを使ったバーチャルプロダクションスタジオでした。私も以前からバーチャルプロダクションという技術についてざっくりとは知っていましたが、「いや、さすがにそれは…」という気持ちでした。それからいろいろなところへ出向いて情報を集め、関東のバーチャルプロダクションスタジオを見学させてもらい徹底的に勉強しました。そしてある程度具体的な仕様が決まり、見積りを見て倒れそうになりました(笑)。「ほんまにやりますか?」と聞いた私にグループの代表は、「これがある未来とない未来、どっちがいい?」と聞き返したんです。私は即答で「ある未来がいいです」と言っちゃいました(笑)。

そこからは怒濤の毎日でした。バーチャルプロダクションについて調べ始めたのが2022年、導入を決めたのは2023年の夏、そして2024年6月にオープンです。スタッフもゼロからの勉強にも関わらず必死についてきてくれました。本当にありがたいです。

小林氏:

周りからはどのような反応でしたか?

吉川氏:

まぁ、僕の周りのクリエイティブ関係の人達には「正気か?」と言われました(笑)。そう言われるのも無理はないですね。

小林氏:

私の読みだと、システムだけで3億円ではないかと。

吉川氏:

そこはノーコメントで(笑)。やると決めたからには徹底的に早くやるというのがタグチ工業グループのマインドですので、私も覚悟を決めて取り組んでいます。「東京に行かないと作れないようなクリエイティブを四国でも作れるような環境を作って、みんなでシェアした方が、そこに人も集まるし何より楽しい」と考えています。

スタジオの基本スペック

高さ6メートル、幅10.5メートルの大型LEDウォール

吉川氏:

スタジオのスペックは、LEDディスプレイの横幅が10.5メートルありまして、高さは6メートルです。

小林氏:

高さがあるのはいいですね。

吉川氏:

私たちが扱う製品は大型の商品が多いので、高さは必要だねという話を当初からしていました。あと、東京のバーチャルプロダクションのスタジオを見学させていただいた時に、高さが3.5メートルくらいだと少し窮屈に感じました。そういう経緯でLEDの高さはキャットウォーク下ギリギリの6メートルに設定しました。しかし、この面積で1.5mmピッチのLEDだとさすがにコスト的に厳しいという判断になり、ルビーの2.6mmピッチのLEDを採用しました。できることとできないことをしっかりと理解できていれば、それを元にディレクションしますので今のところ不都合はありません。

撮影エリアはROE Visualの2.6mmピッチ高精細LEDディスプレイ「Ruby2.6F」

両サイドと天井の環境光用は、5mmピッチのLEDが設置されています。私たちは機械製品の撮影が多いので、写り込みを再現できることが非常に役に立っています。またLEDの明るさは5000nitありますので、通常の照明としても活用しています。5mmピッチだとカメラが寄るとドットが見えてしまうケースもあり、都度コンテンツの内容に合わせて工夫しています。そういった試行錯誤がまた面白いですね。メディアサーバーはDISGUISE VX 4+、レンダリングサーバーはDISGUISE RX IIを使用しています。

VPFG2025_12
メディアサーバーは、メインがdisguise「VX 4+」、レンダリング専⽤サーバーとしてdisguise「RX II」を使⽤

カメラはちょうど発売されたばかりだったBURANOを選びました。SDIから4KのモニターアウトができなかったのでHDMI出力をSDIに変換して使用しています。通常使用しているレンズはFUJINON Premista 28-100mmです。やはりバーチャルプロダクション撮影ではズームレンズが使いやすいですね。

VPFG2025_06
メインカメラはソニーBURANO、レンズはFUJINON Premista 28-100mm

私たちのスタジオSITE Vは1階がバーチャルプロダクションスタジオですが、2階にもサブスタジオがあります。高さは5メートル、横幅は7メートルあります。簡易的ですが防音仕様にしていますので、主に配信向けに設計しています。照明トラスに合わせたグリーンバックを用意していますので、クロマキー撮影も可能です。スタッフが多い撮影の場合は2階を控え室として使うこともあります。

VPFG2025_07
SITE Vの2階には、高さ5メートルで防音設備のスタジオがある

あと、車両系の撮影が多いこともあり、「ターンテーブルが欲しい」と言ったら、グループの設計部が図面を引いて作ってくれました(笑)。

小林氏:

車が回せるターンテーブルってなかなかないですよね。

吉川氏:

このターンテーブルは耐荷重が3トン程度で、車も十分に乗せられます。

他にも通常のスタジオにはありませんが、製造メーカーらしく天井クレーンも設置しています。2つのフックそれぞれが1.4トンの荷重を吊ることができて連動して動かすことができます。まだ試していませんが人を吊っての撮影も可能でしょう。さらに、常設のフォークリフトと高所作業車もあります。カメラマンが免許を持っていますので様々な撮影に使われていますね(笑)。

VPFG2025_08
車を360°回転できる鋼鉄製ターンテーブル
VPFG2025_09
1tリーチ車(左)と5.4メートル高所作業車(右)

