今年のシネマカメラは、ラージフォーマットによる高画質化を追求しつつ、ワークフローの効率化や多様な現場への対応力を高める傾向が見られる。中でも特に興味深いのが、ソニーが発表した世界初のC2PA規格対応カムコーダー「PXW-Z300」である。動画に電子署名を付与し、コンテンツの信頼性を担保するという新たな価値提案は、今後の映像業界において重要な意味を持つかもしれない。また、富士フイルムからは同社初となる動画専用ラージフォーマット機「FUJIFILM GFX ETERNA 55」が登場し、その描写力に期待が高まる。キヤノン「EOS C50」は7Kセンサーで映画からSNSまでをカバーする柔軟性を示し、パナソニックはスタジオカメラ連携による現場の効率化を提案する。ニコンがREDの技術を小型ボディに凝縮したモデル「ニコン ZR」を発表するなど、各社の個性的なアプローチから目が離せない状況だ。

01 ソニーマーケティング(#4310)
XDCAMハンディカムコーダー「PXW-Z300」

ソニーの「PXW-Z300」を選出した理由は、単なる撮影機材としての性能向上に留まらず、映像の「信頼性」という現代的な課題に正面から向き合った点にある。コンテンツの真正性が問われる時代への、一つの回答を示したカメラと言えるだろう。最大の見どころは、カムコーダーとして世界で初めてC2PA規格に対応し(真正性情報の記録は別途アップグレードライセンスが必要)、動画に電子署名を付与できる機能である。これによりコンテンツの信頼性が担保され、特に報道分野での活用が期待される。加えて、伝送端末を直接装着できるサイドVマウントや、HEVCコーデックによる高効率なファイル転送機能も備え、撮影から編集までのワークフロー全体を加速させる実用性の高さも注目すべき点である。

02 富士フイルム(#5310)
映像制作用カメラ「FUJIFILM GFX ETERNA 55」

Inter BEEで特に注目したい一台が、富士フイルムから発表された。同社初の動画専用機「GFX ETERNA 55」である。スチル分野で高い評価を得てきた同社が、その技術資産を本格的な映像制作の世界にどう展開するのか、大きな期待が寄せられている。最大の見どころは、35mm判の約1.7倍となる1億画素ラージフォーマットセンサーがもたらす、豊かな階調と立体感のある描写力であろう。また、ラージフォーマットに対応した世界初の電子式可変NDフィルターを内蔵し、撮影の自由度を格段に向上させている点も技術的なハイライトだ。長年培われた独自の色再現技術「フィルムシミュレーション」も搭載しており、多彩な映像表現を可能にする。約2.0kgの軽量ボディにこれらの機能が凝縮されており、映像制作の現場に新たな選択肢を示す存在となりそうだ。

03 キヤノン/キヤノンマーケティングジャパン(#5517)
デジタルシネマカメラ「EOS C50」

「EOS C50」は、新開発の7Kセンサーを搭載し、オープンゲート記録や縦クロップ同時記録が可能な自由度の高いシネマカメラである。大型ファンを搭載し12bitの内蔵RAWの長時間記録が可能であるため、映画のような高品質な映像を求める撮影にも向いている。一方、オーバーサンプリングによる高画質な4K映像を同梱のハンドルからデジタルズーム操作可能なことから、SNSメディアのような即時性が求められる制作現場にも適している。信頼性と機動性を兼ね備えたコンパクトボディのEOS C50は、映画からSNSまで多様化する映像制作ニーズに応える。

04 パナソニック コネクト(#6512)
4Kマルチパーパスカメラ「AK-UBX100」

スタジオカメラとの強力な連携性がもたらす、撮影現場の変革が注目される。新開発の4Kマルチパーパスカメラ「AK-UBX100」は、4Kスタジオカメラ「AK-UCX100」と同一のプラットフォームを搭載。これにより、従来は煩雑であった色合わせの手間を解消し、機器をまたいだ操作性の統一を実現した。共通のリモートオペレーションパネル(ROP)で連携できるため、撮影現場の運用効率が大幅に向上する。約1.9kgの小型軽量な四面フラット設計で、ロボットカメラなどへの実装性も高い。単体でSMPTE ST 2110をはじめ多彩なIPプロトコルに対応し、将来のファームウェアアップデートではAF機能も搭載予定である。

05 RAID(#8317)
高速シネマカメラ「Pixboom Spark」

Pixboom社の「Spark」は、これまで高価な機材の専売特許であったプロ仕様の高速撮影を、より多くのクリエイターに開放する可能性を秘めている点で、今年のInter BEEにおける注目株の一つである。その最大の見どころは、グローバルシャッターを搭載した4.6Kスーパー35センサーにより、ローリングシャッター歪みのないクリアな映像を記録できる点にある。さらにRAMバッファに依存しない無制限のRAW撮影に対応し、最大4.6Kで670fpsという高速撮影性能を従来の数分の一の価格帯で実現した点は、映像制作の現場に大きなインパクトを与えるだろう。

06 RAID(#8317)
大判シネマカメラ「RED V-RAPTOR XE」

REDの「V-RAPTOR XE」は、同社の最上位センサーをより身近な存在にする一台として注目したい。その最大の見どころは、上位機種が搭載する8Kラージフォーマットのグローバルシャッターセンサーを継承し、17ストップのダイナミックレンジや優れた低照度性能はそのままに、機能を基本(Essentials)に絞り込んでいる点である。これにより、約1.8kgのコンパクトなボディと、より導入しやすい価格帯を実現。これまでハイエンドな制作環境でしか得られなかった映像表現を、独立系のクリエイターにもたらす可能性を秘めている。

07 ニコン/RED Digital Cinema/MRMC/ニコンイメージングジャパン(#8410)
フルサイズセンサー搭載カメラ「ニコン ZR」

ニコンとREDの技術シナジーが生み出した「ニコン ZR」は、両社の強みが融合した一台として大きな注目を集めている。最大の見どころは、REDのカラーサイエンスを継承した新開発のRAW形式「R3D NE」を搭載し、RED製カメラとのスムーズなカラーマッチングを実現した点だ。さらに、世界初となる内蔵・外部マイクでの32bit float音声収録に対応し、約540gという軽量ボディに高い性能を凝縮。機動性と本格的なシネマ画質を両立させ、映像制作の新たな可能性を提示している。