小林氏:

それにしても、よくすべてハイエンドで踏み切りましたよね。

吉川氏:

もう最初は金額にびっくりしましたけどね。「桁間違えてません?」って(笑)。

でも、実際に撮影してみるとその違いが分かりました。そこは導入を依頼したアークベンチャーズさんに感謝しています。本当に丁寧に説明していただき、いろいろな選択肢を提案していただきました。あとは、ものづくりに一切の妥協をしないタグチ工業のものづくりマインドが私を後押ししてくれましたね。

小林氏:

バーチャルプロダクションに関しては、本当にハイエンドな機材でないと難しいということもあります。ですから、ROE製のLEDにして本当に良かったのですね。後々、もしランクを下げていたら、撮影の面で非常に苦労しただろうと。

吉川氏:

私たちもそのように感じています。本当に良かったと思っています。この1年間様々なテストをし、案件の制作をしていくなかで、できることとできないことが結構はっきりと分かって来ました。できないことはロケーション撮影やCGなどでカバーし、できることを積極的に進めていくというのが、今の私たちの制作方針だと考えています。

スタジオ建設の背景:自社施工と外観へのこだわり

VPFG2025_13

小林氏:

この建物は、このスタジオのために外観をすべて作った、ということですか?

吉川氏:

実は新しく建てられている私達グループの営業所や工場はすべてこのタイプです。タグチ工業の中に建築事業部があり、このスタジオを建ててくれました。

小林氏:

自社で建てた、ということですね?

吉川氏:

そうです。スタジオも自社で建てました。設計についてもグループの代表がいろいろなところに行って情報を集めて私に共有してくれました。お陰でとても使いやすいスタジオになりました。外壁材にはこだわっていて、断熱効果が抜群にあります。大型のスタジオとしてはめずらしく、冷暖房がとてもよく効きます。見た目も綺麗なのですが、スタジオに窓がないので、散歩しているご近所さんが怪しい建物ができたといった表情で中を覗かれていたことがよくありました。ですので、オープンセレモニーにはご近所さんもご案内して、怪しい施設ではありませんと説明させていただきました(笑)。

小林氏:

では、LEDの高さに合わせて、この建物も高さを合わせた、ということですか?

吉川氏:

当初はクロマキーベースのスタジオを計画していたので、バーチャルプロダクションをすることになっていろいろと変更しました。LEDディスプレイの高さは6メートル欲しかったので、キャットウォークとのバランスを考慮して決定しました。

小林氏:

大きい重機を入れるのは、正面の入り口からですか?

吉川氏:

4メートルまでの高さであれば搬入できます。オープンしてから、自動車メーカーやタクシー会社さん、特装車、介護車、小型車など、車両関係のご依頼がやはり多いです。

小林氏:

最後に、今後、スタジオの将来や活用の方向性など、どのようにお考えですか?

VPFG2025_14

吉川氏:

やりたいことが多すぎて少し長くなりますがいいですか?

まず1年経って、イベントで使いたいという問い合わせが意外に多いことに気づきました。関東では金額が高すぎてイベント利用は厳しいですが、ここSITE Vなら、市内の小ホールのイベント会場を借りるくらいの金額で利用が可能です。子供達をあつめた香川県が主催のワークショップでも利用していただきました。

また、地方で頑張っている映画制作者の人達が多いことにも驚きました。でも予算集めに大変苦労されています。SITE Vではそういった方を応援したいと考えています。実際に予算集めのためのピッチ映像の撮影を特別価格で提供しました。そういった方が予算集めに成功して本番撮影になったときにはSITE Vを使ってもらう魂胆です(笑)。

次に、中四国はロケーション撮影に適した場所が沢山あります。今はInsta360 Titanを使って四国の様々なロケーションを撮影してアセットを溜めています。アセットは固定と走行用の両方を撮影しています。いろいろと工夫が必要ですが使えるアセットとして使用できています。こういった素材を背景アセットだけではなく、都市部のディレクターのロケハンとして使ってもらったり、ゆくゆくはインバウンド向けの観光案内にも使えると考えています。

私は香川県出身で、香川は天災も少なく街もコンパクトにまとまっており、住みやすくて本当にいいところです。うどん以外の食べ物も美味しい。私はこのSITE Vを中四国のクリエイティブハブとして機能させて、地方に住みながら東京の仕事にとどまらず、海外の仕事にも地元のクリエーターみんなが挑戦できる環境を作ります。まずは、映像撮影やCGをメインとしたワークショップを開催します。将来的にはスクールにしたいですね。また、地元の中小企業が世界へ出て戦えるコンテンツを作りたいです。そのために企業のマーケティングや広報担当者向けのワークショップも企画中です。中四国にも世界へ向けて挑戦をしている面白い企業が沢山あります。そんな企業を地元のクリエーターが一緒に走ってサポートする。そして地元に雇用が増える。香川に住む人が増える。そんな未来を目指しています。

WRITER PROFILE

編集部

編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。